放射線の人体への影響

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Transcript 放射線の人体への影響

放射線の人体に与える影響
-放射線防護の視点から-
稲波 修
大学院獣医学研究科放射線学教室
物理学的過程
励起と電離
H2O
H2O
→ H2O*
→ H2O+
+
e-
化学的過程
H2O* →
.OH
+ .H
H2O+ → .OH + H+
e- + H+ → . H
DNA + .OH
→
遺伝子損傷
放射線の人体への影響の分類法-1
(被ばく線量に対する障害の発生頻度と重症度で分類)
確率的影響
確定的影響
確率的および確定的影響の特徴
種
類
確率的影響
確定的影響
しきい値
無し (仮定)
有 り
線量とともに変化するもの
例
示
放射線防護の目標
発生確率 (頻度)
がん、遺伝的影響
発生を容認でき
るレベルに制限
重症度
皮膚、白内障、
不妊、等
発生を防止
放射線の人体に対する影響の分類法-2
(身体的・遺伝的影響で分類、発症時間の概念を含む)
身体的影響
全身被ばく
急性 (亜急性) 障害: 中枢神経、腸、骨髄、等
晩発生障害: 全臓器がん、白内障、加齢、等
部分被ばく
急性 (亜急性) 障害: 皮膚、去勢、等
晩発生障害: 皮膚がん、白内障、等
体内被ばく
体外被ばく
遺伝的影響
放射線の人体に対する影響の分類法-3
(致死的・非致死的で分類)
致死的影響
非致死的影響
中枢神経、腸、骨髄、がん、等
皮膚(皮膚がんを含む)、不妊、加齢、
免疫力低下、白内障、遺伝的影響、等
放射線の人体に対する影響の分類法-4
(被ばく線量で分類)
高線量全身被ばく
(数Gy~数10Gy)
急性で致死的影響
中線量全身被ばく
(数100mGy~数Gy)
および
高線量部分被ばく
組織・器官の急性障害、晩発性障害、
遺伝的影響、等
低線量全身被ばく
(数100mGy以下)
発ガン (晩発性障害)、遺伝的影響、等
感受性組織・細胞
細胞再生系への放射線の影響
x25
骨髄
cont
20 Gy
20 Gy
血液塗沫標本(C3Hマウス)
control
5Gy, 7 days
5 Gy, 24 days
リンパ系
Lnn. Cubitales
control
Lnn.mesentrici
20Gy
十二指腸
回腸
20Gy
cont
x25
十二指腸
x16
十二指腸
cont
十二指腸
20Gy
x160
20Gy
x160
x160
放射線防護の立場から
便益をもたらす放射線被ばくを伴う行為を不当に制限すること
なく、ヒトの安全を確保する。個人の確定的影響を防止し、確率
的影響を減少すること。この立場から法令は以下の二つを決め
ている
•三つの組織(水晶体、皮膚、胎児)で等価線量
限度を決めている
•確率的影響(ガン、遺伝的影響)のために実効
線量が決められている
放射線業務従事者の線量限度 (平成13年度改正)
実効線量限度*
① 100mSv/5年:平成13年4月1日以降5年ごとの区分した
各期間
② 50mSv/年:4月1日を始期とする1年間
③ 女子 5mSv/3月:妊娠不能と診断された者、妊娠の意思
のない旨を使用者等に書面で申し出た者及び妊娠中の
ものを除く
④ 妊娠中である女子
本人の申出等により使用者等が妊娠の事実を知った時
から出産までの間につき、内部被ばくについて 1mSv
等価線量限度
① 眼の水晶体 150mSv/年
② 皮膚 500mSv/年
③ 妊娠中である女子の腹部表面
本人の申出等により使用者等が妊娠の事実を知った時
から出産までの間につき 2mSv
*線量限度
職業被ばくの線量限度:年間死亡確率10-3を超えない、生涯線量1Sv(年間実効線量限度20mSv)
公衆被ばくの線量限度:年間死亡確率約10-5,年間実効線量限度1mSv
放射線の線量について
線量
放射線がエネルギーとしてどの位吸収されたかを表す単位
グレイ(Gy)(ジュール/kg = J/kg)
*60kgの体重の人体に対して0.012℃の体温上昇に相当
線量当量
人が放射線のエネルギーをどの位吸収したかを表す単位
シーベルト(Sv) = 線質係数(Q)×グレイ(Gy)
Q = 1 (エックス線、ガンマ線)
= 20 (アルファ線)
= 5 ~ 20 (中性子線)
等価線量
放射線防護上では線質係数を放射線荷重係数(WR)に置き換える
シーベルト(Sv) = 放射線荷重係数(WR)×グレイ(Gy)
実効線量
確率的影響を考慮して、さらに組織荷重係数(WT)を導入する
シーベルト(Sv) = 組織荷重係数(WT) ×WR×グレイ(Gy)
防護量、実用量とその法令上の名称
対象
防護量
環境
場所の外部
モニタリング
実効線量
眼の水晶体の等価線量
皮膚の等価線量
個人のモニ
タリング
実効線量
眼の水晶体の等価線量
皮膚の等価線量
腹部表面の等価線量(妊娠)
(注)
実用量
実用量の
法令上の名称
1㎝線量当量
周辺線量当量H*(10)
3㎜線量当量*a
方向性線量当量H’(3,α)
方向性線量当量H’(0.07,α) 70μm線量当量
個人線量当量Hp(10)
個人線量当量Hp(3)
個人線量当量Hp(0.07)
個人線量当量Hp(10)
1㎝線量当量
3㎜線量当量*a
70μm線量当量
1㎝線量当量
括弧内の数値はmm単位でそれぞれ皮膚、眼の水晶体、全身の実効線量に対
応した深さ。αは放射線の入射角。
*a 3㎜線量当量の測定は義務づけられていない
等価線量限度
① 眼の水晶体 150mSv/年
② 皮膚 500mSv/年
③ 妊娠中である女子の腹部表面
本人の申出等により使用者等が妊娠の事実を知った時
から出産までの間につき 2mSv
水晶体の幹細胞
等価線量限度
眼の水晶体 150mSv/年
白内障:
→
→
→
→
部分被ばく
非致死的影響
中線量被ばく
確定的影響
線量の限度が緩和される
線量の限度が緩和される
線量の限度が緩和される
発生を防止できる線量限度が有る
水晶体上皮 (幹) 細胞への影響
水晶体
上皮細胞
(a)
光彩
角膜
水晶体
10 mm
等価線量限度
ヒトで100%発症する線量
=
0.15 (Sv)
1
~
100
15 (Sv)
線量限度は実際に発症する線量の約1/100に設定されている
等価線量限度
皮膚障害:
皮膚 500mSv/年
部分被ばく
非致死的影響
中線量被ばく
確定的影響
→
→
→
→
線量の限度が緩和される
線量の限度が緩和される
線量の限度が緩和される
発生を防止できる線量限度が有る
皮膚上皮 (幹) 細胞への影響
非破壊検査用のイリジ
ウム192を長期保持して
いたため成人男子に生じ
た皮膚障害の一例。数
10Gy被曝、38日後。
角質層
顆粒細胞層
有棘細胞層
基底細胞層
等価線量限度
難治性潰瘍が生じる線量
=
0.5 (Sv)
50 (Sv)
~
1
100
線量限度は実際に発症する線量
の約1/100に設定されている
3~8 Sv: 毛細血管の拡張、数分内に皮膚紅斑を生じる。1~2日間で消滅、2~3週間の潜伏期間を
経て紅斑の再発、基底細胞層の一部死による表皮表層の剥離が起こる。数週間で治癒。
10 Sv: 紅班の再発が1週間に早まる。その後表皮の著しい剥離(乾性落屑; かさぶた、湿性落屑;
水疱、潰瘍、液の浸出)が見られる。数週間後に治癒、しかし瘢痕は永久に残る。
数10Sv: 障害は重く、表皮は崩れ、真皮も皮下層も損傷を受ける。治癒と崩れを繰り返す難治性の
潰瘍になる。
胎内被爆への影響
• 胚の死亡:受精から妊娠二週
間までの着床前期での被ばく。
• 胎児死、奇形の発生:妊娠3~
13週の器官形成期に被ばく、
早期では胎児死、後期で奇形
• 精神遅延の発生:胎児期では
精神遅滞、IQの低下
• 発ガン:どの時期でも発ガンの
危険性はある
閾値は
0.1~0.2Sv
閾値はない
実効線量限度
全臓器がん: 50mSv/年、100mSv/5年
全臓器がん:
全身被ばく
致死的影響
低線量被ばく
確率的影響
→
→
→
→
線量に厳しい限度が必要
線量に厳しい限度が必要
線量に厳しい限度が必要
発生を防止できる線量限度の設定が困難
発生を容認できるレベルに制限
0.5
1.0
1.5
(Gy)
2.0
2.5
3.0
広島、長崎における骨髄総線量に対する全白血病年間発生率
長崎における全白血病年間発生率:
1人/10,000人/1Sv/年
各組織・器官の致死がんを考慮した場合:
25人/10,000人/1Sv/年、
50mSv/年の場合
1.25/10,000/50mSv/年
20mSv/年の場合
〜0.5/10,000/年 < 10-3
一般職業に携わる人のリスクレベル以下にな
るように設定されている
遺伝的影響
ヒトでの遺伝的影響のリスク評価
職業被曝・公衆の線量限度