東日本大震災から考える災害と経済
Download
Report
Transcript 東日本大震災から考える災害と経済
東日本大震災から考える
災害と経済
名古屋大学
根本ゼミ
目次
I. イントロダクション
II. 分析方法
III. 結果
IV. 最後に
Ⅰ.イントロダクション
雇用面への影響
雇用面への影響
・東日本大震災は地震・大津波・原発事故など
が重なった「複合大災害」
・雇用・産業への直接的&間接的な影響
①産業基盤そのものの毀損による影響
②サプライチェーン中断による影響
③原発事故の風評被害による影響
④電力不足による影響
・失職者数は約14.1~19.7万人と試算
被災3県の新規求人数の推移
被災3県の新規求人数の推移
・震災の影響で2011年3
月は大幅に減少
・その後1年の間で求人数
は右肩上がり
復旧事業における建設
業の求人増加
雇用創出事業における
公務業の求人増加
被災3県の新規求職数の推移
被災3県の新規求職数の推移
・新規求人数と同様、
2011年3月は大幅に減
少
・4,5月期の求職者の増加
は事業主都合による離
職によるもの(倒産など)
・秋以降、被災3県の求職
数は減少傾向
求人数・求職数の推移比較
求人数・求職数の推移比較
・内陸部・沿岸部ともに依
然として求職者数が求
人数を上回る
・復興需要の影響で建設
業が雇用の受け皿
しかし、その他の産業
(製造業など)においては
求職者数が上回る形に
雇用のミスマッチ発生!
震災前後の貿易収支比較
震災前後の貿易収支比較
(単位:億円)
項目
2010年
2011年
対前年比増減
79,789
-16,089
-95,878
輸出
639,218
627,234
-11,984
輸入
559,429
643,323
83,894
貿易収支
H23年国際収支状況(速報)より
輸出額の減少が貿易収支に影響
自動車生産台数の比較
自動車生産台数の比較
・国内メーカーの自動車年間生産台数
項目
2010年
2011年
対前年比増減
四輪車
9,628,920
8,398,537
-1,230,383
二輪車
664,175
638,987
-25,188
10,293,095
9,037,524
-1,255,571
合計
一般社団法人 日本自動車工業会より
震災のあった2011年は約10%の生産台数減少
消費者態度指数の推移
(ポイント)
42
40
38
36
34
北海道・東北
32
全国
30
11
12
2010
1
2
3
4
5
6
7
8
2011
内閣府「消費動向調査」より
9
(経過月)
消費への影響
消費への影響
(1)消費マインドの悪化
• 全国的な自粛ムードによる消費の減少
• 災害への不安から買い控え傾向に
(2)風評被害
• 海外からの訪日旅行、日本人国内旅行の減少
• 一部の農畜産品からの放射性物質の検出による購
買意欲の低下
⇒消費への影響は被災地域にとどまらず、全国的なも
のに
Ⅱ.分析方法
目的
• 東日本大震災により様々な被害が発生した。
その中でも、今回は復興需要は考慮せず、供
給サイドの資本ストックの減少に注目し、その
減少がどれほどGDPに影響を与えたのかを
推定する。
そこから、災害が与える経済的影響について
考察する。
分析方法
物
価
震災
•過去のデータをもと
に総供給曲線、総
需要曲線を推定
•総供給曲線の左シ
フトによる経済への
影響を分析。
実質GDP
影響
総供給曲線1/2
総供給曲線1/2
• 生産関数を指定
log Y log K log L log U log H
〈Y:GDP,K:資本ストック,L:労働供給,U:稼働率,H:労働時間〉
• 利潤最大化を仮定(資本は固定)
Y w
L p
L
pY
w
〈W:賃金率, P:物価水準〉
• 生産関数に利潤最大化条件を代入
log Y
1
1
w
log
log
K
log
log
U
log
H
p
総供給曲線2/2
総供給曲線2/2
• 総供給曲線の描画
KとWを一定に固定して、Pに何通りかの異な
る値を代入し、それにより得られたPとYのペ
アをプロットする。
総需要曲線1/6
総需要曲線1/6
下記の財市場の需給均衡条件の右辺の各項のうち、消費、
設備投資、輸入をそれぞれ推定する。なお、他の項は外生
変数とする。
Y C I G EX IM
(C=消費、I=設備投資、G=政府支出、EX=輸出、IM=輸入)
総需要曲線2/6
総需要曲線2/6
• 消費関数の推定
基本理論では消費はGDPの増加関数であり、
C f (Y ) で表される。
実際の式は
logC = c0 + c1logY + c2logC-1
〈C-1:一期前消費〉
を用いる。
総需要曲線3/6
総需要曲線3/6
• 投資関数の推定
基本理論では、設備投資はGDPの増加関数
であり、 利子率(r)の減少関数であるので、
I f (Y , r )
で表される。
実際の式は
I = i0Y + i1RR + i2K
〈R:利子率, RR=R-100*(P-P-1)/P-1(実質利子率)〉
を用いる。
総需要曲線4/6
総需要曲線4/6
• 輸入関数の推定
基本理論では、輸入はGDPの増加関数であ
り、 IM f (Y ) で表される。
実際の式は
IM = m0 + m1Y + m2D + m3YD
〈D:年次ダミー(1980~1990年=0,1991~2008年=1),
YD=Y×D〉
を用いる。
総需要曲線5/6
総需要曲線5/6
• 貨幣需要関数の推定
基本理論では貨幣需要はYの増加関数であ
り、rの減少関数である。貨幣市場の需要均
衡条件より
M
L(Y , r ) で表される。
p
実際の式は便宜上利子率関数とし、
logR = r0 + r1logY + r2logMP
を用いる。
〈M:貨幣供給残高, MP=M/P〉
総需要曲線6/6
総需要曲線6/6
• 総需要曲線の描画
以上にあげた5式をY,C,I,IM,Rの5変数につい
て解き、G,EX,M,Pを外生変数として一定の値
に固定する。
外生変数のうち、Pに何通りかの異なる値を
代入し、それにより得られたPとYのペアをプ
ロットする。
Ⅲ.結果
作成過程
総需要
曲線
グラフ
総供給
曲線
財市場
需給均衡
生産関数
利潤最大化
消費関数
輸入関数
投資関数
貨幣市場
需給均衡
貨幣需要関数
総供給曲線
Y = exp{ -5.067881*(1.-.7907538) +
(-2.46)
0.6310525*(logK -.7907538*logK-1)
(17.08)
+0.4277570*(logL -.7907538*logL-1)
(2.381)
+0.1952587*(log(U)-.7907538*log(U(-1)))
(4.356)
+0.6421397*(logH -.7907538*logH-1)
(3.301)
– コックラン・オーカット法を使用。
+.7907538*logGDP-1 }
– 決定係数:.9999386
– 自由度修正済決定係数:.9999279
– ダービンワトソン比:1.494997
消費関数
C = exp( 0.3650708 + 0.4323666*logY
(3.576)
(7.021)
+ 0.5192719*logC-1)
(8.563)
– 決定係数:.99862
– 自由度修正済決定係数:.9985096
– ダービンワトソン比:1.589601
輸入関数
IM = -13052.55*(1.-.7246145)
(-2.24)
+ 0.1036542*(Y-.7246145*Y-1)
(6.680)
-93648.28*(D-.7246145*D-1)
(-6.08)
+ 0.2000927*(YD-.7246145*YD-1) +.7246145*IM-1
(5.969)
–
–
–
–
コックラン・オーカット法を使用。
決定係数:.91448
自由度修正済決定係数:.9042176
ダービンワトソン比:1.53491
投資関数
I = -73532.89*(1.-.6271851)
(-7.42)
+ 0.6104176*(Y-.6271851*Y-1)
(12.16)
-586.1158*(RR-.6271851*RR-1)
(-1.45)
-0.136615*(K-.6271851*K-1) + .6271851*I-1
(-8.42)
–
–
–
–
コックラン・オーカット法を使用。
決定係数:.9075416
自由度修正済決定係数:.8964466
ダービンワトソン比:1.482992
貨幣需要関数
R = exp{ 2.6554647*(1.-.9113075)
(0.222)
+ 1.1641083*(logY-.9113075*logY-1)
(0.738)
-1.528539*(logMP-.9113075*logMP-1)
(-1.69)
+ .9113075*logR-1 }
–
–
–
–
コックラン・オーカット法を使用。
決定係数:.5635937
自由度修正済決定係数:.530024
ダービンワトソン比:1.127379
物価 基準年:2000年
推定の結果
135
130
125
120
115
110
105
100
95
90
85
80
75
70
65
60
55
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
総需要曲線
総供給曲線
0
100000
200000
300000
400000
500000
600000
700000
GDP 単位:10億円
東日本大震災の被害額
東日本大震災の影響
• 東日本大震災資本ストック被害金額 推計について
~エリア別(県別/内陸・沿岸別)に推計~
(株式会社日本政策投資銀行)
<ミクロアプローチ>
アンケートによる被害額の積み上げ
悉皆調査
標本調査…メッシュデータ(建物利用現況等)と航空写真に
よる被害推計
<マクロアプローチ>
人的被災率から被害率を推定
建物被害率から被害率を推定
東日本大震災の被害額
推計の使用統計一覧
• 使用した統計
統計名
出所
国民経済計算統計
内閣府
民間企業資本ストック統計
内閣府
県民経済計算
内閣府
住宅・土地統計調査
総務省
全国消費実態調査
総務省
市町村内総生産
各県統計年鑑
住民基本台帳人口要覧 国土地理協会
事業所・企業統計
総務省
集計単位
使用した主なデータ
全国
全国
都道府県
都道府県
都道府県
市町村
市区町村
市区町村
産業別産出額
業別資本ストック
県内総生産、固定資本形成
住宅戸数
1世帯あたり住宅資産
市町村内総生産
人口、世帯
従業員別民営事業所数
• 東日本大震災におけるエリア別資本ストック被害額
エリア別推定資本ストック被害額
(単位:10億円)
(備考)1.沿岸部は海岸線を 有 す る 市町村、内陸部はその他の市町村と し て い る。
2. 推定資本ストック、推定資本ストック被害額と も に 再調達ベース。
3. 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 事 故 が も た ら した様々 な 被 害 は 、 本 推 計 に は 含 ま れてい な い 。
Kの減少額
• 日本政策投資銀行資料と内閣府資料より
約13兆円
• また、原子力発電所がなくなったとする
電気事業連合会(2007)より電気事業固定資産
に占める原子力発電設備の割合を計算
2574791/26169099=0.098391
それに、内閣府の産業別ストックの電気業(200
7)にかける
0.098391×116043.706=10433.69433
より10.43369433兆円
シフト後の結果
140
物価 基準年:2000年
120
100
80
総需要曲線
60
総供給曲線
40
総供給曲線
(K減少後)
20
0
0
100000
200000
300000
400000
500000
600000
700000
GDP 単位:10億円
シフト後の結果(ズーム版)
100
物価 基準年:2000年
95
総需要曲線
90
総供給曲線
総供給曲線
(K減少後)
85
80
500000
505000
510000
515000
520000
525000
530000
GDP 単位:10億円
交点の座標
グラフとMTSPによる推定から、
<K減少前>
およそP=85,GDP=515500(単位:10億円)
<K減少後>
およそP=89,GDP=515300(単位:10億円)
考察
・結果より、総需要曲線は物価の変化にGDPがあ
まり左右されないことがわかる。
・たった2%程度のKの減少だが、GDPは2,000億円
ほど減少している。そして物価は4ポイント上昇し
ている。
→推定上は物価が上昇しているが、今の日本が
デフレなのはなぜなのか?
A. 中長期的な予想物価上昇率が安定している
ので震災による一時的な変動が与える影響が
少ないから(日本銀行レポートより)
Ⅳ.最後に
今後の課題1/9
・東日本大震災により、生活資本、社会資本、
住宅が破壊され、多額の損害額を負った。
次は、被災地の復興へ
励むべきである!
今後の課題2/9
• 12年度の繰越費用は復興予算の約4割にあ
たる、5兆7203億円。
繰越の理由としては、被災地の住民同士の合
意形成の遅れなど、事業計画を策定するうえ
で時間を要したケースが大半を占めた。
被災地復興の遅延・・・?
今後の課題3/9
• 復興経費を巡っての問題はさらに存在する(図1)。
日本経済新聞より
今後の課題4/9
• 図1より、海外のレアアース鉱山買収資金や
都内での農林漁業フォーラムなど産業政策
が多いことが見受けられる。
• これらの事業予算は被災地の復旧・復興の
名目で予算計上されているが・・・
震災復興と関係が薄く、予算獲得のために
数字を積み上げているのでは・・・?
今後の課題5/9
以上のことより、今後求められる課題とは・・・
課題①
•被災地復興の事業計画を迅速に!
課題②
•各省庁の復興予算の見直しを!
今後の課題6/9
・東日本大震災で政府が2011年度に計
上した復興経費は14兆9243億円。
→うち支出額は54.2%の8兆906億円。
・次に、復興予算の執行状況を、全921
事業ごとに分析した結果を掲載する。
今後の課題7/9
・支出別にみた事業数(図2)
337
347
0%以上20%未満
20%以上40%未満
図2より・・・
予算額に対する支出が
8割以上・・・347事業
2割未満・・・337事業
40%以上60%未満
60%以上80%未満
80%以上100%以下
85
70
82
日本経済新聞より
ばらつきがみられる
今後の課題8/9
①被災地復興の事業計画を迅速に!
・いくら復興経費があったとしても、それが使われ
ていなければ意味がない。
・事業によってばらつきが目立った復興予算支出
であるが、事業が執行率をあげるために努力す
る必要がある。
・そのためには一刻も早く被災地の住民のニーズ
を受け入れ、事業計画を策定し、復興に励まな
ければならない。
今後の課題9/9
②各省庁の復興予算の見直しを!
• 今後は財務省や復興庁が、予算編成に
おいて、被災地復興とは関係の薄い事
業は厳しく査定すべき。
• そして、被災地の要望をきちんと受け取
り、事業の執行まで責任をもつ体制を整
えるべき。
雇用の課題
今後の課題
・現在の雇用改善は、復興求人や雇用創出基
金事業による求人が増加したに過ぎない
短期的な雇用創出策
・今後は、産業復興と一体となった雇用創出を
図るなど、中長期的な雇用創出策に取り組ん
でいくべき
厚生労働省「職業安定業務統計」
内閣府「平成24年度 年次経済財政報告」より
ご静聴ありがとうございました。