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平成24年度現代物理学実験B班
~ガンマ線を測定してみよう~
B班:宮澤典裕 澤田涼
三宅隼斗 延山知弘
成塚政裕 阪上朱音
土田裕次郎 伊藤誠人
実験の課題
• エネルギーキャリブレーション
(ガンマ線検出器の調整)
• 鉛板によるガンマ線遮蔽の度合いの法則の
確認
• 環境放射線(自然放射線)の測定
普段私たちが浴びている放射線の元は?
• 未知の放射性同位体の同定
放出されるガンマ線のエネルギーから放射線
源を推定する
どうやってガンマ線を測定するか
ガンマ線測定にはNaIシンチレータという以下の
器具を用います。
ガンマ線のエネルギーについて
• ガンマ線は電磁波の一種であり、そのエネル
ギーはプランク定数hと振動数νを用いてhνと
表すことができる。
• その単位としてeV(電子ボルト、電子1つが1V
の電位差によって得るエネルギー)を利用し、
keV(キロ電子ボルト。けぶと読む)やMeV(メ
ガ電子ボルト。めぶと読む)を用いる。
• 以下ガンマ線の種類はkeVやMeVで識別する。
エネルギーキャリブレーション
縦軸:カウント数 / 横軸:エネルギー[ch] (≠[keV])
キャリブレーションとは
• NaIシンチレータで検出されるガンマ線のエネ
ルギーの単位は、0ch~1023chの1024段階
のDigitalなデータであり、このchの単位に意
味はない。
• それをもともとのガンマ線がもつエネルギー
(単位keV)と対応付けてやる必要がある。
• そこで既知のエネルギーのガンマ線を出す放
射線源を測定し、データの単位とエネルギー
の対応を調べる。
エネルギーキャリブレーション
• 今回の目的:
スペクトルのピーク位置[ch]とガンマ線のエネルギー
[keV]の関係式を求める.
• 実験方法:
137Cs,60Co,133Baの密封線源を測定し,それぞれの線
源で確認されるピーク位置に対し,文献値での各エネ
ルギーを対応させて関係性を見る.
光電効果とコンプトン散乱
• 同じエネルギーのガンマ線から2通りの蛍光がある
ガンマ線のエネルギー:hνに対し
1. 光電効果
𝐸 = ℎ𝜈 − 𝑊
2. コンプトン散乱
𝐸𝑒 =
より,
(𝑚𝑒 𝑐 2 )2 +(2ℎ𝜈+𝑚𝑒 𝑐 2 )2
2(2ℎ𝜈+𝑚𝑒 𝑐 2 )
𝑇𝑒 = 𝐸𝑒 − 𝑚𝑒 𝑐 2
60Co,137Csのエネルギー測定
・
137Cs
の線量測定結果
・バックグラウンドの線量測定結果
ch
Energy/keV
Cs
224.367
661.65
コンプトン 164.458
477.33
60Co及び,137Csの線量測定
・
60Co
の線量測定結果
ch
Energy/keV
60Co
441.327
1332.47
385.868
1173.21
コンプトン 370.560
1118.08
320.807
963.40
ピーク位置の決定方法
スペクトルのピークの分布は「ガウス分布」に従うとして算出
中心を𝑥 = 𝑢として、
𝑓 𝑥 =
2 /2𝜎 2
1
−(𝑥−𝑢)
𝑒
となるため,
2𝜋
縦軸を対数でとり,放物線をfitさせる.
このときの頂点をピーク位置とした.
60Co,137Csのエネルギー測定による
キャリブレーション
ch
Co
Co
Cs
Energy/keV
441.327
1332.47
385.868
1173.21
224.367
661.65
133Baのエネルギー測定
・
133Baの線量測定結果
133Baのエネルギー測定
・
133Baの線量測定結果
ch
Energy/keV
Ba
122.616
356.00
101.429
302.85
29
81.00
コンプトン 77.587
207.25
63.760
164.27
17.194
19.50
60Co,137Cs,133Baのエネルギー測定による
キャリブレーション
ch
Co
Co
Cs
Ba
Ba
Ba
441.327
385.868
224.367
122.616
101.429
29
Energy/keV
1332.47
1173.21
661.65
356.00
302.85
81.00
エネルギーとピーク位置の関係式(キャリブレーション)として,
(エネルギー[keV])=3.1089×(ピーク位置[ch])-33.956
残差より,±25[keV] までの幅を考慮する.
が成立
鉛板による遮蔽
目的
• 異なるガンマ線源(Cs, Co, Ba)を用いて、Pbに
よる遮蔽について測定。
• 測定結果からPb板の厚みと吸収された光子
数からPbの吸収係数をもとめ、関係性を考察
する。
理論
鉛板の厚み:X
光子数:N=N(X)
⇒NとXの関係式を求める。下記の状況を考える。
関係式の導出
• 微小間隔:ΔXをNの光子が通過後の増分:ΔN
⇒・ΔX=0の時、ΔN=0
・ΔXは微小として1次近似としてΔN∝NΔXと考え
る。
dN
 kN
⇒比例係数:kとして dX
⇒N=Aexp(-kx), (A:const.) kを吸収係数という。
実験方法
・道具
NaIシンチレーター、鉛板(2mm)、線源(Co, Cs,
Ba)
・方法
線源の前方に厚さを変えて鉛板を置き、ガンマ線
のエネルギー分布をみる。
⇒光電効果のエネルギーピークを観測し吸収係数
の算出
NaIシンチレーター
鉛板(1枚2mm)
線源
解析方法
• EXCELを用いてエネルギーピークの光子数を
算出
および、補正(Compton散乱,環境放射線などの
backgroundの考慮)
・XとNの相関グラフを出す。⇒吸収係数k⇒
吸収長:ℓ=1/k⇒質量吸収係数(㎠/g)=ℓ/11.34
⇒文献値と比較。 (鉛の密度11.34g/cm³)
30000
25000
光
子
数
20000
y = 25019e-0.102x
R² = 0.9999
15000
10000
5000
0
0
5
10
15
20
25
鉛板の厚み
実験結果
補正後データ
吸収係数
(mm⁻¹)
吸収長(cm)
質量吸収係数
(㎠/g)
Cs
(662keV)
0.0102
0.980392
0.086454
Co
(1173keV)
0.14
0.714286
0.062988
Co
(1333keV)
0.173
0.578035
0.050973
Ba
(356keV)
0.109
0.917431
0.080902
考察
• 文献値との比較
質量吸収係数
(㎠/g)
実験値
文献値
誤差(%)
Cs(662keV)
0.08645
0.1035
16.5%
Co
(1173keV)
0.06298
0.05957
5.7%
Co
(1333keV)
0.05097
0.05443
6.5%
Ba
(356keV)
0.08090
0.2656
70.5%
参考文献, XCOM: Photon Cross Sections Datebase
http://www.nist.gov/pml/data/xcom/index.cfm
100000
Pb0
10000
1000
Pb0
100
10
1
0
200
400
600
800
1000
1200
100000
10000
1000
Pb0
Pb1
Pb2
100
Pb3
Pb4
Pb5
Pb10
10
1
0
0.1
200
400
600
800
1000
1200
考察
• 補正の手法
各班によって、補正の仕方は複数あった。
・Compton散乱を考慮した補正
⇒近似の面積の取り方(形状)により異なる。
・環境backgroundを考慮した補正
⇒環境放射線の影響をとりのぞく。
などなど・・・
環境放射線
• 密封線源以外に、天然に存在する核種による環境
放射線が存在する
• 密封線源を置いたときの測定のときにも環境放射
線によるバックグラウンドの寄与を考えなければな
らない
• バックグラウンドを測定し、測定した線源のスペクト
ルからバックグラウンドを引き去ることで、線源から
のみのガンマ線によるスペクトルが得られるので
は?
実験方法
• 密封線源を置かない状態で一晩ガンマ線スペクトル
を測定した。
測定時間:57546秒
観測されたバックグラウンドのスペクトル
確認できた光電効果によるピーク
ウラン系列
214Bi・・・609keV
214Bi・・・1120keV
214Bi・・・1764keV (半減期19.7分)
トリウム系列
208Tl・・・2614keV (3.05分)
228Ac・・・911keV (6.15時間)
天然放射性同位元素
40K・・・1461keV (12.7億年)
コンプトン散乱により得た電子の運動エネルギーの最
大値(コンプトンエッジに対応)
・・・2E^2/(m+2E)
E
40K
コンプトンエッジ
1461keV 1244keV
208Tl 2614keV 2382keV
(E:ガンマ線のエネルギー
m:電子の質量)
バックグラウンドを考慮した線源のスペクトル
• 線源の単位時間あたりのカウント数から測定した
バックグラウンドの単位時間あたりのカウント数を引
き去る
未知物質X,Yの特定
前提として・・・
エネルギーキャリブレーションより
X[Ch]とγ線のエネルギーy[KeV]の関係の係数a,b として
a=0.0031
Y=ax+b
b=-0.0119
の関係があることがわかる。
物質Yについて
Ch-観測回数について以下のグラフが得られる
Kの環境放射が2番目の山であるので
3つの山が物質Yの出したガンマ線であることがわかる
物質Yのγ線分布
観測時間 3567s
1000
①
800
カリウム
600
400
②
③
200
0
0
-200
200
400
600
800
1000
1200
①②③の数値がガウス分布
となることがわかっているので、
対数を取って二次関数近似をすることによりその頂点を求める。
①についてLogをとって二次関数近似
6.6
6.4
6.2
6
5.8
5.6
y = -0.0054x2 + 2.9949x - 409.9
R² = 0.968
5.4
260
265
270
275
と近似でき、頂点のx座標[ch]は
280
285
290
277.3056[ch]
295
②について
4.5
4
3.5
3
2.5
y = -0.0007x2 + 0.8205x - 232.98
R² = 0.7823
2
530
540
550
560
570
580
と近似でき、頂点のx座標[ch]は
590
600
610
620
586.0714[ch]
630
③について
4
3.5
3
2.5
2
y = -0.0007x2 + 0.9372x - 312.82
1.5
1
630
640
650
660
670
680
と近似でき、頂点のx座標[ch]は
690
700
710
669.4286[ch]
720
以上よりγ線の頂点のchをMeVに変換すると
ch
MeV
①
277.3056
0.847747
②
586.0714
1.804921
③
669.4286
2.063329
これより
847.7 1805 2063 KeV
近くのエネルギーを出す物質を調べる。
半減期が1h以上の放射化物を集めた以下の表を用いて放射化物を調べた。
一番左のEnergy順におよそ2000個ほどある
この表より
847.7[KeV]の近傍
1805[KeV]の近傍
2063[KeV]の近傍
観測されうる物質Yの条件として
・半減期が極端に長すぎない(101 y)
・Intensity(崩壊確率)が小さすぎない(10−1 )
・中性子をあてる前の物質が安定である
・848 1805 2063 KeV 程度のエネルギーの
γ線を出す。
以上より物質Yを絞ると
56
Mn
であると予想できる。
与えられた表より
56
Mn について
半減期が2.579h としては観測されうる範囲であるので妥当である。
56
Mn が放出するγ線のエネルギーは 2113[KeV] 864.7[KeV] 1810[KeV]
2522[KeV]であり、観測された①が864.7[KeV]、②が1810[KeV] 、③が
2113[KeV]に相当すると考えられる。
2522[KeV]についてはこの中では放出確率が最も低く観測されにくい
以上の考察よりこの物質Yが 56Mn であることがわかった。
物質Xについて。
Ch-観測回数について以下のグラフが得られる
物質Xのγ線分布
1600
①
観測時間 1538s
1400
1200
1000
800
600
カリウム
400
200
0
0
-200
200
400
600
800
1000
1200
このグラフについては①があまりに強く見えるため、バックグラウンドで
ある自然放射に埋もれてそのほかのγ線が確認しずらくなっている。
よって、物質Xを取り除いたバックグラウンドのγ線を測定し先ほどの結果
から引くことで厳密に物質Xが放出したγ線について調べる。
物質X観測時のバックグラウンド
400
観測時間 506s
350
300
250
200
150
100
50
0
0
200
400
600
800
1000
1200
単位時間当たりについて物質Xの分布からバックグラウンド
を引いたものが以下である。
0.9
①
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
100
200
300
400
500
-0.1
これより①以外にγ線は観測されていないことがわか
る。
600
700
同様に対数を取って二次関数近似をすることによりその頂点を求
める。
①についてLogをとって二次関数近似
0
130
132
134
136
138
140
142
144
146
-0.5
-1
-1.5
-2
y = -0.0223x2 + 6.1947x - 430.02
-2.5
と近似でき、頂点のx座標[ch]は
138.1356[ch]
148
150
以上よりγ線の頂点のchをMeVに変換すると
ch
①
MeV
138.8946 0.418673
これより
419 KeV
近辺のエネルギーを出す物質を調べる。
この表より
419[KeV]の近傍
観測されうる物質Yの条件として
・半減期が極端に長すぎない(101 y)
・Intensity(崩壊確率)が小さすぎない(10−1 )
・中性子をあてる前の物質が安定である
・419KeV のエネルギーのγ線を出す。
以上より物質Yを絞ると
中性子をあてる前が安定であるとい
う条件に注目して物質を絞ると、
次にIntensityが小さすぎないことより
物質Xを絞ると
198
Au
であること予想できる
198
Au
について
半減期は 2.70days であり、短すぎず測定不可能な値でない。
198
Au が放出するγ線のエネルギーは 411.80[KeV]
675.88[Kev]1087.7 [Kev]の3種類である。
411.80[Kev]のエネルギーについては観測結果の①である。
675.88[KeV] 1087.7[Kev]のエネルギーについては崩壊確率が
どちらも1%以下であるので今回の観測時間では測定できな
いと考えられる。
以上の考察よりこの物質Xが 198Au であることがわかった。
まとめ
エネルギーキャリブレーションを測定し、環境放射線について学んだことを元
に放射化された未知物質の特定を行った。
条件としては、およそ2000程度ある一覧表から2個を特定する作業は大変で
あった。
物質Xについては特定方法の大部分が放射化する前が安定という条件をつ
かったが、他の条件をいかせればよかったと思う。
5日間を通して教授やTAたちと質問をしながら現代物理学という普
段なじみのない学問を少しでも学べたので大きな収穫であった。
最後になりましたが、我々学部生ごときに対して、Auというき
わめて高価な物質を教授自ら発掘して、実験材料にしてい
ただいたことに対しては感謝の意を申し上げたいと心より思
うばかりである。