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火山物理セミナー 6/11/2010 三部賢治 Subduction factory 1. Theoretical mineralogy, densities, seismic wave speeds, and H2O contents by Hacker, Abers, and Peacock, JGR 2003 沈み込み帯の岩石の相図と鉱物物性値をコンパイルし, 観測される地震波速度や計算した温度圧力構造との比 較により沈み込む地殻やマントル中の含水度合等を明 らかにすることを目指す. Hatten S. Yoder Jr. (1921-2003) 本研究では,以下のステップを踏む. ステップ1.沈み込み帯に関連する鉱物の物性値をコンパイルし,評価する. ステップ2.沈み込み帯の主要岩石の相図を作成する. ステップ3.特定の沈み込み帯についてのP-T条件を計算する. ステップ4.相関係とP-Tモデルとを重ね合わせる. ステップ5.岩石の物性値とP-Tモデルとを重ね合わせる. ステップ6.計算値と観測とを比較する. たくさんの文献からデータを集めた. 高温高圧下での鉱物の密度や地震波速度の計算 には,Bina & Helffrich (1992)の方法を用いた. 熱膨張率はHolland & Powell (1998)で使われた, 単純な式を使っている. μ 及びその温度依存は,あまり決まっていない. 1つの安定領域内では,鉱物の化学組成が一定であ ると単純化する. 安定領域同士の境界では,不連続反応が起きている と単純化する. 沈み込む地殻:MORB組成の玄武岩・はんれい岩 マントル:超マフィック レールゾライト 涸渇した(マグマ成分が抜けた)レールゾライト ハルツバージャイト サーペンティナイト マフィック岩の相図を書くには; 1.特定の岩石組成についてギブスの自由エネルギーを最小 にする相の組み合わせを計算する. 欠点:計算に必要な熱力データの質にばらつきがある. 2.実験をする. 欠点:低温のデータは信頼できない. そこで本研究では,天然の変成岩のデータをコンパイルして,相図 を書くことにする. 1.化学組成(各酸化物の割合)はMORBと10%以内で一致する岩石 のデータを使う. 2.各変成相の鉱物組成と鉱物のモード(存在比)をコンパイル. 3.鉱物組成を物性値のわかる端成分に分解する. 4.端成分の物性値が不明なときは,Table4のルールに従って,鉱物 モードを補正する(それでも岩石の化学組成がMORBと10%以内 で一致することを確認). 5.含水量は固定していない. 6.安定領域の境界は,熱力ソフトThermocalcで計算する. つまり,岩石組成を少し変化させて安定領域の熱力計算をしている. Hacker et al. (2003) Schmidt & Poli (1998) 岩石の化学組成をTable5の通りに決める. Table6にまとめた方法により,熱力ソフト Thermocalcを用いて反応のP-T境界を決める. 高圧低温領域は不確定性が大きい. 変成岩と変成していない岩石の物性を比較するた め,完晶質MORB,ダイアベース,オリビンガブロ, ウェールライト,オリビンクリノパイロキシナイト等 についても計算した. ガラス質のMORBの物性値は,空隙率やクラック等 の影響が大きいため,使用しない. 温度はnumerical and analytical solutionsにより計 算した. 圧力は,以下の密度を使用して計算. 水:1.0 g/cm3 大陸地殻: 2.7 g/cm3 海洋地殻: 3.0 g/cm3 マントル: 3.3 g/cm3 水のactivityを1としている. もしも水のactivity が1以下ならば(たいていの場合 はそうである),無水鉱物の安定領域が広がる. 密度と含水量は,線形平均(Voigt平均) VpとVsはそれぞれの鉱物の値から,Voigt-ReussHill平均を使って求められた(複数相の)岩石の体 積弾性率及び剛性率から計算した. Hashin-Strickman bound( Voigt-Reuss-Hill平均より 計算が面倒)で計算しても±0.4%以内で一致. 計算値は実験による計測値と良く合う(図14) Helffrich (1996)のFe 詳細に行った本研究と過去のおおざっぱな3成分 モデルとの比較(図8のaとcで,aに6.5の低速がで きている) 誤差の原因は主に以下の3つ (1)それぞれの鉱物の物性値の誤差 (2)計算の簡略化による誤差(熱膨張率の簡略化・3 次の有限歪み・弾性常数のPに関する2次微分を 無視) (3)単一鉱物データから(複数相の)岩石物性への変 換計算する際に発生する誤差 今回の計算を,以下の3つについて観測と比較する. (1)沈み込む前の海洋リソスフェア (2)沈み込むスラブ (3)マントルウェッジ White et al. (1992)及びMutter & Mutter (1993)による海洋地殻と 最上部マントルの地震波速度を,今回の計算と比較した.P-Tは, 年代を考慮に入れて計算されている. 計算は等方的な平均値であるが,観測値は異方性を含む可能 性があるので,0.2 km/s以下の比較には意味がない. 下部地殻の観測値は,無水のガブロノライト及びオリビンガブロ の値を中央として分布 下部地殻の7.0 km/sより遅い地域では,変質(角閃岩100%の値 に近いが,変質は均質には起こりにくい)または岩石の不均質 (マフィック岩とサーペンティン15~30vol%との混合物)の可能性 がある. 上部マントルはスピネルハルツバージャイトの値に近い. 今回の計算方法は,過去の天然の岩石の速度を直接する方法 よりも優れている.天然の岩石は,変質や副成分鉱物の影響を 見ている可能性がある. 上部マントルと下部地殻最上部との速度差は15% であり(図15) ,これは図16aの無水ガブロと無水 ハルツバージャイトとの速度差に近い.(つまり,通 常の海洋リソスフェアは,地殻・マントルともにドラ イ) 図16b含水MORB+無水マントル:速度差ゼロのと ころがある.ここでは化学組成の違いは観測から はわからない.温度差のみがわかる. 図16c含水MORB+含水マントル:地殻がマントル よりも圧倒的に速いのが特長. 図16cに関連して 低温であるマリアナ・東北日本・クリル・アリューシャン では,広く含水マントルがあっても良いP-Tである. しかし,地震波速度は沈み込む地殻がマントルよ りも速くなく,むしろ遅い.16bと16cの中間,つまり 部分的に含水マントルになっているのであろう. 東北日本:地震波速度差からすると,部分的に含水 マントルがあると考えられる.あるいは,含水 MORBとその上に無水ガブロがあると解釈すること も可能. トンガスラブでは,低速のマントルに高速の沈み込 む地殻が挟まれている.これはひろく含水マントル が存在する可能性がある.あるいは,その観測に はパス効果(?)があるのかもしれない. 南海の様な高温沈み込み帯では,熱力学的にほ とんど含水マントルは無いと予想される.観測値か らは,沈み込む地殻がガブロのままであり,エクロ ジャイトに転移していないと解釈することが可能. 観測によりVp/Vsが高い・ポアッソン比が高い部分 が見つかっている. → マントルウェッジは部分 的に含水化していると考えられる. ほぼサーペンティンの物性値のみが議論に大きく影響し ている. その他の物性値は,細かく計算した割にはあまり役立っ ていない. サーペンティンも結局は「部分的にあるだろう」という程度 の定性的議論で終わる.この程度のことは細かい計 算をしなくても言える. こういった研究の方向性にはもちろん意義はあるが,現 在手に入る物性データの質が,細かい議論をするに は全く追いついていない.