医療費の空間パネルデータ分析

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Transcript 医療費の空間パネルデータ分析

古谷・印南・古城・今村論文への
コメント
学習院大学
鈴木 亘
論文の意義・評価
• 医療費分析に、これまであまり行われてこなかっ
た空間統計学・空間計量経済学のアプローチを
用いており、「空間自己相関を考慮することの重
要性を示した」とのこと。
• もっとも、メインテーマは「都道府県パネルデータ
を用いた国民医療費の将来推計」と言うべき。
• 都道府県パネルデータで将来推計を行う場合
(特に、論文が仮定するSLM(Spatial lag model)の
場合)、空間自己相関を考慮しないと推定値に
バイアスが生じるので、必要な処置(第5章)。
• 国民医療費を説明する構成要素として、入院
患者数、外来患者数、医師数を考える。
• それぞれを予測するために、拡張型LeeCarterモデルを用いてた推定を行う(第4章)。
• 空間パネルの分析をする準備として、推定に
用いる各変数の空間自己相関(Local Moran’s
I, Moran’s I)を観察する(第3章)。
• 第3章、4章、5章の分析を個別にみると、それ
ぞれ相当の問題があり、不自然な点が多々
あるが、恐らくは妥当な国民医療費予測値を
得る為に、苦心惨憺をしたということだろうか。
国民医療費の予測値の比較
兆円
60
55.5
48.7
50
40
43.5
38.9
52.5
47.2
42.3
37.5
30
厚労省予測(2010)
20
古谷・他論文
10
0
2010
2015
2020
2025
厚労省予測は、平成22年10月25日の第11回高齢者医療制度改革会議に
提出した厚労省保健局「医療費等の将来見通し及び財政影響試算」。
第3章の分析(Local Moran’s I)
について
• 医療費については、日ごろ見慣れている地域
差指数以上の情報量は無い。
• 空間ウィイト行列(W)は、どのようなものを用
いているのか?(説明が無い)
• いずれにせよ、ほとんどの結論は、Wの作り
方に影響されているのではないか。九州や四
国のLocal Moran’s Iが高いのは、近隣県が少
ないため当然。北海道、沖縄はどうしている
のか。
• 地域差指数でも年齢調整ぐらいは行っている
が、意味のある分析をするのであれば、件別
医療費を高齢化や所得、供給要因や様々な要
素で回帰してコントロールし、その残差のLocal
Moran’s Iを見る方が建設的。
• ただ、その場合の解釈や政策的含意は何か。
医療圏設定の妥当性、都道府県別の保険者に
することに対する妥当性等が考えられる。
• 空間統計の利点をより生かしたいのであれば、
市町村別国保データ、2次医療圏別データ(い
ずれも公表、シンフォニカからも購入可)で分析
を行う方が良い。県別データは実りが少ない。
第4章の分析(拡張型Lee-Carter)
について
• 主に人口、生物的な要因(死亡率)を分析するた
めのlee-Carterモデルを、社会的・経済的な要因
に大きく左右される入院患者数、外来患者数、
医師数に適用することは妥当か。
• 県別データを分析しているが、論文のテーマで
ある空間モデリングは考慮しなくてよいのか。
• それぞれ、県別データでは流出入が大きいが、
こうした要因をモデリングしなくてよいのか(社人
研予測でも別途人口移動は考慮)。
• 外来と入院は代替関係があるが、考慮しないの
か。
• 拡張型Lee-Carterモデルの特徴は、年齢効果、
年効果のほかに、コホート効果を推定することだ
が、10年程度のデータで果たしてコホート効果
が適切に推定されているのか。推定結果が示さ
れていない。
• 年齢効果、年効果、コホート効果は独立ではな
いので、何らかの制約をかけているはずで、適
切な効果が抽出されているかは疑問。
• 単純なLee-Carterモデルと2011年の予測値を比
較して評価してみてはどうか。
• 入院患者数が将来的に減少してゆき、特に東京、
大阪、福岡、北海道で急減するという結論は妥
当か。
• 東京、大阪、福岡、北海道の高齢者数は2040年
までは絶対数としても増加しているので、意外な
結果である。
• 意外な結果を得ているのであれば、推定結果と
変数の予測値から寄与度分解を行い、年齢効果、
コホート効果、年効果の何が影響しているのかを
示してはどうか。
• 恐らく年効果(トレンド)が影響していると思われ
るが、これは10年しか推定期間が無いことが大
きく影響している可能性。
65歳以上人口の将来予測値(社人研推計)
千人
千人(全国)
4,500
45,000
4,000
40,000
3,500
35,000
3,000
30,000
2,500
25,000
2,000
20,000
大阪
1,500
15,000
福岡
1,000
10,000
全国(右
目盛)
500
5,000
0
0
2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年
北海道
東京
入院患者数、外来患者数推移(患者調査)
千人(全国)
7600
1550
7400
1500
7200
7000
1450
6800
1400
6600
6400
1350
6200
1300
6000
5800
1250
1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008
外来患者数
(左目盛)
入院患者数
(右目盛)
• 定員数が変わらないのに、人口が減少する若い年齢
層の医師が、年を追うごとに増えるのはなぜか。