電気防食の基礎知識

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電気防食の基礎と応用
日本防蝕工業㈱
鉄鋼は強度・加工性・安価等
の理由で、工業材料として
多量に使用されており
現代文明の基礎材料として
欠かせない物である
鉄鋼材料の最大の欠点は
錆びる
ことである
錆による損失は、1997年に行わ
れた腐食損失調査委員会による
「わが国における
腐食損失調査報告書」では
国民総生産(GNP)比で1.8%
(3兆9千億円/年)
に達すると報告されている
 錆を防止する方法として、最も
 一般的に行われているのは、塗装
やメッキによる方法であるが、
 あまり知られていないが、
電気防食による腐食防止方法
も工業の安全運用に貢献している
電気防食についてやさしく解説す
る
電気防食法
電気防食法
1823年 英国
ハンフリー・デービー卿
木造軍艦の船体外板に張った銅板
の腐食を防止するために
亜鉛板を取りつけたのが最初と
言われている。
日本では、戦後から港湾施設
発電所や石油精製プラントの
海水利用施設、船舶、ガス埋設
管に広く適用されている。
しかしながら、家庭向けには
一部の電気温水器に電気防食装
置が採用されている以外は
適用がほとんど無いため
一般にあまり知られていない
腐食防止方法である。
金属の腐食は電気化学反応によ
り生じ、電子(電流)も関係し
ている。
従って、腐食に関与する電流を
外部から供給すれば、金属の腐
食を防止できるであろうことは、
容易に想像がつく。
O2
水溶液 H2O
Fe2+
2OH-
カソード部
鉄
アノード部
2e-
図-1
鉄の腐食概念図
鉄の腐食概念図
・アノード反応(酸化反応)
++
‐
Fe→ Fe +2e
・カソード反応(還元反応)
-
-
½O2+H2O+2e →2OH
2H+ +2e‐ → H2
H
H
H222O
O
O
防食電流
O2
OH
水溶液
鉄
腐食停止
電気防食法
電気防食法は、金属のイオン化
に関与する電流を外部から供給
することにより、金属のイオン
化反応(腐食)を停止させる
腐食防止方法である
昭和30年代の電気防食がほとん
ど知られていない頃には、電流
を流して腐食を止める方法など
と顧客に説明すると詐欺師扱い
されたこともあった。現代では、
有効な腐食防止方法として認識
されている。
防食電流の供給方法には2種類
外部電源方式
直流電源装置から供給する方法
流電陽極方式
(犠牲陽極方式)
防食対象金属よりイオン化傾向
の大きい金属を取付る方法
電気防食法では、
適正な電流(防食電流)を常時対
象物に流入させることが必要
電流が少ないと腐食を完全に停止
できない
電流が多すぎると、過防食と言わ
れる悪影響を生じる場合がある
防食電流は
金属の材質・水質・pH・流速・
溶存酸素量・温度・塗膜の状態
微生物の有無・その他
等により複雑に変化し、
常に一定ではない。
防食電流密度の例
金属種類
環 境
電流密度(mA/㎡)
鉄 鋼
清浄海水
50~150
高流速海水
200~500
淡 水
50~100
中性土壌
5~50
土壌(細菌繁殖)
100~500
コンクリート
1~5
清浄海水
20~50
海水(細菌繁殖)
200~500
清浄海水
20~50
ステンレス鋼
アルミニウム
SUSMCD
電気防食法は外部から金属に電
流を流し込むことが必要なため、
防食対象物が海水、淡水、土壌、
コンクリート等の電解質に接し
ていることが必要である。
空気は絶縁体で電流が流れない
ため、空気中の設備に対しては、
電気防食法の適用はできなと考
えられてきた。
しかし、導電性塗料による空中
施設への電気防食法の適用が近
年試みられている。
トタン板(亜鉛メッキ鋼板)も
電気防食法を利用した防食方法
であるが、電気防食法には含ま
れていない。
外部電源方式
 商用の交流を直流に変換する
 直流電源装置(整流器)から
 防食電流を供給する方法である
近年では、最適な防食状態を常
に維持するように、
自動的に出力をコントロールで
きる
自動定電位型の直流電源装置が
主流となっている。
また、遠隔地や積雪地に設置さ
れる場合には、遠隔監視機能や
遠隔制御機能を持った直流電源
装置が使用される他、
商用電源の無い場所では、太陽
電池や風力発電装置も直流電源
装置に使用されている。
外部電源方式用耐久性電極
電極種類
使用環境
消耗度
(g/A・y)
白金めっき
チタン
酸化貴金属焼成
チタン
高珪素鉄
海水・淡水
0.005~0.01
海水・淡水
土壌
微量
海水・淡水
土壌
海水
100~500
鉛銀合金
10~20
流電陽極方式(犠牲陽極方式)
 流電陽極法は、防食対象金属より
イオン化傾向の大きい金属を取付
け、その金属が身代わりとなって
溶解して発生する電流を防食に利
用した方法で、
 犠牲陽極方式とも言われる
主な流電陽極材料
合金種類
Mg
Al
Zn
比重
1.7
2.7
7.1
陽極電位(V)
-1.5
-1.1
-1.0
電流効率(%)
50
90
95
有効電気量
(Ah/Kg)
使用環境
1100
2600
780
土壌
淡水
海水
海水
淡水
マグネシウム合金陽極は、高価
なため、主に土壌中や淡水中の
防食用で、
海水用には亜鉛合金陽極やアル
ミニウム合金陽極が使用されて
いる。
流電陽極は重量1Kg以下の小型
のものから、港湾施設用の重量
300Kg以上、設計寿命50年以上の
アルミニウム合金陽極まで、使
用条件に合わせて各種用意され
ている。
外部電源方式と流電陽極方式の比較表
流電陽極方式
外部電源方式
電源が不要
電源が必要
施工が容易
維持管理が必要
防食電流調整ができない 電流調整が容易
高抵抗環境では電流小
広範囲の環境に適用可能
隣接物への影響が小
隣接物に電食を発生する
場合がある
腐食性生物が発生しない
陽極の腐食性生物が発
生
電気防食の適用例
表‐
2 電気防食装置の適用施設
環 境
防食対象物
港湾護岸・
桟橋
海水取水設備
水門
船体外板・
スクリュー
海 水 タンカーバラストタンク
熱交換器
発電所復水器
海水管・
バルブ・
フィルター
いけす
海底管
海底土 海底ケーブル
沈埋トンネル
ダムゲート
淡 水 水タンク
貯湯槽
埋設管
地上タンク底板
土 壌 地下タンク
基礎鋼管杭
井戸ケーシング
補強鉄筋
コンクリー ト
原子炉格納容器
薬品タンク
その他 結晶析出缶
汚泥処理施設
材 質
SS
SS・
SUS
SS・
SUS
SS・
SUS
SS
SS・
Cu
SS・
Cu
SS・
SUS
SS
SS
SS・
Pb
SS
SS
SS
SU S
SS
SS
SS
SS
SS
SS
SS
SU S
SU S
SU S
方 式
流電
外電・
流電
流電
外電・
流電
流電
流電
外電・
流電
流電
流電
流電
流電
流電
流電
外電
外電・
流電
外電・
流電
外電・
流電
外電・
流電
外電・
流電
流電
外電
外電
外電
外電
外電
ガス埋設管
埋設管の腐食によりガスが漏洩
し、ガス爆発事故を発生した
事例が昔はあったが、近年では
ほとんど無い。
これは、管のコーティング技術
が進歩し、耐食性の良いPLP管
(プラスチックライニングパイプ)の採用
によるところが大きい。
しかし、その影には、電気防食
装置の効果もある。
このような塗覆装管に電気防食
装置を設置すると、ほぼ完全な
腐食防止を達成できる。
電気防食装置の防食対象範囲が、
塗覆装の欠陥部分だけで良いた
め、裸の埋設管を防食する場合
の1/100以下の電気防食設備で良
く、安価にかつ容易に完全な防
食状態を達成することができる。
埋設管の電気防食方法は、マグ
ネシウム陽極による流電陽極方
式が最も多いが、都市ガスの高
圧幹線や長距離の埋設管には、
深埋式電極による外部電源方式
が採用されている。
貯油タンク
ガソリンスタンド等の地下タン
クに対してもマグネシウム陽極
やミニ外電装置による電気防食
装置が施工されている。
発電所設備
火力・原子力発電所では、冷却
水に多量の海水を使用する。海
水取水設備、海水管、フィル
ター、復水器等の海水系統の腐
食を防止るため電気防食装置が
設置されている。
船舶
橋脚基礎
沈埋トンネル
貯湯槽
遠隔監視制御システム
参考文献
藤井哲雄「初歩から学ぶ防錆の科学」
工業調査会
「腐食防食ハンドブック」
腐食防食協会
H.H.ユーリック「腐食反応とその制御」
産業図書
ご清聴を感謝します。
おしまい