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人間科学論Ⅱ
終末の生命倫理
緩和医療とQOLから探る死生学
前回の内容
心理学の歴史 :3大潮流
「科学的である」とは何か :客観的な知識
心身問題の哲学 :ハードプロブレム
人間科学の方法 :心・身・社会の3次元
生命倫理/Bioethics
臨床倫理・医療倫理などを総合した、
生物・生命に関わる
学際的研究。
Ex…
自律・自己決定
臓器移植・脳死
生殖医療・クローン・遺伝子
医事法・職業倫理
カルネアデスの舟板
船が難破して乗客のAとBが海に投げ出さ
れた。そこに一人ならつかまって浮いてい
られるが、二人なら沈んでしまう程度の大
きさをした舟板が流れてきた。この板につ
かまって救 助を待つよりほかに助かる
術は無い。二人はこの板につかまろうとし
たが、AはBを蹴り離して溺死させ、その後
Aは救助された
世界的な倫理基準
ヒポクラテスの誓い 医療従事者の姿勢
ニュルンベルク綱領 ←ナチスドイツ
ジュネーブ宣言 医療従事者の姿勢
ヘルシンキ宣言 ヒトを対象とした研究倫理
リスボン宣言 患者の権利宣言
マドリッド宣言 医師の職業的自己規律
今回のテーマ
死をめぐる医療と、その背景となる生命倫理の観点から
 尊厳死/安楽死 リビングウイル/事前指示書
 自己決定権/インフォームドコンセント
 QOL
といったデリケートな問題への
糸口を探る。
安楽死・尊厳死①
高瀬舟 /森鴎外
罪人を乗せる高瀬舟を繰る同心庄兵衛と、
護送されていく喜助。弟殺しの罪人だという
が…
親を亡くした貧しい兄弟。喜助が、家に戻ると
病気の弟が自らのどを切っていた。医者をよ
ぼうとするが、早く楽にしてくれという弟に従っ
て、刃を抜く。弟が事切れたところで、捕まっ
てしまう。
安楽死・尊厳死②
 安楽死 (euthanasia / mercy killing慈悲殺)
決定プロセスによる分類
自発的 本人の意思による
非自発的 本人の意思確認がない
反自発的 本人の意思に反する
方法による分類
積極的 投薬等による
消極的 治療停止による
一般的には、自発的消極的安楽死を尊厳死
非自発的積極的安楽死を慈悲殺という。
安楽死・尊厳死③
 尊厳死 (Death with Dignity)
定義としては
「人間的な尊厳を保ったうえでの死」
(⇒あらゆる死の目標)
狭義には、終末期においていたずらに死期を延ばさないため
の治療停止行為。これが一般的な意味の尊厳死。
延命治療の技術が発展してきた現代にはじめてあらわれる
概念。死のタイミングを医療で左右できることが背景にある。
Living will (リビングウイル)「生前遺言」
回復不能に陥った場合の医学的処置を、事前に指示
しておく文書。基本的には尊厳死を求めるものを指す。
安楽死・尊厳死④
リビング・ウイルの要旨
 1)私の傷病が、今の医学では治せない状態になり、
死期が迫ってきたとき、いたずらに死期を引き延ば
す措置はいっさいおことわりします。
 2)ただし、私の苦痛を和らげるための医療は、最大
限におねがいします。
 3)数カ月以上、私の意識が回復せず、植物状態に
陥って、回復の望みがないとき、いっさいの生命維
持装置をやめてください。
 以上、私の宣言に従ってくださったとき、全ての責任
はこの私自身にあります。
安楽死・尊厳死⑤
リビングウイルとほぼ同等のものに事前指示
書(Advance Directives)がある。リビングウイ
ルが「尊厳死を認める」内容であるのに対し
て、事前指示は、意思表示一般を示す。
書面で残さない場合も、明確な意思表示であ
れば有効とされる。
安楽死・尊厳死⑥
尊厳死の認められる状況
 医学的にみて、患者が回復不能の状態に陥っていること。
 意思能力のある状態で、患者が尊厳死の希望を明らかにし
ているか、患者の意思を確認できない場合、近親者など信
頼しうる人の証言に基づくこと。
 延命医療中止は、担当医が行うこと。
(日本学術会議による)
論点
 尊厳のある死とはなにか
 近親者の判断のみで行なうべきか
 医療者以外の尊厳死は認められるか
 事前指示はどこまで有効となるか
 リビングウイル運動は、弱者を社会的に追い詰めることにな
るのではないか
 死の基準を医療分野で決定することに問題はないか
インフォームド・コンセント①
Informed-Consent
(説明と同意)
医療従事者から病気と医療に関する説明を行
なう
⇒ 患者がその情報を元に
治療法・治療方針に合意選択する
(⇔パターナリズム Paternalism)
インフォームド・コンセント②
○ 医者は「説明責任」を果たし、自身の専門性と
職業倫理に従い、「治療義務」と「裁量権」に基づいた
医療を提供する
○ 同時に患者は「自己決定権」を行使し、その医療
行為への同意を与える
生物的な意味での治療以上に、
人間を包括的に診察する必要
→医療行為の対象が、病気・病因ではなく人間そのものに変化
インフォームド・コンセント③
論点
 患者の自己決定は医者の責任逃れ?
 実験的先端医療か緩和医療かの選択となり得る
 医師の裁量権との齟齬
 医療提供者の倫理との齟齬 (患者の健康を第一の関心に)
判断根拠
=個人内過程 (価値観,信念,宗教,本人の能力)
×
患者に与えられる情報
(医者からの情報,医者の能力,治療法の評判,
家族・周囲の判断)
自己決定権と患者の権利①
 自己決定権 autonomy=自律
エホバの証人輸血事件(東大医科研附属病院)
宗教上の理由から輸血を拒否していた患者に、医師が救命の
責務として輸血を行なった。東京高裁で
「人生の在り方や、死に至るまで生き様を自ら決定
でき、尊厳死を選択する自由も認められるべきだ。」
と見解した一方、救命について不法性は認められないとして、
説明義務違反で損害賠償請求。
(信仰の自由を尊重することで、救命義務を怠ったとしても、
違法性は問われないとされる)
自己決定権と患者の権利②
 リスボン宣言における自己決定権
判断能力のある成人患者は・・・
自身で方針について承認または拒否を判断する
権利がある。 またそのために必要な情報を得る権
利も有するが、検査・治療のその目的、もたらされる
結果、拒否した場合に起こりうる事態を予想できる
よう配慮されるべきである。
意識喪失患者は・・・
法定代理人を介する。緊急時に代理人が不在の
場合、事前の表明がない限りは同意を得たものとす
る。
未成年・法的無能力者は・・・
法定代理人を介するが、合理的な判断が出来る
場合は、その判断を尊重すべきである。
自己決定権と患者の権利③
 a.患者の文化的背景や価値観と同じく、その尊厳およびプライ
バシーは医療や医学教育の場において常に尊重されねばな
らない。
b.患者は最新の医学知識の下でその苦痛から救済される権
利を有する。
c.患者は人道的な末期医療(ターミナルケア)を受ける権利、
およびできる限り尊厳と安寧を保ちつつ死を迎えるためにあ
らゆる可能な支援を受ける権利を有する。(患者の権利章典)
論点
 自己決定権に「自身の死を選択する権利」が含まれるか
 人道的な末期医療とは何を指すか
 判断能力の有無をどうとらえるか
緩和医療①
緩和医療(Palliative Care)
主に末期がん患者に対して行なわれる、治
療や延命ではなく、身体的・精神的な苦痛
(pain)の除去を目的とした医療形態。こうした
時期の医療そのものを終末期医療(Terminal
Care)という。
ここでいうpainとは、全人的疼痛(total pain)
緩和ケア・終末期ケアの現場としてのホスピ
スが次第に一般的になりつつある。
緩和医療②
 痛みの抑制 Pain Control
がん疼痛緩和の仕組み(WHO)
>時間を決め、昼夜も投与を継続して効果を連続させる。
>患者ごとに適量を求める
>寿命ではなく痛みの強さに応じて処方
>強さは1つずつ段階をおって調整する
a.非オピオイド系薬剤
(アセトアミノフェン・アスピリン) #バファリン
b.弱オピオイド系(コデイン)+非オピオイド系
c.強オピオイド系(モルヒネ) +非オピオイド系
*痛みの強い患者は中毒にならない
*モルヒネは有効限界がない→量と効果が比例
補助薬として、抗うつ薬・抗不安薬などを処方することも
(心理的・社会的な影響を考慮)
緩和医療③
 鎮静 Sedationセデーション
強オピオイド系薬剤を用いても、痛みが抑制されない場合、
意識レベルを低下させることで苦痛を抑える。患者自身の判
断が必要となる。
セデーションによって交感神経の興奮が抑制され、
血流がよくなる結果として疼痛が緩和されることも。
 一時的セデーション:苦痛からの一時的退避。
覚醒の際の回復を期待。
 最終的セデーション:死に至るかもしれないという予想があり
ながら、それでも苦痛を阻止する術がないために行なわれる。
死期が迫っている。
→苦痛のない死を迎えるため、といった
積極的な意図ではないことに注意
緩和医療④
 安楽死とセデーション
安楽死・・・意図的に縮命させる。
セデーション・・・延命も縮命も行なわない。
結果的な意味では、セデーションも(自発的)積極的安楽死と
近い
ただし、緩和医療とは、ケアの目的を、
負担の大きい治療・延命措置から、患者の
QOLを向上させることへとシフトした医療形態
論点
 セデーションで意識レベルを低下させることは、QOLの向上
になるのであろうか
死の準備教育①
死の受容のプロセス (Elisabeth Kübler-Ross)
 否認
 自分が死ぬということは嘘ではないのかと疑う段階である。
 怒り
 なぜ自分が死ななければならないのかという怒りを周囲に向ける段
階である。
 取引
 なんとか死なずにすむように取引をしようと試みる段階である。何か
にすがろうという心理状態である。
 抑うつ
 なにもできなくなる段階である。
 受容
 最終的に自分が死に行くことを受け入れる段階である。
死の準備教育②
 “闘病”から”死の受容”へシフトすることはあくまで
ひとつの選択。また、死の受容のプロセスも、ひと
それぞれ違いがある
 多くの日本人は特定の宗教観にとらわれていない
⇒終末期に心のよりどころとしての宗教がない
⇒宗教に基づいた具体的な死のイメージ(天国・輪廻)
を持たない。
日本的な死・・・「いなくなる」「消滅する」
死に関わる医療においては、医療者自身も死を学び、
死の過程を心得ておく必要がある
QOLの考え方①
Quality of Life
個人の[生命の質/生活の質]を表す主観的尺度
QOLの意味するものは様々
1.実現/希望 (希望の達成度)
2.生きがい
3.人間らしい生活(Sanctity of Life)
どの医療も結果的なQOLの向上が
目標となりうる。
QOLの考え方②
 QOLが問題になるケース
⇒結果的な回復が見込まれない
⇒QOL向上と延命措置が平行
できない場合
⇒QOL向上を目指すことで、
措置をする場合に
比べ死期が早まる
上図:QOL向上を目指した結果、
寿命も延長される場合
下図:QOL向上を目指した結果、
延命措置を施すより死期が早まる場合
QOLの考え方③
単純には、医療の目的=面積を増やす努力
ただし、QOLの高さ・寿命への重み付けは、
それぞれ相対的な価値観で変化しうるもの。
「太く短く」「細く長く」
「美しく散る」
といった美徳感覚にも左右される
尊厳死への提言
 医療でいう「尊厳死」、自発的安楽死とはヒトが尊厳をのこし
たまま死を迎えることを目的とする。
論点
尊厳を失った生があるか
尊厳を失った(QOL・SOLが低い)場合は死を選ぶべきか。
QOLが低ければ死を。
QOLが低ければ高く。
抜本的な解決策:
QOLを低下させない延命措置の開発
医療の現状
 安楽死・尊厳死は法的には認められないものの、慣
行としてセデーションは行なわれている。
 情報の開示が進み、がん告知が求められる一方、
その方法も模索されている。
 各医療機関・研究機関に倫理委員会設置
 チーム医療により、特に緩和ケアチームには医師
(外科・麻酔科・精神科など)・ソーシャルワーカー・心
理士・看護師・薬剤師などが参加
 医療の形態の変化
病気を見る医療から全人的医療へ
Care ⊃Cure