科学 - Sustainabilityと人文知

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Transcript 科学 - Sustainabilityと人文知

サステナビリティ学
分析思考と構成思考の不可逆性
吉川弘之
CRDS-JST
シンポジウム「人文知・社会知からサステナビリティを考える」
テーマ:3.11以降の危機の中で
Sustainabilityと人文知プロジェクト、2012年3月10日
東京大学文学部 1大教室(法文2号館)
1.持続性時代の科学研究
福島の事故と持続性
科学者・専門家の社会的貢献
科学者は、研究によって知識を生み出し、対応する専門家に提供する。
法学
司法官
政治学
経済学
政策科学
【行動者】
【専門家】
報道者
文学
美学
【科学者】
医師
生命科学
介護師
行政者
統計専門家
医学
看護師
政治家
政策立案者
統計学
教育者
設計学
臨床心理師
社会
工学
技術者
産業経営者
組織管理者
農業者
演劇家
危機管理者
作家 意匠家
芸術家
言語学
心理学
数学
経営学
農学
危機管理学
社会は、様々な専門家がそれぞれの“役割”を果たすことによって、維持され、発展してゆく。
3
福島原子力発電所の事故(危機)への対応
【科学者はそれぞれの専門分野の知識を持ち寄り、対応への助言をまとめて行う】
法学
政治学
政策科学
司法官
教育者
政治家
生命科学
設計学
技術者
産業経営者
政策立案者
統計専門家
医師
看護師
介護師
行政者
統計学
医学
社会
工学
組織管理者
農業者
経営学
報道者
文学
演劇家
作家 意匠家
美学
言語学
数学
危機管理者
芸術家
農学
危機管理学
心理学
危機においては、平常時において別行動しているものが協力しなければならない。
4
危機(Fukushima)における現実の協力
【危機対応】
【情報】
国際社会(政府)
首相官邸
官邸参与
対応統括
原子力安全・保安院
原子力安全委員会
電力会社
事故現場
発電所製造企業
現場作業員
自衛隊
消防庁
医師
現実の情報の流れ
実現しなかった情報の流れ
【一般】
報道者
過剰反応・風評
(政府・即刻協力)
一般社会(国内)
不安・風評
科学者(原子力)
推測・
ばらばらな解説
技術者(原子力)
科学者(一般)
技術者(一般)
評者
想像・
採用されない
評論
【科学者の合意した声】
提言
日本学術会議
(情報不足)
外国アカデミー 協力要請待ち
5
持続的開発(SD)に向かう様々な動き
哲学・思想
科学
政治
経済
産業・技術
教育
教育における
気候変動研究
領域の完成
(1950~)
(19th century)
S.Rowland
石油危機
S.Manabe
知識の
人間と環境会議 (1971, 1979)
J.Hansen
省エネルギー
急激な増加
(UN,1972)
R.Watson etc
高度に領域化を
Brundtland報告
達成した教育
(UN 1987)
IPCC
(20th century)
(1988~)
地球サミット
(UN 1992)
再生エネルギー Tbilisi 宣言(1977)
UNFCCC 1992~
ファクター4
IPCC
(Club of Rome,
京都議定書(1997)
(3rd2001)
A.Lovins, 1995)
G8-サミット
排出権取引
IPCC
Gleneagles(2005)
二酸化炭素隔離
(2002,UK)
th
(4 2007)
St. Petersburg (2006)
Cool Earth
Heiligendamm (2007) セクトラル
(2007)
エネルギー学
アプローチ
国連持続可能な
Tooyako(2008)
適応技術、
(2007)
生物多様性研究 COP
開発のための教育
軽減技術
Stern
Review
ESD(2005)
Copenhagen(2009)
持続性科学
(2007)
持続性製品
Cancun(2010)
沈黙の春
(Rachel Carlson,
1962)
成長の限界
(Club of Rome
D. Meadows,
1972)
持続性科学の
創出(社会の
ための科学)
資源(負)問題に
おける国際協調
の仕組み
新経済制度:
新エネルギー
排出権取引、
適応技術、
気候変動経済学 軽減技術
持続的開発の
ための教育
(UNESCO-ESD)
6
持続性社会実現のために必要な、様々な行動
(現代の邪悪なるものとの戦い)
社会
国家
自治体など
平和とガバナンス
持続的経済
環境変動適応
災害軽減
行動要素(レベル)
Scale of Action
人間の安全保障
貧困の追放
(行動者*、
または
構成(設計)
における
原子体)
システム
*行動決定者は、
レベルの上位に
存在することが
ある。
個体
機関
企業
工場など
汚染抑制
設備保全
人、
機械など
プラント事故対応
部品、
器官、
分子、
原子など
持続性産業
飲料水確保
予防医療
ローカル
エネルギー政策
研究協力
原発事故対応
衛生確保
生活様式保存
先進医療
要素
食糧政策
国土保全
廃棄物最小化
食糧確保
資源エネルギー確保
気候変動抑制
核不拡散
世界遺産保存
パンデミック阻止
持続可能な開発
のための教育
医療制度
化学リスク制御
ナショナル
エネルギー研究開発
生物多様性保護
グローバル
行動対象(範囲) Reach of Action(行動によって実現すべき実現体)
7
持続性社会実現のために必要な、様々な行動
(現代の邪悪なるものとの戦い)
社会
国家
自治体など
行動要素(レベル)
Scale of Action
(行動者*、
または
構成(設計)
における
原子体)
システム
*行動決定者は、
レベルの上位に
存在することが
ある。
個体
機関
企業
工場など
人、
機械など
要素
部品、
器官、
分子、
原子など
人間の安全保障
貧困の追放
環境変動適応
災害軽減
汚染抑制
設備保全
廃棄物最小化
食糧確保
生活様式保存
持続的経済
資源エネルギー確保
食糧政策
研究協力
原発事故対応
世界遺産保存
飲料水確保
衛生確保
パンデミック阻止
化学リスク制御
予防医療
ローカル
気候変動抑制
核不拡散
エネルギー政策
国土保全
プラント事故対応
持続性産業
医療制度
先進医療
平和とガバナンス
持続可能な開発
のための教育
エネルギー研究開発
生物多様性保護
ナショナル
グローバル
行動対象(範囲) Reach of Action(行動によって実現すべき実現体)
8
持続性課題の多様性
多様な課題解決のために多様な学問領域を必要とする
持続性問題
(自然、
人工物)
平和
---
世界
生物多様性
--健康
実現体(機能体)
〈問題の範囲〉
地域
国家
地方
社会
組織
---
家族
個人
原子体
〈構成要素〉
実際に課題が
定められたとき、
問題解決のた
めに選出される
対象は特定され
た以下のような
ものである。
(特定の)個体、
集団、
組織
制度、
装置、
システム、
社会基盤
など
国家
地域
地方
組織
個人
指定要素*
原子
行動者
国連
各国政府
自治体
企業法人
NPO法人
経営者
法律家
農業者
作家
医者
技術者
科学者
方法/知識
〈領域〉
人文学
方法/知識
〈臨時領域〉
研究
研究領域
研究課題
取り上げら
れた課題に
固有の変数
とその変数
間の関係に
よってつくら
れる課題固
有の領域、
臨時領域と
呼ぶ
臨時領域は
一般に複数
の基本領域
を含む。基本
領域に従っ
て課題は分
節され、要素
課題群となる。
従って研究
は異なる領
域研究者の
協力が不可
欠である。
社会学
政治学
経済学
教育学
農学
医学
工学
自然科学
抽象科学
*特定の変化を目的として特に人為的に定める構成要素
(物質、生体などはここに入れておく。実は多様である)
問題の範囲(広がり) : 局所~大域 (個人~社会)
多様性
構成要素(大きさ): Nano ~ Micro ~Meso~ Macro
行動者:個人~組織~政府~国連
領域: 自然科学~工学~社会科学~精神科学
実現のために、
どんな人材と、どんな知識が必要か
(教育・研究)
9
領域知識の発生
中世における知識創出の動機は邪悪なるものとの戦いであった
さまざまな戦いを通じて
蓄積した領域的知識
人類
現代の領域科学/工学へ
10
過去の邪悪なるもの
嵐
旱魃
洪水
地震
疫病(病原菌)
害虫
猛獣
海賊
強盗
専制
邪悪な欲望
貧困(食料、衣服、住居の不足)
未知(理解できないもの)
これらは可視的な敵、
あるいは不安であり人
類社会の外部から攻
撃をかけてくるもので
ある。
11
学問領域の自立と応用の拡大
領域が自立して応用が拡大する
戦いの相手
対抗技術 / 学問領域
拡大した応用
嵐
防風技術 / 気象学
気象予測
地震
耐震構造 / 構造力学
機械
病原菌
予防・消毒 / 微生物学
製薬
邪悪なる欲望
裁判制度 / 法律学
振興法
専制
弁論 / 論理学
計算機
貧困
生産技術 / 生産工学
自動車
未知
探索、研究 / 物理学
科学技術一般
12
Proliferation of Disciplines and Divisions of Labour
成熟した学問領域(=教育領域)と社会的分業との比例的増加
Mechanical engineers
Electrical engineers
Engineering
science
Engineers
技術者
Chemical engineers
Material engineers
Worsening of natural
environment by human
actions
人間活動による地球環境の劣化
---------Doctor of internal
medicine
Medical
science
Real
world
Nature
including
humans
Economics
Medical
doctors
Surgeon
医者
----------
Psychiatrist
Local diagnosis
without recognition of
whole human
人間の全体性を忘れた局所的治療
Economists
経済学者
Political
science
Politicians
Law
Lawyers
政治家
法律家
13
現代の邪悪なるもの
人口爆発と飢餓、
貧富の格差、
巨大都市の中の貧困、
地球環境の悪化、
人工システムの事故の巨大化
新種の感染症 (HIV、鳥インフルエンザ、BSE)
民族間紛争、
テロリズム、
都会の中の孤独、
電子犯罪
今、現代の邪悪なるものが出現しつつある。
そしてそれらは過去の邪悪なるものと異質である。
そこには可視的な外敵がいない。
しかし恐らく敵は人々の意図や行動の中にあり、
それが人々が気づかぬうちに攻撃をかけて
くるのだ。これは可視的な外敵よりも戦うのが
難しい。我々はそれと戦う方法をもっていない。
14
2.持続性科学の輪郭
現代科学と持続性科学
相補的な知識
現代科学
知るべきもの
目的
宇宙の各現象の背後
にある普遍的法則
すべてを理解し個々
を制御する
持続性科学
地球の長期的な
変動と現在の状態
すべてを理解し
関係を制御する
相違点
普遍性/ 唯一性
個別/全体
研究対象
宇宙に存在するもの全て
観察対象
不変な存在物*
ゆっくりとした変化
(過去、現在、未来)
検証
実験室での実験
現実世界の進化
研究成果
理解のための知識
行動のための知識
分析/構成
人類の繁栄
地球の持続性
繁栄/持続
期待される効果
地球上の個々のもの
*変化は存在の性質に基づいて推測できる
抽象/具体
存在/変化
確実/不確実
16
統合的知識:抽象世界での知識統合
知識
現実世界での統合知識
(伝統的土着知識)
事実+使用=意味
事実
抽象世界での分離知識
(科学)
自然科学
使用
設計科学
抽象化
意味
社会科学
統合
抽象世界での統合知識
(統合科学)
統合科学
持続性科学は統合科学の一つである
変化の科学
View of Nature by Greek Philosophers
When scientists were interested in unchangeable existence (Democritus),
they investigated properties of substance, and consequently
created disciplines such as
solid state physics, elementary particle physics, bioscience etc.
Quite successfully completing.
When scientists were interested in changing phenomena (Heraclitus),
they investigated the existence as a whole, and consequently
created disciplines such as
geology, archaeology, paleontology, theory of evolution, climate change etc
Still far from completion.
Panta Rhei
70million years ago,
an atom in my nose
was in the tail of a
dinosaur.
4次元レンズ:未来の“観測”
観測法の展開
2次元
3次元
4次元
(予測)
Robert
Hooke
(1665)
反射望遠鏡
国友藤兵衛
(1778-1840)
電子顕微鏡
E.Ruska(1933)
すばる反射
望遠鏡 1999
加速器
放射光
中性子線
核磁気共鳴
-----
観測
X線
粒子線
重力波
ニュートリノ
------
観測
TERA →PETA→EXA flops?
Babbage
1791-1871
スーパー
コンピューター
Cray-1(1976)
250MFLOPS
研究対象と観測法
不変存在における法則を探求するための観察手段
できるだけ小さな領域を観察するための顕微鏡(2次元)
できるだけ遠くの状況を観測するための望遠鏡(3次元)
巨視的変化の法則を探求するための観察手段
多数の領域を観測する顕微鏡
広域を観測するための望遠鏡
変化をシミュレーションによって推測するスーパーコンピューター
スーパーコンピューターは第三の観測手段(4次元レンズ)である
20
構成のための科学:思考の非対称性
知識創出のための
現実に関する研究
法則n
n
現実
(自然)
現実創出のための
知識利用
法則3
3
法則2
2
?
現実
(人工物)
法則1
1
領域における法則
(知識)
分析のための科学
演繹=常に正しい
分析:仮説―理論―実験―検証
体系的な方法によって
正当性が保障される
構成のための科学
アブダクション=誤りうる
構成:設計、計画、イノベーション、
経営、立法、政策 ----
体系的でない分野ごとの
ノウハウに従うしかない
21
構成研究に必要なディシプリンの統合と他者検証
自分の専門領域
内における思索
仮説
提出
多くの専門領域
の交差領域での
思索
仮説
提出
検証
検証
他領域、
一般社会
22
3.思考の不可逆性
土着知識
例:病気を克服し生き延びるために(目的を持つ知識)
種
を
蒔
く
芽
が
出
る
事実
実
が
な
る
収
穫
す
る
(
成煎
分じ
る
抽
出
)
(
成分保薬
型配存を
作
とすし
、
瓶る り
詰
)
使用
服
用
す
る
意味
統合的な土着知識(“科学技術”)
土着的知識は、一度獲得すればいつでも行動を再現できる。これは観察と構成の抽象化水準が等しい
(観察の道と構成の道、行き帰り、が等しい)からである。しかし新しい行動を創り出すことはできない。
24
科学(科学知識)の成立
第一の分割:対象の類似性によるコレクション
統合的な土着知識(“科学技術”)
種
を
蒔
く
芽
が
出
る
実
が
な
る
植物学
農学
収
穫
す
る
(
成煎
分じ
る
抽
出
)
化学、
工学
(
成分薬
型配を
とす作
瓶るり
詰 保
) 存
し
、
工学、
経済学
服
用
す
る
医学、
社会学、
法学
分科的な科学知識
“分科”され、相互関係を拒否した領域群として成立した科学は、領域を再構成して意味のある
結果を持つ行動を生み出すために人工物科学を必要とする。
25
A Design by Bricoleur
(H.Yoshikawa, Introduction to General Design Theory, IFIP 1981)
Integration of pieces by using knowledge
of connection between entities
Knowledge
Solution
Run-fast=hind legs
Sing-nicely=bill/head
Frog-dog-bird
Selection of pieces
by using knowledge
function→entity
Functional
requirement
Swim-well=forelegs
An animal that
runs fast,
sings nicely
and swims well
Maquette
26
A Design by Engineer
(H.Yoshikawa, Introduction to General Design Theory, IFIP 1981)
Solution
Knowledge
Frodird
Realisation
by calculation
Run-fast=hind legs
Functional
requirement
An animal that
runs fast,
sings nicely
and swims well
Sing-nicely=bill/head
Maquette
Swim-well=forelegs
Selection of functions(abstracted entities)by
using knowledge function→entity
27
実体概念集合(点集合)と
抽象概念集合(部分集合系)
S = { s }: 実体概念集合
Denotation
(明示的意味)
工学における概念の関係(未完)
t: 抽象概念
T = { t }:抽象概念集合
s: 実体概念.
similarity
Categorized
entities
obtained by
synthesis
An entity
Selection
(integration)
Entity
(solution)
(disciplinary
knowledge)
(synthesis)
display
(Analysis)
Categorized
functions
obtained by
analysis
(requirement)
実体概念集合(部分集合系)と
抽象概念集合(点集合)
calculation
simplification
Maquette
detailing
s: 実体概念
S = { s }: 実体概念集合
A property
(provisional
discipline)
t: 抽象概念
Connotation
(ある概念に含まれる属性)
T = { t }:抽象概念集合
(複数の要素工学の
合成領域:合成方法が多様)
推移の詳細と推移に必要な知識
要素実体(機能の実体表現)
解(一つの実体)
構造知識
(土着的)
接続の実体化
領域科学知識
(科学的)
F-S設計知識
(土着的)
臨時領域
での計算
機能の実体
への置き換え
機能集合か
ら実体集合
への準同型
写像
ともに経験した
機能と実体を通
じ、機能→実体
と実体→機能の
それぞれ準同型
写像を知識とし
ても持つが、ここ
では機能→実体
の知識を使う。
臨時領域
(ある一つの
実体の機能
の定量表現)
臨時領域の作成
要求機能
模型(機能の属性表現)
(模型としてメタモデルを採用する)
S-F認識知識(科学的)
機能位相を持つ
実体集合
設計(構成)問題の本質
1.基本領域の共約不可能性と臨時領域の不整合性
①基本領域が属性に従って作られる。言い換えれば整合的な領域を作れるという条件だけで属
性が選ばれる。この選択の非制限的な随意性により、領域の共約不可能性(incommensurability)
を生む。(材料力学では、電気抵抗は意味を持たない)
②それに対して、臨時領域は機能に従って作る、すなわち整合性よりも人間にとっての意味で作
られる。この成立の外部性によって、領域の整合性が期待できない。
(しかし共約不可能性は解消されている可能性がある。解消の条件は何か?共約不可能性と整
合性の関係)
2.思考の不可逆性
①学問(領域知識)の進展は抽象化に誘導されて起こる(Peirce)。抽象化は、言語的記述、
分類、法則、定量化などの順で進む。すなわち領域が次第に体系的な性質を向上する。この
ことは、体系性向上のために抽象化が進むと言った方がよい。結果として、体系化が進むこ
とによって、関連する諸性質を捨てる(捨象)のであり、このことにより、元の領域の点(事実)
と進展した領域の点(性質)との間の写像が準同型となって(複数の事実が一つの性質へ:鉄
の棒と木の棒が同じ強さに移される)、事実から知識への移動はできるが知識から事実への
移動が一意でなくなるという不可逆性(irreversibility)を生む。
②不可逆性を解消するものとしてシステム科学がある。システム科学を可逆性という見地から
整理することは、設計の第二のパス(メタモデル)にとって重要である。
この二者が設計問題を難しくしている。これを克服して“設計学”を樹立するために
は、これらの困難性の本質を理解することから始めなければならない。
* 抽象化は知
識の内容を捨
象して行われ
るものである
から、上位の
科学は下位の
科学で扱う概
念の一部しか
含まない。一
方、下位の科
学は上位の科
学と矛盾して
はならない。
また、抽象化の
高度化により、
背後の仕組み
が明らかとなり、
それを作動さ
せることによっ
て望み通りに
属性を発現す
る可能性が増
大する。しかし
一方で、発現
することのでき
る属性の種類
が抽象化の進
行によって減
少する。
パースによる科学の分類(抽象化)
Charles Sanders Peirce (1839-1914)
数学
科学の進化
(抽象化、領域化)
法則科学
対象の性質間の関係の法則
(多くは定量的関係)
分類科学
対象の性質を階層的に分類
形而上学
社会心理学
物性論
材料工学・製造工学
文化様式論
記述科学
対象の性質をあるがままに記述
現実世界の個別知識
理解と行動を組として持つ
土着的知識
材料・加工
データベース
生活の歴史
技術
(社会的規則/マナー)
ナイフとフォーク:
テーブルマナー政策
(存在物の使用に
関する知識とスキル)
(材料・製造技術)
ナイフとフォーク:
成形し仕上げる技術
(存在物を製造する
知識とスキル)
分析科学と設計科学の非対称性
構成(設計)
観察(分析)
(制度化)
(抽象化、領域化)
観察(分析)
構成(設計)
(抽象化、領域化) (物質化)
数学
精神科学
(対象は
思考・行動)
非対称
文化製品
(精神科学)
制定
形而上学
物理科学
(対象は
物質的存在物)
心理学
力学
言語学、人類学
化学
社会学
地質学、地理学、
天文学、水文学
技術
(社会的規則/マナー)
技術
(材料・製造技術)
土着的習慣
土着的道具
非対称
製造
工業製品
(物理科学)
言語学を学んでも、話せるようになるわけではない。一本の木の化学成分と組織生成過程とを知っ
てもその木を再現できることはない。これを非対称と呼ぶ。(真に根源的な原理、すなわち“本当の真
理”を知れば再現できると信じる向きもあるが、それは今のところ現実的でない夢想である)。科学の
抽象化により、対象の理解が抽象化されるが(いずれも概念)、対象の理解である概念が対象その
ものより抽象的であり、対象の全部(質料・形相)を含まないのが一般である。抽象の程度差により、
対象と概念との1対1の対応が失われて、理解はできるが構成はできないという非対称を生む。 32
数学的表現による思考の可逆性の回復
構成(設計)
観察(分析)
(制度化) (抽象化、領域化)
逆問題
マナーを数学
的に表現でき
たとき、新しい
場面でのマ
ナーを数学的
に表現できる
文化製品
(精神科学)
順問題
制定
精神科学
(対象は
思考・行動)
観察(分析)
(抽象化、領域
化)
数学
順問題
形而上学
物理科学
(対象は
物質的存在物)
社会心理学
物性論
文化様式論
材料工学・製造工学
生活の歴史
材料・加工
データベース
技術
(社会的規則/マナー)
技術
(材料・製造技術)
ナイフとフォーク:
テーブルマナー政策
(存在物の使用に
関する知識とスキル)
構成(設計)
(物質化)
ナイフとフォーク:
成形し仕上げる技術
(存在物を製造する
知識とスキル)
ひとつの例
逆問題
設計製造
製法を数学的に
表現できたとき、
新しい目的の食
器を数学的に表
現できる
工業製品
(物理科
輸送、配置、
学)
保存、使用、
診断、保全、
改良、廃棄
特定の技術を選ぶと、記述、分類、法則科学それぞれに相当する分野が定まる。
33
システム科学による対称性回復
科学の進化
(抽象化、領域化)
設計
科学の進化
(制度化) (抽象化、領域化)
設計
(物質化)
数学
制定
システム表現
設計製造
精神科学
(対象は
思考・行動)
システム科学
物理科学
(対象は
物質的存在物)
システム表現
行動の法則
社会心理学
物性論
物質の法則
行動の分類
文化様式論
材料工学・製造工学
物質の分類
行動の記述
生活の歴史
材料・加工
データベース
文化製品
技術
(社会的規則/マナー)
技術
(材料・製造技術)
(精神科学)
ナイフとフォーク:
テーブルマナー政策
ナイフとフォーク:
成形し仕上げる技術
物質の記述
工業製品
(物理科学)
Peirceは形而上学を法則科学の上に置いた。 形而上学が、すべての学問が扱う事項を対象として
その成立の根拠を問うものであるならば、それは領域を超え、可逆でなければならない。とすれば
形而上学は、ここで議論している思考の可逆性問題と知識の分断問題を解決するものである。し
かし、それはあまりに抽象的で、我々が必要としている、現実問題を解く“道具”としては使えない。
34
そこでそれに置き換わるものとしてシステム科学を考える。
4.科学的知識の“進化”
現在の科学が持続性に対して十分な知識を提供できないことと、福島の事故を引き起
こしてしまったこととは、同じことに起因するのであって、その原因を克服するための計
画が必要である。
それは、科学の対象限定、領域化、検証法などの科学自身の構造の検討とともに、科
学の目標、科学研究の担い手、検証の社会化などの、科学の社会における位置づけ
をも含む検討の計画である必要がある。
ここでは言語の進化と科学知識の進化との類比を考える。
進化:情報循環による言語の進化
Ferdinand de Saussure (1857 – 1913)
発話
聴覚像と
概念の連合
採択と記憶
(社会提起選択)
話す*
(個人の選択)
*話す:聞き、考え、そして話す
社会的結晶
(言語系)
言語
小林英夫訳 一般言語学講義(岩波、1972)p.29の文より作図
36
土着知識(経験知)の進化
使用法
知識の
使用者
知識の使用
法考案者
知識
使用行為
使用対象
知識の
創出者
対象変化
言語も土着知識も堅固(robust)で自発的(emergent)である
社会の中の科学: 災害・事故からの教訓
科学者の立場で災害・事故から教訓を学び、それにより災害軽減、事故防止のための
科学のこれからの在り方、そしてまた復興への科学の寄与を考える。
(ここで科学とは、人文、社会、自然を対象とする科学、およびそれぞれについて分析科
学、構成科学を含むものとする。)
大震災の予測や災害の最小化のために科学はどんな貢献ができたのか、と考えるとき、
それは不十分であったといわざるを得ない。政府事故調査・検証委員会、国会事故調査
委員会など、6つあるといわれる委員会の調査が科学の貢献の不十分な点を明らかにし
てくれることを期待したいが、今のところそれがいつになるかわからない。
ここでは調査とは別の、我々の科学についての一般的な考え方を、やや本質的に考え
る。これからの災害軽減と事故防止のための科学の在り方と、災害地の復興に対する
科学の貢献とを、従来の科学を分析し反省しつつ考える。
この二つの問題は、一見独立の問題のように思えるが、実は深く関係している。それは、
いずれも現実の課題から離れて問題は解けないという点である。この場合現実の課題は、
震災と事故である。これらと科学の状況との関係が、災害軽減や事故防止の可能性を決
めるのであるが、同時にその関係は復興の可能性をも決める。
このように、“社会に中の科学”といった時、科学には従来と違う複雑な要請が寄せられ
ていることがわかる。簡単な答えはないが、どのような方向に進むべきかが問題である。
まず科学を、社会の中にどのように組み込むかを考える。
科学の孤立化の阻止: 言語との類比
科学は今、人間にとって本質的に重要なものになり、科学なしには繁栄や安全の
維持はおろか、基本的な生命の維持すら困難になったといわなければならないで
あろう。人間活動の多様化により、さまざまな部分で科学的知識が必要であり、あ
らゆる科学的知識の使用が求められる。さらに持続性時代を迎えて新しい困難が
次々と生起し、新しい科学的知識の産出が必要である。広範な知識使用と必要な
新知識の創出は、科学者が閉じた世界で行うものでなく、科学が社会の中で、一
般の人々に理解され、また若者が科学の世界に積極的に参入する状況が必要で
ある。しかし、理解と参入の状況は悪くなる傾向にあり、おそらくそのことが今回の
災害・事故と関係すると考えられるから、その是正は緊急の課題である。
「科学が面白い」と感じることは、人々が科学知識を利用したり、若者が科学者になり
たいと思うことの必要条件にすぎず、それだけでは理解や動機には不十分である。
科学者になろうと思うための十分条件は、科学が文化、知性、生存、社会の安定、
異種社会の共存、多様性の維持、豊かさ、持続性そして国家の繁栄などの、現在の
人間にとって失ってはならない重要なものを維持し発展させることに、科学が本質的
に必要であることを、人々が自ら感受することである。しかしその感受は、科学につ
いての面白い解説や、論理的な説明で達成されるわけではない。
解説などによらず自ら獲得していくものに言語がある。それは言語(自国語)が、人
間にとって基本的なものを維持し発展させることに本質的に必要であることを疑うこ
ともなく感受するからである。言語と同等な感受が、科学に対して起きるとき、人々は
自ら科学を理解し、若者は科学者になることに矛盾を感じなくなるであろう。
持続的進化のための科学者の役割
行動
社会の中の行動者
教育者
報道者
作家
芸術家
技術者
経営者
管理者
政治家
政策立案者
行政者
司法官
科学者
等
HY
(専門知識に
裏付けられた行動)
知識提供
行動者
(科学的助言
技術的助言)
構成型
科学者
社会、
地球環境
現象
観察型
科学者
(行動者の行動結果
として生じる現象)
評価
(個々の行動が現象全体
に及ぼす影響についての
分析にもとづく評価)
40
循環のない現在の科学
科学的知識の使用は壁の外の人たちによって行われる
科学論文の知識
社会
科学コミュニティ
=
=
領域別研究
厚い壁
俯瞰的視点を持たない人々による
個別的な知識使用
41
地球温暖化問題における情報循環構造
循環的な進化の構造により世界の協調的行動が可能となった
行動者
各国政府・製造業・サービス・交通・家庭
知識提供・
勧告
構成型
科学者
行動
京都プロトコル(1997) -COP15(2009)
新産業・省エネルギー・国際技術協力
持続性劣化
気候変動、環境劣化、
資源エネルギー危機
経済危機、貧富格差拡大
地域紛争
UNFCC(1992)
排出権取引(2002)
低炭素技術、再生エネルギー
省資源・省エネルギ―技術
評価・警告
J.Fourier(1827)
Researchers(1950~)
IPCC(1988)
AR4 (2007)
社会、
地球環境
現象
Stern Review(2006)
観察型
科学者
集合的知性(collective intelligence)のテーゼ
“ループをなすネットワークが持続性に必要な知識を創出する”
42
現代の科学
行動者
計画された入力
構成型
科学者
科学論文
観察: 個別課題の入出力関係
による対象の同定
(社会)、自然
観察型
科学者
入力に対応する出力
質問-答え(教育学)
刺激-反応(心理学)
場-現象(物理学)
伝達関数(工学)
物質科学:物質現象の観察
精神科学:精神現象の観察
社会科学:社会現象の観察
対象(自然、社会)の性質の解明を主目的としていて、現在の状態にはあまり興味を持たなかった。 43
現代の工学
行動者
行動の根拠情報
知識使用の基礎研究
構成研究
構成型
設計
プロトタイプ
科学者
工学分析
標準
試験
科学論文
社会、自然
観察型
科学者
領域ごとに構成の方法を経験的に積み重ねることに終始し、一般的方法を求めることに成功していない。
44
科学的根拠に基づく行動者の行動
(科学に立脚する政治・行政・経営、製造技術、産学連携---)
助言(根拠情報)を選択した専門家の行動
専門家:政治家、政策立案者、行政者、事業家、
技術者、教育者、作家、芸術制作家、
報道者、など
個別行動
行動の根拠情報
行動者
構成型
科学者
社会、自然
観察型
科学者
助言が届かない、届いても耳を貸さない、聞いてもその選択が恣意的であるなど、関係が不確定である。
45
社会技術
社会における行動と同化
この推移は社会科学の研究対象の一つであり、
その推移を構成(デザイン)するのが社会技術である。
個別の行動・効果
行動者
構成型
科学者
社会、自然
観察型
科学者
社会、自然の
行動受容による変化
46
循環の阻害要因
社会
科学コミュニティ
交流の不足
行動者
社会の顕在要求への過度の従属
行動間の関係性不問
社会技術未熟
構成型
科学者
社会、自然
方法の未成熟
連携の不十分性
観察型
科学者
変化の全体性の視点欠如
変化の現実観察の不足
研究課題選択の恣意性
社会的期待発見の看過
47
5.社会的期待
社会
持続性を理解するための社会・自然の記述
概念的に作ったループ構造は静的表現にすぎ
ない。これが持続性へ向かう進化を実現する
ためには、このループ上に物質及び情報の有
効な動的流れが実現されなければならない。
行動者
Actors*
構成型
科学者
社会、自然
観察型
科学者
このループの中で、研究開発を進める主役
は科学者と行動者である。しかし持続性の
鍵となるのは“社会・自然”である。なぜなら
その変化こそ持続性を決めるものだから。
ところが、私たちはこの部分についての知
識を十分に持っていない。そこで、持続性
に向かって社会・自然が重心移動を起こす
要因を抽出することによってループの動的
流れについての理解をさらに進めることが
必要である。
この作業においては、すでに社会において
人々が求めている顕在的課題だけでなく、
まだ指摘されていない課題も抽出しなけれ
ばならない。それをここで“社会的期待
(social wish)”と呼ぶ。
社会的期待が科学者の全体観察によって
把握されるために必要なものは何か?
社会的期待の発見(1)
(観察型科学者の使命)
科学者が、自治を持つコミュニテイの中で知的好奇心に駆動されて研究を行うことが科学研
究である、とされてきた科学の長い歴史は、知的好奇心に基づく科学研究が人類にとって貴重
な客観的知識を獲得するための基本的条件であることを、その成果を通じて立証している。
しかし、環境や国際関係などの、新しく生起しつつある課題を解決して人類が生き残るための
知識が緊急に求められるようになり、上記の歴史的基本条件に加え必要な科学的知識を許さ
れた時間内に得るための行動が必要とされる状況に、今人類がおかれたことを認識しなけれ
ばならない。
問題は、生き残るために必要な知識を人々が望んだとしても、その前提として生き残るとはど
のような課題群を解決することなのかについて、抽象的であいまいな理解しかないという状況
に我々がおかれていることにある。課題が明確に把握されていない以上、必要な知識とは既存
の知識の組み合わせだけでなく、新しい基礎的知識である可能性が大きい。したがってそれを
どのようにして見出すかが持続性時代といわれる現代の大きな課題であり、科学研究にとって
も最大の課題であるといわなければならない。
解決すべき課題、それは社会的に認知されたものだけではなく、人々の心の中で不確定な輪
郭を持つにすぎないもの、社会的に浮遊しているもの、それだけでなくまだ人類に感知すらされ
ていないものまで含め、「発見」されなければならないものである。
それをここで社会的期待と呼び、政策・課題提言の出発点であると定める。持続性時代にお
いては、この社会的期待を出発とする研究や政策の重要性が増しているのである。
社会的期待の発見(2)
(全体観察について)
社会のすべての要素、それが現象にせよ、事象にせよ、行動にせよ、それらを同
時に観察しようとすることは現実的でない。したがって、全体観察といっても観察行
為は個々の対象に対して行うしかない。しかしながら全体の理解は、個別観察の単
純な積み重ねで得られるわけではない。したがって、一つ一つの観察行為は、二つ
以上の対象の“関係”に対して行われることが必要である。
例えば社会に対して施行されたひとつの法律の効果を観察することは、個別観察
である。そして、別の法律の施行結果を観察すればそれはまた個別観察である。し
かしながらこれら二つの観察を足し合わせたところで全体観察の要素にはならない。
そうではなく、この場合は二つの法律の施行における関係を観察することが必要で、
その関係についての観察が全体観察の最小要素なのである。この例の場合、その
関係とは二つの法律の論理的整合性、現実的施行の場での調和、それを知った人
が矛盾なく行動することを勇気づけることなどである。それらが達成されれば観察結
果に良い評価が与えられるが、整合性、調和、勇気づけなどに対して障害となるこ
とが分かれば、全体観察結果に悪い評価を与え、その法律の再考を要請すること
になる。
このことは、法律の施行に限らず、製品の市場への投入、新医療の実施など、す
べてにわたって行われるべきであり、そこには膨大な作業が待っているのであるが、
その出発として、要素関係の観察法を開発することから始めることが必要である。
社会的期待の発見(3)
(社会的期待の水準)
社会的期待には多くの水準があり、その区別を明示しておくことがのちの課題設定におい
て重要となる。
第一は、期待という表現からは若干はずれるが、最も重要なものとして、与件がある。これ
は動かしがたい条件で、どんな研究課題を作るにしても無視できないものである。たとえば、
我が国の場合、与えられた地理条件、気象条件がある。また人口減も条件である。その他、
国際関係などもある。何を与件とするかは判断によって変わる部分があるが、それを明示し
ておくことが必要である。この与件のもとで行動すること、それは基本的な期待である。
第二はすでに社会で明示されているものである。現在では、科学技術基本計画で述べられ
ているような、環境持続、人々の健康・豊かさの向上、日本の独自文化の維持、世界の持続
性への貢献などがある。
一方、社会において必ずしも明示的に示されていない期待があり、それを第三の水準とす
る。この発見は、観察型科学者によって行われることが期待され、この潜在する社会的期待
の発見研究はおそらく今後最も重要な課題になると思われる。
これらは以下の三つの水準にまとめられる。
1) 前提・与件(調査・分析:対象とする課題に関係するが、政策によっては変えられない条件である)
2) 顕在する社会的期待(調査による発見:文献、委託調査、外国調査など)
3) 潜在する社会的期待(観察・分析的研究による発見、仮説と分析:観察型科学者*の主体的研究)
*観察型科学者の観察対象
人:人文科学、心理学、医学---; 社会:社会科学; 自然:自然科学
伝統的調和と科学政策
研究動機は知的好奇心であり、社会的期待は考慮されなかった
知的好奇心
成果
基礎研究
担い手
研究資金
配分機関
大学
研究開発法人
成果
成果
目的基礎研究
大学
研究開発法人
公的研究費
(科研費)
公的研究費
(科研費、
戦略基礎研究費)
文科省
日本学術振興会
文科省
科学技術振興機構
目的研究
企業
研究開発法人
大学
社会の繁栄
産業、
公共
サービス
など
公的研究費
(各省研究費)
私的研究費
(企業委託)
省庁(経産省、厚生省、
農水省、総務省など)
企業
53
伝統的な基礎研究における研究動機
(領域内知的好奇心)
内在因(研究者個人)
知識の均衡(矛盾除去)
全体的
(超領域)
個別的
(領域内)
自己の概念体系の矛盾除去
領域結合理論
知識の可逆性
----“知的好奇心”
新しい存在、現象の発見
存在・現象関係の新理論創出
領域内理論の不整合解決
-----
外在因(社会の要請、学界の関心)
社会の均衡(矛盾除去)
持続性と繁栄の両立
文化の共存
不平等の除去
----学界(学問領域)の問題解決
公知の課題
私秘的な課題
-----
研究の自治:課題選択・研究実施・発表の自由
54
持続性時代の研究動機
(超領域的な社会の要請)
内在因(研究者個人)
知識の均衡(矛盾除去)
全体的
(超領域)
個別的
(領域内)
自己の概念体系の矛盾除去
領域結合理論
知識の可逆性
----“知的好奇心”
新しい存在、現象の発見
存在・現象関係の新理論創出
領域内理論の不整合解決
-----
外在因(社会の要請、学界の関心)
社会の均衡(矛盾除去)
持続性と繁栄の両立
文化の共存
不平等の除去
----学会(学問領域)の関心
公知の課題
私秘的な課題
-----
研究の自治:?
55
伝統的パラダイムの危機
基礎研究
(社会の要請とは
独立に行われる研究)
(自由度大)
知的好奇心に
基づいて自ら主
体的に定めた課
題に基づく研究
科学の進歩
目的基礎研究
(社会的要請に
対応する領域研究)
目的研究
(社会的要請〈グリーン
など〉にこたえる研究)
政策により指定さ
れた社会的要請
を充足するために
必要である特定
の科学領域、技
術領域の課題に
基づく研究
政策的に定めら
れた社会的期待
を充足する製品
やシステムなどを
実現するため研
究
調和の喪失
政策により重点化
された領域の拡大
政策化された社
会的要請の実現
持続性時代では、社会からの要請が大きくなり、目的が定められた政策主導の研究
が主流になり、研究の自由が狭められてしまうのであろうか。その結果科学者の自
由(恣意性)を根拠とする科学の中立性が失われていくのであろうか。
それを阻止する責任が科学者にある。そのための方法を考える。
56
科学に課題解決が求められる時の基礎研究
科学者自身による課題の発見
研究者の内因的、すなわち自発的な動機で研究を行うのが基礎研究の条件であるとすればこ
れは基礎研究とはいえないが、仮に与えられた課題でも、研究者が自らの動機といえるほどに
咀嚼したうえで選択すれば、基礎研究だと言えるかもしれない。しかしこの咀嚼は、主観的であ
り、異なる判断がありえて、一般的に定義することはできない。
この条件を主観的でなく、外形的にも保証するためには、別の条件が必要である。自己の領域
における内因的な動機に基づく研究課題は、外部から見れば恣意的であったとしてもその選択
は許される。なぜなら、人々は領域の専門性における研究者の判断を信頼するからである。しか
しながら、社会の問題など、その研究者の専門以外の言葉で書かれた課題は、それを選択した
動機を外部に対しても説明可能でなければならない。
この場合説明可能には次の二つが考えられる、第一に課題の必然性が科学的に確認されてい
ることである。科学的確認は、課題が外因的である場合にはその正当性を科学的に証拠立て
る必要がある(たとえばエビデンスに基づく政策提案)。そして第二に、科学者自身が社会的課
題を発見する場合がある。そこで課題を科学的研究を通じて発見する研究を一つの研究分野と
する。この場合、課題解決型イノベーションにおいて課題とイノベーションとに等しい重要性を置
いて研究することになる。
課題設定と研究自治
研究課題正当化と研究自治維持の同時実現
たとえば現在科学技術基本計画などでいわれてる課題解決型イノベーションにおける課題とは、社会的に
生起している困難(地球環境劣化、貧困、文明衝突など)あるいは社会的な願望(平等、安心生活、疾病追
放、経済的繁栄など)であり、イノベーションなしには達成が容易でない課題を意味している。
上記の困難や願望は、いずれも解決が期待されているものであるから、まとめて社会的期待(social wish)と
呼ぶ。社会的期待は、個人や特定の集団に固有のものではなく、広く世界において共有される期待であると
する。
このような社会的期待が存在し、その解決に必要な知識が科学に求められるなら、科学はそれにこたえる
責任がある。その時次のことが必要条件である。
まず社会的期待を明確にするとともに、それを満たすための研究課題とは何かについての社会と科学者
の間の合意が必要となる。それは課題の恣意性を排除することである。
これは“課題の科学”が必要であることを意味している。すなわち、課題解決型研究においては研究の実施
のみならず、課題の選定も科学的行為でなければならないということである。
実はこのことは、外在因による科学研究の増大によって起きうる伝統的な科学研究の自治の危機の解
決の可能性を示唆している。言い換えれば、課題解決型研究が持つ二つの問題、すなわち社会が発する
課題の恣意性による誤った課題設定の可能性と、研究動機が外在化することによって基礎研究の伝統が
失われる危険とを、社会的期待を充足するための課題を科学的に導出することで同時に解決する可能性
があるということである。
社会科学者主導の社会的期待発見研究
このループに見られるように観察型科学者が観察するべきものは、社会及び自然
環境の変化であるが、自然環境の変化も人の行動の結果として起こる変化が主題
である。したがって、社会的期待の発見研究の主な課題は人類の社会的行動によ
って何が起こったかを全体観察によって同定するという研究である。その意味で、こ
の研究の主役は社会科学研究者でなければならない。
しかし、行動の結果としての変化には、人や社会の変化だけでなく自然の物理的変
化もある。しかも、その対応、適応、緩和などには、自然科学を基礎とする技術の適
用を必要とする場合がおおい。したがって、自然科学系の研究者の協力は不可欠で
あろう。
そこでここでは、社会的期待発見研究は社会科学系研究者が主導し、自然科学
系研究者がそのもとで研究を行うプロジェクトを提案する。
59
持続性時代における基礎研究のパラダイム
持続性時代の基礎研究
目的基礎研究
開発研究
(自由度大)
社会的期待の発
見研究によって
課題を創出し、そ
れに基づく研究
科学の進歩
発見された社会
的期待実現に必
要な科学領域、
技術領域などを
戦略的に進歩さ
せるための課題
に基づく研究
その領域の応用
可能性の拡大
発見された社会
的期待を実現す
るシステム・製品
などの開発研究
一体化による調和
社会的期待の
実現
持続性時代においては、研究動機が外在因となり、しかも全体的であるから、「課題
が与えられた共同研究」の形式となり、現在の分類では自由度の低い研究であるよ
うに見える。しかし、社会的期待の発見により課題を自ら定め、ネットワークオブエク
セレンスを主体的に構成することにより、それは自由度の高い研究として、中立的
60
知識を生み出す基礎研究となる。これが持続性時代の基礎研究である。
まとめ
持続性問題
---私たちは過去の邪悪なるものとは違う多様な現代の邪悪なるものに直面している。
それらは、個々の戦いでは打倒することができない。なぜならこれらの現代の邪悪なる
ものは相互に複雑に関係しあっているからである。
---それらは人間活動の直接的あるいは間接的結果である。
---現代の人間活動の多くは科学的知識を使用している。
方法:問題に対処するために必要な知識変化あるいは知識の使用法変化
(1)知識
---人類は膨大な知識を持っている。
---知識の多くは、それ自身の内では矛盾のないディシプリンとして保存されている。
---しかしながら、異なるディシプリン間に調和があるとは言えない。
→異なるディシプリン間の調和を向上させることが必要である。
(2)知識使用
---私たちは、知識使用についての体系的な知識を持っていない。
→知識使用の体系的方法論を創出することが必要である。
これらの二つの、ディシプリン間の調和と、使用の体系的知識とは、理念的考察から導出
することはできない。したがって、実際の行為を通じて求めていくしかない。
61
持続性科学の構造
(再帰的構造)
選択
行動
行動
助言
同化
設計
対象
聴取
状態
警告
理解
抽出
この再帰的構造は、科学者が各自の役割を認識するとともに、役割によって生
じる協力の相手と協力方法を要請している。その要請は、他者によって与えら
れるものでなく、科学者が自ら見出してゆくものであると考える。