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第6回 大規模な大気の運動と天気予報 大気の状態変化や運動は物理法則に従う 理想気体の状態方程式(ボイルシャルルの法則) P=ρRT <= PV=nRT (P:気圧、ρ:密度、R: 空気の気体定数、T: 温度( K) ) 静力学平衡 水平運動方程式 静水圧(静力学)平衡 底面積1の空気柱の重力 と圧力の釣り合い。 これから静水圧平衡が求 まる。 dp/dz=-ρg 地球惑星科学入門 図20.1 静水圧(静力学)平衡 上に行くほど気圧は下がる。 気圧差と高度差は比例する。 気圧差は、高度差に空気密 度と重力加速度(9.8)を掛けた ものである。 P + dP dz, dp dz g ⊿p=-gρ⊿z P 水平スケールが鉛直スケー ルより大きければ静止して いなくとも、良い近似となる。 底面積1 高層天気図の原理 ニューステージ 新地学図表 ( p 92) Sea Level Pressure (SLP) 500 hPa Geopotential Height (GPH or Z) ニューステージ 新地学図表 ( P 92 ) 静水圧平衡 [層厚(thickness)] z RT g p p • 二つの気圧面の間の 高度の差(dz)を層厚と いう 800hPa 850hPa 900hPa 950hPa 地表面 • 層厚はlogPで平均した 気温に比例する。 冷たい 暖かい • 暖かければ、層厚は大 きく、寒ければ層厚は 小さい。 水平の運動方程式 • 気圧傾度力とコリオリ力が卓越する。(低緯度を除く) • コリオリ力はコリオリ因子(f)と速度の積に比例 北半球では流れの右直角方向へ働く • 時間変化項(加速度項)は非線形。 du 1 p dt x dv 1 p dt y f 2 sin latitude 2 sin v 2 sin u d dt t u x v y w z コリオリ力(転向力)の説明 北極からAの方向に直線運動する物体の運動(実線ベクトル) を考える。地球は回転角速度Ωで反時計回りに回転している ので、地球上の観測者はAからBへ移動し、物体の運動は点 線ベクトルのように進行方向右側にそれるように見える。 ニューステージ 新地学図表 ( p 88 ) ニューステージ 新地学図表 ( p 88 ) フーコーの振り子(コリオリ力の証拠) 新札幌にある札幌市青 少年科学館の入り口左 にあります 上空の風は気圧の高いほうを右に流れる • 地衡風バランス 地衡風バランス • 赤道付近や地表面付近を除く大規模な流れでは、 コリオリ力と気圧傾度力がほぼバランスしている。 これを地衡風という。 風のバランス 地表面摩擦の効果 • 気圧傾度力、コリオリ力、摩擦力がバランスする。 • 低圧側へ等圧(高度)線を横切る。 • 低気圧で下層収束。 偏西風ジェットの説明 • 低緯度の方が高緯度より暖かいので、中緯度上空では気圧 の傾きが急になり、強い西風となる。 温帯低気圧・高気圧周辺の風 「新しい高校地学の教科書」より 温帯低気圧 extratropical cyclone ノルウェー学派による古典的な温帯低気圧の一生 (例えば、Bjerknes and Solberg, 1922) ニューステージ 新地学図表 ( p 97 ) 熱帯低気圧 Tropical cyclone: 北西大西洋で発生し最大風速 が17.2m/s以上のものを台風 という。 ニューステージ 新地学図表 ( p 97 ) 熱帯低気圧と温帯低気圧の違い • 発達の仕組みが違う 渦と凝結の潜熱 vs 熱帯海上 前線はない 雨域:らせん 目がある(発達期) 温度差のエネルギー 寒気と暖気 前線があることが多い 雨域:特徴的構造 目は普通はない ニューステージ 新地学図表 ( p 97 ) 天気予報(数値予報)の流れ 物理的法則に従って初期値から将来を計算している 観測 地上・高層・船舶・航 空機・衛星・リモート・ そのほか 解析 予報 初期値を作る 未来を予測する 数値予報 (Numerical Weather Prediction) 500hPa Z, NH, ECMWF Wallace and Hobbs, Atmospheric Science, An Introductory Survey, Fig.1.1 • 風・気温などの大気の状態は物理法則に基づき変化す る。∴大気の初期状態がわかれば方程式系を時間積分 することによって将来の大気の状態が求められる。 • 現在では、スーパーコンピュータを用いて、このような予 測がなされている。これを数値予報といい、コンピュータ プログラムを数値予報モデルという。 精度は年々向上している (上の図) Richardson の夢 • コンピュータが誕生するはるか 以前に、数値予報を試みたの がイギリスの数理物理学者リチ ャードソン(L. F. Richardson) • 彼はヨーロッパの天気予報を手 作業で計算し1912年に「数値 的手法による天気予報( Weather Prediction by Numerical Process)というタイトルの本とし て出版した。 • 予報はうまくいかなかったが、 いつの日か数値予報が実用化 されることを夢見た Richardson の用いたグリッド。Pは気圧、Mは 運動量を計算するグリッド。 The Emergence of Numerical Weather Prediction. Richardson’s Dream, P. Lynch, Cambridge Press より von Neumann による電子計算機の発明 (ENIAC) ノイマンとコンピュータの起源、ウイリアム・ アスプレイ、 産業図書 より 初めての数値予報(1950年) 北米大陸上・順圧モデル • 第2次世界大戦後、世界で始めての電子計算機ENIAC(メモ リは20個)がフォン・ノイマン(J. von Neumann)らにより作ら れた。 • フォン・ノイマンはENIACで数値予報を行うことを考え、気象 学者チャーニー(J. G. Charney)らの協力によりアメリカ大陸 上の500hPa面高度の予報を行った。 • 24時間の計算時間を費やして1日予報に成功したのは1950 年である。リチャードソンの夢が現実になるまで40年近くの 歳月が必要であった。 • 1950年代から世界各国で数値予報が開始され、日本の気 象庁でも、1959年からIBM704を導入し実用的数値予報が 始まった。以後、モデルも近似的な準地衡風モデルからより 近似の少ないプリミィティブモデルへ、予報領域も全球へと 飛躍的に発展してきた。 気象庁ゾンデのいろいろ 自動放球 高層気象台(つくば)での放球の様子 数値予報モデル 数値予報モデルと数値予報の流れ 大気等の初期値から数値予報 モデルを数値積分して将来の 状態を求める 週間予報ははずれることもある。1か月や3カ月 予報は、あまりあてにならない。なぜ? 村松照男「天気の100不思議」より カオスと予測可能性 • 数値予報では、わずかに異なる2つの初期値から予 報した2つの予報結果は、初めのうち互いによく似て いるが、その差は時間の経過とともに拡大する。 数値予報の初期値には観測誤差は避けることはで きず、これが時間とともに増幅するためである。 これは、数値予報モデルや客観解析の精度の問題 だけではなく、大気の基本的な性質によるものであ る。 • このように初期値の小さな差が将来大きく増大する 性質はカオス(混沌)と呼ばれている。 • 予測可能性時間は、現象による。中緯度の気象(温 帯低気圧)は2週間程度。豪雨は数時間、竜巻は数 10分。予測可能性時間は現象の寿命に比例。 気象庁HPより ローレンツ(Lorenz)によるカオスの発見 カオス的振る舞い 値 時 間 カオスと予測可能性 • 大気のこのカオス的な性質に対処するため、「集団 (アンサンブル)予報」という数値予報の手法が研 究・開発されるようになってきた。 • これは、ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用 意して多数の予報を行い、その統計的な性質を利 用して最も起こりやすい気象現象を予報するもので ある。 気象庁HPより アンサンブル予報 理由:観測値の不確実性、モデルの不完全性、カオス 2012年5月8日11時発表の週間予報