事故に対する法的対応の違い

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事故に対する法的対応の違い
-航空事故調査の日米比較を素材として-
城山英明
(東京大学法学部)
1.一般的な認識
(日本)航空・鉄道事故調査委員会
(米国)NTSB(National Transportation Safety Board)
<日本の特徴>
①調査実施段階でのイニシアチブ・自律性が弱い(警察主導)
②調査結果が法的責任の追及に流用されるため、事故原因究明が十分達成できない
調査結果の法的責任追及への流用の可否についての日米比較(一般的認識)
<日本>
<米国>
事故調査委
報告書
警察主導の
調査
NTSB
報告書
NTSB主導の
調査
原因究明や
安全対策へ
の活用
法的責任
追及への
流用
原因究明や
安全対策へ
の活用
法的責任
追及への
流用
1
2.米国における証拠流用制限の実態
(1)NTSB 調査結果の流用制限
NTSB 調査結果は、一般公開が原則
しかし、法律により、NTSB報告書の民事訴訟への流用禁止
趣旨は、①調査リソースの確保、②NTSBの法的紛争からの隔離・公平性確保
(2)流用制限の限界
刑事訴訟への流用制限については明文規定なし(流用を認めた裁判例あり)
NTSB 調査は、FAAによる行政的制裁のための調査の端緒に
民事訴訟への流用制限でさえ、事実上広い例外(分析・勧告を除く事実報告書については、利用
可能
→流用制限は事実上空洞化
2
3.刑事訴追の可能性
航空に関連する主な連邦犯罪
航空機の損壊
航空乗組員の業務妨害
危険物質の運搬
規制物資のナビや衝突防止灯なしでの輸送
ハイジャック
武器や爆弾の運搬・隠匿、航空機運航に関する生命を無視した無謀行為
飛行中の機内犯罪
航空機の残骸の除去、隠匿等
航空会社・空港のセキュリティ違反
連邦航空安全規則の故意の違反
しかし、刑事罰は、故意またはこれに近い場合(認識ある過失)しか発動されない
→ハイジャックを除き、事故における適用事例は極めて少ない
(例:1996年のValujet事件、1997年のFine Air事件)
3
4.行政処分の可能性
FAAが連邦航空規則(FAR)違反を理由に実施
違反の事実はFAAの独自調査が原則であるが、実際にはNTSB調査が端緒になることも多い
①民事罰金(Civil Penalty)
航空会社は違反1件につき11,000ドルの民事罰金。裁量で50,000ドルまで引き上げ可能
(50,000ドル超は、裁判所による裁判を経る必要)。
最近の事故関係での発動例は、1996年のValujet事件(SabreTech社が危険物運搬に関する
規定違反で225万ドル)
②ライセンスの停止・取消し
年間約500件の発動あり
ただし、過去5年間で事故からみで航空会社の認証取消しが発動された例はない
FAAによる民事罰金の発動実績(事故関係以外も含む)
種別
1997
件数
1998
罰金総額(ドル)
件数
1999
罰金総額(ドル)
件数
2000
罰金総額(ドル)
件数
罰金総額(ドル)
麻薬の服用
4
2,750
88
229,600
93
376,830
59
292,775
航空機運航
102
377,030
130
699,288
91
694,805
72
453,730
16
218,698
62
847,000
65
1,246,300
66
1,286,900
214
1,949,576
305
2,632,007
252
2,638,792
217
1,865,648
品質管理
11
310,700
18
465,350
7
489,100
16
218,700
記録・報告
60
1,343,815
64
452,057
43
192,450
30
234,150
519
2,965,550
763
3,886,775
923
6,454,228
992
6,423,380
49
185,325
76
240,650
49
216,948
42
280,750
975
7,353,444
1,506
9,452,727
1,523
12,309,453
1,494
11,056,033
危険物
整備
セキュリティ
その他
総計
4
5.日本の事故調査における犯罪捜査との協力関係
日本の事故調査委員会は航空だけで約30人。NTSBは約200人(いずれも事務含む)。
事故調査委員会の調査は、警察との協調
(参考)警察庁と事故調査委員会との間の犯罪捜査と航空事故調査に関する覚書(抜粋)(昭和47年2月)
(前略)
2.法案第15条1及び2並びに法案第17条2及び4の規定による処分が捜査機関の行う犯罪捜査と競合
しない場合を除き、あらかじめ捜査機関の意見を聞き、当該処分が犯罪捜査に支障をきたさないよう
にするものとする。
3.捜査機関から航空事故調査委員会委員長等に対し、航空事故の原因について鑑定依頼があったと
きは、航空事故調査委員会委員長等は、支障のない限りこれに応じるものとする。
4.航空事故調査委員会から捜査機関に対し、法案第18条の規定による協力の要請があったときは、捜
査機関は支障のない限り協力するものとする。
(後略)
実務上、証拠物件は、警察が押収
一方、「飛行データ記録装置(FDR)、操縦室音声記録装置(CVR)、など早期解析を要するものに
ついては、警察が委員会に対し鑑定嘱託の手続きをとる」(細目)
→限られた調査リソースを、事故調と警察が現実的に補完している側面
5
6.米国のNTSB主導の事故調査システムの特色
(1)NTSBの優先権
米国では、NTSB が事故調査の優先権を持つ
→他機関は、NTSBの許可なく証拠、残骸を移動したり、目撃者に尋問したりすることはできない
NTSBの現場調査は、関係当事者の参加(パーティー・システム)が特色
メリット:専門性の確保←→デメリット:情報の秘匿のおそれ
(2)犯罪捜査機関との関係
司法長官がNTSB委員長と協議した上で、その事故が故意の犯罪によって引き起こされたことが諸
状況から合理的に示されることをNTSBに通知した場合には、調査の主導権がNTSBにFBIに移る
その場合でも、現場検証やFDR、CVRの解析は、ノウハウのあるNTSBが実施
6
(3)NTSBによるFAAへの勧告-規制の品質管理-
NTSBは、多くの事故調査で、FAA に勧告。勧告の内容も具体的であり項目数も多い(Valujet事件
では27項目)
→FAAは、原則として90日以内に受容・不受容、受容する場合の対応などを、NTSB に報告する。
勧告は法的強制力はないが、80%以上は受け入れられている。
日本の事故調は、規制当局に勧告・建議を出すことは少ない。
NTSBによる最近の主な航空事故調査(例)
NTSB が指摘した事故原因
運航・
操縦
機体 管制 FAA
整備
アトランティッ
○
?
ク・サウスイース
ト航空
バリュー航空
○
○
○
NTSB 勧告先
他の
FAA
連邦機関
○
○
1997.1.9
トランスワールド
航空
コムエア
1997.8.6
大韓航空
○
1999.10.31
エジプト航空
○
年月日
1995.8.21
1996.5.11
1996.7.17
航空会社
○
○
○
○
○
○
○
○
○
その他
備 考
○
(RSPA、 ○(航空 NTSB は、FAA が貨物室に火災警報装置を装
郵政公社) 運 送 協 着するように指導していなかったことの問題
会)
を指摘した。
テロの疑いが持たれ、FBI が捜査(結果的に
はテロ証拠なしで捜査終了)
○(NASA)
NTSB は、FAA が着氷飛行に対する基準を確
立していなかったことについての問題を指摘
した。
○(Guam ○(韓国 NTSB は、空港における最低安全高度警報シ
総督)
政府)
ステムを適切な状態に管理していなかったこ
とについて、FAA の問題を指摘した。
副操縦士の意図的な行動が原因とされている
7
7.日本の課題ー社会システムのあり方-
刑事罰の役割-過失犯の取り扱い(他の業過とのバランス)
cf.特殊な技術分野については、新たなタイプの刑事免責を明示して証言強制する可能性
直接的な法人処罰立法の可能性
行政的制裁・懲罰的損害賠償の役割
cf. 専門職業団体の自己規律
規制の品質管理
事故調査のスコープ・能力
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