100702 経済法1第12回 講義資料

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企業結合規制について
平成22年7月2日
公正取引委員会事務総局
経済取引局企業結合課
深町 正徳
(注)本資料は個人の責任でとりまとめたもので,所属する
組織の見解を示したものではありません。
目次
目次
公正取引委員会・独占禁止法の概要
企業結合規制の概観
企業結合規制の手続
企業結合審査の流れ・考え方
実際の企業結合審査事例
2
公正取引委員会・独占禁止法の概要
公正取引委員会とは
 公正取引委員会は,1947年に制定された独占禁止法を
運用するための機関として,1947年に設立
 公正取引委員会は,内閣総理大臣の所轄に属し,内閣府
の外局として設置された独立行政委員会
 公正取引委員会は,委員長1名と委員4名から成る合議制
の機関
 公正取引委員会の事務を処理するために事務総局が置か
れている(2010年度末791名)
3
800
0
2009
400
1947
1949
1951
1953
1955
1957
1959
1961
1963
1965
1967
1969
1971
1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
公正取引委員会・独占禁止法の概要
公正取引委員会の職員数の推移
2010年度末
791
700
600
284
500
237
300
200
100
4
公正取引委員会・独占禁止法の概要
公正取引委員会の組織図
官 房
審判官
公正取引委員会
委員長
委員(4人)
事務総局
経済取引局
取引部
事務総長
審査局
犯則審査部
地方事務所等
……総合調整,審判事務,
海外当局との協力
……独占禁止政策の企画,
経済実態の調査,企業結合の審査
…不公正な取引方法の指定等,
下請法の運用
……独占禁止法違反事件の処理
…犯則事件の審査
…北海道事務所
東北事務所
中部事務所
近畿中国四国事務所
中国支所
四国支所
九州事務所
(沖縄総合事務局
総務部公正取引室)
5
公正取引委員会・独占禁止法の概要
独占禁止法及び関連法
 独占禁止法による主な規制
 私的独占 (支配型・排除型)
 不当な取引制限 (カルテル,入札談合)
 不公正な取引方法
 競争制限的な企業結合
独占禁止法の禁止行為の
3本柱
 独占禁止法の補完法
 下請法(1956年制定)
 入札談合等関与行為防止法(2002年制定)
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企業結合規制の概観
○広義の企業結合規制
<市場集中規制>
複数の企業が合併等の企業結合を行うことにより,特定の市場における競争を実質的
に制限することを防止
<一般集中規制>
特定の企業グループに過度に経済力が集中することを防止
・事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立の禁止(第9条)
・銀行・保険会社の持株制限(第11条)
銀行が他の国内の会社の議決権を5%を超えて保有することを禁止(保険会社は
10%)
以下では,企業結合規制=市場集中規制として,話を進める。
7
企業結合規制の概観
○独占禁止法に基づく企業結合規制
企業結合(株式保有,役員兼任,合併,分割,共同株式移転,事業譲受
け等)により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとな
る場合には,当該企業結合は禁止される。
株式保有,役員兼任,合併,
分割,共同株式移転,事業譲
受け等(企業結合)
企業結合のうち,
一定の要件に合致するもの
事前届出の義務付け(30日前)
企業結合により
一定の取引
分野における
競争を実質 的 に制限
することとなる場合
独占禁止法の関係条文
第10条:会社の株式保有の制限
第15条の2:分割の制限
第13条:役員兼任の制限
第15条の3:共同株式移転の制限
第14条:会社以外の者の株式保有の制限 第16条:事業の譲受け等の制限
第15条:合併の制限
企業結合の
禁止
※ただし,独占禁
止法上の問題
を解消する措置
が採られる場合
には容認
8
企業結合規制の概観
企業結合規制の意義・重要性
 企業結合規制により,競争制限的な企業結合を禁止し,活発な
競争を維持することは,例えば,以下の点から重要。
- 生産効率の改善
- 技術革新の推進
- 効率的な資源配分の達成
- 国際競争力の強化
 日本国内の市場におけるシェア変動率が高い(国内競争が激しい)産業ほど,
世界全体の輸出額合計に占める日本の当該産業の輸出額シェアが有意に
高いとする実証研究が存在。
(“Competing at Home to Win Abroad: Evidence from Japanese Industry” M. Sakakibara,
M.E. Porter, The Review of Economics and Statistics, Vol.83, No.2, May 2001)
9
企業結合規制の手続
企業結合に関する届出制度
形態(関係法条)
届出制度の概要
株式取得(第10条)
① 企業結合集団の国内売上高を合計した額が200億円超の会社が
② 株式発行会社とその子会社の国内売上高を合計した額が50億円
超の株式発行会社の議決権を取得し
③ 議決権保有割合が20%又は50%を超えることとなる場合は
④ 事前届出が必要
⑤ 届出受理の日から30日間は当該株式取得をしてはならない
役員兼任(第13条)
─
会社以外の者による株式保有(第14条)
─
合併(第15条)
分割(共同新設分割又は吸収分割)
(第15条の2)
共同株式移転(第15条の3)
事業譲受け等(第16条)
① 国内売上高合計額200億円超の会社と
② 国内売上高合計額50億円超の会社が合併する場合は
③ 事前届出が必要
④ 届出受理の日から30日間は当該合併をしてはならない
※ 分割,共同株式移転,事業譲受け等についても,原則として同
様の基準による届出が必要
注1 「企業結合集団」=当事会社の「最終親会社」及びその子会社からなるグループ
2 「議決権保有割合」=企業結合集団ベースで保有する議決権の割合
10
企業結合規制の手続
平成21年改正独禁法による企業結合の
届出制度の改正
1. 従来事後届出であった株式取得について,事前届出制を
導入。
2. 届出が必要となる株式取得を,3段階(10%超,25%超,
50%超)から2段階(20%超,50%超)に簡素化。
3. 届出基準として企業グループベースの国内売上高を採用
し,基準となる金額を200億円及び50億円に設定(改正
前は総資産100億円及び10億円)。
4. 外国会社についても,国内の会社と同様の届出基準を適
用。
5. 同一企業グループ内の企業再編について,届出を免除。
6. 共同株式移転に関する届出規定の整備。
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企業結合規制の手続
企業結合の届出等の件数
1400
1258
1240
1284
1229
1187
うち新法に基づく
届出件数
(1月~3月)
71件
1189
1200
1071
1037
1008
985
1000
800
804
898
899
959
1052
960
825
778
829
600
840
400
170
127
112
200
213
0
21
20
平成12年度
195
197
平成13年度
平成14年度
事業譲受け
103
21
175
平成15年度
70
166
平成16年度
共同株式移転
88
23
74
17
141
平成17年度
分割
76
19
136
平成18年度
合併
33
123
平成19年度
69
21 48
89
79
平成20年度
15
3
平成21年度
株式所有
12
企業結合規制の手続
企業結合計画に関する法定手続のフローチャート
合併等の届出受理.
独占禁止法上問題
がある場合
検討に当たり追加的な
報告等が必要な場合
事前通知
審査に必要な報告等の請求
意見申述・証拠提出の機会
30日以内
独占禁止法上問題がない
報告等の受理
90日以内
排除措置命令
確定
(審判請求)
事前通知
独占禁止法上問題がない
意見申述・証拠提出の機会
排除措置命令
審決 (請求の棄却)
審決(命令の取消し・変更)
審決取消しの訴え (訴訟)
(審判請求)
確定
13
企業結合規制の手続
事前相談への対応フローチャート
事前相談申出前の照会
事前相談の申出 = 企業結合計画の具体的内容を示す資料の提出
(追加資料が必要な場合)
(追加資料が必要ない場合)
20日以内
第1次審査に必要な追加資料リストの提示
追加資料の提出 = 第1次審査の開始
第1次審査の開始
30日以内
独占禁止法上問題がない旨の回答
(意見のある者は第2次
審査を行う旨の公表後
30日以内に意見書を提
出することができる。)
第2次審査が必要な旨の通知
= 第2次審査に必要な資料の提出要請
第2次審査の開始・公表
第2次審査に必要な資料の提出
独占禁止法上の問題の有無に係る回答
※当事会社は,必要に応じて,
いつでも資料・意見書等を提
出することができる。
(おおむね3~4週間
で提出される。)
(問題点を指摘する場合には,
具体的根拠を示す。)
90日以内
1週間以内
事前相談の内容及び回答内容の公表
14
企業結合審査の流れ・考え方
企業結合審査の流れ
対象行為が企業結合審査の対象となるか否か
一定の取引分野の画定
取引対象商品の範囲,地理的範囲等を画定
画定された一定の取引分野ごとに競争を実質的に制限することとなるか否かを判断
セーフハーバーに該当しないものについて検討
単独行動による競争の実質的制限
協調的行動による競争の実質的制限
競争を実質的に制限することとなる場合,問題解消措置を検討
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企業結合審査の流れ・考え方
企業結合ガイドライン
■「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」
(平成16年5月31日)
企業結合審査に関する法運用の透明性を一層確保し,事業
者の予測可能性をより高める観点から策定。
第1 企業結合審査の対象
第2 一定の取引分野
第3 競争を実質的に制限することとなる場合
第4 水平型企業結合による競争の実質的制限
第5 垂直型及び混合型企業結合による競争の実質的制限
第6 競争の実質的制限を解消する措置
(付1)事前相談について
(付2)禁止期間の短縮について
16
企業結合審査の流れ・考え方
企業結合審査の対象
○ 企業結合審査は,「結合関係」の形成・維持・強化により,
市場構造が非競争的に変化し,一定の取引分野における競
争に何らかの影響を及ぼすことに着目。
※ 「結合関係」とは,複数の企業が,株式保有,合併等により一定程度又は完
全に一体化して事業活動を行う関係をいう。
○ 議決権保有比率が50%を超える場合,20%を超え単独筆
頭株主である場合などは,企業結合審査の対象となる。
○ 通常,企業結合審査の対象とはならない場合をガイドライ
ンに例示(例:同一企業グループ内の株式取得等) 。
17
企業結合審査の流れ・考え方
一定の取引分野について
■「一定の取引分野」についての基本的考え方
①一定の取引分野:企業結合により競争が実質的に制限される
こととなるか否かを判断するための範囲。需要者にとっての代
替性の観点から判断。必要に応じて,供給者にとっての代替
性の観点も考慮。
②需要者にとっての代替性:独占事業者を仮定し,その事業者
がある商品について小幅であるが実質的かつ一時的でない
価格引上げ(Small but Significant and Non-transitory
Increase in Price = SSNIP)をした場合に,需要者がその商
品の購入を他の商品・他の地域に振り替える程度を考慮。
③供給者にとっての代替性:SSNIPをした場合に,他の商品・他
の地域の供給者が,当該商品・地域に製造・販売を転換する
程度を考慮。
18
企業結合審査の流れ・考え方
一定の取引分野(商品範囲)
一定の取引分野の画定
効用等が同種の商品の間では,代替性が高い場合が多い
需要者にとっての代替性
価
格
の
引
上
げ
市場支配力が形成され得る場の特定
切り替わる程度が高い=需要者にとっての代替性が高い⇒
同一の商品範囲
甲商品 の価格上
昇
→ 乙 商品への
需要に 切り替わ
るか否か?
甲商品
乙商品
甲商品
切り替わる程度が低い=需要者にとっての代替性が低い⇒
異なる商品範囲
19
企業結合審査の流れ・考え方
一定の取引分野(地理的範囲)
一定の取引分野の画定
市場支配力が形成され得る場の特定
需要者・供給者の行動や輸送に係る問題の有無等により
判断できる場合が多い
需要者にとっての代替性
価
格
の
引
上
げ
甲地域 の供給者
の価格上昇
→乙地 域の供給
者への 需要に切
り替わ るか否か
?
切り替わる程度が高い⇒甲地域と乙地域は同一の地理的範囲
甲地域の供給者
乙地域の供給者
甲商品
切り替わる程度が低い⇒甲地域と乙地域は異なる地理的範囲
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企業結合審査の流れ・考え方
SSNIP Test: 例1
(P0-C)Q0>(P1-C)Q1
P0からP1への価格引上げは利益とならない。
市場はこれより広い。
Price
価格上昇後の利潤
=(P1-C)Q1
需要曲線
P1
P0
C
限界費用曲線
価格上昇前の利潤
=(P0-C)Q0
Q1
Q0
Quantity
21
企業結合審査の流れ・考え方
SSNIP Test: 例2
(P0-C)Q0<(P1-C)Q1
P0からP1への価格引上げは利益となる。
市場はこれより狭い。
Price
P1
価格上昇後の利潤
=(P1-C)Q1
需要曲線
P0
C
限界費用曲線
価格上昇前の利潤
=(P0-C)Q0
Q1
Q0
Quantity
22
企業結合審査の流れ・考え方
SSNIP Test: 例3
(P0-C)Q0=(P1-C)Q1
P0からP1への価格引上げによる利潤の変化はない。
市場はこの範囲で画定される。
Price
P1
価格上昇後の利潤
=(P1-C)Q1
需要曲線
P0
C
限界費用曲線
価格上昇前の利潤
=(P0-C)Q0 Q1
Q0
Quantity
23
企業結合審査の流れ・考え方
「競争を実質的に制限することとなる」の解釈
■「競争を実質的に制限する」とは?
「競争を実質的に制限するとは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集
団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右する
ことによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」(東宝株式会社
ほか1名に対する件(昭和28年12 月7日東京高等裁判所判決)より)
■「こととなる」とは?
「こととなる」とは,企業結合により,競争の実質的制限が必然ではないが容易に現
出し得る状況がもたらされることで足りるとする蓋然性を意味するものである。
独占禁止法第4章では・・・
企業結合により市場構造が非競争的に変化して,当事会社が単独で又は他の会
社と協調的行動をとることによって,ある程度自由に価格,品質,数量,その他各
般の条件を左右することができる状態が容易に現出し得るとみられる場合には,
一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなり,禁止される。
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企業結合審査の流れ・考え方
企業結合の類型
• 水平型企業結合
(競争関係にある事業者同士の企業結合)
• 垂直型企業結合
(取引関係にある事業者同士の企業結合)
• 混合型企業結合
(水平型企業結合・垂直型企業結合以外)
・ 商品拡大型
・ 地域拡大型
・ その他(純粋)
 水平型企業結合は,市場における競争単位の数を減少させる
 垂直型企業結合・混合型企業結合は,市場における競争単位
の数を減少させない
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企業結合審査の流れ・考え方
水平・垂直・混合型企業結合の割合
企業結合の類型別割合
水平
垂直
混合
地域拡大 商品拡大
純粋
合併
71.5%
5.7%
21.7%
14.6%
2.4%
5.7%
分割
44.0%
4.0%
52.0%
8.0%
0.0%
44.0%
事業譲受け
63.3%
17.8%
18.9%
4.4%
4.4%
10.0%
合計
65.5%
10.1%
24.4%
10.1%
2.9%
11.3%
 2008年度に公正取引委員会に届出のあった企業結合について,どの類型に該当する
かを分類したもの。
 2008年度の届出実数は,合併が69件,分割が21件,事業譲受けが89件。
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企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合のセーフハーバー基準
セーフハーバー基準(通常競争を制限することとはならない企業結合の範囲)を
具体的に明示。
日本
米国
HHI の み を ・HHIが1500以下の場合は, ・HHIが1000未満の場合
用 い た 基 競争を制限することとなる は,反競争的効果を持
準
とは通常考えられない
つこととはなりにくい
欧州
・HHIが1000未満の場合
は,競争上の懸念が
認められることとはな
りにくい
・ HHI が 1500 ~ 2500 以 下 で ・HHIが1000~1800以下 ・HHIが1000~2000以下
あ っ て , かつ, HHIの 増分 かつ増分が100未満の かつ増分が250未満の
が250以下である場合,競 場 合 は , 反 競 争 的 効 場 合 は , 競 争 上 の 懸
HHI と そ の 争を制限することとなると 果を持つこととはなり 念が認められることと
にくい
はなりにくい
増 分 の 組 は通常考えられない
合せによる ・HHIが2500超であって,か ・HHIが1800超かつ増分 ・HHIが2000超かつ増分
つ,HHIの増分が150以下 が 50 未 満 の 場 合 は , が150未満の場合は,
基準
である場合は,競争を制限 反競争 的効 果 を 持つ 競争上の懸念が認め
することとなるとは通常考 こととはなりにくい
られることとはなりにく
えられない
い
※1)セーフハーバーの範囲は,市場の寡占度を表すHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス)により規定されている。HHIは,
各企業のシェアを2乗し,それを合計して算出。
※2)米国は,現在,水平合併ガイドラインを見直している。
27
企業結合審査の流れ・考え方
セーフハーバーに該当するかどうかの例
 HHIは市場参加企業のシェアの2乗値を足し上げたもの
 ⊿HHIは,企業結合によるHHIの増分
<数字例>
A
B
C
D
E
HHI
企業結合前
40%
25%
20%
10%
5%
2750
D+E
C+D
40%
40%
25%
25%
20%
30%
15%
5%
2850
3150
⊿HHI
100
400
企業結合前のHHI =40×40+25×25+20×20+10×10+5×5=2750
DとEの企業結合後のHHI = 40×40+25×25+20×20+15×15=2850
CとDの企業結合後のHHI = 40×40+25×25+30×30+5×5=3150
DとEとの企業結合は,セーフハーバーに該当
CとDとの企業結合は,セーフハーバーに該当しない
28
企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合による競争の実質的制限
【単独行動による競争の実質的制限①】
A社
B社
C社
D社
需要者は購入をA+B社から
C社,D社に切り替えられない
当事会社グループが ,
単独で,競争制限し得
るような市場が形成
A+B社
価格の引上げ
生産量の削減による
価格の上昇
(A社~D社の商品が同質的な場合)
例えば,C社・D社の供給余力が十分ないときに
は,A+B社の価格引上げ等があってもC社,D社
は販売拡大が不可能。
(A社~D社の商品が差別化されている場合)
例えば,A社の商品の代替品として,B社のもの
がC社やD社のものよりも選択されている。
→A商品の価格引上げ等があっても,B商品が
選択されるだけで,C,Dの各社は販売拡大が不
可能。
29
企業結合審査の流れ・考え方
商品が同質な場合の数値例
A
B
C
D
各社の生産能力
120 70
30
20
現状
100 50
30
20
80
30
30
Aの供給制限(AB結合前)
Aの供給制限(AB結合後)
70
130
Q
P
Aの利潤
Bの利潤
200 100
5000
2500
20
200 100
4000
3500
20
180 120
9100
Price
産業全体の需要曲線
120
100
限界費用曲線
50
180
200
Quantity
30
企業結合審査の流れ・考え方
商品が差別化されている場合の数値例
A
B
C
D
Aの価格引上げ
• 多くの顧客がBにスイッチ
• CやDにはほとんどスイッチしない
A
B
C
D
価格 数量 価格 数量 価格 数量 価格 数量
現状
100
100
120
70
100
50
120
70
Aの価格引上げ後
120
60
120
100
100
55
120
75
• Aの価格引上げにより,Aの販売数量は100から60に40だけ減少。
• 40のうち,30はBにスイッチ。CとDには5ずつスイッチ。
• AとBが別会社の場合,Aの価格引上げによりAの売上げは2800(10000→7200)減少し,当該価格引
上げはAにとって利益とならない。
• AとBが企業結合した場合,Aの価格引上げによりAの売上げは2800だけ減少するが,AからBへの顧
客のスイッチによりBの売上げは3600(8400→12000)増加し,AとB全体として利益が上昇する。
31
企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合による競争の実質的制限
【単独行動による競争の実質的制限②】
■考慮事項(その1)
(1)当事会社グループの地位及び競争者の状況
市場シェア及び順位,当事会社間の従来の競争の状況,競争者
の市場シェアとの格差,競争者の供給余力,差別化の程度等
(2)輸入
(おおむね2年以内を目安に評価)
制度上の障壁の程度,輸入に係る輸送費用の程度や流通状の問
題の有無,輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度,
海外の供給可能性の程度
(3)参入
(前同)
制度上の参入障壁の程度,実体面での参入障壁の程度,参入者
の商品と当事会社の商品の代替性の程度,参入可能性の程度
32
企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合による競争の実質的制限
【単独行動による競争の実質的制限③】
■考慮事項(その2)
(4)隣接市場からの競争圧力
競合品(当該商品と類似の効用等を有する商品)の市場の存在,
地理的に隣接する市場の状況等を考慮
(5)需要者からの競争圧力
需要者の間の競争状況,取引先変更の容易性等を考慮
(6)総合的な事業能力,効率性
(7)当事会社グループの経営状況
業績不振の場合についても考慮
33
企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合による競争の実質的制限
【協調的行動による競争の実質的制限①】
カルテルを行わずに,協調して
B社
A社
A+B社
競争を制限し得る市場が形成
C社
D社
・・・・・
価格の引上げ
生産量の削減による価格の上昇
34
企業結合審査の流れ・考え方
水平型企業結合による競争の実質的制限
【協調的行動による競争の実質的制限②】
考慮事項
(1)当事会社グループの地位及び競争者の状況
競争者の数,少数の有力な事業者にシェアが集中しているか否か,
商品が同質的か否か,費用条件の類似性の有無,当事会社間の
従来の競争の状況,競争者の供給余力等
(2)取引の実態等
取引条件に関する情報の入手の容易性の有無,取引の頻度,需
要動向・技術革新の動向,過去の競争の状況等
(3)輸入,参入及び隣接市場からの競争圧力等
輸入,参入,隣接市場からの競争圧力,需要者からの競争圧力
(4)効率性及び当事会社グループの経営状況
(単独行動の場合に準じて判断)
35
企業結合審査の流れ・考え方
垂直・混合型企業結合による競争の実質的制限
【基本的考え方】
 競争単位の数が減少しない⇒一般的には,水平型企業結合
よりも競争に与える影響は小さい。
 2つの観点(単独・協調)から検討
①単独:市場の閉鎖性・排他性
②協調:垂直・混合型の企業結合を通じて協調的行動が容易
になる可能性
 セーフハーバー
①市場シェア10%以下
②HHI2500以下かつ市場シェア25%以下
36
企業結合審査の流れ・考え方
垂直的市場閉鎖
顧客閉鎖
販売先がE社・F社だけになる
⇒C社・D社は十分な販売先を
確保できない
A+B社
A社
C社
D社
(取引関係)
B社
市場閉鎖効果
E社
F社
購入元がC社・D社だけになる
⇒E社・F社は十分な購入量を
確保できない
投入物閉鎖
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企業結合審査の流れ・考え方
競争の実質的制限を解消する措置
【問題解消措置】
企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限
することとならないよう,当事会社が講じる措置。
⇒競争上の問題を解消することができれば容認。
(具体例)
■事業譲渡等
・事業部門の全部又は一部の譲渡
・当事会社グループと結合関係にある会社の結合関係の解消
(議決権保有の取りやめ又は保有比率の引下げ,役員兼任
の取りやめ等)
■その他
・輸入又は参入を促進する措置等(輸入設備の利用開放,
競争者に対する特許権等の実施許諾等)
・当事会社の行動に関する措置(設備の利用等について,
結合関係にない事業者を差別的に取り扱うことを禁止)
38
企業結合審査の流れ・考え方
最近の企業結合審査の件数
届出等件数
事前相談の回答件数
容認した件数
平成19年度
1,284件
問題解消措置を前提
として容認した件数
50件
45件
平成20年度
1,008件
5件
28件
26件
平成21年度
985件
2件
24件
20件
計
3,277件
4件
102件
91件
11件
39
企業結合審査の流れ・考え方
海外の競争当局と協力しつつ企業結合審査を行った事例
■Johnson & JohnsonによるGuidantの株式取得(平成17年度)
アメリカの医療機器メーカー同士の企業結合事案
■パナソニックによる三洋電機の株式取得(平成21年度)
日本の電機メーカー同士の企業結合事案
■ Agilent TechnologiesによるVarianの株式取得(平成22年度)
アメリカの分析機器メーカー同士の企業結合事案
40
実際の企業結合審査事例
実際の企業結合審査の事例
日清食品株式会社による明星食品株式会社の株式取得
• 概要
– 当事会社
• 日清食品株式会社
• 明星食品株式会社
– 日清が明星の株式を取得を計画 (2007年度)
– 関係法条=独占禁止法第10条
– 検討対象市場=即席めん等
41
実際の企業結合審査事例
各製品
即席めん (袋めん,カップめん)
冷凍めん
めん入りカップスープ
調理めん
チルドめん
乾めん
42
実際の企業結合審査事例
一定の取引分野(商品の範囲)
• 両社は,以下の5製品について競合
– 袋めん
– カップめん
– めん入りカップスープ
– チルドめん
– 冷凍めん
 上記以外にも,簡便な方法により食することが可能なめん食
品として,調理めん,乾めん,パスタ等が存在。
43
実際の企業結合審査事例
一定の取引分野(商品の範囲)
• 袋めん,カップめん等の商品の形状による区分のほか,中華
めん,和めん,焼きそば等のめんの種類による区分も可能。
• 商品の形状・種類ごとに細かく区分して,需要の価格弾力性
等を計測したものの,データ面での制約等もあり,必ずしも有
意な結果は得られず。
• ただし,少なくとも,袋めんやカップめん等,商品の形状が同
じ場合,中華めんや和めん等いずれのめんであっても製造
設備は基本的に共通していることから,供給面での代替性が
存在。
• 商品の形状ごとに,①袋めん,②カップめん,③めん入りカッ
プスープ,④チルドめん,⑤冷凍めんの5品目について,一
定の取引分野(商品の範囲)を特定。
44
実際の企業結合審査事例
• セーフハーバーに該当する製品
– めん入りカップスープ
• 当事会社のシェアの合計: 約10%
• HHI: 約3700
• ⊿HHI: 約40
– チルドめん
• 当事会社のシェアの合計: 約5%
• HHI: 約300
• ⊿HHI: 約5
– 冷凍めん
• 当事会社のシェアの合計: 約10%
• HHI: 約1200
• ⊿HHI: 約10
45
実際の企業結合審査事例
詳細な検討を行った取引分野
- 袋めんとカップめん
(1) 市場規模
– 袋めん
• 約900億円 (2005年度)
• 市場規模は減少傾向
– カップめん
• 約3600億円 (2005年度)
• 市場規模はおおむね横ばい
46
実際の企業結合審査事例
(2) 市場シェアとHHI
• 袋めん
順位
会社名
シェア
1
A社
約25%
2
日清
約25%
3
B社
約10%
4
明星
約10%
5
C社
約5%
6
D社
0 – 5%
その他
約25%
当事会社合算
約35%
合計
100%
(1)
HHI: 約2400, ⊿HHI: 約500
47
実際の企業結合審査事例
• カップめん
順位
会社名
シェア
1
日清
約50%
2
E社
約20%
3
F社
約10%
4
明星
約10%
5
G社
0 – 5%
その他
約10%
当事会社合算
約60%
合計
100%
(1)
HHI: 約3500, ⊿HHI: 約800
48
実際の企業結合審査事例
(3) 価格の動向
– 当事会社の製品及び競争事業者の製品の小売価格は,
袋めん,カップめんともに総じて低下。
(4) 需要者からの競争圧力
 スーパーやコンビニエンスストア等の小売店は,大きな購
買力を背景として,メーカーに対して優位な立場にあると
いわれている
 メーカーにとっては,スーパーにおける特売や,コンビニエ
ンスストアにおける棚割りが競争上重要な位置を占めてい
るが,その決定は小売店側が握っている。
49
実際の企業結合審査事例
(5) 新製品の発売状況
– 新製品の発売頻度
• 年間に販売される新製品数
– 袋めん: 60~100
– カップめん: 600~700
– 製品のライフサイクル
• 一部のロングセラー商品を除き,一般的にライフサイク
ルは短い
– 新製品の発売によるシェアの変動
50
実際の企業結合審査事例
(6) 競争事業者の供給余力
– 製造ラインのスピードアップや遊休設備の活用等により,
増産は可能
(7) 参入
 新規参入や事業拡大に当たり障壁となるような特許等は
存在しない。また,技術面における障壁も高くない。
 袋めんで60社以上,カップめんで50社以上のメーカーが市
場に存在するが,ブランドを定着させ,当事会社に匹敵す
るようなシェアを獲得し続けることは容易ではない。
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実際の企業結合審査事例
(8) 輸入
– 輸入量は国内売上高比で1%未満と小さい(2004年度)
– 2006年に即席めんに関する世界規格が成立し,輸入環
境は整備されつつあるが,日本人は味に対する評価が厳
しく,輸入品が日本の消費者に受け入れられるかは不明
– 物流に制約がある(小売店への納入期限は,通常,製造
日から50日程度以内であるが,船便輸送,輸入検疫等を
考慮すると,日程的に厳しい)
52
実際の企業結合審査事例
(9) 隣接市場からの競争圧力
– 価格・数量データを用いた分析等の結果,袋めんはカップ
めん,めん入りカップスープ,チルドめんとの間で代替関
係が強い
– カップめんは,袋めん,めん入りカップスープ,冷凍めんと
の間で代替関係が強い
– 一般消費者の選好
• スーパーでカップめんを購入する場合,買い置き需要が多く,価格
が製品の選択に影響を与える部分が大きい
• コンビニでカップめんを購入する消費者は,ただちに食するために
購入している場合が置く,調理めん等との競合も一定程度ある
53
実際の企業結合審査事例
結論
• 袋めん
単独行動による競争の実質的制限の検討
•
•
•
•
10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在
競争事業者は供給余力を有している
需要者であるスーパー等の価格交渉力が強い
隣接市場からの競争圧力が存在する
協調的行動による競争の実質的制限の検討
•
•
•
•
•
中小メーカーを含めると60社以上の事業者が存在
需要者であるスーパー等の価格交渉力が強い
製品のライフサイクルが短い
各社とも供給余力を有してる
隣接市場からの競争圧力が存在する
結論
• 競争を実質的に制限することとはならない
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実際の企業結合審査事例
結論
• カップめん
単独行動による競争の実質的制限の検討
•
•
•
•
10%以上のシェアを有する競争事業者が存在
競争事業者は供給余力を有している
需要者であるスーパーやコンビニ等の価格交渉力が強い
隣接市場からの競争圧力が存在する
協調的行動による競争の実質的制限の検討
•
•
•
•
中小メーカーを含めると50社以上の事業者が存在
需要者であるスーパーやコンビニ等の価格交渉力が強い
製品のライフサイクルが短い
隣接市場からの競争圧力が存在する
結論
• 競争を実質的に制限することとはならない
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実際の企業結合審査事例
• 企業結合後の状況
日本経済新聞(2008年6月7日)
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