Transcript ビーム軸からの図
ポジトロニウム超微細構造の 直接測定 2011.1.25. 修士学位論文審査会 宮崎彬 1 目次 • イントロダクション&モチベーション – ポジトロニウムとその超微細構造 – 超微細構造間の直接測定 • 光学系 – ジャイロトロン – ビーム伝送系 – Fabry-Pérot Cavity • • • • 放射線検出器系 イベントセレクション 解析結果 超微細構造測定の予定 2 ポジトロニウム(o-Ps, p-Ps) • オルソポジトロニウム(o-Ps) スピン3重項 e+ e- 光子と同じ量子数 o-Ps → 3g (, 5g, …) 長寿命142nsec 連続的なエネルギースペクトル o-Ps • パラポジトロニウム(p-Ps) スピン1重項 e+ e- スカラー粒子 p-Ps p-Ps → 2g (, 4g, …) 短寿命0.125nsec 511keVのγ線2本をback-to-backに放出 3 ポジトロニウム超微細構造(Ps-HFS) • スピン・スピン相互作用に よって生じる、基底状態のp-Ps とo-Psのエネルギー準位差 203GHz = 0.84meV (c.f. 水素原 子では1.4GHz) • Psは質量が小さいため, 相互作用が大きい • o-Psは光子と同じ量子数. 量子振動の寄与が87GHz o-Ps o-Ps e+ e+ γ* e- 2me e- o-Ps Ps-HFS p-Ps 4 3.9σ のずれ 独立した2つの実験値 が一様にずれている 3.9s (15 ppm) のずれ 実験値 203.388 65(67) GHz (3.3 ppm) 理論計算値 O(a3) QED 203.391 69(41) GHz (2.0 ppm) 過去の実験は磁場によるZeeman効果を用いて間接測定 直接測定によって検証を行うことが最終目標 5 Ps-HFSの直接測定 エネルギー準位 e+ e- 203GHz o-Ps (寿命142nsで3g崩壊) M1誘導遷移 e+ e- p-Ps (寿命0.125nsで2g崩壊) • 203GHzの光を照射し, o-Ps→p-Psに直接(M1)誘導遷移させる • 磁場による不定性が存在しない • ミリ波領域における初のM1遷移測定 6 難しい理由 • o-Ps→p-Ps遷移確率(3.37x10-8 /sec)は、o-Ps→3g崩壊確率(7x106 /sec)に比べて14桁も小さい. • これはこの遷移がM1遷移(E1禁制)であり, かつPs-HFSの値が極め て大きい(203GHz = 0.84meV)ため 10kWの光を照射したとき に期待される遷移曲線 → 遷移曲線を測定するのに十 理論計算 分な量の遷移を起こすには, 10kW程度(達成)で200-207GHz の範囲で周波数可変(開発中) なsub-THz光源が必要. まずは直接遷移を観測すること が第一目標 7 実験セットアップ ビーム伝送系 M1 導 波 管 M2 放 物 ミ ラ ー M3 ジャイロトロン 数100Wで周波数可 変なsub-THz光源 22Na β+ 線源 & β+ 検出器 Psはガス中で 生成される + g b e- e+ g Ps γ線検出器 Fabry-Pérot共振器 入力の100倍程度のパワーを 共振器内に蓄積させる 8 実際の写真 9 ジャイロトロン @ 福井大学 • 今実験のために、まずは単色(周波数は 約203GHz)で最大出力約600W, 比較的 安定に約200W(duty 30%)の出力が可 能なジャイロトロンを製作した(右写真). 下図はジャイロトロン出力パワーの空間 プロファイル(TE03モード) Fabry-Pérot Cavity と効率よくカッ プルさせるため に, ビーム変換 が必要 ~ 2m • Sub-THz領域で100W-kWレベルの出力 が可能な唯一の光源 超伝導磁石 7.34T 10 ビーム伝送系 • 3つの放物面ミラーM0, M1, M2でビーム変換, 現在の効率1/3程度 • アパーチャー : ゴミ除去 • Fabry-Pérot Cavityと良く ビーム カップルするガウシアン ビームに変換 M0 アパーチャー ガウシ アン ビーム ステップカット導波管 微調整用 レンズ 11 Fabry-Pérot共振器 (1) 銅球面ミラー 中央にφ0.6穴 金メッシュミラー R = 99.3%, T = 0.5% 入射 共振 50mm 線幅200µm 間隔160µm 厚さ1µm ピエゾステージを用いて 共振器長をコントロールし, λ/2の整数倍に合わせる パイロエレクトリックディテクタで共 振器透過パワーを測定. 共振器に 入射するパワー, 共振器で反射す るパワーは共振器前方(M3)で測定 12 Fabry-Pérot共振器 (2) • 入射ビームのうち共振器と結 合する割合(カップリング C )は、 共振器での反射が共振時に減 少する割合からわかる 0.63 C =1 = 0.66 1.85 • 共振の鋭さの指標(フィネス F)は 共振幅Gと波長l=1.47mmから F= l 2G = 646 • このときの入射パワーPinは72W。 蓄積パワーPintは近似的に以下の式 で求まる F Pint = C Pin = 9.9 kW 共振器で反射するパワー 実測 共振器を透過するパワー 実測 共振幅G=1.1µm 13 検出器系全体像 入射ビーム プラスチックシ ンチレータ (プラシン) t 0.1 22Na線源 1MBq 鉛コリメータ Fine Mesh PMT メッシュミラー LaBr3結晶 銅球面ミラー 100mm N2 0.9 atm + isobutane 0.1 atm ガス 14 実際の写真 15 シグナル (1) ビーム軸からの図 22Na e+ ソース (1MBq) ライトガイド 鉛シールド e+ φ1.5inch x 2inch LaBr3(Ce) 結晶 プラシン φ1.5inch x 2inch LaBr3(Ce) 結晶 203GHz ビーム •ソースから放出された陽電子はプラシンを通過し, ガスで満たされ たビーム領域で停止する •封入ガス -イソブタン 0.1atmとN20.9atmの混合気体 -イソブタンはクエンチャーである 16 シグナル (2) ビーム軸からの図 22Na e+ ソース (1MBq) ライトガイド 鉛シールド e+ φ1.5inch x 2inch LaBr3(Ce) 結晶 o-Ps e+ e- プラシン φ1.5inch x 2inch LaBr3(Ce) 結晶 203GHz ビーム •停止した陽電子の30%がガス中でポジトロニウムを生成する •そのうち75%がo-Psとなる 17 シグナル (3) ビーム軸からの図 22Na e+ ソース (1MBq) ライトガイド 鉛シールド e+ g 511keV e+ e- p-Ps o-Ps: 寿命142ns p-Ps: 寿命125ps プラシン g 511keV 203GHz ビーム •共振器の203GHzビームによってo-Psはp-Psに遷移(〜3%) •p-Psはすぐに2g崩壊を起こす •back-to-backに配置したLaBr3(Ce)結晶でガンマ線を検出する 18 g線検出器 • LaBr3 (Ce) 結晶シンチレータ(直径1.5 inch, 長さ2 inch) – 高いエネルギー分解能 : FWHM=4%@511 keV – 速い減衰の時定数 : 16 ns 高統計の実験可能 – 高い時間分解能 : FWHM=200 ps@511 keV FWHM 4% @ 511 keV 19 + b タグ系 • プラシンの信号陽電子放出時刻 • LaBr3(Ce)の信号との差をとると, o-Ps生成イベント(+アクシ デンタル)と陽電子の対消滅とを分けることが出来る プロンプト崩壊 Timing Window 適切にTiming Windowをとると S/Nが2桁以上良くなる 20 イベントセレクション • 直接遷移のシグナルは寿命を持った2光子崩壊 – 以下のイベントセレクションでエンハンスされる 1. back-to-backに511 keV ± 3s 2. Timing Window 40 ns – 320 ns (今回は100 nsま でノイズが乗っていたので150 nsから) 3. パイルアップレジェクション (1) (3) プラシン LaBr3 トリガー 21 3つのバックグラウンド (BG) イベントセレクションで残るバックグラウンド • 3g崩壊のコンタミネーション • pick-off崩壊(o-Ps中e+が物質中e-と対消滅) • pileup ビーム軸からの図 g g e+ e+ e- g o-Ps •たまにo-Psの3g崩壊がback-to-backに入り, しかもLaBr3の分解 能(FWHM 4%@511keV)の範囲内で511keVと誤認 22 3つのバックグラウンド (BG) イベントセレクションで残るバックグラウンド • 3g崩壊のコンタミネーション • pick-off崩壊(o-Ps中e+が物質中e-と対消滅) • pileup ビーム軸からの図 e+ o-Ps e+ e+ g 511keV e- o-Ps g 511keV •イソブタン0.1atm混合ガス中のo-Psはpick-offによって6%が2g崩壊 •シグナルと同じトポロジーのバックグラウンド 23 3つのバックグラウンド (BG) イベントセレクションで残るバックグラウンド • 3g崩壊のコンタミネーション • pick-off崩壊(o-Ps中e+が物質中e-と対消滅) • pileup ビーム軸からの図 •鉛シールドでソース周りか らのガンマ線の影響を防ぐ •この図では見えないがLaBr3 側面も鉛で覆ってある g 511keV g 511keV 鉛 t10 e+ g 1275keV g 511keV g 511keV •線源周りでの2g崩壊や線源からの1275keVのガンマ線が pileupとして寄与 (ガンマ線シグナルと同時にプラシンでtagされ るものは除去されている) 24 シミュレーションによるBGスペクトラ ム •陽電子と1275 keVのg線をソース位 置からシミュレーション •停止位置で3光子崩壊, 2光子崩壊 させる •データと同じイベントセレクション •Ps生成効率や線源強度でスケール pick-off崩壊 3光子崩壊 パイルアップ back-to-backの相手が511keV±3sの場合の各LaBr3シグナルの和 25 バックグラウンドデータとMCの比 較 •Fabry-Pérot Cavityを共振点からずらした場合のデータとMCを比較 •511keVピークでMCの方が高くなっている 26 パイルアップの間違い, pick-off確率の間違いの可能性 共振時に期待される遷移 •Fabry-Pérot Cavityを共振させた場合のデータとMCを比較 •水色がMCで期待される遷移 27 •MCが合っていないし, 遷移量小さいので遷移の有無はわからない 203 GHzのON-OFF (BGフリー) ジャイロトロンは duty比 30%, 5Hz ONとOFFの差は, 1.8±0.9 mHz 一方シミュレーションでの予想は2.6±1.6 mHzでコンシステント (予想とコンシステントに)直接遷移の観測は出来なかった 28 遷移を見るための改良点 • Timing Windowを正しくとる (シグナル x 2.5) – ノイズ落とし – とりあえず, これで年度末まで走れば遷移見える • 線源をビームに近づける (x 2) • LaBr3結晶をビームに近づける (x 2) • ガス圧を上げて陽電子がビーム内で止まりや すくする. • etc… 29 Timing Window 40ns-320nsの場合 2g annihilation probability • 今回はノイズのせいでとれなかった(150-320ns) • 遷移確率2.5倍に増える • もし今回これが出来ていれば, 3sで見えていたはず 回路を改造しノイズ落とす •100 nsまでのノイズ LaBr3のダブルパルスの影響 TDCをfast clearにして対応 次回の実験ではTiming Window がまともにとれるはず 30 Timing Windowを直したときに1ヶ月のRunで 予想されるシグナル • • • • 改善可能 どこまでいけ るかは不明 シミュレーションに期待される統計量でエラーをつけた ON-OFFは7mHzで見える 1ヶ月のRunで5sで直接遷移が観測出来る 遷移確率は60%程度の精度で測定出来る(光学系の系統誤差50%, 31 シミュレーションの系統誤差10%, 統計誤差20%) 直接測定実験の予定 現在 Timing Window改良後, 今年 度中にsub-THz領域での初 のM1遷移を観測する 2nd step 開発中の周波数可変ジャイ ロトロンを用いて遷移曲線を 観測し, Ps-HFSを直接測定 Ps-HFS直接測定には現在シグナルが小さすぎる 陽電子ビームなどで高統計, 低BGの実験の可能性 32 まとめ • ポジトロニウムの超微細構造には理論と実験で 3.9sのずれが存在している • 203 GHz光学系の開発により, 超微細構造を直接測 定することを目指している • 超微細構造間の直接遷移を見ることが第一目標で ある • 光学系の開発はほぼ終了し, データ取得システム の動作試験を完了した • 現在は直接遷移の観測には至っていないが, ノイズ 対策により年度内に5sで観測し, 遷移確率を60%の 精度で測定する目処が立った • 周波数可変ジャイロトロンの試験を次年度から開始 し, 超微細構造の値を測定する予定である 33 BACKUP 34 ポジトロニウム (Ps) 陽電子 + 電子 − • 電子 e- と陽電子 e+ が電磁相互作用により束縛された状態 – 最も軽い水素様「原子」 – 粒子と反粒子からなる系であり, 対消滅に伴なう未知の素 粒子物理に対する感度が高い – レプトンのみからなる綺麗な系であるため, 束縛系QEDの 精密検証に適している 35 考えられるずれの原因 • 過去の実験に共通する系統誤差 • 理論計算の誤り • 標準理論を超える新たな物理の可能性 過去の実験は全て磁場に依存した間接測定 直接測定によって検証を行うことが最終目標 36 ジャイロトロン (2) 共鳴光 • 電子銃から出た電子が加速され、 磁場中でサイクロトロン運動しな がら共振器に入る. サイクロトロン 運動の周波数 ωc = eB/mg が共振 共振器 器の共振周波数 m n 2 l 2 0 = R L 超伝導 コイル とほぼ一致すると、サイクロトロン 運動のエネルギーが周波数 ω = ω0 = ω の電磁波のエネルギーに変換 c される(メーザー共振). ジャイロトロ 電子銃 ン出力の空間プロファイルはこの共 振モードで決まる円形導波管モード (m=0, n=3ならTE03モード) 7.34 T 電子 アノード カソード 37 ジャイロトロン • 我々が新たに開発している連続的に周波数可変なジャイロト ロンは, reflective gyro-BWO(Backward -Wave Oscillator)と言う ものである。このジャイロトロンでは、共振器の入り口で反射し た後進波(Backward-Wave, BW)が電子と相互作用するため、 共振条件が以下の式に変化する(βzが0でない) eB bz = = mg 2 2 c ω : 電磁波の周波数 ωc : 共振器の共振周波数 Ω : サイクロトロン周波数 βz : 電子の軸方向の速度 • よって、放出される電磁波の周波数を、印加する静磁場の強 さを変えることで変化させることができる 38 ジャイロトロン Gyrotron Blue : Forward Wave Red : Backward Wave 電磁波 e- ハイパワー Gyro-BWO e- 電磁波 Reflective gyro-BWO cavity 周波数可変 電磁波 e- ハイパワー& 周波数可変 Backward Wave はキャビティーの入り口で反射される 39 ビーム伝送系 • ジャイロトロン出力は円形導波管TE03モード. • 一方, Fabry-Pérot共振器の内部モードはガウスビーム. • この2つのモードは全く異なっているため, 200Wのジャイロトロン出 力をそのままFabry-Pérot共振器に入射しても共振器と結合しない TE03 (遠方界、理論計算) ガウスビーム (理論計算) → ガウスビームに変換するモードコンバータが必要 40 ビーム伝送系 (3) ステップカット導波管後 M2後 赤丸がアパーチャー M0後 アパーチャー後 アパーチャーで2/3のロス, レンズで10%のロス ジャイロトロン出力の1/3をFabry-Pérot Cavityへ入射 M1後 レンズ後 Fabry-Pérot Cavity 内部モードと98%一致 41 ガス • 陽電子を停止させ , Ps生成 • 必要条件 – 低速陽電子(バックグラウンド)の寿命が小さい – 203 GHzの共振を阻害しない • 今回の選択 N2 + isobutaneの混合ガス • 停止した陽電子のうち, 30%がPsを生成 N2 100%だと Psと区別不可能 isobutane 10%だと区別可能 isobutaneの 203GHzの吸収 0.1 atmなら許容 42 データ取得システム • NIMモジュールとCAMACを組み合わせたシステム THR 1 P.E. Ps-1 620 kHz 両側読み出しのプラスチックシンチレータ のコインシデンス 520 kHz Ps-2 プラスチックシンチレータとLaBr3信号 のコインシデンスがトリガー THR 20 keV LaBr3-1 LaBr3-2 LaBr3-3 LaBr3-4 280 kHz 11 kHz 530Hz 11 kHz 720 Hz 10 kHz 4つのLaBr3信号のAny Two 10 kHz 43 超微細構造の直接測定へ向けて • 周波数可変ジャイロトロン(Reflective gyro-BWO)は 共振器が完成した段階 – 試験はこれから • 現在のジャイロトロンの別の共振モードを使えば, 199 GHzや170 GHzのoff-resonanceでの遷移確率を 測定可能 • 設計周波数203.4GHzのジャイロトロンを試験中 – 上手くいけば共鳴ピークの両側を押さえられる(現在の ジャイロトロンは202.9 GHz, ピークは203.4 GHz弱) • 周波数が変化した際にパワーモニタの応答を正確 にキャリブレーション出来るかが課題 44