継続的な関心・意欲と 自己学習力の育成を目指した 天文カリキュラム試案

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「継続的な関心・意欲」と
「自己学習力」の育成を目指した
天文カリキュラム試案
縣秀彦(国立天文台天文情報公開センター)
山縣朋彦(文部科学省初等中等教育局)
田中義洋(東京学芸大学附属高校)
五島正光(巣鴨中高校)、松本直記(慶應高校)
高橋典嗣(明星大学)
目的 = 次期学習指導要領
への提言
○基礎・基本事項については,
順次性と系統性をふまえた学習を成立
させる
○探究的な学習を大幅に導入することで
「継続的な関心・意欲」と
「自己学習力」の育成を目指す
天文分野における調査・研究
「関心・意欲」と「知識・理解」について調査
広島市内公立小学校4校 265名 2001年6月
北海道上富良野西小学校 30名 2004年2月
長野市城山小学校
85名 2004年2月
東京学芸大学附属世田谷中学校
80名 2001年11月
ほか
広島調査
人数
井口明神小 139
河内小 54
白島小 46
比治山小 26
合計
265
パーセント
52.5
20.4
17.4
9.8
100
男子
76
26
22
17
141
性別
女子
63
26
22
9
120
不明
0
2
2
0
4
4年
50
0
17
3
70
学年
5年
56
1
18
13
88
調査日 (2001年)
6年
33
53
9
10
105
不明
0
0
2
0
2
6月18-20日
6月5-6日
6月17-21日
6月21日
教科の好き嫌い
1(大嫌い)―5(大好き)
5.0
4.5
4.3
体育
図工
3.8
4.0
3.5
4.2
3.3
4.1
4.3
3.4
3.0
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
国語
算数
理科
社会
音楽
家庭
図1 教科の好き嫌い(広島市内4校小学校4-6年生 265名)
理科学習内容の好き嫌い
1(大嫌い)―5(大好き)
5.0
4.5
4.0
4.6
4.1
3.6
3.5
3.0
4.1
3.9 3.9 3.8 3.9
3.8
3.8
3.4
3.6
3.9 3.8
2.9
2.5
2.0
1.5
1.0
動
物
植
物
人
体
天
文
気
象
地
球
電
気
音
光
磁
石
エ
ネ
ル
ギ
ー
運
動
法
則
化
学
反
応
図2 理科分野の好き嫌い (広島市内4校小4-6 265名)
環
境
コ
ン
ピ
ュ
ー
タ
ー
性差
表3 小学校における教科と天文に関する好き嫌いの性差
国語 算数 理科
順位相関係数 0.186 -0.310 -0.180
有意確率 0.003 0.000 0.003
データ数
261
260
261
社会 体育
0.057 -0.175
0.362 0.005
260
260
図工
0.014
0.822
261
音楽
0.467
0.000
261
家庭
0.233
0.001
232
スピアマンの順位相関係数で,下線の科目において1%水準で有意な性差がみられる.
正の相関は,女子が好きな科目,負の相関は男子が好きな科目.
天文の好き嫌いでは性差がみられない.
天文
-0.048
0.458
242
天文分野の知識・理解
100
正 80
解
60
率
40
% 20
0
61.9
65.5
63.4
40.8
日
没
方
角
南
左
手
月
満
ち
欠
17.0
21.1
25.3
夕
東
月
形
年
周
運
動
日
周
運
動
図3 天文分野,日食の知識・理解
( 広島市内小学校4 校)
34.7
日
食
理
解
日
食
原
因
自然体験の有無
100
95
92
88
体 80
験 60
率
40
78
76
76
74
66
59
57
51
37
32
16
% 20
3
0
虹
を
見
た
植
物
を
育
て
た
昆
虫
を
捕
っ
た
木
プ
登
ラ
り
ネ
し覧 タ
た
リ
ウ
ム
観
象
を
見
た
木
の
実
を
採
っ
た
動
物
を
飼
っ
た
シ
マ
ウ
マ
を
見
た
流
れ
星
を
見
た
日
の
出
を
見
た
天
の
川
を
見
た
望
遠
鏡
で
の
観
察
日
食
を
見
た
図4 自然体験の有無 (広島市内小学校4校小4-6)256名
化
石
を
採
取
し
た
調査結果まとめ
1. 必ずしも小・中学生が興味・関心を示す
内容とはなっていない
2. 学習内容の「知識・理解」の定着率が低
い
3. 一般的に児童の自然体験が乏しく,こ
のことが学力形成に影響を与えている
補足事項1
身近主義の誤り
• 具体的な事例
野球を学ぶ
A 身近主義
草野球・少年野球
B 反身近主義
松井秀喜・イチ
ロー
宇宙を学ぶ
暦・時刻・
自転・公転
宇宙論・銀河・
BH・宇宙人
「心理的距離の近さ」がカギ (上田ほか)
補足事項2
大(重視)
↑
探究的な学習 の必要性
充実志向
訓練志向
実用志向
学習自体が楽しい
知力をきたえるため
仕事や生活に活かす
関係志向
自尊志向
報酬志向
学習内容の重要性
↓
小(軽視)
他者につられて
小(軽視) ←
プライドや競争心から 報酬を得る手段として
学習の功利性
→ 大(重視)
学習動機の2要因モデル
市川(1995a)より
(仮説)真正資源を用いた探究的な学習は,
学習者の「内容関与的動機」を満たすのでは?
現学習指導要領における小・中学
校での天文教育の問題点(1)
○ 時(地球の自転)と暦(地球の公転と季節変化)
といった実学の理解に力点が置かれている
しかし,地球の自転と公転によって生じる太陽や恒
星の運動についての理解は,
• 傾いた球面座標上での運動である点
• 視点移動能力が要求される点
• 運動の原因が複合的である点
などの理由により,
必ずしも本質がみえやすい典型的な教材とはなっ
ていない
現学習指導要領における小・中学
校での天文教育の問題点(2)
○観察が長時間必要であったり,夜間であったりと
小・中学校の通常の授業時間では実質上困難で
ある.
○児童・生徒の天文・宇宙への興味・関心の方向
性とは異なっている.
以上の観点から,
義務教育における天文教育の目的を実学的な視
点から宇宙像の理解・科学的世界観の育成に重
心をずらすことを検討すべきである
(本研究の結論)
表4 天文分野のカリキュラム試案
(要点のみ)
〔小学校〕 C 地球と宇宙
第3学年 ひなたとひかげ (6時間)
ア 日陰は太陽の光を遮るとでき、日陰の位置は太陽の動きによって変わること。
イ 地面は太陽によって暖められ、日なたと日陰では地面の暖かさや湿り気に違いが
あること。
第5学年 太陽と月
(6時間)
ア 太陽や月は絶えず動いていて、東の方から出て南の空を通り西の方に入ること。
イ 太陽や月は球形をしているが、月は日によって形が変わって見え、月の輝いて
いる側に太陽があること。 (注:太陽系を俯瞰する図を用いて理解させる)
第6学年 星とその動き
(8時間)
ア 星には、明るさや色の違うものがあること。
イ 星の集まりは、時間がたつと位置や向きが変わるが、並び方は変わらないこと。
ウ 地球は太陽のまわりを回っていて、星座の星は太陽系の外に存在していること。
(注:太陽系を俯瞰する図を用いて理解させる)
〔中学校〕 第2分野
(第3学年)
地球と宇宙
(ア) 身近な天体
月・太陽・惑星・明るい恒星など身近な天体を実際に観察し、
科学的な手法でその天体の特徴を理解すること。
(イ) 太陽系と宇宙
地球のより一層の理解のため、地球環境と他の天体(特に
金星・火星)の環境との比較から地球生命の存在できる環境に
ついて理解すること。
(ウ) 宇宙と人間
正しい宇宙像を認識し、個々の宇宙観の形成を援助すること。
「私たちは、いま、どこに存在し、どの時代に生きているのか」
の理解、すなわち生徒個人の「自分探しの旅」を援助する。
表6 中学3年「地球と宇宙」の内容試案
実時間24時間 ( )内は標準時間数 *は新項目
ア 身近な天体(地球,月,太陽)
(4) 自転と公転
自転と日周運動,公転と年周運動
(3) 月の満ち欠け
満ち欠けと月の運動
(3) 太陽のエネルギー
太陽定数,表面のようす
イ 太陽系と宇宙
(4) 太陽系
*(4) 宇宙の広がり
惑星の特徴, 太陽系の構造
宇宙の誕生から現在まで
ウ 宇宙と人間
*(3) 宇宙の歴史と人類
元素の起源
*(3) 宇宙と生命
銀河系,宇宙の構造
まとめ
理科教育の課題のうち,児童・生徒の学
習に対する内発的動機付けを高めることと,
自らが主体的に学習し問題を解決する能力
(自己学習力)を育成することの重要性を
考察し,天文単元の学習における現学習指
導要領の問題点と具体的な改善の方向を提
案した.
本提案が,次期学習指導要領の反映され
ることを願ってやまない.