英国・NICE診療ガイドライン

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Transcript 英国・NICE診療ガイドライン

英国NICEの
ガイドライン作成マニュアルについて
根拠に基づく医療の現状と今後
森 臨太郎
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National Collaborating Centre for
Women’s and Children’s Health
今日お話しすること
 NICE設立の背景
 NICE診療ガイドラインの特徴
 ガイドラインで困ることとNICEでの試み
• 文献の検索・確保・吟味・まとめ
• 科学的根拠があまりに乏しいとき
• 客観性の追及と透明性
• 作成後
• 根拠に基づく医療への誤解
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NICE設立の背景
地域、病院間格差
市場主義化の中での質と安全の確保
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NHSの理念




「ゆりかごから墓場まで」
財源は税金
原則無料
医師の公務員化や病院の国有化
 資本主義社会での医療制度のあり方の
最も先駆的なものとされた
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しかし・・・
 社会主義化したシステムは次第に制度
疲弊をおこし、効率が悪くなり、質も落ち
た・・・
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保守党によるNHS改革
 1979年・サッチャー保守党政権
 新自由主義・公共サービスのの民営化
 NHSの改革
• 病院の独立行政法人化(トラスト)
• 内部市場の創生
• 予算保持一般医
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その結果・・・





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地域差
改善しない効率・官僚主義
慢性的な待機リスト
士気の低下
など・・・
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労働党によるNHS改革
 1997年5月ブレア労働党政権発足
 公平性と効率の両立により効果上昇を
目指す
 医療費の拡大(5年で5割増)
 第三の道
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医療における第三の道
 市場化、現場裁量、透明化、継続的評価
などにより効率を上げるとともに、
 価値観を加味した科学的根拠に基づく最
良の医療を提示、目標とすることで質・安
全の向上・標準化を目指す
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診療ガバナンス
BMJ 1998;317:61-65
 システムとして、質・安全性を高めること
最適・最良の医療・診療を考慮し
約束事(診療ガイドライン)を作る
透明性
症例に応じて約束事を守ることを
教育・研修を通じて導入
臨床監査
結果の向上につながっているか
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NICE診療ガイドライン
医療の質と安全性向上のために国レベルで診療
の指針を示し、標準化を目指す
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NICEと共同研究所、学会の関係
英国 (イングランド・ウェールズ) 保健省
NICE
作成委員会
利害関係者
各種学会や団体
国立共同研究所×7
消費者
NICE診療ガイドライン
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NICE診療ガイドラインの特徴






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医療経済分析との一体化
科学的根拠に基づくこと
過程の透明化
患者参加 - 幅広い専門家の参加
国の政策という位置づけ
導入のためのさまざまな工夫
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科学的根拠から推奨へ
科学的根拠
(含経済評価)
推奨
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科学的根拠から推奨へ
科学的根拠
(含経済評価)
=研究
日常診療=
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推奨
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健康メッセージの策定
様々な人の価値観
実際の臨床では?
科学的根拠
(含経済評価)
時には科学的根拠と相反する
メッセージになりうる
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推奨
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システマティック・レビュー
HTA
様々な人の価値観
科学的根拠
実際の臨床では?
(含経済評価)
ここの過程も
客観的・系統的
であるべき
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推奨
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根拠に基づく診療ガイドライン
Women’s and Children’s Health
NICE診療ガイドライン
文献の検索・確保・吟味・まとめ
人材の活用
幅広い連携
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具体的には・・・
 ガイドライン作成メンバーと共同研究所が協力して
臨床上の疑問を作成
 それに基づき、医療情報専門家が検索
 系統的レビュー専門家による臨床エビデンス
 医療経済学者による経済エビデンスと決断分析
 構成員みなが臨床と経済両方のまとめを理解した
いうえで両方を吟味
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医療情報専門家
 医療情報学を修了した図書館司書
 医療情報学専門家
 検索式作成・データベース使用の専門家
 研究論文を見つける能力
• 医療情報専門家
• 臨床疫学をかじった医師
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70%
50%
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システマティック・レビュー専門家
 臨床疫学を修了した医療者
 臨床疫学専門家
 必要に応じてメタ解析
 レビューの結果はコクラン・レビューとし
て採用されることも良くある
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医療経済学者
 医療経済学を修了した医療者
 医療経済学を修了した経済学者
 医療経済学専門家
 コスト解析だけが医療経済でない(決断分析)
 複雑にoutcomeが絡んだ時の判断
• 出産ケアのoutcome
 母のmortality,morbidity, satisfaction
 子のmortality, morbidity
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コクラン妊娠出産グループと提携





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レビューの更新を請け負う
出版前のレビューの情報を提供
レビューの著者との連絡の仲介
あらたなレビューを登録する
レビューの問題点を指摘する
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NICE診療ガイドライン
科学的根拠があまりに乏しいとき
質的研究法の応用
研究への推奨
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時には質的研究法を必要とする
 患者参加だけでなくフォーカス・グループも使
用するときも (小児糖尿病ガイドライン)
• 長年インスリン皮下注射をしてきた子供たちにガイ
ドライン作成メンバー全員が参加してフォーカス・グ
ループを形成
• Semi-structured interview
 フォーマル・コンセンサス法
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フォーマル・コンセンサンス法
(デルフィー法)
 構成員が賛成度を科学的根拠経験・意
見を元に決め集計
 結果に応じて文章の書き換えて繰り返し
 賛成度が最も高くなるところで終了
 賛成の度合いが低い場合などは合意形
成至らずと判断することもある
できるだけ客観的に合意形成
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研究への推奨
 重要なことなのに研究がなく、経験上も
決めようがないとき
 研究の推奨
 早急に研究が必要な分野
 研究デザイン、対象なども指定(PICO)
 Funding source (MRC, NHS R&D)へ
還元される
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NICE診療ガイドライン
客観性の追及と透明性
多分野連携アプローチ
利害関係者の参画
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コクラン・レビュー (消費者参加)
 医療政策、研究、診療ガイドライン、患者向け
情報における消費者参加
 5 RCT
 直接診療ガイドラインにおける消費者参加を評
価したRCTはない。
 患者向け情報に関しては消費者参加によりよ
り患者に取り、有用、読みやすく、理解しやすく
なる中程度の根拠がある。患者向け情報はま
た患者の知識向上の効果もある。
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作成委員の構成





幅広く各分野の専門家(学会に偏らない)
地理上のバランス
研究者でなく、実際の診療に携わる
製薬会社等からの研究費の詳細を先立って提出
ガイドライン作成会議の内容は発行されるまで秘
密厳守 (情報公開法)
 作成に伴う学術論文の発行にはメンバー全員の
了承が必要
 方法論専門家を除いて10-12名が適正人数
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利害関係者
 診療に関わる人すべてを含めて決める
 説明責任(Accountability)
 一般公開、意見公募の上で 書き直し
• どのような内容のガイドラインにするか
• 一旦出来上がった草稿
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NICE診療ガイドライン
作成後
導入への工夫
臨床監査
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導入のための工夫
 三点セット
• コスト・インパクト分析
• 臨床監査の項目
• 教育用スライドセット
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臨床監査
 直接的および間接的監査項目も作成
 ぞれぞれの病院や国レベルでの臨床監
査に使用
 さらに間接的にNICE診療ガイドラインに
関してどれだけ真剣に取り組んでいるか
も施設に調査(結果は一般公開)
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NICE診療ガイドライン
EBMへの誤解
推奨グレード
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NICEの推奨グレード(-2005)
推奨の強さ
科学的根拠
<A>
1++レベルのランダム化比較試験もしくは、そのメタ解析か系統的レビューに基づき、対象集団に直接適
用可能な科学的根拠か、
1+レベルのランダム化比較試験もしくは、その系統的レビューに基づき、対象集団に直接応用可能で、
一貫性のある科学的根拠か、
<B>
2++レベルの研究に基づき、対象集団に直接適用可能で、一貫性のある科学的根拠か、
1++か1+レベルの研究の結果からの推測
<C>
2+レベルの研究に基づき、対象集団に直接適用可能で、一貫性のある科学的根拠か、
2++レベルの研究の結果からの推測
<D>
3もしくは4レベルの研究に基づく科学的根拠か、
2+レベルの研究の結果からの推測か、
フォーマル・コンセンサス法に基づく根拠
<GPP>
GPP(Good Practice Point)は専門家の意見に基づき、最適の診療と考えられる推奨
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推奨グレードの関する誤解
 Aグレードだけ導入する
 Aの方がBやGPPより重要
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NICEの対応
 国際委員会(GRADE)を立ち上げ議論
 考えうる推奨グレードを考えてみた
 しかしそれでも使用側の誤解の可能性
 推奨グレードの中止
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一般市民
政策
NICE診療ガイドライン?
診
療
質的研究法
患者・一般参加
Shared
Decision
Making
臨床疫学
研
究
多分野連携
アプローチ
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まとめ
 科学的根拠には常に限界がある限り、
診療における推奨を決定する際にも客
観性・透明性を確保することが肝要であ
る。
 このためには、質的研究法や民主主義
的手法を用いることが鍵になる
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その他の情報は・・・
 NICEホームページ
• http://www.nice.org.uk/
 国立母子保健共同研究所ホームページ
• http://www.ncc-wch.org.uk
 Guidelines International Network
• http://www.g-i-n.net/
 方法論マニュアル
• http://www.nice.org.uk/page.aspx?o=201982
 演者 (森 臨太郎)
• [email protected]
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