Transcript What is お酒?
生物学基礎 生命工学科 養王田 正文 What is お酒? 日本では、アルコールを1%以上含む飲料のことを「お 酒」といいます。アルコールにはエタノール(エチルア ルコール)、メタノール(メチルアルコール)、プロパノー ル(プロピルアルコール)などがありますが、一般的に お酒として飲まれるのはエタノール(日本語の名称で は、「酒精」ともいいます)です。エタノールは体内に入 ると、酵素の働きにより、最終的に水と二酸化炭素に 分解されて、汗や尿、呼気から排出されます。 http://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/guidebook/health/about/index.html エタノール • エタノール C2H5OH • メタノール CH3OH • プロパノール C3H7OH エタノールを飲むと http://www.suntory.co.jp/arp/main /what/index2.html エタノールの脳への効果 1 http://www.suntory.co.jp/arp/main/what/index2.html エタノールの脳への効果 2 • ドーパミンの分泌促進 – 脳内で楽しさや心地よさといった感情を生み出す 神経伝達物質 • セロトニンの分泌促進 – 過剰な動きや不安、恐怖といった感情を抑え、気 持ちを鎮静化させるためにはたらく脳内物質 エタノールの脳への効果 3 • グルタミン酸受容体の阻害 – グルタミン酸は脳内の神経伝達物質 – 筋肉の力が抜ける。動作の協調性がくずれる – 言葉がもつれる。脈拍や呼吸が乱れる。 • NMDA受容体の阻害 – グルタミン酸受容体の1種 – ものごとを記憶できなくなる。 • GABA受容体の活性化 – 不安感の除去、鎮静作用 グルタミン酸 GABA (γ-アミノ酪酸) お酒の分類 • 醸造酒 – 酵母の発酵作用によって製造するお酒 – ワイン、ビール、日本酒など • 蒸留酒 – 醸造酒を蒸留して、アルコールの濃度を上げたお酒 – ウイスキー、ブランデー、ウオッカ、焼酎など • 混成酒 – 蒸留酒や醸造酒に、ハーブや果実、糖類などのエキスを 加えたお酒 – 梅酒など 生命科学はお酒の研究からスタートした 葡萄の果汁 ワイン ブドウ糖 (C6H12O6) 発酵 エタノール (C2H5OH) ワインの作り方 エタノール発酵を担う生物:酵母 ビール酵母 (出芽酵母) 発酵研究の歴史 •1680年 レーエンフック (Leeuwenhoek):酵母を発見。 •1789年 ラボアジェ(Lavoisier):発酵の際にブドウ糖がアルコールと二酸化炭素に分 解することを定量的に示した。 •1800年 フランスの学士院: 発酵の原因究明のために,解明者には金1kgという懸 賞金を付けて論文の募集を行った。そこで,化学者や生物学者が一番乗りをねらって 研究することになった。 •1837年 シュワン(Scwann): 酵母が発酵を起こすと初めて主張。 •ベルツェリウス (Berzelius):シュワンにまっこうから反対して触媒が発酵を起こさせる と主張。 •リービッヒ((Liebig):酵母が死ぬときに生じる物質が触媒として糖に作用して発酵を起 こさせると述べた。 •パスツール(Pasteur) :ブドウのしぼり汁を煮沸すると,発酵が起こらないことを実証し、 「生命のないところに発酵なし」を主張。 •ブフナー(Buchner):酵母のしぼり汁に腐り止めのためスクロースを加えておいたとこ ろ,発酵することを発見。 酵母の細胞内にある酵素の触媒作用が発酵の原因である ことを証明。1907年のノーベル化学賞受賞。 グルコース 砂糖、乳糖、麦芽糖 でんぷん、グリコーゲン http://www.glico.co.jp/kinenkan/sogyo/sogyo2.html ビールの作り方 日本酒の作り方 麹菌 (Aspergillus oyzae) 麹とは http://www.sennen-koujiya.jp/about/koujinokihon 主なアルコール代謝 アセトアルデヒド • アセトアルデヒドは、血中濃度が数μM以上に なると薬理作用が現れ、血中濃度が10μM以 上に上昇すると、顔面紅潮(顔面発赤)、頭痛、 悪心(嘔気)、嘔吐などの、中毒症状が現れ る。 アセトアルデヒドの分解 アセトアルデヒドを酢酸に代謝するALDH(アルデヒド脱水素酵素)には、 ALDH1と、ALDH2の、二つのアイソザイムが、存在する。 ALDH1は、ミトコンドリア外の細胞質に存在するので、アセトアルデヒド(飲酒 に際して、エタノールが、アルコール脱水素酵素により代謝され生成される) の除去には、有用でない(Kmは、約100μM)。 ALDH2は、ミトコンドリア内に局在する。飲酒に際して生成されるアセトアル デヒドは、主に、ALDH2により、代謝(処理)され、酢酸に酸化される。ALDH2 の方が、アセトアルデヒドに対する親和性が高く、アセトアルデヒドは、主に、 ALDH2により代謝を受ける。 ヒトのゲノム ヒト染色体 ALDH2の個人差 1 ALDH2には、活性を有するALDH2*1(活性型)と、活性を有しないALDH2*2(不活性 型)という、2種類の遺伝子多型が、存在する。 ALDH2*1/*1遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で完全に処理する(アセトア ルデヒドを代謝する能力が高い)ので、飲酒しても、血中に、アセトアルデヒドが殆ど 増加しないので、お酒に強い(アルコールを多量に飲める)。 ALDH2*1/*2遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で十分に処理出来ないので、 飲酒すると、血中に、アセトアルデヒドが増加してしまい、顔面紅潮(顔面発赤)や、 動悸(心悸亢進)などが起こり、お酒に弱い(大量の飲酒は出来ないが、適量の飲酒 は出来る)。 ALDH2*2/*2遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で全く処理出来ない(アセト アルデヒドを代謝出来ない)ので、少量、飲酒しただけで、血中に、アセトアルデヒド が増加してしまい、顔面紅潮(顔面発赤)などの症状が出現するので、全く、飲酒出 来ない。このようなALDH2*2/*2遺伝子型の人は、フラッシャー(flusher)と呼ばれ、 ビール50mlを飲んだだけでも、アセトアルデヒドの血中濃度が数μM以上に上昇し、 顔面紅潮などの症状が出現する。ALDH2*2/*2遺伝子型の人(フラッシャー)は、白人 では約1%しかいないが、日本人では約10%いると言われる。 ALDH2の個人差 2 ALDH2の個人差 3 ALDH2*2/*2遺伝子型の人は、白人では約1%しかい ないが、日本人では約10%いると言われる。 日本人 の40%の人は、ALDH2が、遺伝的に変異していて、 ALDH2の活性が欠落した人(ALDH2*2のホモ接合型) と、ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接 合型)が、存在する。 ALDH2*2/*2の人がお酒を飲むということは、毒である アセトアルデヒドを飲むことと同じ。 酵母も人も同じメカニズムで グルコースを分解している