マルチレベルSEMとは - 浅野良輔

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Transcript マルチレベルSEMとは - 浅野良輔

2014/11/8 (土) 第56回教心大会@神戸国際会議場
教育心理学における
マルチレベルSEMの適用
浅野 良輔
浜松医科大学子どものこころの発達研究センター
30秒バージョン
マルチレベル構造方程式モデリング
マルチレベルSEM
個人と集団のダイナミックスに関心をもつ者には、
有力な方法の1つとなりうる
 統計学的な問題を解決する以上に、理論検証
のツールとして大きな可能性を秘めている
 分析を実行すること自体はわりと簡単
個人と集団をめぐる
新しい研究をしましょう!
本発表の構成
1. 概要編: マルチレベルSEMとは
教育心理学の研究において、マルチレベルSEMは
なぜ必要なのかを議論する (10分)
2. 実践編: ペアデータを例にして
恋愛カップルのデータに対してマルチレベルSEMを
適用し、研究の流れを解説する (15分)
概要編:
マルチレベルSEMとは
近年のマルチレベルSEMの動向
この10年、日本語の文献が急速に増えている
教育心理学的な問い
教育心理学的な問い
学級規範は生徒の成績に
どのように影響するか?
教育心理学的な問い
学級規範
個人の「こころ」や「あたま」の中の現象ではない
クラス全体の現象として定義される
 cf. 学級雰囲気・風土、教師リーダーシップ、
共有された期待
生徒1人に調査するだけでは、全容を把握できない
階層データの必要性
なぜマルチレベルSEM?
階層データ
小学生
クラスタ
レベル
1組
2組
3組
4組
個人
レベル
20/35名
20/32名
20/33名
20/34名
なぜマルチレベルSEM?
階層データ
夫婦
クラスタ
レベル
個人
レベル
カップル1
夫1
妻1
カップル2
夫2
妻2
カップル3
夫3
妻3
なぜマルチレベルSEM?
サンプルの非独立性
クラスタ内の個人が互いに独立ではない
階層データがもつ、最大の特徴かつ最大の難問
 統計分析の基本的前提から逸脱している
 集団/ペア内に類似性 (級内相関) がみられる
– 学級規範の「クラス差」
なぜマルチレベルSEM?
階層データに対する「素朴な」分析案
1. 個人単位のデータとみなした分析 (N = 個人数)
 学級規範の概念定義と一致しない
 サンプルの独立性仮定に違反している
– 第1種の過誤を犯しやすい (栗田, 1996)
2. クラスタごとに平均値化した分析 (N = クラスタ数)
 純粋な学級規範の影響を検証できない
 クラスタ内で共有された効果だけでなく、個人
独自の効果が混在している
なぜマルチレベルSEM?
さて、どうする?
2つの効果を分解すればいいじゃないか!
ID = 1
共
有ク
さラ
れス
タ
た内
効で
果
ID = 2
ID = 3
ID = 4
個
人
独
自
の
効
果
マルチレベルSEM
Muthén (1989, 1997) が提案・実用化
階層データをWithinとBetweenに分解する
 Within:クラスタ内の成分 (個人独自の効果)
 Between:クラスタ間の成分 (共有された効果)
因子分析にあてはめるとわかりやすい
 Within≒独自因子 (誤差)
 Between≒共通因子 (因子)
マルチレベルSEM
Between
学級規範の
共有効果
成績の
共有効果
抽出
抽出
学級規範
成績
抽出
抽出
学級規範の
独自効果
Within
成績の
独自効果
マルチレベルSEMのメリット
1. 共有された効果を潜在変数としてみなせる
心理構成概念のクラスタ平均を解釈しやすくなる
 学級規範=クラスのなかで共有された信念
2. Betweenのパス係数をより正しく検討できる
標準誤差が過小推定されるのを抑えられる
 1クラスタあたりの標本サイズが小さいとき
 クラスタ数が少ないとき
 変数の級内相関係数が低いとき
(Lüdtke et al., 2008; Marsh et al., 2009)
実践編:
ペアデータを例にして
導 入
共有された関係効力性 (浅野, 2011; 浅野・吉田, 2011)
ペアレベルの効力期待
 「私たちはよい関係を築くためにお互いに協力
し合える」と、2者が考えている
cf. 知覚された関係効力性
 個人レベルの効力期待
 「私たちはよい関係を築くためにお互いに協力
し合える」と、1人が考えている
仮 説
ペアレベル
共有された関係効力性は、2者双方のかけがえの
なさや主観的幸福感を高める
個人レベル
知覚された関係効力性は、本人のかけがえのなさ
や主観的幸福感を高める
対象者
恋愛カップル97組
男性: 平均22.0歳, SD = 3.96
女性: 平均19.9歳, SD = 1.49
関係継続期間: 平均16.3ヶ月, range = 1―71ヶ月
尺 度
関係効力性
私たちはお互いに協力して、2人の間で起こる問題
を解決できる: 1―5点 (浅野, 2009)
かけがえのなさ
私にとって、その人はかけがえのない人である:
1―5点 (清水, 2012)
主観的幸福感
あなたは人生が面白いと思いますか: 1―4点 (伊藤
ら, 2003)
データ
マルチレベルSEMの実際
研究の流れ
1.
2.
3.
4.
5.
6.
理論・仮説の構築
階層データの収集
級内相関係数・クラスタ信頼性の確認
BetweenとWithinの相関係数の確認
仮説の検証
結果の解釈
マルチレベルSEMの実際
1. 理論や仮説の構築
新しい方法論を用いるときに最も大事な作業
 ペア/集団を主体とした理論や仮説を!
理論のない研究は「よい研究」になりえない
 万が一、興味深い結果が得られても、研究者
本人がそのよさに気付けない
マルチレベルSEMの実際
学問を発展させるのは、
マルチレベルSEMではなく
それを扱う研究者だ!
(自戒もこめて…)
マルチレベルSEMの実際
2. データの収集
標本サイズ
 最低でも、N = 50クラスタ (Muthén, 1997)
 モデルの複雑さに依存する
– 媒介分析には、80クラスタ以上 (Li & Beretvas, 2013)
質問項目
 ペア/集団レベルの構成概念を仮定するなら、
主語は複数形にする (I -> We)
– 概念定義との間にズレが生じると、解釈しにくくなる
– cf. 関係効力性尺度
マルチレベルSEMの実際
3. 級内相関係数 (ICC) の確認
ある変数がもつクラスタ内の類似性の強さ
 マルチレベルSEMをする研究計画であれば、
中程度が一番のぞましい
 級内相関係数が非常に小さい or 大きければ、
「素朴な」分析案でかまわない (狩野・三浦, 2002)
– 個人的には、最低でもICC = .20 (20%) は必要
– クラスタごとの標本サイズが大きければ、ICC = .10
くらいでもOK?
マルチレベルSEMの実際
3. クラスタ信頼性の確認
クラスタ平均が「真の」得点を表している程度
 a係数のクラスタ平均版
高いほど、Betweenの推定結果は安定する
マルチレベルSEMの実際
3. 級内相関係数・クラスタ信頼性の確認
HAD (清水, 2014; 清水ら, 2006)
 無料かつ簡単に使えるExcelマクロ
 結果は他のソフトウェアと一致する (ただし、自己責任)
http://norimune.net/696
マルチレベルSEMの実際
4. Between・Withinの相関係数の確認
ふたたび、HAD
マルチレベルSEMの実際
5. 仮説の検証
Mplus 7.11 (Muthén & Muthén, 1998-2013)
マルチレベルSEMの実際
5. 仮説の検証
ロバスト最尤法 (MLR)
 ふつうの最尤法 (ML) よりも頑健な推定方法
 χ2や標準誤差を調整してくれる
モデル適合度
 χ2 (df = 2) = 1.622, p = . 445, CFI = 1.000, RMSEA
= .000, SRMR (Between) = .062, SRMR
(Within) = .039
マルチレベルSEMの実際
Between (ペアレベル)
0.537***
かけがえのなさ
0.345**
主観的幸福感
0.119
かけがえのなさ
関係効力性
Within (個人レベル)
関係効力性
0.162**
Note. 交際期間 (B) と性別 (W) を統制。
** p < .01, *** p < .001
主観的幸福感
マルチレベルSEMの実際
6. 結果の解釈
2つのレベルで、異なる影響プロセスがみられた
 ペアレベル
– 共有された関係効力性が高いほど、2者双方のかけ
がえのなさと主観的幸福感は高い
 個人レベル
– 知覚された関係効力性が高いほど、本人の主観的
幸福感は高い
ユーザーとしては、意義を主張しやすい結果
 個人に注目するだけでは、親密な関係を理解
することはできない!
Take-Home Messages
マルチレベルSEMが教えてくれること
従来の心理学は主に、1人の個人を主体としてきた
ペア/集団レベルの理論を忌避する風潮さえ
 測定や分析ができなかったから?
方法論に合わせて理論をつくるのはナンセンス…
ペア/集団に関する研究の
パラダイム・シフトを!
ご清聴
ありがとうございました
浅野 良輔 (Ryosuke ASANO)
E-mail: [email protected]