先端物性測定実習I・質量分析2・エレクトロスプレーイオン化法

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先端物性測定実習I
質量分析2
エレクトロスプレーイオン化法
(ESI - Ion Trap)
•2010年度 前期(月曜3限~5限)
•担当:高山・野々瀬・川畑
エレクトロスプレーイオン化法の原理
エレクトロスプレーイオン化法(ESI)とは、
生体分子・有機分子を非破壊的に、
溶液中から真空中へ導入するソフトなイオン化法である。
大きな分子量を持ち、不揮発性で電荷を帯びる分子の
質量分析にはきわめて有用である。
•シリンジポンプによって、流量5~20μl/minで
希薄溶液が注射針に送られる。
•注射針には周囲の電極に対して
3~5kVの電位が印加される。
•注射針先端に大きな電場勾配が生じ、
静電気力が表面張力に打ち勝って、
溶液が荷電液滴となって大気中に放出される。
還元
エレクトロスプレーイオン化法
の原理図
+
+
+
++
+
注射針
+ ++
シリンジより
送られてきた
試料溶液
+
-
-
-
+
-
+
+
-
-
-
+
+
+
+
-
+
+
+
+
+
+ +
+
+
+
酸化
+ +
+
+
+
+ ++
++
++
+ +
++
+
++
+
+
++
+
+ ++
++
+
++
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
++
++ ++
+
+
+
+
+
+
+ +
+
+
+
+
++
+ +
+
+
+ +
+
+ + ++
+
+
+
+
+ + +
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+ +
++
++
++
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Taylor コーン
電子
++
+
+
+
+
+
対極板
高圧電源
3-5kV
-
電子
荷電液滴から孤立分子イオンの生成
•液滴表面から溶媒分子が蒸発。
•溶媒の蒸発に伴って液滴のサイズが減少し
液滴表面の電荷密度が増大。
•静電反発力が表面張力よりも大きくなると、
荷電液滴はより小さなサイズの液滴にクーロン分裂。
+
+
+
+
+
+
+
+ +
+
+
+
++
+
+
+
++
+ + + ++ + + + +
•このような分裂過程が繰り返される。
最後には孤立した分子イオンが生成される。
蛋白質は20種類のアミノ酸から構成される
酸性溶液中にある蛋白質では、
リシン、ヒスチジン、アルギニンのR基
およびN-末端のアミノ基にプロトンが付加する。
蛋白質多電荷イオンの質量分析
エレクトロスプレーイオン化法(ESI)を用いた質量分析装置を用いて、
蛋白質多電荷イオンのマススペクトルを測定する。
Intens.
x108
1.0
09123cyto mass00003.d: +MS
15+
825.1
14+
883.9
Cytochrome cのマススペクトル
12231.5amu
ESIによって蛋白質をイオン化すると
多数のプロトンが付加した多電荷イオンが生成される。
0.8
13+
951.8
+
H
H+
H+
0.6
H+
H+
H+
H+
0.4
16+
773.6
12+
1031.0
H+
11+
1124.7
0.2
10+
1237.0
17+
728.1
9+
1374.4
H+
H+
H+
H+
8+
1546.2
0.0
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
m/z
N-H結合をレナード-ジョーンズ・ポテンシャルと仮定すると、次の式であらわされる。
ここで、rはN原子とH原子との間の距離(核間距離)である。
  12    6 
U LenardJones  4      
 r  
 r 
+
N-H
化学結合は近距離力
蛋白質多電荷イオンの構造を球だと仮定する。
半径aの球の内部に電荷Zeが一様に分布しているとする。
その場合のクーロンポテンシャルは、次の式であらわされる。
Ze 2
U Coulmb 
(r  a)
4 0 r
Ze 2 1 
r2 
U Coulmb 
   3  2 ( r  a )
4 0 2a 
a 
+ ++ +
+
+ + + ++
+ + +
+
+
+
+
+
++ + +
クーロン力は遠距離力
N-H結合のレナード-ジョーンズ・ポテンシャルと
蛋白質内の電荷によるクーロンポテンシャルを
足し合わせたもの
+ ++ +
+
+
+
+
+
+
+
+ + N +- H +
+ + + +
+
+ + +
実習に用いる試料
•ペプチド
アンジオテンシン I (angiotensin I )
•蛋白質
ヘモグロビン (hemoglobin)
リゾチーム (lysozyme)
リゾチーム [S-S結合の解離したもの]
•試料溶液
試料濃度 1~10μg/ml
溶媒 メタノール + 純水(1%) + 酢酸(0.1~1%)
Hemoglobinとは・・
•ヘモグロビン(hemoglobin)とは、ヒトを含む全ての脊椎動物や
一部のその他の動物の血液中に存在する赤血球の中にある蛋白質である。
•酸素分子と結合する性質を持ち、肺から全身へと酸素を運搬する役割を担っている。
赤色素であるヘムをもっているため赤色を帯びている。
成人のヘモグロビンはαサブユニットとβサブユニットと呼ばれる
2種類のサブユニットそれぞれ2つから構成される四量体構造をしている。
•各サブユニットはグロビンと呼ばれるポリペプチド部分と
補欠分子族である1つのヘム部分が結合したもので、
分子量は1個あたり約16,000である。
αサブユニットは141個アミノ酸からなり、βサブユニットは146個のアミノ酸から成る。
•ヘモグロビン分子全体(α2β2)の分子量は約64,500であり、ヘムを4つ含む。
ヘムは価数が2価の鉄原子を中央に配位したポルフィリン誘導体である。
このヘムの鉄原子に酸素が結合し、血液中を通って各組織へ運搬する。
Hemoglobinとは・・続き
•ESIによってイオン化すると、αとβ個々の
サブユニットに解離する。
•ヘム(鉄ポルフィリン錯体)も解離する(分子量~620amu)。
α
β
β
α
+++
+
+
+ α
+
+
+ +
+++
+
+
+ β
+
+
+ +
+++
+
+
+ β
+
+
+ +
+++
+
+
+ α
+
+
+ +
hemoglobinのマススペクトル
Intens.
x106
091224hemo mass00005.d: +MS
942.0
6
1004.7
1076.3
886.7
4
1159.0
837.5
1255.5
2
616.3
793.5
1330.4
753.9
1451.21506.2
1596.2
0
600
800
1000
1200
1400
1600
m/z
Chain Sequences of Hemoglobin α and β
Basic Residues;
Lysine;K, Arginine;R, Histidine;H
HEMOGLOBIN α; 141 residues
VLSAADKGNVKAAWGKVGGHAAEYGAEALERMFLSFPTT
KTYFPHFDLSHGSAQVKGHGAKVAAALTKAVEHLDDLPG
ALSELSDLHAHKLRVDPVNFKLLSHSLLVTLASHLPSDFTPA
VHASLDKFLANVSTVLTSKYR
HEMOGLOBIN β; 145 residues
MLTAEEKAAVTAFWGKVKVDEVGGEALGRLLVVYPWTQR
FFESFGDLSTADAVMNNPKVKAHGKKVLDSFSNGMKHLD
DLKGTFAALSELHCDKLHVDPENFKLLGNVLVVVLARNFG
KEFTPVLQADFQKVVAGVANALAHRYH
Reference; Protein Data Bank (http://www.rcsb.org/pdb)
Lysozymeとは・・
•リゾチーム(Lysozyme)とは、真正細菌の細胞壁を構成する多糖類を加水分解する酵素である。
ヒトの場合涙や鼻汁、母乳などに含まれている。
工業的には卵白から抽出したリゾチームが食品や医薬品に応用されている。
•分子量は~14000amu。
•酸性アミノ酸(Asp7、Glu2)に対して塩基性アミノ酸(Arg11、Lys6)の数が多いことと
分子量の割にS-S結合が多いことが特徴である。
•食品添加物としては日持ちを向上させるために用いられる。
•塩化リゾチーム(リゾチーム塩酸塩)は、グリコサミノグリカンを分解作用があるとして
日本でも医薬品として広く用いられている。
Lysozymeの1次構造
Length;129 residues
Secondary structure;
41% helical (7 helices; 54 residues)
10% beta sheet (9 strands; 14 residues)
Cystine;C, Disulfide bond;----
Reference; Protein Data Bank (http://www.rcsb.org/pdb)
Reduction of S-S bonds with DTT
H
N
O
C
S
SH
S
SH
N
H
OH
HS
S
+ HSS
OH
C
O
HO
HS
SH
OH
Dithiothreitol(DTT)
Lysozymeのマススペクトル
Intens.
x108
2.0
091222lys mass00005.d: +MS
1301.39
S-S結合の切断前
1.5
1431.40
1.0
1193.14
0.5
1590.32
0.0
600
800
1000
x108
1200
1400
1600
1800
2000
m/z
091222lys+DTT mass00005.d: +MS
1023.40
0.8
955.34
1102.04
S-S結合の切断後
0.6
1193.75
0.4
1302.16
895.67
0.2
1432.29
1591.17
0.0
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
Time
m/z[s]
Angiotensin のマススペクトル
アンジオテンシン (angiotensin) はポリペプチドの一種で、
昇圧作用を持つ生理活性物質。
アンジオテンシンI~IVの4種がある。
心臓収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。
アンジオテンシンIの1次構造
Asp - Arg - Val - Tyr - Ile - His - Pro - Phe - His - Leu - OH
分子量~1300amu。
Intens.
x107
ang mass00004.d: +MS
3+
433.0
5
4
3
2
2+
649.1
1
487.3
0
300
400
500
600
700
800
900
m/z
エレクトロスプレーイオントラップ型質量分析装置
Bruker-Daltonics, HCT-ETD II
Source CID
エレクトロスプレー
スキマー
+
キャピラリー
電位勾配によって加速され、
中性分子と衝突し、分解する
+
直流電源
0-360V
-
Octapole Ion Guide
+
+
Quadrupole Ion Trap
++++
検出器
【参考文献】
1. これならわかるマススペクトロメトリー
志田保夫 [ほか] 著 化学同人
図書館配架場所 433.2||17
2. マススペクトロメトリーってなあに
日本質量分析学会出版委員会編
日本質量分析学会
図書館配架場所 433.2||18
終わり
御静聴を
どうも有り難うございました。
次回からの実習を
楽しみしていて下さい。