パレスチナ人の越境移動に関する意識と経験

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パレスチナ人の越境移動に関する意識と経験
-移動先の選択と動機のメカニズム-
髙岡豊(上智大学イスラーム地域研究機構)
浜中新吾(山形大学地域教育文化学部)
問題提起
• パレスチナ人の越境移動は「パレスチナ難民研究」
というジャンルで調査・分析の蓄積がある
• しかし、難民という要因を強調しすぎることで、逆に
問題を生じさせてはいないだろうか?
• シリア人やエジプト人など他のアラブ民族の事例と
比較可能な形で記述・分析し、一般的な分析枠組を
用いることで、その特殊性が浮かび上がるものでは
ないだろうか?
パレスチナ難民研究の一例
• 難民キャンプ内外のパレスチナ人への聞き語り
– 参与観察によって人々の語りや生活状態を調査する
– 「個人の顔が見える」「生の声を聞ける」
– 体験としての「歴史」を直接聞くことで、リアリティを持った
重厚な歴史を紡ぎ出すことができる
– 調査地という「場」で得た情報を比較可能な形で提示する
ことは困難(文脈やレトリックに依存)
– 調査・分析の結果は、パレスチナ難民研究という「枠」の
中に蓄積される傾向が強い(先行研究の検討・結論)
大量観察の地域研究
• 量的に比較可能な情
報を得られる
– 記述的推論
• ある情報と別の情報
の関連性を調べること
ができる
– 因果的推論
• 分析は再現性を持つ
– 手続き的客観性の担保
• 参与観察を補完
越境移動の経験
年齢層別の越境移動経験者(単位:%)
パレスチナ特有の傾向
60
54.8
50
38.5
40
30.2
30
25.9
23.0
18.8
20
12.7
10
0
39.6
39.5
越境移動の理由と行き先/性別のクロス表
理由(複数回答)
国名/人数
ヨルダン
サウジアラビア
エジプト
米国
94
42
27
22
2. 自分の能
3. 家族・親
1. 収入がよ 力を用いる・
戚が暮らし
い
高めるよい
ている
機会がある
15
7
60
26
7
8
9
3
12
10
4
9
4. 同郷の友
5. 文化的に 6. かつて暮
人・知人が
近い
らしていた
いる
18
5
7
2
17
7
7
0
28
8
4
1
無回答
0
2
0
1
単位:実数
理由
1. 収入がよい
男性
女性
全体
単位:%
37.5
14.3
28.1
2. 自分の能力
4. 同郷の友
を用いる・高め 3. 家族・親戚が
人・知人がい
るよい機会があ 暮らしている
る
る
10.9
20.1
9.8
4.8
38.1
12.7
8.4
27.4
11.0
5. 文化的に 6. かつて暮らし
近い
ていた
10.3
7.9
9.4
11.4
22.2
15.8
越境移動の理由と教育水準(単位:実数)
理由(複数回答)
国名/人数
小学校卒業以下
中学校卒業
高等学校卒業
中等専門学校卒業
大学在学中
大学卒業
計
2. 自分の能
3. 家族・親 4. 同郷の友
1. 収入がよ 力を用いる・
5. 文化的に 6. かつて暮
戚が暮らし 人・知人が
い
高めるよい
近い
らしていた
ている
いる
機会がある
2
1
15
5
5
7
8
3
9
4
2
3
16
7
23
10
9
11
20
2
8
2
1
7
0
0
6
0
2
4
36
13
23
13
9
17
82
26
84
34
28
49
計
35
29
76
40
12
111
303
越境移動の希望
越境移動を希望する国・地域と理由(1)
国名
希望す
る
パレスチナ
379
人数
割合(%) 60.60
サウジアラビア
276
人数
割合(%) 44.20
アラブ首長国連邦
263
人数
割合(%) 42.10
ヨルダン
205
人数
割合(%) 32.80
トルコ
203
人数
割合(%) 32.50
シリア
196
人数
割合(%) 31.40
2. 自分の能力を
3. 家族・親戚 4. 同郷の友人・ 5. 文化的に近 6. かつて暮らし
1. 収入がよい 用いる・高めるよ
が暮らしている 知人がいる
い
ていた
い機会がある
41
10.82
54
14.25
291
76.78
157
41.42
154
40.63
64
16.89
203
73.55
48
17.39
44
15.94
41
14.86
95
34.42
15
5.43
209
79.47
75
28.52
35
13.31
34
12.93
93
35.36
11
4.18
24
11.71
20
9.76
152
74.15
76
37.07
63
30.73
22
10.73
109
53.69
59
29.06
10
4.93
13
6.40
65
32.02
3
1.48
36
18.37
29
14.80
25
12.76
28
14.29
109
55.61
4
2.04
越境移動を希望する国・地域と理由(2)
国名
希望す
る
カタル
人数
割合(%)
米国
人数
割合(%)
エジプト
人数
割合(%)
イスラエル
人数
割合(%)
英国
人数
割合(%)
レバノン
人数
割合(%)
2. 自分の能力を
3. 家族・親戚 4. 同郷の友人・ 5. 文化的に近 6. かつて暮らし
1. 収入がよい 用いる・高めるよ
が暮らしている 知人がいる
い
ていた
い機会がある
183
29.30
209
87.43
75
24.59
35
9.84
34
15.30
93
38.65
1
0.55
178
28.50
133
74.72
94
52.81
33
18.54
25
14.04
7
3.93
2
1.12
164
26.20
36
21.95
30
18.29
28
17.07
50
30.49
71
43.29
13
7.93
141
22.60
109
77.30
46
32.62
27
19.15
36
25.53
14
9.93
15
10.64
141
22.60
85
60.28
68
48.23
13
9.22
13
9.22
13
9.22
3
2.13
134
21.40
33
24.63
31
23.13
13
9.70
19
14.18
61
45.52
3
2.24
パレスチナ人の越境移動メンタルマップ
能力開発
France

UK
USA

収入・能力

Germany

Israel
親族・友人
収入
Jordan
Kuwait



Palestine
親族・文化

Egypt
Turkey 
 UAE


S audi

Qatar
Lebanon
 S yria
文化的近接性
文化・収入
移動先の選択と動機のメカニズム・仮説
•
•
•
•
•
所得拡大仮説
能力開発仮説
ネットワーク仮説
ジェンダー仮説
教育水準仮説
特定の移動先
越境移動先の選択(1):ロジスティック回帰分析
独立変数
収入
能力開発
家族
友人
文化的近接性
教育水準
年齢層
性別
所得水準
居住地
定数
サウジアラビア
係数 標準誤差
0.468
0.066
-0.294
0.070
0.255
0.108
0.008
0.099
0.127
0.067
-0.092
0.070
0.031
0.048
0.261
0.219
0.038
0.090
0.237
0.037
-2.681
0.715
ケース数
493
予測適合率(%)
70.8
N agelkerkeのR^2
0.305
(注)*:p<.10 **:p<.05 ***:p<.01
***
***
**
*
***
***
アラブ首長国連邦
係数 標準誤差
0.553
0.069 ***
-0.024
0.077
0.103
0.111
-0.126
0.109
0.241
0.074 ***
0.121
0.074
-0.042
0.051
0.209
0.226
-0.024
0.093
0.086
0.037 **
-2.998
0.753 ***
493
72.8
0.379
ヨルダン
係数 標準誤差
0.196
0.052
-0.174
0.061
0.794
0.123
0.226
0.099
0.049
0.060
-0.169
0.073
-0.046
0.050
0.400
0.225
-0.198
0.094
-0.168
0.036
-1.553
0.730
493
71.8
0.292
***
***
***
**
**
*
**
***
**
越境移動先の選択(2):ロジスティック回帰分析
独立変数
収入
能力開発
家族
友人
文化的近接性
教育水準
年齢層
性別
所得水準
居住地
定数
係数
0.305
0.211
0.035
-0.059
-0.020
0.072
-0.131
-0.093
-0.054
-0.066
-1.146
トルコ
標準誤差
0.056
0.070
0.110
0.101
0.062
0.074
0.052
0.222
0.092
0.035
0.724
ケース数
493
予測適合率(%)
75.3
N agelkerkeのR^2
0.290
(注)*:p<.10 **:p<.05 ***:p<.01
***
***
**
*
シリア
係数 標準誤差
0.009
0.050
-0.013
0.058
-0.059
0.102
0.005
0.092
0.266
0.060
-0.069
0.069
-0.155
0.049
0.871
0.214
0.004
0.087
-0.123
0.034
-0.647
0.678
493
70.0
0.164
***
***
***
***
係数
0.539
-0.178
-0.019
0.021
0.298
0.124
-0.062
0.123
-0.010
0.012
-2.998
493
76.1
0.390
カタル
標準誤差
0.067
0.073
0.115
0.108
0.071
0.079
0.056
0.241
0.100
0.038
0.808
***
**
***
***
移動先の選択と動機のメカニズム・結果
•
•
•
•
•
•
•
•
所得拡大仮説
サウジアラビア・UAE・トルコ・
カタル・ヨルダン
能力開発仮説
トルコ(+)・サウジアラビア(-)・
ヨルダン(-)・カタル(-)
ネットワーク(家族) ヨルダン・サウジアラビア
ネットワーク(文化) カタル・シリア・UAE
ジェンダー仮説
シリア
教育水準仮説
ヨルダン(-)
結論
能力開発
France

UK
イスラエル
の位置づけ
USA


Germany

Israel
親族・友人
収入
Jordan
Kuwait



Palestine
ヨルダン
パレスチナ
エジプト

Egypt
Turkey 
 UAE


S audi

Qatar
Lebanon
 S yria
文化的近接性
レバノン
シリア
トルコの位置
づけ
結論
• 所得拡大仮説、能力開発仮説、ネットワーク
仮説の妥当性が明らかにされた
• ジェンダー仮説と教育水準仮説は部分的にし
か当てはまらなかった
• 越境移動に関するパレスチナ人の意識と経
験は、シリア・エジプトと比較すると多様かつ
具体的だった
結論
• パレスチナ人の越境移動についての情報
量、および情報を分析したり希望を表明する
意欲と能力の点で、シリア人やエジプト人を
上回る
• 難民という境遇によって説明するのではなく、
そのダイナミズムを相対的に評価したい