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量子ブラックホールのホログラム的記述
の数値的検証
西村 淳 (KEK理論センター、総研大)
平成26年5月21日(水)、日大理工学部セミナー
論文題名:“Holographic description of a quantum black hole on a computer”
Science オンライン版 4月17日号掲載
arXiv:1311.5607 [hep-th]
花田政範(京大基研)、百武慶文(茨城大理)、伊敷吾郎(京大基研)、西村淳(KEK理論センター)
ブラックホールの謎
ブラックホール : アインシュタイン方程式の解として現れる時空構造
「事象の地平面」を超えて中に落ち込むと、二度と出てこられない (?)
ホーキング放射 (1974) : ブラックホールは、少しずつ粒子を放出しながら
少しずつ蒸発している!
(事象の地平面周辺における真空の量子論的性質のため)
ところが、放出される粒子を見ても、何が落ち込んだかはわからない。
量子力学における時間発展がユニタリであることと矛盾する ?!
情報喪失のパラドックス (ホーキング, 1976年)
Wikipediaより引用
「ブラックホール情報パラドックス」
特に、ホーキングの計算[3]は、ホーキング放射による
ブラックホールの蒸発が情報を保存しないことを示した。
今日では、多くの物理学者が、ホログラフィック理論
(特にAdS/CFT対応)がホーキングの誤りを示し、
情報は実際は保存されると信じている[4]。
2004年、ホーキング自身も賭けに負けたことを認め、
ブラックホールの蒸発は、実際は情報を保存している
ことに同意している。
ホログラフィック理論 : ブラックホールのホログラム的記述
(1997 マルダセナ)
重力理論
超対称ゲージ理論
(ユニタリ性が明白)
ホログラフィック理論の検証
ホログラフィック理論 (ゲージ/重力対応)
ブラックホールのように曲がった時空で起こる力学現象を、
平坦な時空上の超対称ゲージ理論で厳密に記述できる
これまでの検証 : ブラックホールが十分大きく、古典的に記述できる状況
少なくとも、事象の地平面の外側では
一般相対性理論が適用可能
我々が行った検証 : ブラックホールが小さく、事象の地平面付近でも
重力の量子力学的効果が無視できない状況
目次
1. 研究の背景と概要
ブラックホールの蒸発
新理論の必要性
マルダセナによるブラックホールの「ホログラム的記述」
これまでの研究、本研究で初めてなされたこと
2. 研究内容と成果
マルダセナの理論に基づき、ブラックホールの質量と温度
の関係を計算
重力の量子力学的効果を含めた、新しい検証
3. まとめと展望
ブラックホールの蒸発に関する謎の解明に向けて
1. 研究の背景と概要
ブラックホールとは?
大きな質量を持った物体が、非常に小さな領域に
押し込められたときに形成される時空構造
一般相対性理論 (アインシュタインが1915~16年に提唱した重力理論)
重力の起源は時空の曲がり具合に由来する
ニュートンの万有引力の法則は近似的にしか正しくない!
事象の地平面
事象の地平面を越えたら、
光速でも脱出できない。
ブラックホールの蒸発
何もないように見える「真空」も、微視的に見ると実はすごくダイナミック。
粒子
真空
反粒子
ホーキング (1974)
反粒子 粒子
ブラックホールは、
いろんなエネルギーを持った粒子を
放出し、少しずつ蒸発している!
?
あたかもブラックホールの中に
温度を持った物体があるように見える
この「ブラックホールの温度」の正体は何か?
ブラックホールの中で一体何が起こっているのか?
新理論の必要性
• ブラックホールの中心 : 時空の曲率(曲がり方)が発散!
曲率半径がプランク長
程度になると、重力の量子力学的効果
が無視できなくなる
一般相対性理論の限界
そのような状況で適用可能な重力理論が必要!
重力の量子力学的効果 (量子重力効果)
そもそも量子力学とは?
 20世紀初頭に確立したミクロの力学法則。
 すべての物理量は不確定性を持つ。
 測定したときに、どういう値がどういう確率で得られる、
というような確率的な予言しかできない。
 巨視的な現象においては、不確定性が十分小さく、
ニュートン以来の古典力学が良い近似を与える。
 しかし、微視的な現象においては、不確定性が無視できず、
それを考慮しないと、正しい予言ができない。
アインシュタインの一般相対性理論 = 重力の古典力学
曲率半径がプランク長
程度になると、
重力の量子力学的効果が無視できなくなる
時空そのものが不確定性を持って揺らいでいるような状況
超弦理論
弦の振動の仕方で様々な粒子を表す理論
力
を
媒
介
す
る
粒
子
光子など
(ゲージ粒子)
グラビトン
(重力子)
重力を含めて、力を微視的に(量子力学的に)扱える
一般相対性理論では無視されている
「重力の量子力学的効果」を扱える理論の最有力候補
ブラックホールの中心付近も正しく扱えると期待!
超弦理論の研究の進展

80年代 量子力学的効果が弱い場合の研究
様々な成果が得られたが、このような研究手法だけでは
ブラックホールの中心付近が調べられない。

95年頃 「弦の凝縮状態」(ブレーン)の解明
ポルチンスキー(1995)
点状
ひも状
・・・一般次元の「膜」
膜状
membrane
総称してブレーン
ブレーンは質量を持つため、時空を曲げてブラックホールを形成。
(一般には「ブラック・ブレーン」)
マルダセナの理論
マルダセナ (1997)
?
マルダセナの理論
マルダセナ (1997)
弦
ブレーン
これらの力学的自由度を
もちいることにより、
ブラックホールが厳密に
記述できるはず!
弦とブレーンから成る系は、平坦な時空上の理論で表される
ブラックホールの「ホログラム的記述」
これまでの研究
ブレーン(ブラックホールの構成要素)の数が非常に多い場合
大きなブラックホールに対応し、
事象の地平面付近の曲率が小さいため、
そこでの量子重力効果が無視できる。
ブラックホールの性質を
周辺から調べられる
両者が一致!
弦
ブレーン
平坦な時空の理論を用いた計算
(解析的に可能)
マルダセナの予想どおり、ホログラム的な記述が
ブラックホールの内部を正しく表している!
未解決問題
ブレーン(ブラックホールの構成要素)の数が少ない場合
小さなブラックホールに対応し、
事象の地平面付近の曲率が大きいため、
そこでの量子重力効果が無視できない。
ブラックホールの性質を
周辺から調べるにも、
超弦理論を用いた計算が必要
?
弦
ブレーン
平坦な時空の理論を用いた計算
(解析的には困難)
このような一般的な状況で、マルダセナの予想どおり、ホログラム的な記述が
ブラックホールの内部を厳密に表しているかは不明だった。
本研究で行ったマルダセナの理論の数値的検証
ブラックホールの質量と温度の関係
特に、ブラックホール周辺の量子重力効果が無視できない領域
でどうなるか?
ブラックホールの構成要素(ブレーン)の数が少ない場合
平坦な時空上の理論 (ホログラム的記述)
に基づいてコンピュータで計算
従来の超弦理論を用いて、ブラックホール周辺
の量子重力効果を近似的に計算
(Y. Hyakutake, Prog.Theor.Exp.Phys. 033B04, 2014)
比較する
ことで検証
計算の結果:ブラックホールの質量と温度の関係
ブラックホールの質量
N:構成要素(ブレーン)の数
N=3, 4, 5の場合
先行研究では、Nが大きく
ブラックホール周辺の
量子重力効果が無視できる
状況で検証
cf) N=17の場合
Anagnostopoulos-Hanada
-Nishimura-Takeuchi,
PRL 100 (2008) 021601
温度
□、○、♢のシンボル :「ホログラム的記述」を用いて計算した結果(本研究)
一点鎖線、破線、実線 :従来の超弦理論に基づき、ブラックホール周辺の
量子重力効果を計算した結果(別の研究)
両者が良く一致している
重力の量子力学的効果を含んだ検証
2.研究内容と成果
マルダセナのホログラフィック理論とは
D ブレーン
超弦理論における「ソリトン解」
(Dirichlet)
グラビトンの放出
ゲージ粒子の伝播
N
次元 U(N) SYM
低エネルギー極限
曲がった10d 時空
ストリングのループ補正
補正
D0-ブレーンの系 : 1d SYM with 16 SUSY
1d ゲージ理論
周期的境界条件
反周期的境界条件
(一般性を失うことなく、こうとれる)
低温(T小)
高温(T大)
強結合
弱結合
重力による記述が良い領域
高温展開で扱える領域
Kawahara-J.N.-Takeuchi (’07)
D0-ブレーン解 (重力理論における記述)
decoupling 極限
重力理論による記述
が有効である領域 :
をとった後、
ブラックホールの熱力学
 D0 ブレーン解
Hawking 温度 :
Bekenstein-Hawking エントロピー :
7.41
重力理論による記述が有効である領域 :
Klebanov-Tseytlin (’96)
内部エネルギーに対する結果
Anagnostopoulos-Hanada- J.N.-Takeuchi,
PRL 100 (’08) 021601 [arXiv:0707.4454]
free energy
高温展開
(next-leadingの次数を含む)
10次元のブラックホール
から得られた結果
超重力理論の作用に対する
補正
タイプ IIA 超弦理論の低エネルギー有効作用
ゼロ質量のモードに対する(treeレベルの)散乱振幅
leadingの項 : タイプ IIA 超重力理論の作用
2点 および 3点の振幅に対する具体的な計算
4点の振幅
完全な表式はまだ得られていないが、
次元解析を行うことができる。
ブラックホールの熱力学に
補正を取り入れる
ブラックホールの地平面付近における時空の曲率半径
補正
次のオーダーの補正
とおくと、
より注意深い解析を行っても同じ結論が得られる。
(Hanada-Hyakutake-J.N.-Takeuchi, PRL 102 (’09) 191602)
補正を入れた比較
Hanada-Hyakutake-J.N.-Takeuchi,
PRL 102 (’09) 191602 [arXiv:0811.3102]
補正
傾き = 4.6
有限のカットオフの効果
のデータ点は
で良くフィットできる
超重力理論の作用に対するストリングのループ補正
タイプIIA超弦理論からわかる
1ループ
Bern, Rozowsky, Yan
Bern, Dixon, Dunbar,
Perelstein, Rozowsky
2ループ
SYMの振幅に対する KawaiLewellen-Tye 関係式を用いる
負の比熱 !
N が小さく、非常に低温の領域
有限の N では準安定状態にすぎない
(flat directionsが存在するため)
準安定な束縛状態の同定と
エネルギーの測定
D0-ブレーンの広がり :
ヒストグラムにピークあり
準安定な束縛状態
の存在
に制限して
測定したエネルギー
に依らなくなっている
領域でエネルギーを評価
1/N 補正
ストリングのループ補正
タイプIIAの超弦理論を用いた
具体的な計算による
(Hyakutake, PTEP (2014) 033B04)
これに対する高次の補正は
これを検証するには:
ストリングのループ補正を検証する
Ishiki-Hanada-Hyakutake-J.N., arXiv:1311.5607 [hep-th]
モンテカルロの結果は、確かにストリングのループ補正と整合 !
3.まとめと展望
まとめ
 ブラックホール
一般相対性理論から導かれる曲がった時空構造の一つ
いったん入ると出てこられない。
 ブラックホールの蒸発
「温度」を持った物体のように、いろいろなエネルギーを持った粒子を放出し、
少しずつ「蒸発」している (ホーキング)。
 ブラックホールの中で一体何が起こっているのか?
ブラックホールの中心付近で、時空の曲がり具合が発散し
一般相対性理論が破綻するため、新理論が必要。
 ブラックホールの「ホログラム的記述」 (マルダセナ)
平坦な時空の理論を用いて、ブラックホール内部まで厳密に記述
これまでの検証 : 周辺の量子重力効果が無視できる場合が中心
本研究の結果 : 周辺の量子重力効果を含めて正しいことを示唆
今後の展望
 従来の超弦理論に基づく計算
ブラックホール周辺における弱い量子重力効果は取り入れられるが、
ブラックホール内部などにおける強い量子重力効果は計算できない
 マルダセナの「ホログラム的記述」
ブラックホールの内部も含め、強い量子重力効果を計算可能
ブラックホールの蒸発に関連した様々な謎の解明
(例) ブラックホールにおける情報喪失問題
ホーキング(1976)
ブラックホールの蒸発過程で放出される粒子から、
落ち込んだ物体が持っていた情報を読み取ることはできない
情報は失われない、とする量子力学の基本的性質と相容れない
量子力学と一般相対性理論の間の深刻なパラドックス
「ホログラム的記述」は、ブラックホールが時間的に変化していく状況にも適用可能
と期待されるので有望
より広い視野から見たコメント
 本研究 : 多くの先行研究を受け継いだもの
その流れの中で得られた研究成果の一つ
 マルダセナによるブラックホールの「ホログラム的記述」
超弦理論の新しい研究手法の一つとも見なせる
一般相対性理論を越えて、
重力の量子力学的効果を扱える理論の最有力候補
今回の研究成果を一つの契機として、
マルダセナの理論、超弦理論の研究がさらに進展し、
重力の量子力学的効果が重要となる、宇宙の始まりや宇宙の成り立ち
について、新しい知見が得られることが期待される
本研究に使用した計算機 :
KEKのPCクラスター
大阪大学のPCクラスター (HPCI一般利用課題により提供)
4.バックアップ・スライド
超弦理論とは?(補助スライド)
強い力の閉じ込めを説明することを動機として、弦理論が提唱された。
Veneziano, Nambu, Goto, …
反クォーク
クォーク
開いた弦(強い力を伝える)
この試みは失敗したものの、閉じた弦には重力が含まれるなど、
超弦理論は着実に進展した
Scherk, Schwarz, Yoneya
閉じた弦(重力を伝える)
1980年代になると、超弦理論は10次元で5種類存在することが分かる。
Green, Schwarz, Witten,…
1990年代半ばにはブラックホールに相当する「ブレーン」と呼ばれる物
体の存在が明らかになった。
Polchinski(1995)
ブラックホールの「ホログラム的」記述
ブラックホールの熱的物理量は、「事象の地平面」において計算できる。
3次元空間の物体
2次元球面
ブラックホールのミクロな状態は、「事象の地平面」の量子状態に
よって理解できるのでは?
「ホログラム」あるいは「ホログラフィック原理」
‘t Hooft(1993)
Susskind(1994)
hep-th/9409089,Susskind
1997年、マルダセナはこの考えを超弦理論の中で実現できる可能性
を提唱した。
重力の量子効果が重要になるスケール
3つの基本物理定数
h (プランク定数)
量子力学
c (光速)
相対性理論
G (ニュートンの重力定数) 万有引力の法則
長さ、時間、質量の単位を組み合わせて書けている。
プランク長さ
時空の曲率半径がプランク長さくらいになってきたら、
重力の古典論(一般相対性理論)は使えない。
重力の量子論(超弦理論)