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2012年5月8日(火)
気候変動を科学する
第5回「対流圏の気候と天気予報」
・大気を支配する物理法則
・大気循環の様子(偏西風)
・数値予報(天気予報)
・カオスと予測可能性
大学院地球環境科学研究院
山崎 孝治
[email protected]
大気の物理法則
• 理想気体の状態方程式(ボイルシャルルの
法則)
P=ρRT
(P:気圧、ρ:密度、R: 空気の気体定数、
T: 温度( K) )
• 静力学平衡
• コリオリ力
• 水平運動方程式
• 地衡風
静水圧(静力学)平衡(1)
Hydrostatic balance
鉛直方向の力の釣り合い(運動方程式)を考える。
P + dP
dz, dp
dz g
P
dw
dz 
 p  ( p  dp)  dz  g
dt
dw
dz 
 dp  dz  g
dt
dw
dp

   g  0
dt
dz
dp
  g 水平スケールが鉛直スケー
ルより大きければ静止して
dz
いなくとも、良い近似となる。
底面積1
静水圧(静力学)平衡(1)
Hydrostatic balance
上に行くほど気圧は下がる。
気圧差と高度差は比例する。
気圧差は、高度差に空気密度と重
力加速度(9.8)を掛けたものである。
P + dP
dz, dp
dz g
⊿p=-gρ⊿z
P
水平スケールが鉛直スケー
ルより大きければ静止して
いなくとも、良い近似となる。
底面積1
静水圧平衡(2)
g p
p  
z
RT
• 地上天気図では海面更正
をする。
• 高層天気図では一定気圧
面の高度・風・気温などを描
く。
800hPa
850hPa
900hPa
低高度
950hPa
地表面
低気圧
• 対流圏では、おおよそ、
10m=1hPa
Upper weather chart (Z)
ニューステージ 新訂 地学図表 浜島書店 より
Sea Level Pressure (SLP)
2012年5月1日00Z
地上天気図 高層天気図
衛星画像 00Z 日本域
500 hPa Geopotential Height
(GPH or Z)
ニューステージ 新訂 地学図表 浜島書店 より
静水圧平衡(3)
[層厚(thickness)]
RT
z  
p
g p
• 二つの気圧面の間の高度
の差(dz)を層厚という
800hPa
• 層厚はlogPで平均した気
温に比例する。
850hPa
• 暖かければ、層厚は大きく、
寒ければ層厚は小さい。
900hPa
950hPa
地表面
冷たい
暖かい
水平の運動方程式
• 気圧傾度力とコリオリ力が卓越する。(低緯度を除く)
• コリオリ力はコリオリ因子(f)と速度の積に比例
北半球では流れの右直角方向へ働く
• 時間変化項(加速度項)は非線形。
du
1 p

 2 sin   v
dt
 x
dv
1 p

 2 sin   u
dt
 y
d 



f  2 sin 
 u v  w
dt t
x
y
z
  latitude
コリオリ力(転向力)の説明
北極からAの方向に直線運動する物体の運動(実線ベクトル)を考える。地球は回
転角速度Ωで反時計回りに回転しているので、地球上の観測者はAからBへ移動し、
物体の運動は点線ベクトルのように進行方向右側にそれるように見える。
ニューステージ 新訂 地学図表 浜島書店
ニューステージ 新訂 地学図表 浜島書店
上空の風は気圧の高いほうを右に流れる
• 地衡風バランス
地衡風バランス
Geostrophic wind (balance)
• 赤道付近や地表面付近を
除く大規模な流れでは、コ
リオリ力と気圧傾度力がほ
ぼバランスしている。 これ
を地衡風という。
北半球
低
気圧傾度力
コリオリ力
地衡風
高
1  p 
 
ug  
f  y 
1  p 
vg  
 
f  x 
地衡風バランス
Geostrophic wind (balance)
• 赤道付近や地表面付近を除く大規模な流れでは、
コリオリ力と気圧傾度力がほぼバランスしている。
これを地衡風という。
低
地衡風
高
 p 

ug
 y 

気圧傾度力


1  p 
vg  


コリオリ力
f  x 
南半球
1

f
風のバランス
地表面摩擦の効果
• 気圧傾度力、コリオリ力、摩擦力がバランスする。
• 低圧側へ等圧(高度)線を横切る。
• 低気圧で下層収束。
L
気圧傾度力
風
摩擦力
コリオリ力(風に直交)
H
偏西風ジェットの説明
• 低緯度の方が高緯度より暖かいので、中緯度上空では気圧
の傾きが急になり、強い西風となる。
大気循環の様子
東西平均気温の緯度・高度分布(1993年1月)
東西平均の東西風の緯度・高度分布
200 hPaの高度と風(1993年1月)
200 hPa の東西風の速さ (1993年1月)
トラジェクトリ
天気予報(数値予報)の流れ
物理的法則に従って初期値から将来を計算している
観測
地上・高層・船舶・航
空機・衛星・リモート・
そのほか
解析
予報
初期値を作る
未来を予測する
数値予報 (Numerical Weather Prediction)
500hPa Z, NH,
ECMWF
Wallace and
Hobbs,
Atmospheric
Science, An
Introductory
Survey, Fig.1.1
• 風・気温などの大気の状態は物理法則に基づき変化す
る。∴大気の初期状態がわかれば方程式系を時間積分
することによって将来の大気の状態が求められる。
• 現在では、スーパーコンピュータを用いて、このような予
測がなされている。これを数値予報といい、コンピュータ
プログラムを数値予報モデルという。
精度は年々向上している (上の図)
Richardson の夢
• コンピュータが誕生するはるか
以前に、数値予報を試みたの
がイギリスの数理物理学者リチ
ャードソン(L. F. Richardson)
• 彼はヨーロッパの天気予報を手
作業で計算し1912年に「数値
的手法による天気予報(
Weather Prediction by Numerical
Process)というタイトルの本とし
て出版した。
• 予報はうまくいかなかったが、
いつの日か数値予報が実用化
されることを夢見た
Richardson の用いたグリッド。Pは気圧、Mは
運動量を計算するグリッド。
The Emergence of Numerical Weather Prediction.
Richardson’s Dream, P. Lynch, Cambridge Press より
von Neumann による電子計算機の発明 (ENIAC)
ノイマンとコンピュータの起源、ウイリアム・
アスプレイ、 産業図書 より
初めての数値予報(1950年)
北米大陸上・順圧モデル
• 第2次世界大戦後、世界で始めての電子計算機ENIAC(メモ
リは20個)がフォン・ノイマン(J. von Neumann)らにより作ら
れた。
• フォン・ノイマンはENIACで数値予報を行うことを考え、気象
学者チャーニー(J. G. Charney)らの協力によりアメリカ大陸
上の500hPa面高度の予報を行った。
• 24時間の計算時間を費やして1日予報に成功したのは1950
年である。リチャードソンの夢が現実になるまで40年近くの
歳月が必要であった。
• 1950年代から世界各国で数値予報が開始され、日本の気
象庁でも、1959年からIBM704を導入し実用的数値予報が
始まった。以後、モデルも近似的な準地衡風モデルからより
近似の少ないプリミィティブモデルへ、予報領域も全球へと
飛躍的に発展してきた。
観測網の一例
• AMeDAS
• 高層観測
ラジオゾンデ
ウインド・
プロファイラ
観測網の一例
• 高層観測
ラジオゾンデ
観測網の一例
• AMeDAS
• 高層観測
ラジオゾンデ
ウインド・
プロファイラ
気象庁ゾンデのいろいろ
自動放球
高層気象台(つくば)での放球の様子
数値予報モデル
数値予報モデルと数値予報の流れ
大気等の初期値から数値予報
モデルを数値積分して将来の
状態を求める
週間予報ははずれることもある。1か月や3カ月
予報は、あまりあてにならない。なぜ?
村松照男「天気の100不思議」より
カオスと予測可能性
• 数値予報では、わずかに異なる2つの初期値から予
報した2つの予報結果は、初めのうち互いによく似て
いるが、その差は時間の経過とともに拡大する。
数値予報の初期値には観測誤差は避けることはで
きず、これが時間とともに増幅するためである。
これは、数値予報モデルや客観解析の精度の問題
だけではなく、大気の基本的な性質によるものであ
る。
• このように初期値の小さな差が将来大きく増大する
性質はカオス(混沌)と呼ばれている。
• 予測可能性時間は、現象による。中緯度の気象(温
帯低気圧)は2週間程度。豪雨は数時間、竜巻は数
10分。予測可能性時間は現象の寿命に比例。
気象庁HPより
ローレンツ(Lorenz)によるカオスの発見
カオス的振る舞い
値
時 間
カオスと予測可能性
• 大気のこのカオス的な性質に対処するため、「集団
(アンサンブル)予報」という数値予報の手法が研
究・開発されるようになってきた。
• これは、ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用
意して多数の予報を行い、その統計的な性質を利
用して最も起こりやすい気象現象を予報するもので
ある。
気象庁HPより
アンサンブル予報
理由:観測値の不確実性、モデルの不完全性、カオス
2012年5月8日11時発表の週間予報
1か月、3か月予報
北海道の3カ月予報
長期予報の可能性
• 2週間以上の決定論的予測は原理的に不可能。
中高緯度大気の記憶はせいぜい2週間程度。
• 長期の記憶を持つもので確率的予測は可能。
*熱帯季節内振動
*成層圏(北極振動、QBO)
*エルニーニョ(熱帯太平洋海面水温)
*インド洋ダイポール
*積雪・海氷
• 温暖化・氷期の予測は可能(境界条件)。
北極振動とは?
• 北半球(20N以北)の冬季(11-4月)の月平均海面気圧場
の第1主成分(EOF1).冬季北半球で最も卓越する変動
パターン(Thompson and Wallace, 1998)。
• 基本的に大気の内部変動モード
• 大西洋域では北大西洋振動(NAO)とほぼ同じ。
物理的実在性については議論がある。
• 北極振動(Arctic Oscillation: AO)
=北半球環状モード(Northern Hemisphere
Annular Mode: NAM)
(Thompson and Wallace, 2000)
• 南極振動(Antarctic Oscillation: AAO)
=南半球環状モード(Southern Hemisphere
Annular Mode: SAM)
=single/double jet regimes
Annular (筒状)
高緯度西風ジェット
の変動を伴う。
活発期(NH:冬,
SH:春)には成層圏
と結合する。
TW2000
北極振動(Arctic Oscillation)
北極域と中緯度域の気圧のシーソー:自然変動
CPC/NWC/NOAA HP より
北極振動(Arctic Oscillation:AO)の模式図
By FRSGC & 田中博
気象研究ノート第206号「北極振動」表紙
冬(11-4月)
By Todd Mitchell
北極振動とは?
• 北半球(20N以北)の冬季(11-4月)の月平均海面気圧場
の第1主成分(EOF1).冬季北半球で最も卓越する変動
パターン(Thompson and Wallace, 1998)。
• 基本的に大気の内部変動モード
• 大西洋域では北大西洋振動(NAO)とほぼ同じ。
物理的実在性については議論がある。
• 北極振動(Arctic Oscillation: AO)
=北半球環状モード(Northern Hemisphere
Annular Mode: NAM)
(Thompson and Wallace, 2000)
• 南極振動(Antarctic Oscillation: AAO)
=南半球環状モード(Southern Hemisphere
Annular Mode: SAM)
=single/double jet regimes