ゼミ論文研究3

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Transcript ゼミ論文研究3

今までのまとめ
E32-070 杉本 賢
公的年金の歴史
• 日本で最初の年金は、明治時代の軍人を対
象とした恩給です。その後、大正になってから
公務員対象の恩給法ができました。一般の
労働者は、1939年の船員保健法の制定に
より、海上労働者を対象とした年金制度が確
立され、その後、1942年にブルーカラー対
象の労働者年金保険法が施行されました。そ
してこれは、1944年にホワイトカラーや女性
にも対象を広げた厚生年金保険法に改定さ
れました。
• 全国民を対象とした年金は、1961年の国民
年金法が施行されてからで、これ以後、国民
皆年金となりました。また、20歳以上60歳未
満の人が強制加入となったのは、1986年か
らのことです。そのときから全国民共通の基
礎年金をベースに、厚生年金や共済年金か
ら給与に比例した年金を上乗せする、いわゆ
る2階建て構造になって今日に至っています。
公的年金制度体系
• わが国の年金制度は、従来、民間サラリーマ
ンを対象とする厚生年金保険、公務員などを
対象とする数種の共済組合、自営業者などを
対象とする国民年金というように分立してい
ました。
• しかし、こうした分立した制度体系をとってい
ると、就業構造・産業構造の変化によって、
財政基盤が不安定になり、長期的安定が図
れませんし、入っている制度により給付や負
担に不公平が生じます。
• そこで、昭和60年の改正により全国民共通
の基礎年金が導入され、厚生年金や共済組
合は、その上乗せとして報酬比例の年金を支
給する制度に再編成されました。
• その他、サラリーマンのより豊かな老後を保
障するものとして厚生年金基金があり、また、
自営業者等に対し基礎年金の上乗せ年金を
支給するものとして国民年金基金があります。
図にすると次のような感じの図になります。
公的年金不信の要因
• 現在の日本では公的年金不信が問題となっ
ており、その要因としてあげられるのは、少子
高齢化問題、日本経済の不況によるフリー
ターの増加とそれにともなう年金の空洞化、
年金給付の世代間格差問題などがあげられ
るでしょう。
少子高齢化と財政方式
• 少子高齢化問題の原因は、やはり経済不況
により子供を産み育てる余裕がなくなった家
庭が多くなったことによる極端な少子化と団
塊の世代(1947~49年生まれ)の人々が、
近年高齢者の仲間入りを果たすことが多くな
り、それが重なってしまったことが、少子高齢
化問題の一番の原因であると考えられます。
• 公的年金の問題を考える際、制度に
• 関する知識と分析のためのいくつかの理
論的準備が必要になる。そして、公的年金
の「財政方式」も、欠かせない理論的準備
の一つです。
• 公的年金給付の財源調達方法を財源方
式という。財源方式には、大きく分けて賦
課方式と積立方式の2つがあります。
• 賦課方式とは、政府が国民から微収した
公的年金保険料を、そのままの年度の公
的年金給付に充当する方法で、毎年度、
微収した保険料を使い切る方式であり、わ
れわれの払った保険料は、どこかに
• 積み立てられるのではなく、政府の特別会計
をスルーして、そのまま誰かしらの年金給付
に充てられます。
• これに対して、将来のために保険料を積み立
てておくのが積立方式です。支払った保険料
は、積立金として積み立てられ、利息とともに
将来の年金給付に充当されます。わが国の
場合、巨額の積立金も保有しているが、基本
的には賦課方式で運営されています。
• 賦課方式の問題点は、少子高齢化という人
口動態の変化に弱いことです。すなわち、少
子高齢化によって、保険料を支払う側
• (被保険者)に対する年金を受け取る側(受給
者)の比率が上昇すると、被保険者一人当た
りの保険料を引き上げなければならなくなり
ます。
• このことを具体的な数値で確認すると、65歳
以上人口の総人口に占める割合を高齢化率
といいます。わが国の高齢化率は、2000年
で17.4%であり、先進諸外国と比べてもそれ
ほど高くはありません。しかし、2020年に27.
8%、2050年には35.7%に達すると予測さ
れている。先進諸外国中、最も高齢化の進ん
だ国の一つとなるわけです。
• では、高齢化により具体的な保険料水準は
• どの程度上昇すると予測されているのだろう
か。
• 自営業者などが加入する国民年金の保険料
は現在、月額1万3300円の定額です。民間
サラリーマンが加入する厚生年金の保険料
率は、総報酬、すなわち月収と賞与に対して
13.58%です。
• 2002年12月に公表された厚生労働省の試
算によれば、現行の給付水準を維持するた
めには、厚生年金保険料率は2036年度に
は総報酬の26.20%、国民年金保険料は
• 2024年度には2万9300円(99年価格)ま
で引き上げる必要があるという。現在のおよ
そ2倍の水準である。
• 保険料負担の増大は、公的年金制度の持続
可能性を脅かしかねない。度重なる保険料の
引き上げは、国民の公的年金制度に対する
信頼低下と老後の不安を増幅させ、消費の
抑制につながるでしょう。
• 人口動態上も改革が急がれており、人口の
塊である団塊の世代が受給サイドに回る時
期が、2007年と2年後に迫っており、今や
待ったなしの状態になっています。
年齢別にみた公的年金への信頼度
(%)
歳
信頼している
ある程度信頼している
あまり信頼していない
信頼していない
20代
9
36
43
12
30代
19
38
35
8
40代
24
40
30
5
50代
39
39
18
3
60代
59
31
8
1
70代
63
26
8
2
年齢別にみた公的年金への信頼度(%)
70
60
信頼度
50
40
30
20
10
0
20代 30代 40代 50代 60代 70代
歳
年齢別にみた公的年金
への信頼度(%) 信頼し
ている
年齢別にみた公的年金
への信頼度(%) ある程
度信頼している
年齢別にみた公的年金
への信頼度(%) あまり
信頼していない
年齢別にみた公的年金
への信頼度(%) 信頼し
ていない
国民年金
• 国内に住む20歳以上60歳未満の自営業、
農林漁業、学生、無職の人などが対象となり、
老後の所得保障となる老齢基礎年金をはじ
め、病気やけがで障害が残ったときの障害基
礎年金、万が一被保険者が死亡したときに遺
族を守る遺族基礎年金などの基礎年金の給
付を行います。
国民年金加入者
<第1号被保険者>
• 日本国内に住所を有する20才以上60才未
満の人のうち、農業や自営業の人、無職の人、
学生などは国民年金の第1号被保険者です。
第1号被保険者の保険料は一律で、月額13,
300円(2004年度)を各自で納めます。
<第2号被保険者>
• 厚生年金、船員保険、共済組合に加入してい
る人は、第2号被保険者です。保険料は
• それぞれの賞与と報酬額によって決定され、
事業主と折半された額が賞与と毎月の給与
から天引きされます
<第3号被保険者>
• 第2号被保険者に扶養されている配偶者は、
第3号被保険者として国民年金に加入します。
保険料は配偶者である第2号被保険者の加
入する制度(厚生年金、共済組合)が負担す
るため、各自で納める必要はありません。た
だし配偶者が勤務する事業所の事業主を通
して届け出なければなりません。
保険料の免除申請
• 生活が苦しくて保険料の納付が困難な人は、
申請をすれば、保険料が免除されることがあ
ります。免除には、生活保護を受けている人
や、障害年金1・2級の受給者のための「法定
免除」と、所得が少なくて生活が困難な人の
ための全額免除・半額免除、学生納付特例
の「申請免除」があります。免除を受けた期間
は、受給資格期間(25年)には、それぞれ1ヶ
月分として含まれますが、年金額は、全額免
除の期間は、1/3ヶ月分納付したとして計算
• した額(通常の3分の1)、半額免除の期間は、
2/3ヶ月分納付したとして計算した額(通常
の3分の1)となります。ただし、各免除月から
10年以内に免除額を追納すれば、追納した
月分は通常に納めた場合の1ヶ月分として年
金額が計算されます。また学生(夜間、通信
教育課程程の学生も対象)で、本人の所得が
一定額の場合に、申請をして承認を受ければ、
在学中の保険料を後払いできる学生納付特
例制度もあります。
公的年金の老齢給付
• 現在の公的年金制度での老齢給付は、国民
年金から全国民共通の老齢基礎年金が支給
され、厚生年金保険(または共済組合)から
それに上乗せする形で報酬比例の老齢厚生
(または退職共済)年金が支給される、2階建
て方式になっています。つまりこの方式で考
えた場合、その一階部分となるのが老齢基礎
年金なのです。
老齢基礎年金
• 老齢基礎年金は国民年金の第1号被保険者、
第2号被保険者、第3号被保険者の人で、年
金・加入期間などの条件を満たしていれば誰
でももらえる老齢給付です。サラリーマンが年
金をもらうときに、基礎部分という言い方をす
るのが、この老齢基礎年金です。これは国民
年金に原則として25年以上加入した人が65
歳から受ける、全国民に共通した年金です。
年金額は40年加入した場合が満額となり、
加入年数がそれに満たない場合は、
• その期間に応じて減額されます。本人が
希望すれば、60歳以降から繰り上げて、
また、65歳以降に繰り下げて受けること
もできます。
必要な加入期間は、25年以上
• 老齢基礎年金をもらうためには、原則として
25年以上の加入期間がなければなりません。
この25年以上の加入期間は、保険料を支
払った期間(保険料納付期間)と保険料免除
期間(経済的な理由等で保険料を支払えない
人が、法律または申請により保険料を免除さ
れた期間)または合算対象期間(国民年金へ
の加入が任意であった人が当時任意加入し
なかった期間など)の合計です。
• したがって、加入すべきなのに保険料を
滞納してきた期間は、加入期間としてカ
ウントされません。
• 17年度の年金額794,500円(月額66,208
円)※ 20歳から40歳までの保険料を納
めた場合の金額です。 保険料を納めた
期間が40年に満たない場合は、その期
間に応じて減額されます。
• <計算式>
繰上げと繰り下げ
• 老齢基礎年金は希望すれば60歳からでも受
給できます。ただし64歳以前に請求する(繰
上げ)と減額され、66歳以後に請求する(繰下
げ)と増額され、支給率は一生変わりません。
繰上げ請求すると厚生年金の一部支給停止
や障害基礎年金・寡婦年金が受けられなくな
るなどの制限があります。
公的年金の障害給付
• 障害給付は公的年金に加入している人が、
何らかの病気や事故で一定の障害状態に
なった場合、支給要件を満たしていれば受け
られるものです。この障害給付も老齢給付と
同じく2階だてになっており、一階部分が障害
基礎年金、2階部分が障害厚生年金(障害共
済年金)となります。国民年金の第1号被保
険者の人は一階部分だけ、厚生年金保険の
被保険者や、共済組合の組合員(ともに国民
• 年金第2号被保険者)は1階部分と2階部分
の両方受けられます。ふつう公的年金という
と、年をとってからの老齢給付だけを考えが
ちですが、老齢にならなくても、万一障害の状
態になったときに公的年金は役立つのです。
民間の保険とは違い、基本的に年金で支給
され、その状態が続いている限り一生もらえ
るものです。障害は重いものから1級、2級、
3級・・・・とあり、障害給付を受けられるのは
国民年金では1級と2級だけです。障害等級
1級「日常生活にも他人の介護を必要とする
程度のもの」、障害等級2級「必ずしも他人の
• 介護は必要ではないが、日常生活が困
難で、労働して収入を得ることができな
い程度のもの」。ここから国民障害給付
をもらえるのは、「公的年金加入期間中
に初診日がある」、「保険料支払い条件
を満たしている」、「治癒または症状固定
または初診日から1年6ヶ月経過した」
加入者です。
障害基礎年金
• 国民年金に加入中に初診日がある病気・け
がが原因で障害者になったときに支給される
国民年金の給付です。60歳以上65歳未満
で日本に住んでいれば、加入をやめた後の
病気・けがによるものでも受けられます。ただ
し、加入期間のうち3分の1以上滞納がない
か、2006年4月1日前に初診日のある傷病
による障害の場合は1年間に保険料の滞納
がないことが条件になります。
• なお、20歳前に初診日がある場合は、障害
の認定をうけた日以後の20歳の時点で障害
があれば障害基礎年金が支給されます。
• 年金額
• 1級障害 993,100円(2005年度)
• (月額 82,758円)
• 2級障害 794,500円(2005年度)
• (月額 66,208円)
• 「2004年度年金額」
• 【1級】 794,500円×1.25+子の加算
【2級】 794,500円+子の加算
子の加算
• 第1子・第2子 各 228,600円
• 第3子以降
各 76,200円
• 子とは次の者に限る
• 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過してい
ない子
• 20歳未満で障害等級1級または2級の障害者
公的年金の遺族給付
• 公的年金の加入者や、かつての加入者で要
件を満たしてくれる人が死亡したときには、一
定の遺族に「遺族給付」が支払われます。こ
の遺族給付もやはり障害給付と同様に、1階
部分が国民年金からの遺族基礎年金、2階
部分が厚生年金保険からの遺族厚生年金
(または共済組合からの遺族共済年金)と2
階建てになっています。1階部分、2階部分と
も各々もらうための要件に違いがあります。
• この遺族給付は障害給付と同じように、ほと
んどが年金の形で支払われます。残された遺
族にとっては、生活資金の支柱となる大切な
給付です。
遺族基礎年金
• (1)国民年金に加入中の人、(2)国民年金に
加入していた人で60歳以上65歳未満の人、
(3)老齢基礎年金を受けている人や受給資
格期間を満たしている人、が死亡した場合に、
遺族に支払われる国民年金の給付です。
• 受けられる遺族は、死亡した人に生計を維持
されていた18歳未満(18歳の誕生日の属す
る年度末まで)の子、または18歳未満(同)
の子のいる妻です。ただし、(1)・(2)の場合
• は、加入期間のうち3分の1以上保険料の滞
納がないこと、2006年4月前の死亡につい
ては1年間に保険料の滞納がないことが条件
になります。
• 年金額
• 妻と子 1,023,100円(2005年度)
• (月額 85,258円)
• 子のみ 794,500円(2005年度)
• (月額 66,208円)
•
•
•
•
•
•
•
「16年度年金額」
794,500円+子の加算
子の加算
第1子・第2子 各 228,600円
第3子以降
各 76,200円
(注)
子が遺族基礎年金を受給する場合の加算は
第2子以降について行い、子1人あたりの年
金額は、上記による年金額を子供の数で除し
た額。
フリーターの増加と年金の空洞化
• 経済不況により、就職できない人や正社員と
して就職する必要性がないと判断した人、保
険料を払う余力のないフリーターの増加や、
昨年発覚した年金未納問題や社会保険庁に
よる年金保険料の無駄遣いなども年金“空洞
化”につながっています。
• 厚生年金制度と共済年金制度に加入してい
るサラリーマンは第2号被保険者、
• サラリーマンの専業主婦の妻は第3号被
保険者と名前が付けられ、国民年金に加
入していることになっています。
• 自営業者および雇用者でも厚生年金の対
象となっていない人などは、国民年金の第
1号被保険者と呼ばれます。この第1号被
保険者こそが、月額1万3300円の国民年
金保険料を納める、いわば正真正銘の国
民年金制度の加入者です。
• 国民年金の空洞化とは、国民年金制度が
強制加入であるにもかかわらず、保険料を
払わない人が拡大している現象を指します。
• 保険料を払わない人にも、理由によっていく
つかのカテゴリーがあります。
• 2003年、国民年金制度にそもそも加入して
いない未加入者が99万人、加入していても
理由なく保険料を払っていない未納者が265
万人、合計364万人もいます。
• 厚生労働省は、364万人が第1号から第3号
までを合わせた国民年金の対象者7148万
人を分母とすることは、実態を過小に評価し
てしまいます。
• 第2号被保険者と呼ばれる人たちが加入して
• いると認識しているのは、厚生年金制度や各
共済年金制度であって、国民年金制度では
ありません。第2号被保険者は、保険料を払
う意思の有無にかかわらず給与から天引きさ
れるので、払わざるを得ないのです。また、第
3号被保険者は、そもそも保険料を払ってい
ません。
• このように、未加入・未納者の規模は、国民
年金第1号被保険者の対象者の中で評価す
べきであり、国民年金第1号被保険者の対象
者2253万人のうち未加入者・未納者の比率
は16.2%に達します。
• ほぼ6人に1人の割合です。
• 第2に、未納者・未加入者のほかにも、保険
料の納付免除者が505万人いる。505万人
を加えた場合、空洞化の比率は38.6%に上
る。ほぼ2.6人に1人の割合です。
• ただし、保険料の納付免除者も含めて空洞
化と呼ぶことに関しては、否定的な見解もあ
る。その理由は、免除者は未加入者や未納
者と異なり、低所得などを理由に法律で定め
られて免除者になっているのであり、しかも免
除期間に対する給付は3分の1に減額され、
• ペナルティーを負った形になっているというも
のです。
• 確かに、やむを得ない理由によって保険料の
免除を受けている人まで空洞化とひとくくりに
するのは適切でないかも知れません。しかし、
次のように考えると、免除者が多数いる状況
は、公的年金制度にとってはやはり問題とい
わざるを得ません。
• 免除者が問題となる理由の1つは、人数の多
さです。そもそも一般に免除とは例外的な措
置のはずです。第1号被保険者のうち、実に
4分の1が免除者であるというのは、
• 国民年金制度そのものに問題があるとみた
方が妥当です。米国では、一定所得以下の
人は公的年金制度ではなく補足的所得保障
制度(SSI)に加入させ、その財源も社会保障
税(米国では保険料ではなく税)ではなく一般
財源から賄っているように、わが国において
も、もともと別の制度にするべきものかもしれ
ません。もう1つは、基礎年金が完全な賦課
方式で運営されている以上、毎年度必要とな
る給付額は既に決まっており、免除者の存在
によって、保険料を支払っているほかの人が
その分のしわ寄せを受けていることになって
いるからです。
• 空洞化に関して厚生労働省の認識が誤って
いる理由は第3に、保険料を支払っていると
される人のうち全額納付している人は85%
にすぎず、残り15%は一部しか保険料を納
付していないからです。しかも、一部納付者
の定義が甘く、2年間のうち1ヵ月でも払って
いれば、一部納付者にカウントされてしまい
ます。
• さらにいえば、未加入者や未納者の統計自
体、十分なものではありません。未加入者、
未納者、免除者の調査内容と調査時点、
• 調査方法がそれぞれ異なり、正確な比較が
できないからです。未加入者数の出所は「19
98年公的年金加入状況等調査」、未納者は
「1999年国民年金被保険者実態調査」、加
入者・免除者は2001年3月末の数値とバラ
バラです。
• 国民年金制度の空洞化は深刻です。また、
重要な政策議論が、このような曖昧な現状把
握の上に立って行われていることも、十分認
識しておく必要があります。
• そこで、国民年金空洞化の実態をより正確に
把握するために、一体いくら歳入欠陥が発生
• しているのかに着目し、次のような微収率を
考えます。
• 微収率=実際の国民年金保険料収入÷理
論上の国民年金保険料収入
• 理論上の国民年金保険料収入とは、国民年
金第一号被保険者数に年間の保険料をかけ
たもの(現在は13300円×12ヵ月)です。す
なわち、本来、国民年金第1号被保険者とな
るべき人の数に、1人当たりの年金保険料を
かけ合わせて保険料収入の理論を求め、実
際に微収された保険料収入と比較することに
よって財政的な穴を把握するという考えです。
• このようにして、2000年度の理論上の保険
料収入を求めると、3兆4373億円となります。
実際の収入は1兆9678億円だったので、微
収率は57%にすぎず、1兆4695億円が歳
入欠陥となっています。しかも、この数字は
年々拡大傾向にあり、ここ数年は、98年度ま
で毎年度引き上げられてきた保険料の引き
上げが凍結されているのにもかかわらず、微
収率が悪化しています。
• このように国民年金空洞化の認識の程度に
• よって、公的年金制度改革の姿は大きく変わ
ります。厚生労働省は「5%程度」との認識で
あり、微収強化などの施策のよって現行制度
を維持していく意向です。しかし、現実には現
行制度はもはや破錠しているとみた方が妥
当であり、制度そのものを作り変えることが不
可欠であるといえます。
国民年金の財政的空洞化の試算(平成12年度)
年度
保険料収入(実績値)(億円)A
第一号被保険者数(千人)B
月額保険料(円)C
1989 (1)
12,841
18,155
8,000
1990 (2)
13,053
17,579
8,400
1991 (3)
14,505
18,536
9,000
1992 (4)
15,416
18,508
9,700
1993 (5)
16,466
18,614
10,500
1994 (6)
17,296
18,761
11,100
1995 (7)
18,251
19,104
11,700
1996 (8)
19,209
19,356
12,300
1997 (9)
19,453
19,589
12,800
1998 (10)
19,716
20,426
13,300
1999 (11)
20,025
21,157
13,300
2000 (12)
19,678
21,537
13,300
保険料収入(理論値)(億円)D=B×C×12ヵ月
微収率(%)A×100÷D
17,429
73.7
17,720
73.7
20,019
72.5
21,543
71.6
23,454
70.2
24,990
69.2
26,822
68.0
28,569
67.2
30,089
64.7
32,600
60.5
33,795
59.3
34,373
57.2
数値
国民年金の財政的空洞化の試算(平成12年度)
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
保険料収入(実績値)(億
円)A
第一号被保険者数(千人)
B
月額保険料(円)C
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
データ
保険料収入(理論値)(億
円)D=B×C×12ヵ月
微収率(%)A×100÷D
過大な世代間格差
• 現行の公的年金制度で特に問題になるのは
やはり世代間の格差です。世代間格差とは、
現役世代と高齢世代の間で、受益(年金受給
額)と負担(保険料負担)のバランスに大きな
差が生じていることを指します。
• しばしば、高齢者は得で若者は損だといわれ
ますが、これは正確な議論ではありません。
若者もいずれは高齢者になるわけであり、高
齢者と若者という単純な二分法は成立しない
• からです。議論を厳密に行うためには、定義
を明確にしなければいけません。
• 米国の経済学者コトリコフによって提唱され
た「世代会計」の考え方では、このような二分
法ではなく、生まれた年代を問題にします。あ
る年代に生まれた人が、生涯を通じていくら
保険料を負担し、いくら年金を受けるのかを
計算し、年代ごとの比較を行うのです。
• 厚生労働省は、この世代会計を用いて、生ま
れた年代ごとの受益と負担を試算しています。
一つ例を上げるなら、試算は四つの世代を想
定し、すべての世代について、
• 20歳から60歳まで民間企業に勤務し平均
寿命まで生きるとしており、夫と、専業主婦で
ある2歳年下の妻の夫婦を想定しています。
妻も平均寿命まで生きる。この夫婦世帯をモ
デル夫婦世帯と呼ぶ。この夫婦世帯が生涯
にわたっていくら保険料を払い、いくら年金給
付を受けるのかを試算した結果が、次の表で
ある。
世代間格差の試算(2002)
モデル主婦世帯
生年
(万円、倍)
保険料負担(労使計) A
受給額 B
給付額 B/A
1940年(62歳)
2,533
6,797
2.68
1960年(42歳)
4,576
4,800
1.05
1980年(22歳)
6,345
4,654
0.73
2000年(2歳)
7,605
4,653
0.61
単身(男性の場合)
生年
(万円、倍)
保険料負担(労使計) A
受給額 B
給付額 B/A
1940年(62歳)
2,300
4,072
1.77
1960年(42歳)
4,196
2,654
0.63
1980年(22歳)
5,839
2,548
0.44
2000年(2歳)
6,866
2,547
0.37
保険料負担(労使計)
A
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
受給額 B
)
00
年
(2
歳
)
歳
20
(2
2
歳
80
年
19
(4
2
60
年
19
19
40
年
(6
2
歳
)
給付額 B/A
)
数値
世代間格差の試算(2002) モデル主婦
世帯 (万円、別)
生年
(注)1:1999年価格。基礎年金の国庫負担2分の1のケース
2:( )は2002年時点における夫の年齢
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
保険料負担(労使計)
A
受給額 B
(6
19
2歳
60
)
年
(4
19
2歳
80
)
年
(2
2歳
20
)
00
年
(2
歳
)
給付額 B/A
19
40
年
数値
世代間格差の試算(2002) 単身(男性の場
合) (万円、倍)
生年
• 試算を行うと、夫が1940年生まれの夫婦世
帯は、生涯2533万円の保険料負担で679
7万円の公的年金給付が受けられる。すなわ
ち、給付は負担の2.68倍にも及ぶ。この比
率を給付倍率と呼ぶことにする。夫が20歳
若くなり、60年生まれも同様に試算を行うと、
生涯に4576万円の保険料負担で4800万
円の年金給付である。給付倍率は1.05倍と
なる。世代が若くなるにつれて、給付倍率は
さらに低下する。就職したばかりの世代に相
当する80年生まれの夫婦世帯では、6145
万円の保険料負担に対して4654万円
• の給付しか受けれない。給付倍率は0.73倍
にとどまる。2000年生まれの給付倍率は0.
61倍とさらに低下する。平均寿命まで生きた
場合、払った保険料の六割程度の年金受給
額になってしまうのだ。
• ところが、厚生年金制度は、世帯形態によっ
て生涯の給付と負担が大きく異なる。上の試
算のような妻が専業主婦の夫婦世帯は、厚
生年金制度においても最も有利な世帯形態
だ。その最も有利な世帯形態でも、若い世代
の給付は大幅に不利になっているのである。
• では、生涯独身だった場合はどうなるだろう
• か。モデル夫婦世帯で想定した男性が生涯
独身だった場合を比較してみる。1940年生
まれの給付倍率は、1.77倍と夫婦世帯より
も低いが、絶対水準としてはなお高い。しかし、
60年生まれで既に0.63倍と1倍を割り込み、
2000年生まれに至っては0.37倍とまで低
下する。共働き世帯もほぼ同様な状況にあり、
生涯独身の場合や夫婦共働きの場合、生涯
における年金保険料負担に対し年金給付は
より不利になることが分かる。
• このような世代間の格差の主な発生原因は、
保険料率がかつては低く抑えられてきたもの
• の、将来は大幅な引き上げが想定されている
一方で、最近の改正では給付抑制策が取ら
れていることによるものである。
• 厚生年金の保険料率は、54年には男性で標
準報酬月額の3.0%にすぎなかったが、現在
は総報酬の13.58%になっている。現行制
度の維持を前提とすれば、2002年12月に
新しく厚生労働省から公表された試算では今
後とも段階的な引き上げが必要となり、203
6年度には総報酬の26.20%による見通し
だ。
• 一方、給付水準は抑制されてきている。最近
• は支給開始年齢の引き上げや給付乗率の引
き上げ、賃金スライドの凍結などの施策が行
われている。ただし、給付の抑制は極めて漸
進的なため、現在の受給者や比較的近い将
来に年金受給者となる層の給付はそれぞれ
影響を受けないのである。
後期の課題
•
•
•
•
少子高齢化と財政方式
公的年金及び国民年金の空洞化
世代間格差
後期では、今回調べたこれらを含めながら、
よりいっそう掘り下げて調べていきたいと思い
ます。
使用した資料
• 中尾 幸村(2003) 『図解わかる年金 国
民年金 厚生年金保険 共済組合』 新星出
版社
• 西沢 和彦(2003) 『年金大改革』 日本経
済新聞社
• 社会保険庁ホームページ
http://www.sia.go.jp/
• 駒村康平(2000) 『年金と家計の経済分
析』 東洋経済新報社