Transcript 割引超過利益モデル
企業評価論
11月4日・11日
将来性分析:評価理論と概念
将来性分析:企業評価の実際
1
企業評価のステップ
戦略・会計・財務分析によって得られた理解を基
に、企業の価値を推定する
1.企業の将来業績の予測
2.企業評価モデルによる評価
3.感応度分析
2
割引超過利益モデル
3
会計利益ベースの企業評価モデル
クリーン・サープラス会計の仮定と配当割引モデ
ルから、会計数値(当期純利益と株主資本)を用
いた企業評価モデル(割引超過利益モデル)が
導出できる
割引残余利益モデルとも呼ばれる
実務ではこちらの方が普通
4
クリーン・サープラス会計とは
株主資本の変動が、当期純利益と配当のみに
よって発生する会計
増資はマイナスの配当と考える
現行の会計基準のリーズナブルな描写である
BVt BVt 1 NI t DIVt
5
割引超過(残余)利益モデルによ
る企業評価
もし企業が株主から要求された利益しか稼げな
ければ、その価値は簿価に等しい
もし企業が要求された利益以上/以下を稼げば、
その企業の価値は簿価以上/以下である
債券のアナロジー
株主が要求する利益のことを株主資本コストと
呼ぶ(詳細は後述)
6
超過利益とは
当期純利益(NI)から株主資本コスト(株主資本
コスト率re*期首の株主資本簿価BV)を差し引
いたもの
AEt NI t re * BVt 1
超過利益t 純利益t 株主資本コ ス ト 率* 株主資本簿価t1
7
割引超過利益モデル
t時点の株主資本の価値 は
株主資本簿価+将来の超過利益の現在価値の合計
に等しい
E[ AE ]
株主資本の価値0 BV0
(1
r
)
1
e
BV:株主資本簿価
re:株主資本コスト率
AE:超過利益
8
割引超過利益モデルの長所
ターミナル・ヴァリューが小さい
会計における選択に影響されにくい
キャッシュフローに比べると、利益の方が予測し
やすい
9
ターミナル・ヴァリューの推定
現実には無限大の未来を予測することはできな
いので、何らかの最終年度以降の超過利益の
価値(ターミナル・ヴァリューとよばれる)を推定
する簡便法が必要となる
具体的には
(1)最終年度以降の超過利益を推定する
(2)超過利益が永久に続くと仮定して最終年度にお
ける現在価値を求める (AE/re)
(3)それを現時点における現在価値に割り引く
10
小さいターミナル・ヴァリュー
割引キャッシュフローモデル(DCF、後述)では
巨額のターミナル・ヴァリューが推定されるが、
割引残余利益モデルのターミナル・ヴァリューは
比較的小さい
モデルにおける「株主資本簿価」の存在が原因
株主資本簿価=「正常」利益の現在価値
「最終年度以降の純利益が要求された利益(=
株主資本コスト)に等しい」と仮定するとターミナ
ル・ヴァリューは0である
11
会計がモデルに影響するか
割引超過利益モデルはキャッシュ・フローではな
く、会計利益に基づく
それでは会計上の選択(会計処理方法、見積も
りなど)が企業評価に影響するのであろうか?
二つの例
2年間のケース、1年目に1000ドルの投資を行う。
資本コスト7%。「正しい」会計は定額法であるとする。
保守主義会計~償却前倒し(1年目に全額償却)
積極主義会計~償却先送り(2年目に全額償却)
12
保守的な会計の影響
全額を1年目で償却する
と、
2年目の期首の簿価が
$500低くなる
そのため、2年目の資本コ
ストが $500 *.14減少する
また、2年目の純利益が
$500増加する
現在価値
-$500/1.14= -439
70/(1.14)(1.14)=54
500/(1.14)(1.14)=385
保守的会計の影響: $0
13
積極的な会計の影響
全額を2年目で償却する
と、
2年目の期首の簿価が
$500高くなる
そのため、2年目の資本コ
ストが $500 *.14増加する
また、2年目の純利益が
$500減少する
現在価値
$500/1.14= 439
-70/(1.14)(1.14)= -54
-500/(1.14)(1.14)= -385
積極的会計の影響: $0
14
利益予想とキャッシュフロー予想
キャッシュフローよりも利益の方が変動が少ない
15
超過NOPAT
経済的付加価値(EVA)
教科書の超過NOPATと同義
EVAはStern Stewart(SS)社による登録商標
主な特徴
業績評価に資本コストの概念を導入した指標
SS社によれば、EVAは株主価値の創出に密接に関
連している
16
EVA(超過NOPAT)によ
る企業評価
17
EVAの計算
EVA は下記の通り計算される
=
=
=
売上高
営業費用
営業利益
税費用
税引き後営業利益(NOPAT)
資本コスト
EVA=超過NOPAT
18
EVAの構成要素
NOPAT(Net Operating Profit After Tax)
資本
負債+株主資本
資本コスト
税引き後ベースの営業利益
加重平均資本コスト
(会計数値に対する修正)
19
EVA(=超過NOPAT)による企
業評価モデル
負債+株主資本(=資産)の価値を推定する
EVAは株主と債権者の両方に帰属する「利益」
評価モデル
負債+株主資本の価値
NOPAT1 WACC BVA0 NOPAT2 WACC BVA1
BVA0
...
2
(1 WACC )
(1 WACC )
20
EVAと超過利益
コンセプトは同じ
利益と資本コストの差額
「持ち主」が異なるだけ
EVA:株主と債権者の両方
超過利益:株主だけ
21
EVAと超過利益
評価モデルの比較
株主資本の価値
NI1 re BV0 NI 2 re BV1 NI 3 re BV2
BV0
...
2
3
1 re
1 re
1 re
負債+株主資本の価値
NOPAT1 WACC BVA0 NOPAT2 WACC BVA1
BVA0
...
2
(1 WACC )
(1 WACC )
22
株価・簿価比率
割引超過利益モデルの両辺を簿価で割ると…
gn は簿価の成長率, たとえば (BV2-BV1)/BV1
サステイナブル成長率を用いることが一般的
MV0
E[( ROE1 re )] E[( ROE2 re )(1 g1 )]
1{
}{
}
2
BV0
(1 re )
(1 re )
E[( ROE3 re ) (1 g1 )(1 g 2 )]
{
} ...
3
(1 re )
23
株価・簿価比率
超過利益の関数である
ROEと株主資本コストの大小が大事
財務分析がROEの分析を中心としたことに注意
成長率の関数である
簿価がどのくらいの勢いで成長していくのか?
超過利益と簿価の関係に注意
簿価大=>資本コスト大=>超過利益小
24
ROAとWACCの関係
ROEと株主資本コストの関係に相似
株価・ 簿価比率
1
ROE1 re ROE2 re 1 gbve1 ROE3 re 1 gbve1 1 gbve2
...
2
3
1 re
1 re
1 re
負債+株主資本の価値・ 簿価比率
ROA1 WACC ROA2 WACC 1 gbva1 ROA3 WACC 1 gbva1 1 gbva2
1
...
2
3
1 WACC
1 WACC
1 WACC
25
ROEとROA
株主にとっての企業価値に直結するのはROE
であり、対応する資本コストは株主資本コスト
株主+債権者にとっての企業価値に直結するの
はROAであり、対応する資本コストは加重平均
資本コスト(WACC)
それぞれの大小関係が企業価値に密接に関連
している
26
その他の企業評価法
27
株価倍率による評価手法
なぜ使われるか?
倍率の例
簡単である。それに尽きる。
株価収益率(PER)
株価簿価倍率(PBR)
株価キャッシュフロー倍率
なぜ駄目か
根拠となる理論がないor極めて強い仮定が必要
比較可能な企業を選定することはほぼ不可能
28
割引キャッシュ・フロー(DCF)
モデル
株式の価値は将来の配当の現在価値に一致
企業の価値は将来の企業の持主へのキャッ
シュ・フローの現在価値に一致
株主資本の出し手
株主資本コストを割引率に用いる
株主資本の価値が算出される
株主資本の出し手+負債の出し手?
加重平均資本コスト (WACC)を割引率に用いる
株主資本+負債の価値が算出される
29
DCF:
資本の価値or資本+負債の価値?
株主資本+負債の価値を計算するのが一般的
株主だけに帰属するFCF(フリーキャッシュフロー)を
予測するのは難しい
債権者とのCFのやりとりがある
明示的に将来の負債の変化を予測しなくても良い(?)
しかし、予測を行う際に将来の負債の残高も予測している
はずである
30
DCF: 主要なステップ
フリー・キャッシュ・フロー (FCF)を5年から10年
分予測する
最後の年が最終年度と呼ばれる
仮定に基づいて最終年度以降のFCFを予測す
る
FCFをWACCで現在価値に割り引く
割り引かれた結果が株主と負債の出し手にとっての
企業の価値である
31
DCF: 主要なステップ
株主にとっての企業の価値を算出する
負債の価値を差し引く
非営業用の資産負債(金融投資にかかわる資産負
債)があれば、その価値を加減算する
32
フリー・キャッシュ・フロー
株主に帰属するFCFと債権者と株主に帰属する
FCFの二通りがある
実務上は後者のFCFを用いることが多い
FCFは債権者と株主(または株主のみ)が自由
に分配できるキャッシュフロー
従って、FCFは税引後ベース
キャッシュ・フロー計算書の数値をそのまま使う
ことは出来ない
33
ターミナル・バリュー
最終年度以降のFCFを予測する必要は?
殆どの場合、巨額のターミナル・ヴァリューを推定す
ることになる
長期的な売上の成長は重要か?
「競争均衡の仮定」は受け入れられるか?
34
競争均衡の仮定
競争が、企業が超過収益(NPV > 0)を稼得する
能力を制限すると考えられる
究極的に、企業の収益は「正常な水準」に落ち
着く
増加するキャッシュ・インフローは資本コストに等しく
なる(=追加的な価値の増加はない)
35
ターミナル・バリュー:
無成長の場合
売上が成長しないと仮定すると、
年度利益もキャッシュ・フローも一定となる
減価償却と設備投資は相殺しあう
運転資本の所要額は一定
税効果額も一定
FCF=(利子費用・税額調整後)純利益
36
ターミナル・バリュー:
成長とインフレ
もし成長機会が存在したら?
成長機会が無くなるまでキャッシュ・フローを予測する
か、
キャッシュ・フローが定率で成長する事を仮定する
例:長期インフレ率
37
ターミナル・バリュー:
成長とインフレ
最終年度の次年度を予測する
運転資本に一時的変動が起こる
その後のFCFは定率で成長する
3.5%成長を仮定した場合のターミナル・バ
リューは、
最終年度FCF / (WACC - .035)
38
予想FCFの現在価値への割引
ひとたび将来のFCFと最終年度以降のFCFの
最終年度における現在価値を予測したら、それ
らを現時点における現在価値に割り引けばよい
割引率は 、FCFが年度末に起こると仮定した場合
(1 + WACC)-n
FCFが年度中に起きると仮定する場合、上記の結果
に(1 + WACC/2)をかければ良い
39
負債等の調整
株主にとっての企業の価値を求めるには、FCF
の現在価値から、
負債の時価を差し引き、
非営業資産・負債の時価を加減する
40
資本コスト
資本コストは資本の出し手が要求する,投資に
対するリターンである
資本コストは二つの重要な用途を持つ
超過利益・EVA(後述)の計算
予測された超過利益・EVAを現在価値に割り引くため
の割引率
41
資本コスト
42
資本コスト
株主資本コスト(割引超過利益モデルの割引率)
負債コスト
CAPM (資本資産価格モデル) が代表的な推定方法
通常、借入に対する利子率を用いる
加重平均資本コスト(EVAモデルの割引率)
負債コストと株主資本コストを加重平均
資本構成(負債:株主資本)の予測が必要
43
WACC(加重平均資本コスト)の
計算
割引率は加重平均資本コストである
負債は時価で計算する
短期の営業債務(無利子)は計算に含めない
株主資本をどうするか?
自己資本比率を仮定するか,又は繰り返し計算
VD
VE
WACC
rD (1T)
rE
VD VE
VD VE
時価を使用する
44
資本コストの推定
負債コスト
現在の企業の借り入れコストを用いる
税引き後ベース
株主資本コスト
CAPM(資本資産価格モデル)?APT(裁定価格モデル)?3
ファクターモデル?
いずれにせよ、正確な推定はできない
資本コストについての感応度分析が絶対に必要
CAPM : re rf [E(rM ) rf ]
45
CAPMによる株主資本コストの
推定例
ベータ=1.2
リスクプレミアム=7.6%
リスク・フリー利子率=5.8%、とすると
資本コスト: 5.8 + 1.2*7.6 = 14.9%
規模による調整をおこなうこともある
CAPM : re rf [E(rM ) rf ]
46
企業評価のまとめ
47
FCFと超過利益(と配当)
期間無限大の、整合性のある予測が提供されれ
ば、どれを使用しても同じ、しかし
有限期間の予測を使用した場合、FCFは使い物
にならないことが多い(成長中の企業のFCFはマ
イナスであることが多い)
Penman(2001)のHome Depotの例
Penman and Sougiannis(1998)
(有限期間のプロジェクトの評価はFCFで充分)
48
Home Depot
49
Penman and Sougiannis
(1998)
50
FCFと超過利益(と配当)
営業利益とFCFと配当の関係(Penman(2001))
企業の営業部門と取引先とのやりとりが営業利益
企業の価値創出は(営業)利益で測定される
企業の営業部門と財務部門の現金のやりとりがFCF
企業の財務部門と株主との現金のやりとりが配当
51
52
企業評価の4つのステップ
経営戦略分析
会計分析
財務分析
将来性分析
53