入院時の羊水検査をルチーンとした前期破水・切迫早産の管理
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Transcript 入院時の羊水検査をルチーンとした前期破水・切迫早産の管理
胎児生存限界前週数のPROM、
後期切迫流産の周産期管理
名古屋第一赤十字病院 産婦人科
古橋 円
母体搬送(平成24年4月~平成25年3月)
搬送理由
切迫流・早産
97
前期破水
胎胞脱出・可視
妊娠高血圧症候群
前置胎盤
69
32
12
14
胎児機能不全
子宮内胎児発育遅延
産褥救急
8
3
19
常位胎盤早期剥離
その他
11
18
合計
283
68.5%
母体搬送283件の搬送時妊娠週数
妊娠週数
9-12
13-16
17-20
21-24
2
2
12
33
25-28
29-32
33-36
30
41
57
37-40
17
41-42
産褥
0
19
合計
283
平成24年度
分娩週数
22-24
25-28
29-32
33-35
36合計
帝王切開
分娩数 1494
15
45
59
124
1251
1494
351 (23.5%)
児体重別
児体重別
超低出生体重児 (
-999g)
極低出生体重児 (1000g-1499g)
低出生体重児
合計
(1500g-2499g)
44
38
238
320
Intact Survival
後遺症なき生存
%
100
26週
80
50%
60
Survival
40
Intact Survival
20
0
24 25
26
27 28
29 30
31 32
33 34
week
(Newton ER Clin Perinatol 2005)
26週までは
妊娠を継続
したい
切迫早産の原因
感染:絨毛膜羊膜炎
その他
多胎
子宮奇形
子宮筋腫
子宮頸管無力症
etc
膣からの上行感染
血行感染
切迫早産(前期破水)に対する
日本と米国の考え方の違い
米国
子宮収縮抑制剤は効果なし
しいて言うならば、肺成熟目的にステロイドを
投与する2-3日間使用するぐらい
早期に分娩
日本
子宮収縮抑制剤を使用して妊娠継続を図り、
胎児の成熟、未熟児出生予防を目的とする
絨毛膜羊膜炎
chorioamnionitis (CAM)
Clinical CAM(臨床的絨毛膜羊膜炎)
Subclinical CAM
Histologic CAM (組織学的絨毛膜羊膜炎)
臨床的絨毛膜羊膜炎 Clinical CAM
Lencki SG et al., 1994
体温 38℃以上
下記のうち1項目以上あること
体温 38℃未満
下記の4項目をすべて満たすこと
1.
母体頻脈(100bpm以上)
2.
子宮の圧痛
3.
膣分泌物・羊水の悪臭
4.
白血球数 15,000/mm3以上
臨床的絨毛膜羊膜炎 Clinical CAM
Tita ATN et al., 2010
体温 38℃以上
および下記のうち2項目以上あること
1.
子宮の圧痛
2.
母体頻脈(>100bpm)または胎児頻脈(>160bpm)
3.
羊水の悪臭
組織学的絨毛膜羊膜炎・臍帯炎
羊水腔
羊膜
絨毛膜
絨毛間腔
母体白血球:絨毛膜下まで
絨毛膜まで
胎児白血球:血管内皮まで
血管筋層まで
Ⅰ
Ⅱ
羊膜まで
臍帯
Stage
Wharton膠質まで
III
羊水検査
目的
絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis: CAM)のチェック
胎児肺成熟判定:microbubble test
検査項目
好中球数、糖、LDH、エラスターゼ
細菌培養検査の欠点
•
結果が出るのに数日かかる
•
すでに抗生剤を使っていたり、あるいはbiofilmが形
成されたりして、検出されないことが多い
•
通常の検査方法ではウレアプラズマは検出不可
羊水穿刺
検査のみ→23G PTCD針
カテーテル挿入→21G PTCD針
ガイドワイヤー挿入(外径0.45X全長650mm 八光)
→カテーテル挿入
(CVカテーテル 20GX30cm 日本シャーウッド)
羊水腔のない場合のカテーテル挿入法
まず23G PTCD針で穿刺
経胎盤でもOK
生食150-200ml注入
続いて21G PTCD針で穿刺
ガイドワイヤーを挿入した後に
カテーテルを挿入
敏感度(本当に陽性のものを陽性と診断する率)
特異度(本当に陰性のものを陰性と診断する率)
敏感度(感受性)
特異度
(Sensitivity)
(Specificity)
羊水
エラスターゼ (≥0.15 mg/ml)
LDH (≥250 U/l)
好中球 (≥2 cells/ml)
糖 (<30 mg/dl)
末梢血
白血球 (≥10,000 cells/ml)
CRP (≥0.4 mg/ml)
88.9%
73.3%
84.1%
82.2%
82.2%
66.7%
80.0%
66.7%
62.2%
71.1%
66.7%
73.3%
各臨床検査項目のROC曲線
感受性
1
0.9
0.8
エラスターゼ
0.7
0.6
LDH
好中球数
糖
CRP(血液)
WBC(血液)
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0.2
0.4
0.6
1-特異性
0.8
1
羊水エラスターゼ
(mg/ml)
100
重症
10
中等症
1
軽症
0.1
絨毛膜羊膜炎
(-)
中央値
<0.1
BlancⅠ
0.21
BlancⅡ
0.54
BlancⅢ
10.8
CRP
(㎎/dl)
15
10
5
0
中央値
CAM(-)
BlancⅠ
BlancⅡ
BlancⅢ
0.3
0.2
2.85
3.05
管理方針
•
感染の制御
•
子宮収縮抑制
•
(子宮頚管縫縮)
•
分娩前にステロイド投与
感染の制御
羊水腔にカテーテルチューブを留置
前期破水の場合
生食充填・灌流(1000-1500 ml/日)
“羊水腔を洗い流す”
抗生剤投与(全身)
セフェム系(セフメタゾール)・ペニシリン系(ペントシリ
ン)・ペネム系(メロペン)
子宮収縮抑制
•ウテメリン
頻脈、肺水腫、白血球減少、血小板減少、肝障害
•マグネシウム
急速飽和 or 緩徐スタート
有効血中濃度 7-8 mg/ml
全身麻酔の導入でサクシンを使用する場合は心停止に注意
全身倦怠、悪心・嘔吐、ほてり、筋力低下
•インテバン座薬
“妊婦禁忌”→必ず同意を得ること
32週以後は使用しない(動脈管閉鎖)
50mg 2本/回、2回まで/日(胎児腎血流減少→羊水過少)
妊娠延長曲線
エラスターゼ
22-28 weeks (入院時)
0.15-1 mg/ml
1-10 mg/ml
10- mg/ml
n=38
n=34
n=28
100
妊娠継続中(%)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
延長日数
80
100
120
CAM は治る?
分娩後に胎盤・臍帯を病理検査
羊水中
エラスターゼ
(mg/ml)
CAM
臍帯炎
0.15-1
82% (28/34)
53% (17/32)
1-10
91% (29/32)
62% (18/29)
10-
100% (28/28)
85% (22/26)
ある程度コントロールすることは可能であるが、
治すことは難しい
いつまで治療を継続するか?
最低24週まで、できれば26週までは妊娠を継
続したい。
26週を超えたら無理はしない。
感染徴候の増悪(母体発熱、子宮収縮
抑制困難、CRPの上昇)が認められた
ら、分娩方向に方針転換。
帝王切開の適応がない限りは経膣分娩
Previable PPROMの治療成績
PPROM 23週未満 (n=72)
妊娠終了 (n=27)
積極的治療 (n=45)
死産 (n=7)
生産 (n=38)
分娩室での死亡 (n=1)
NICU 入院 (n=37)
入院中の死亡 (n=10)
退院時生存 (n=27)
フォローされず (n=1)
後遺症なし (n=9)
33.3%
23.7%
20%
分娩週数
破水・分娩週数と児の予後
38
36
○
生存、後遺症(-)
34
×
生存、後遺症(+)
32
■
入院中の死亡
▲
IUFD
30
28
26
24
22
20
15
16
17
18
19
破水週数
20
21
22
23
児の罹患 (生児38人)
n
3
2
%
7.9
5.3
5
25 of 30*
13
1
13.2
83.3
34.2
2.6
動脈管開存
関節拘縮
脳室内出血(grade I/II)
4
0
6
10.5
0
15.8
脳室内出血(grade III/IV)
脳室周囲白室軟化症
2
5
5.3
13.2
未熟児網膜症
11
28.9
敗血症
壊死性腸炎
肺低形成
気管支肺異形性
呼吸窮迫症候群
肺炎
*8人は28日前に死亡
38才 2経妊0経産
家族歴・既往歴: 特記すべきことなし。
前医で妊婦検診を受けており、経過は順調であった。
妊娠24週4日、 夜間に腹部緊満・性器出血あり。
妊娠24週5日、前医を受診し、診察時に破水したため母体搬
送された。
180
子宮口1指開大。頚管長1.4cmに短縮。
EFBW: 820g
羊水ポケット認めず。
子宮収縮:約5分間歇
160
140
120
絨毛膜羊膜炎
体温:37.7℃、CRP: 5.6mg/dl、WBC: 13900/mm3
羊水穿刺検査:細胞数 52160/mm3、糖 0 mg/dl、
LDH 1895 IU/l、好中球エラスターゼ 42.3 g/ml
•感染の制御
絨毛膜羊膜炎
羊水腔にカテーテルチューブを留置し、生食で灌流
(1000-1500 ml/日)
抗生剤投与(全身・羊水腔内)
•頚管縫縮術
•子宮収縮抑制: ウテメリン、Mg、インテバン座薬
•中心静脈栄養
分娩
妊娠26週1日(入院10日目)、5分毎に子宮収縮あり、子宮口
は4cm開大し、McDonald縫合糸は滑脱。リンデロン12mg筋
肉注射。夕方には子宮口6cm開大。
妊娠26週2日(入院11日目)、リンデロン12mg筋肉注射。
20:38 980g Ap 4(1)、5(3) 、5(5)の男児を分娩。
臍帯動脈: pH 7.395、BE -1.8 mmol/L
胎盤病理: 絨毛膜羊膜炎(grade 3)、臍帯炎(grade 3)
26才 2経妊1経産
家族歴・既往歴: 特記すべきことなし。
前医で妊婦検診を受けており、経過は順調であった。
妊娠21週4日、 破水のため紹介入院した。
子宮口1cm開大。頚管長2.2cmに短縮。
EFBW: 340g、羊水は混濁。
子宮収縮:約3分間歇
来院時
絨毛膜羊膜炎
体温:37.5℃、CRP: 0.4mg/dl、WBC: 11290/mm3
羊水穿刺検査: 細胞数 19200/mm3、糖 0 mg/dl、
LDH 668 IU/l、好中球エラスターゼ 25.1 g/ml
絨毛膜羊膜炎
•感染の制御
羊水腔にカテーテルチューブを留置し、生食で灌流
(1000-1500 ml/日)
抗生剤投与(全身・羊水腔内)
•頚管縫縮術
•子宮収縮抑制: ウテメリン、Mg、インテバン座薬
•中心静脈栄養
経過
リンデロン
RCC 2単位
生食充填灌流 IVH
WBC
(X103/mm3)
メロペン
セフメタゾン
ミノマイ
ファーストシン
1.8
12
10
8
1.6
1.4
1.2
1
6
0.8
4
0.6
0.4
Hb
(g/dl)
2
0.2
0
0
CRP
(mg/dl)
分娩
妊娠28週4日、5分毎に子宮収縮あり、子宮口は2-3cm開大し、
McDonald縫合糸は滑脱のため抜糸。
18:16 1256g Ap 4(1)、5(3) 、5(5)の男児を分娩。
臍帯動脈: pH 7.311、BE –6.2 mmol/L
胎盤病理: 絨毛膜羊膜炎(grade 2)、臍帯炎(-)
まとめ
1. 羊水中のエラスターゼを測定し、絨毛膜羊膜炎の有
無・程度を把握(CRPはだまされることあり)。
2. 経過を追うには、CRPが便利。
3. 絨毛膜羊膜炎がひどくても最低26週までは妊娠維持
に努める。
4. 26週を超えたら無理はしない(感染の程度や子宮収縮
の程度によっては分娩方向へ)。
5. 分娩方法は、頭位であれば何グラムであろうと経膣分
娩(帝王切開の方が安全というエビデンスはない) 。
6. 前期破水例には生食充填灌流が有用。