Transcript 講義資料
日本と東アジアの環境と貿易 アジア研究所 小山 直則 今日学ぶこと 10.1. 囚人のジレンマ 10.2. 協調のメカニズム 10.4. 参入阻止行動 10.5. ゲーム理論の応用 ⇒戦略的補完 ゲーム理論とは ゲーム理論とは、 ①複数のプレイヤー(player:経済主体)が ②自分の行動が相手の行動にどのような影響 を及ぼすかということを考えながら(strategic behavior:戦略的行動)、 ③各プレイヤーの利得(payoff)が最大化される ように自己の行動(action)を決定する ような状況(game)を分析する理論である。 ゲーム理論の三つの要素 (1) プレイヤー 例. 容疑者(加藤と山田)、軍備競争(インドとパキスタ ン)、環境問題(先進国と新興国)、漁業問題(日本、 台湾、韓国、中国、ロシア) ⇒互いに相手の行動を予想しながら自分の利得を考 えながら、自分の行動を決定するような意思決定主 体をプレーヤーという。 ⇒相手が白状しないで自分が白状すれば減刑される と言われると加藤容疑者も山田容疑者も相手の行 動を予想しながら自白するか否認するかを決定する でしょう。 ゲーム理論の三つの要素 (2) 戦略的行動(strategic behavior、action) 例. 容疑者(加藤と山田)、軍備競争(インドとパキスタ ン)、環境問題(先進国と新興国)、漁業問題(日本、 台湾、韓国、中国、ロシア) ⇒容疑者の例では、自白するか否認するかが行動と なる。 ⇒軍備競争では、軍拡か軍縮かが行動となる。 ⇒環境問題では、国際環境合意(International Environmental Agreement)に合意(加入)するか合 意(加入)しないかが行動となる。 例.オゾン層の保護のためのウィーン条約 ゲーム理論の三つの要素 (3) 利得(payoff) 例. 容疑者(加藤と山田)、軍備競争(インドとパキスタ ン)、環境問題(先進国と新興国)、漁業問題(日本、 台湾、韓国、中国、ロシア) ⇒自分の行動は相手の利得に影響を及ぼす。また、 相手の行動も自分の利得に影響を及ぼす。 ⇒加藤容疑者が自白して、山田容疑者が否認すれば、 加藤容疑者は減刑される利得を得る。 ⇒しかし、山田容疑者は長期間拘留されるので負の利 得を得ることになる。 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒このゲームのプレイ ヤーは誰ですか? ⇒このゲームの行動は何 ですか? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒山田容疑者が白状し、 加藤容疑者が否認する 場合、各人の利得は (0,-15)となる。 ⇒すなわち、山田容疑者 の利得が0で、加藤容 疑者は-15となる。 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒二人とも白状すれば、 各人の利得はどうなり ますか? ⇒山田容疑者が否認し、 加藤容疑者が白状す れば、各人の利得はど うなりますか? ⇒各人が否認すれば各人 の利得はどうなります か? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒もし、加藤容疑者が白 状するとき、山田容疑 者は白状するのが得で すか、それとも否認す るのが得ですか? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒もし、加藤容疑者が否 認するとき、山田容疑 者は白状するのが得で すか、それとも否認す るのが得ですか? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒もし、山田容疑者が白 状するとき、加藤容疑 者は白状するのが得で すか、それとも否認す るのが得ですか? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●図10-1 利得表 ⇒もし、山田容疑者が否 認するとき、加藤容疑 者は白状するのが得で すか、それとも否認す るのが得ですか? ⇒以上の考察から二人の 戦略的行動はどうなり ますか? 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●以上の考察から二人の 戦略的行動はどうなり ますか? ⇒二人とも自白する。 ⇒二人が協調して否認す る場合は、二人が自白 する場合よりも利得が 高いはずなのに、自白 してしまう。 ⇒非協力的行動が実現し てしまう。 10.1. 囚人のジレンマ 加藤 白状 否認 (-10,-10) (0,-15) (-15,0) (-2,-2) 山田 白状 否認 ●以上の考察から二人の 戦略的行動はどうなり ますか? ⇒二人とも自白する。 ⇒このように協力的行動 ではなくて非協力的行 動が実現してしまうこと を囚人のジレンマという。 ⇒現実の経済でも国際政 治でも協力的行動は実 現しにくい場合が多い。 10.2. 協調のメカニズム ●一回限りのゲーム ⇒囚人のジレンマの例は、自白するか否認する かという一回限りの戦略的行動の分析である。 ●繰り返しゲーム ⇒実際のゲームは戦略的行動が繰り返される 場合が多い。 例 スーパーの価格競争(値下げ競争)、紛争 (攻撃と報復)など 10.2. 協調のメカニズム ●図10-3 利得表 ⇒頂好と全聯が低価格競 争をしているとしよう。 ⇒頂好が価格を引き下げ ると顧客は頂好での購 入量を拡大させるので、 全聯は利得を失う。 ⇒各店がともに低価格競 争を始めると、各店が 利得を失う。 協 7 調 7 7 7 裏 10 切 り 2 2 2 10.2. 協調のメカニズム ●図10-3 利得表 ⇒頂好と全聯が低価格競 争をしないという協定を 結んだとしよう。 ⇒各店がこの協定を守り、 協調を続けるとき、各 店舗は7の利得をずっ と得ることができる。 協 7 調 7 7 7 裏 10 切 り 2 2 2 10.2. 協調のメカニズム ●図10-3 利得表 ⇒頂好が協定を破り、価 格を引き下げ裏切った としよう。 ⇒第一期目は頂好の顧 客が増え、10の利得を 得る。 ⇒一方、全聯は7の利得 しか得られなくなる。 協 7 調 7 7 7 裏 10 切 り 2 2 2 10.2. 協調のメカニズム ●図10-3 利得表 ⇒第二期目に、全聯は報 復し価格引き下げ競争 に参加する。 ⇒すると、各店は第二期 目以降は2の利得しか 得られなくなる。 ⇒以上のことから…。 協 7 調 7 7 7 裏 10 切 り 2 2 2 10.2. 協調のメカニズム ●図10-3 利得表 ⇒裏切った場合の利得の 合計は、 10+2+2+2=16。 ⇒協調した場合の利得は、 7+7+7+7=28。 ⇒以上のことから、繰り返 しゲームでは、協調を 続けて方が利得が大き いことがわかる。 協 7 調 7 7 7 裏 10 切 り 2 2 2 10.2. 協調のメカニズム ●協調の例 日本企業の長期的取引慣行 例 終身雇用制 ⇒長期雇用と短期雇用の場合を比べると、短期 雇用ならば労働者は会社に不満があればす ぐに転職される。 ⇒しかし、長期雇用で転職が難しいのであれば、 労働者は多少会社に不満があっても会社に 忠実に従うようになり、 ⇒協調的な労使関係が実現される。 10.4. 参入阻止行動 ●参入障壁 ⇒既存の企業にとって有利となり、新規企業の 参入にとって不利となるような要因を参入障 壁という。 ⇒参入障壁の例 10.4. 参入阻止行動 ●参入障壁の例 (1) 規模の経済性 (2) 製品差別化(ブランド戦略) (3) 流通チャネルへのアクセス (4) 公的規制 参入障壁の例 (1) 規模の経済性 ⇒企業規模(生産設備、生産量、販売量)が拡 大するにつれて、生産単価が低下する現象 を規模の経済性という。 ⇒新規企業は小規模生産から始めざるを得な い既存企業に比べて生産条件が不利とな る。 ⇒したがって、規模の経済性は新規企業の参 入障壁となる。 参入障壁の例 (2) 製品差別化(ブランド戦略) ⇒コカコーラと同じ飲料を生産することは技術 上容易である。 ⇒しかし、既存のコカコーラのブランドイメージ が定着しているので、新規企業の参入は難 しくなる。 ⇒企業がブランド戦略を行う理由は、それが新 規企業の参入障壁となるからである。 参入障壁の例 (3) 流通チャネルへのアクセス ⇒サントリービールが上海進出で最も苦労した のが、流通チャネルへのアクセスである。 ⇒上海には多くの外資系企業が参入したが失 敗も多かった。 1996年にはビールメーカー は、741社あった。しかし、年々減少し、2003 年時点のメーカー数は504社。このうち、外 資企業は114社。 ⇒上海のビールの流通は… 参入障壁の例 (3) 流通チャネルへのアクセス ⇒上海のビールの流通は、メーカー⇒大卸⇒二 次卸⇒…⇒小売業⇒消費者というように複 雑な流通経路であった。 ⇒これでは、販路拡大や低価格化が実現でき にくい。 ⇒したがって、流通チャネルへのアクセスは既 存の青島、力波、光明、華東、上海などに 有利となり、新規企業の参入障壁となった。 10.4. 参入阻止行動 ●問題 店舗拡張は参入阻止に有効か? ⇒図10-7 ⇒既存企業(ヨーカ堂)の行動(現状維持、店舗 拡張) ⇒新規企業(イオン)の行動(参入する、参入しな い) 10.4. 参入阻止行動 ●問題 店舗拡張は参入阻止に有効か? ⇒図10-7 ●既存企業(ヨーカ堂)が現状を維持する場合 ⇒イオンが参入しない場合の利得は、(0,100)と なる。 ⇒すなわち、イオンの利得は0、ヨーカ堂の利得 は100である。 10.4. 参入阻止行動 ●問題 店舗拡張は参入阻止に有効か? ⇒図10-7 ●既存企業(ヨーカ堂)が現状を維持する場合 ⇒イオンが参入する場合、価格競争をして抵抗 する場合と共存する場合とがある。 ⇒両者にとってどちらが得か? 10.4. 参入阻止行動 ●問題 店舗拡張は参入阻止に有効か? ⇒図10-7 ●既存企業(ヨーカ堂)が店舗を拡大する場合 ⇒ヨーカ堂は規模の経済性による利益を得る が、イオンにとっては参入障壁となる。 ⇒イオンが参入すると共存する場合でもイオン は利益を得られなくなる。 10.5. ゲーム理論の応用 ●コミットメント ⇒特定の選択肢をとることを事前に約束したり、 ⇒特定の選択肢しか取れない状況に自分を追 い込んだりして、 ⇒意図的に選択肢を限定することをコミットメン トという。 参考文献 吉本(2009)『出社が楽しい経済学』NHK出版。 10.5. ゲーム理論の応用 ●コミットメントの例 ⇒孫子の兵法 「相手を囲んで攻撃するときには、相手の逃げ 道をつくっておかなければならない」 ⇒ヨーカ堂はイオンが参入すれば、店舗を拡大 すると公約すること。