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やませ気象研究会
2012年3月5日
八戸における冷害リスク推定の試み
神田英司
東北農業研究センター
水稲冷害
研究チーム
目的
東北地方における将来の水稲冷害リスクを評価する。
温暖化後の寒冷地の稲作はどうなるか?
稲作をどうするか?
東北地方の稲作と冷害
東北地方は良食味米を生産する穀倉地帯
(生産量は全国の30%弱を占める)
4~5年に一度冷害となる
600
冷害年
収量(kg/10a)
500
2009年北海道の作況指数
・石狩支庁 93
400
・北空知
91
・南空知 300
85
・上川支庁 83
1993年
200
東北全体の作況指数は56
水稲の被害額は4,690億円
100
0
1881
1896
1911
1926
1941
1956
1971
1986
2001
年次
図 東北地域の水稲収量推移と冷害.
障害不稔の発生
2003.9.15
岩手県
8月7日出穂「かけはし」
障害型冷害の発生相
危険期
減数分裂期
幼穂形成期
冷温
冷温
出穂・開花期
成熟期
冷温
分化小胞子減少
正常花粉減少
未出穂
開花遅延
1穂穎花数減少
退化穎花増加
受精障害
1穂籾数減少
稔実歩合低下
健全な開花
○冷温に日照不足が加わると、障害が助長される。
○冷温によって生育遅延が生じ、遅延型冷害を併発することがある。
健全な花粉
発育不全
ノンパラメトリック回帰
J
J 1
yˆ i   0    j t j  ( yi  yˆ i)    ( j 1 j)
j 1
n
i 1
2
2
 最小化
j 1
yˆ i :不稔率(推定値) y i :不稔率(観察値)  :定数  :偏回帰係数
0
j
t :10℃以上の有効積算気温で5℃日ごとの基準温度T0以下の冷却量
i
ti 
幼穂の発育モデル
 T0  T  (if T<T0)
0
(if T>T0)
T: 日平均気温
λ,T0はクロスバリデーションで
決定した
クロスバリデーション:
n個 のデータセットの n-1 個を使い、パラメータ
を決定し、残しておいた1個のデータに対して適
用して結果を判定する作業をn回実施する.
不稔歩合の推定
3
2.5
2
1.5
花粉内容 出穂期
充実期
1
0.5
0
-40
-0.5
-1
10
60
110
160
210
260
310
花粉母細胞 減数分裂期
分化期
-1.5
幼穂形成期からの有効積算気温(℃・日)
図 ノンパラメトリック回帰のパラメータ (あきたこまち).
幼穂の発育ステージは有効穂単位の場合.
日作紀 76:279-287 (2007)
幼穂の発育期間中の低温
重み付き冷却量 =C(T)W(f(T))
1.5
model
0
C(T)=
(T>T 0)
1
(T-T 0) (T≦T0)
W(f(T))
幼穂の発育モデル
0.5
(T-T b) (T≧Tb)
f(T)=
0
(T<T b)
0
-40
10
幼穂形成期
60
110
160
210
f(T)
図2 幼穂の発育ステージごとの重み関数 W(f(T))
260
310
冷却量の基準温度
冷却量=
0
(if T>T0)
 T 0 (if T<T0)
T: 日平均気温
コシヒカリ
むつほまれ
ササニシキ
ひとめぼれ
あきたこまち
つがるロマン
耐冷性 やや弱
中
やや強
極強、強
冷却量の
基準温度 21.0
20.5
20.0
19.5
遅延型冷害による減収率の推定
100
坪井(1964)の減収率
減収率(%)
80
60
2003年
40
1997年
20
2001年
2002年
2004年 1998年 2000年1999年
0
15
16
17
18
19
20
登熟期間の平均気温(℃)
21
22
図 坪井(1964)の減収率との関係.
(東北農業研究センター,品種:コシヒカリ)
23
冷害の判定法
発育モデルで出穂日を推定する
重み関数
推定出穂期前後7日間、計15日の出穂日につい
1.5
て、発育ステージごとの重み付きの冷却量および
出穂後40日間の平均気温を算出する
1
0.5
・冷却量40℃以上の出穂期の頻度5以上
・出穂後40日間の平均気温19℃以下
0
-40
10
幼穂形成期
60
110
160
210
発育ステージ
260
310
冷害の判定結果
表1 1981年~2010年の冷害指標と気象災害の関係(八戸アメダス)
障害型冷害 遅延型冷害 複合型冷害
八戸アメダス
冷却量
年
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
出穂後
冷却量 40℃日
40日間の
平均 MIROC3
以上の
平均気温
(℃日)
出穂日
(℃)
MIROC5
頻度
3.4
13.3
2.4
5.3
5.3
10.5
8.5
26.1
3.5
24.2
21.6
3.3
48.3
4.7
3.0
0
0
0
0
0
0
0
9
0
6
1
0
9
0
0
18.9
20.1
18.9
22.0
23.2
19.7
21.0
18.8
21.8
23.3
20.7
20.8
17.5
24.2
21.5
6
備考
0
5
年
6
遅延型冷害
断続的な低温
障害型冷害
通常年
複合型冷害
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
冷却量
平均
(℃日)
0
2
4.4
0.6
27.3
21.0
4.9
11.6
8.5
33.3
13.2
12.0
19.7
27.2
2.1
10.5
3.5
3
冷却量
出穂後40
40℃日
日間の平
0
以上の
均気温
出穂日
(℃)0
頻度
0
0
7
3
0
0
0
7
2
3
2
5
0
0
0
備考
20.0
21.0
21.3 局地的な冷害
24.4
22.6
20.0
20.6
18.5 複合型冷害
22.7
22.7
22.3
23.0 局地的な冷害
20.6
20.2
25.1
障害型冷害危険期の年次変動
8月30日
8月15日
7月31日
出穂日
7月16日
7月1日
6月16日
表 シナリオ別の幼穂形成期と出穂期出穂期(MIROC3)
幼形期(MIROC3)
幼穂形成期
6月1日
5月17日
八戸アメダス
MIROC3 1961
MIROC5
出穂期(MIROC5)
出穂期
幼形期(MIROC5)
30年間
30年間
出穂期(AMeDAS)
標準偏差 変動係数
標準偏差
変動係数
平均
平均
幼形期(AMeDAS)
7月14日
6.9
3.5
8月10日
7.6
3.4
1971
2011
7月14日
5.2 1981
2.7 19918月9日 2001 5.0
2.3
7月13日
6.4
3.3
8月9日
5.5
2.5
図 八戸における幼穂形成期と出穂日の推移
障害型冷害危険期の年次変動
表 シナリオ別の平均気温と変動
30年間の
標準偏差 変動係数
平均気温
八戸アメダス
21.6
2.1
9.9
図 障害型冷害の危険期(7/11~8/10)の平均気温の変動.
MIROC3
21.5
0.8
3.6
MIROC5
21.3
1.4
6.3
冷害リスクは残る
障害型冷害リスク
10
冷却量(MIROC5)
冷却量(MIROC3)
60
50
5
30
20
10
0
0
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
年
2050
2060
2070
2080
2090
図2 八戸における冷害リスクの推移(MIROC5)
冷害リスクは前15年、後14年を含む30年間の値
2100
冷却量(℃日)
冷害 頻度
40
冷害リスクは残る
障害型冷害リスク
40日間平均気温(MIROC5)
40日間平均気温(MIROC3)
冷却量(MIROC5)
冷却量(MIROC3)
60
25
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
0
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
年
2050
2060
2070
2080
2090
図 八戸における冷害リスクの推移(MIROC5)
冷害リスクは前15年、後14年を含む30年間の値
2100
冷却量(℃日)
平均気温(℃) or 頻度
30
遅延型冷害リスク
8月30日
冷却量(Miroc3)
70
冷却量(Miroc5)
出穂期(Miroc5)
60
50
7月16日
40
7月1日
30
6月16日
20
6月1日
10
5月17日
0
出穂日
7月31日
1981
1991
2001
2011
2021
2031
2041
2051
2061
2071
2081
図 八戸における出穂日と冷却量の推移
冷却量は出穂日を中心とする15日間平均
2091
2101
冷却量(℃日、if(T<20))
出穂期(Miroc3)
8月15日
10
100
冷害リスク(MIROC5)
冷害リスク(MIROC3)
冷却量(MIROC3)
8
冷却量(MIROC5)
冷却量(AMeDAS)
冷害リスク
7
80
60
40
冷却量(℃日、if(T<20))
9
6
20
5
0
4
-20
3
-40
2
-60
1
-80
0
-100
1961
1971
1981
1991
2001
2011
まとめ
• MIROC5によると、八戸においては、今後も冷
害リスクは残ると推察される 。
今後の方針
• 東北地域の冷害発生リスクを検討する。
• 冷害リスク軽減のための安全作期の策定お
よび品種選定手法の開発を行う。