Transcript Document

半導体デバイス工学 講義資料
第4章
バイポーラデバイス
(p.68~p.79)
4. バイポーラデバイス
4.1 バイポーラトランジスタ
4.1.1 バイポーラトランジスタの構造と接地方式
4.1.2 動作原理
4.1.3 電流増幅率
4.1.4 バイポーラトランジスタの静特性
4.2 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ
4.3 電力制御デバイス
4.1.1 バイポーラトランジスタの構造と接地方式(1)
バイポーラトランジスタ
・n形またはp形の半導体を異なる伝導形の半導体で挟んだ3端子素子
・挟まれた領域をベース(base: B),ベースに対して不純物濃度の高い
領域をエミッタ(emitter:E),もう一方の領域がコレクタ(collector: C)
・エミッタ,ベース,コレクタで,それぞれにオーム接触の電極
・ベース部分は他の領域に比べて極めて薄く作られている
・2つのpn接合:B-E間はエミッタ接合,B-C間はコレクタ接合
4.1.1 バイポーラトランジスタの構造と接地方式(2)
・エミッタ接合には順方向バイアス,コレクタ接合には逆方向バイアス
・1つの端子を入出力で共通に使用,残りを入力端子と出力端子に使用
①ベース接地:E-B間に入力を加え,C-B間から出力を取り出す
電流増幅率は1より小さく,主に電圧増幅用に使われる.
②エミッタ接地:B-E間に入力を加え,C-Eコ間から出力を取り出す
電流増幅率が大きく,主に電流増幅用に使用される
③コレクタ接地:B-C間に
入力を加え,E-C間から出
力を取り出す
出力抵抗が小さく,主に入
出力のインピーダンス変
換に使用される
4.1.2 動作原理
無バイアス
拡散電位により電子と正孔は他領域に拡散しない.
動作状態
・電子がエミッタからベース領域内へ注入される.
注入量はエミッタ・ベース間電圧で制御される.
・電子はベース内を再結合しながら拡散しコレクタ
接合へ到達する.
・ベース幅は薄く,再結合はほとんど起こらない.
・ベースに注入された電子のほとんどはコレクタ側
で吸出される.ここでの電子密度はほとんどゼロと
考えられ,ベース内の電子密度は直線的に近似で
きる.
EC
EF
Ei
EV
n+
エミッタ
p
n
コレクタ
ベース
(a)無バイアス
電子の注入
ベース領域の拡散
による走行
コレクタ接合
による電子の吸出
n
np
n p0
n p(x)
0
x
W
(b)動作状態
(c)ベース領域内の電子濃度
図4-4
npnトランジスタの動作原理図
4.1.3 電流増幅率 (1)
エミッタ電流IE,コレクタ電流IC,ベー
ス電流IBの間には次式が成り立つ.
I E  IC  I B
(4.1)
ベース接地電流増幅率αとエミッ
タ接地電流増幅率βを定義する.
I
I
  C (4.2)   C (4.3)
IB
IE



αとβの関係は
(4.4)
1 
ベースでの再結合は少ないので,α
は1に非常に近い値となる.例えば
αの値を0.99とすればβは99となり,
大きな電流増幅作用が得られる.
npnトランジスタにおいて,電子がエミッ
タからコレクタに達する過程は次の3段
階である.
①エミッタからベースへの電子の注入
②ベースでの電子の拡散
③B-C間の逆バイアスによるコレクタ
領域への電子の移動
これらの効率はそれぞれ,
①エミッタ効率(γ)
②ベース輸送効率(αT)
③コレクタ効率(αC)
と呼ばれている.
αは次式で表すことができる.
    T  C
(4.4)
4.1.3 電流増幅率 (2)
ベース領域の電子濃度が直線的に表現されるならば,ベース面積をA,ベ
ース幅をwとして,式(3-13)は次のように書直すことができる.
D n
D p  qV  qV  
I E  IEn  IEp  Aq n n0  p p0 exp d exp EB  1
L p   T   T  
 w
(4.5)
IEnはIEの電子電流成分,IEpはIEの正孔電流成分,VEBはE-B間の順方向電圧
エミッタ効率γは全エミッタ電流のうち,電子電流成分の比で表され,
Dnn n0
I
I En
1
1
w
  En 



Dp p p0 w
B w
IE IEn  I Ep Dnn n0 Dp pp 0
1


1


w
Lp
Dnn n0 Lp
E Lp
σBとσEは,ベースとエミッタ領域の導電率である.
γを大きくするには,エミッタ領域の不純物濃度を
高くしてσB<<σEとすると同時に,エミッタ領域の拡
散距離と比べてベース幅Wを小さくする必要がある.
(4.6)
np
n p0
n p (x)
0
x
W
(c)ベース領域内の電子濃度
4.1.3 電流増幅率 (3)
ベース輸送効率を近似的に求める. ベース輸送効率は,ベースに注入さ
ベース領域内の電子濃度は図より, れた電子電流とコレクタに到達した電
子電流の比であるから,
nP 0
nP x  
x  nP 0 (4.7)
Awqn
w
電子による拡散電流IBeは,
dn x
n
I Be  AqDn P
 AqDn P 0 (4.8)
dx x 0
w
再結合による正孔電流は,再結合に
よる正孔の消滅分を積分して,
Awqnp0
W n p x
I Bp  Aq  0
dx 
(4.9)
n
2 n
np
n p0
(c)ベース領域内
の電子濃度
n p (x)
0
x
W
T 
I Bn  I Bp
I
 1  Bp  1 
I Bn
I Bn
w2
1  w
 1
 1    
2Dn n
2  Ln 
p0
2 n
n
AqDn p0
w
2
(4.10)
ここで L n  Dn  n
Lnに比べてベース幅Wを小さくすれ
ばベース輸送効率は大きくなる
4.1.3 電流増幅率 (4)
コレクタ効率はコレクタ接合を流れる電子に対する全コレクタ電流
の比で表されるが,コレクタ接合を流れる正孔は電子と比べて著しく
小さく無視できる.したがって通常は1と考えてよい.
以上を整理するとベース接地電流増幅率αは次式のように表せる.
2
1 w 
1   
2 Ln 
    T  C 
 w
1 B 
E L p
(4.11)
α大きくするには,
エミッタ領域の不純物濃度を高くしてσB<<σEとする.
LnとLpに比べてベース幅Wを小さくする
4.1.4 バイポーラトランジスタの静特性 (1)
ベース接地の静特性
コレクタ接合は逆バイアスに印加されているので,pn接合ダイオードの
特性を反転した状態を考えることができる.エミッタ接合は順バイアスなの
でキャリアが注入され,これがコレクタ接合に到達することから,エミッタ電
流にほぼ等しい電流が重畳されてコレクタ電流となる.
4.1.4 バイポーラトランジスタの静特性 (2)
エミッタ接地の静特性
B-E間には順バイアス(VBE)が加えられ,C-E間には,逆バイアスVCEが加
えられている.図4.5でバイアス電圧を比較すると,IC,IEが等しいとすれば,
VCE  VCB  VEB
(4.12)
である.IC,IE変わらないので,この
式からエミッタ接地の静特性は,
ベース接地の特性はコレクタ電圧軸
方向にVBE=−VEBだけ平行移動させ
ることによって得られ,エミッタ接地
の静特性はすべて原点を通る.エ
ミッタ接地ではベースが入力となる
ため,ベース電流をパラメータとして
特性を表すことが一般的である.
A:能動領域,B:飽和領域,C:遮断
領域,C:逆接続領域
IB1 < IB2 < IB3
IB =IB3
IC
IB =IB2
A
B
IB =IB1
IB4 >I B5 >I B6
D
IB =0
IB =0
0
IB =IB4
V
C
IB =IB5
IB =IB6
図4-6
エミッタ接地の静特性
CE
4.2 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ
トランジスタのαを大きくするには→γとαTを大きくする→ σB<<σEとする
ところが・・・①ベース抵抗が大きくなる ②コレクタ接合容量の増大により
高周波応答が悪化 ③ベース全体が空乏化する
一方,エミッタ領域の不純物濃度を高くするにも限界がある
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)
禁制帯幅の大きな異種材料によるヘテロ接合構造でエミッタ領域を形成し,
エミッタ効率を大きくしたもの
エミッタ
ベースからエミッタへの正孔
に対する障壁が大きいので,
エミッタのキャリア濃度を高
くしてもγが低下しない
ヘテロ接合
ホモ接合
(エミッタ接合)
(コレクタ接合)
コレクタ
n
p
コレクタ
電子に対
EC
エミッタ
ベース
する障壁
EF
n
Ei
正孔に対
ベースのキャリア濃度が高
ければ,ベース抵抗を小さく
できるので高周波応答が維
持される
バンドギャップ
する障壁
ベース
EV
の大きな材料
正孔に対する障壁 を大き
くすることにより電子の
注入効率を上げる
(a)HBTの構造
(b)HBTのエネルギー帯図
図4-7
HBTの原理
4.3 電力制御デバイス (1)
サイリスタの構造と動作原理
p-n-p-nの4層構造で構成され,陽極(A),陰極(K),ゲート電極(G)をもつ3
端子素子である.pnpとnpnトランジスタが接続された等価回路を考える.
陽極に正,陰極に負電圧を加えた場合が順方向で,この時,J2が逆バイア
スとなる. IG=0の状態で電圧を増加するとブレークオーバー電圧(VBF)でな
だれ増培が起こり,サイリスタが導通状態となる.ゲート電流IGがある場合は
IGがpnpトランジスタのコレクタ接合への流入となってなだれ降伏を引き起こ
し,その結果VBFは低下する.
一方,陽極に負,陰極
に正の電圧を加えた場
合は,JlとJ3の接合が逆
方向となり電流が阻止さ
れ,それらの接合が降
伏を起こす電圧(VBR)ま
で電流は流れない.
4.3 電力制御デバイス (2)
サイリスタの特性と電力制御
サイリスタではゲートにより陽極-陰極間の電流を制御することができる
ので,図に例を示すように電力制御デバイスとして用いることができる.
ゲート電流を流すタイミング(td)を制御することにより負荷で消費される電
力を制御できる.
サイリスタにおける制御できる電流と電圧は,電流が5000A,電圧が
10,000Vまでである.
4.3 電力制御デバイス (3)
トライアック
双方向の3端子サイリスタである.低電圧,低電流パルスをゲートとM1
またはM2の間に流すことにより,どちらの向きにもスイッチング動作を行う
ことができる.サイリスタと同様にゲート電流を調整して,両方向のブレー
クオーバー電圧を変えることもできる.
演習問題
問1 ベース接地電流増幅率αが0.99であった.エミッタ接地電流増幅率βはどれだ
けか.
問2 pnp形トランジスタの無バイアス時と動作時のエネルギー帯図を描け.
問3 トランジスタの電流増幅率を大きくするには,どのように設計すれば良いか考え
よ.
問4 バイポーラトランジスタのエミッタ端子とコレクタ端子を入れ替えて用いるとどの
ような動作を示すか考えよ.
問5 電力制御デバイスの家電機器への利用例を調べよ.