火災に関する法規制のあり方

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Transcript 火災に関する法規制のあり方

山崎栄一研究室
EIICHI YAMASAKI LABORATORY
http://www.eiichiyamasaki.com/
火災に関する法規制のあり方
大分大学 山崎栄一
1
山崎栄一研究室 EIICHI YAMASAKI LABORATORY
これまでに起きたショッキングな火災
1982年 2月 東京都千代田区のホテルニュージャパンで33人死亡
90年 3月 兵庫県尼崎市のスーパー長崎屋で15人死亡
2000年 3月 神戸市のテレクラビルで4人が死亡
01年 9月 東京・歌舞伎町の雑居ビルで44人が死亡
06年 1月 長崎県大村市のグループホームで7人が死亡
07年 1月 兵庫県宝塚市のカラオケボックスで3人が死亡
08年10月 大阪・難波の個室ビデオ店で16人が死亡
09年 3月 群馬県渋川市の高齢者向け住宅で10人が死亡
10年 3月 札幌市のグループホームで7人死亡(建物名など当時)
12年 5月 広島県福山市でホテルプリンスが全焼し、7人死亡
2
朝日新聞 2012年05月14日 朝刊 2社会
山崎栄一研究室 EIICHI YAMASAKI LABORATORY
本日の全体的流れ
憲法から見た法規制に関する知識
行政法から見た各種規制の方法
消防法・消防行政の特徴
建築基準法・建築行政の特徴
ホテルプリンス火災の顛末
今後の対応策のあり方
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山崎栄一研究室 EIICHI YAMASAKI LABORATORY
憲法から見た法規制に関する知識
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山崎栄一研究室 EIICHI YAMASAKI LABORATORY
なぜ制限が出来るのか?
憲法第13条
• すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対
する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その
他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法第11条・第97条
• 侵すことのできない永久の権利
公共の福祉の意味
• 「他者の人権」と解釈されている
• 要するに、「他者の人権」を侵害するような行為は制限(禁止)される
ということ
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住宅用火災警報機にまつわる問題
2006年の消防法改正により、住宅用火災警報器が義務付けになった
新築住宅: 2006年6月1日より適用
既存住宅:市町村条例で定める日 (2011年6月までの日 )より適用
どこが問題なのか?
• たとえ、火災で燃えたとしても、自分の家が燃えるだけなので、「他人
の人権」を侵害しているわけではない。
• 「おせっかいやき的」「パターナリズム的」な制約?
それはどのようにして正当化したのか?
•
•
•
•
6
死者の発生確率が高く、隣家等への延焼危険性も大きい
自宅とはいえ、社会的ストックとしての意味合いがある(譲渡可能性)
同様の規制はすでになされている―シートベルト シックハウス対策
アメリカでも住警器の規制が行われている
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人権制約の目の付け所
どのような目的で
内在的制約
政策的制約
どのような人権を
精神的自由権
経済的自由権
どのような手段で
禁止
許可制
認可制
どのような範囲で
広範
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厳格
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内在的制約と政策的制約
内在的制約
• 他人の権利・自由を保障するために行われる
• 必要最低限度の規制
• 消防法や建築基準法による規制
政策的制約
• 経済的・社会的な弱者の保護を目的として行われる
• 必要な限度での規制
• 独占禁止法や文化財保護法による規制
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それぞれの法律の目的
消防法 第1条
•
この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の
生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災
又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩
序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的
とする。
建築基準法 第1条
•
9
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関
する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産
の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを
目的とする。
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制限される人権(自由権)の特徴
精神的自由権
• 法令に触れるかも知れない表現はあえてしない。
いわゆる、萎縮効果。
経済的自由権
• 法令に触れるかも知れないが、文句が来ない限り
やっておく(家前の路上の植木など)
• 建築・消防規制に従うにはコストが伴うので、抵抗
も激しい
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人権制約の形態
禁止
• 刑法による特定の行為の禁止 道路交通法等で禁止 絶対禁止
許可制
• ある行為をするのに許可ないし資格が必要
原則は(生来的に)禁止 例外的に禁止が解除される
• 自動車免許 飲食店(保健所の許可) イベントでの道路使用許可
• 弁護士・医者・理容師(資格必要)
認可制
• 警察・役所に事前に届出・登録が必要。 とりあえず届ければよい。
• 理容業、建築業、毒物劇物営業者
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事後法の禁止
憲法第39条
• 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪
とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。
規制前
法改正による
新たな規制
過去に遡って
適用をする
=遡及効
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規制後
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消防法と建築基準法の考え方の違い
消防法
• 建築物の使用に着目
• 継続的
• 常に、新しい規制に合
致する必要〔特定防火
対象物〕
実質的な遡及適用
(遡及適用であるか否
かは、意見の対立あり)
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建築基準法
• 建築行為に着目
• 一時的
• 建築行為がなされた
時点の規制に従えば
よい
遡及適用は不可
ただし、
新築・改築は
新たな建築行為として
規制が可能
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規制法令を遡及適用する際に起きる問題
法令に適合するように改装・設備
追加をすると、数百万から
数千万する場合もある!!
建築物の一からのやり直しは
現実的に困難!!
法令適合前
事業者
法令適合後
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新たに規制がかかると
もはや事業を存続できなく
なる恐れもある
何らかの補償的な措置
がほしい!!
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消防法第17条の2の5
消防用設備等
の設置義務
関係者の経済
的負担
両者の関係を調整すべく、
①すべての防災対象物に現行基準が適用される消防用設備等
②改正後の基準法令の規定が適用されるケース
(大幅な増改築・特定防火対象物等)
を規定している。
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遡及適用に対する補償的措置―消防法の場合
昭和49年改正法(第64号)附則第6項
•
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国及び地方公共団体は、……消防用設備等
に係る防火対象物の関係者が新法第十七条の
規定による技術上の基準に適合させるために行
う当該消防用設備等の設置に係る工事又は整
備について、必要な資金のあつせん、技術的な
助言その他の措置を講ずるよう努めるものとす
る。
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火災にまつわる法規制
消防法
• 消防用設備(ハード面)に関する規制
• 防火管理(ソフト面)に関する規制
• 実質的に遡及効が認められている
建築基準法
• 建築物の構造に関する規制
• 遡及効が認められていない
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行政法から見た各種規制の方法
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民法と行政法との違いについて
民法の場合



いきなり行政法から
始めると挫折する!!
行政法の場合
私法に分類
法律行為を中心に構成
民事訴訟による救済
両者の合意によって
権利・義務が確定



公法に分類
行政行為を中心に構成
行政訴訟・不服申立による救済
優位な立場
行政
モノ・カネ・サービス
市民
契約等
市民
禁止・下命
許可・認可
等
行政が一方的に
権利・義務を確定
市民
対等な立場
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どちらも
意思表示が命
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行政処分(行政行為)の特殊な効力
申立や訴訟をしても、
代執行等の手続は停止しない
行政のゴリ押し力
公定力
• 権限のある行政庁・裁判所が取消をしない限り、行政処分の効力が有効なものと
して扱われる(命令→行政代執行の手続へと進行していく)
不可争力
• 一定の期間を経過すると、国民は不服申立・行政訴訟を提起できなくなる
(特例:消防法第5条の4 第6条1項=30日以内 通常は 60日 6ヶ月)
自力執行力
• 裁判所を経由せずに、自力で強制執行をすることができる
行政代執行がその一例
• 民事の場合は、自力救済が禁止されているので、裁判所を経由して強制執行する
ことになる
これらの効力によって行政が優位に立っている。
その分、行政が仕事を進めやすい。
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具体的な処分・命令
消防法
本来はこれらの手法を
用いて対応するのが
タテマエではあるが…
• 17条の4 消防用設備等に対する措置命令
• 8条 防火管理に対する措置命令
• 5条 防火対象物に対する措置命令 強力
建築基準法
• 9条 違反建築物に対する措置命令
• 10条 保安上危険な建築物等に対する措置命令
これらの措置命令に従わなかった場合には、
罰則や行政代執行が適用される!!
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強力
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参考―予防消防の全体像 違反処理の流れ
行政手続法
行政不服審査法
命令
消防同意
製造所等の許可
使用検査
完成検査
防火管理指導
保安管理指導
行政手続法
立入検査
警告
行政調査
行政指導
認定・許可の取消し
行政事件訴訟法
行政処分
行政処分の取消し
刑事訴訟法等
告発
(過料事件の通知)
刑事的処罰手続
行政代執行法
代執行(略式)
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行政上の強制執行
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行政法から見た本来の関係
それぞれの行政庁が、
それぞれの目的・権限に
従って、規制権限を行使
市 消防署
市
消防署長
開発建築指導課
消防法
第17条の4
行政処分
(措置命令等)
火災に対する
安全性
建築基準法
第9条
建築物の安全性
国民
防火対象物
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市民から見た外見上の関係
お役人
消防署長
開発建築指導課
行政処分
(措置命令等)
どちらも同じで
区別がつかない
消防署からの命令に従った
↓
建築物の違法性が
解消された(あるいは存在しない)
と勘違い
国民
防火対象物
せっかく設備を設置し
たのに、無駄になって
しまった~!!
なぜ、そんな設置命令
を出したんだ!!
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行政指導―もう一つの行政手法
昔から行われている行政手法
であるが、法令上は行政手続法
(1994年)ではじめて規定された

行政指導とは、行政機関の任務に属する一定の事項について、相手方が
任意に協力・履行してくれることを期待して行う活動

あくまでも任意であるので、行政指導に従わなかった者に対して不利益な
取扱をしてはいけない
要するに、
行政手続法
でタテマエを
貫徹させた

事実行為なので、法的効果(権利―義務の変動)はない

事実行為なので、不服申立・行政訴訟の対象とはならない

ただし、国家賠償の対象にはなる

地方公共団体の行う行政指導(市町村の消防)には、行政手続法は適用さ
れない
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行政指導―特徴その1
日本の法文化にフィットしている
ハードな措置命令
あくまでも協力を
求めるだけで、
強制力はない
ソフトな指導
あいまいな法的根拠・強制力によって、
国民の自由が制限されかねないという危惧
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行政指導―特徴その2
現行法令の不備を補完できる
行政指導によって、
既存不適格建築物については、
これで現行の基準の遵守を
お願いすることになる
指導ができる範囲
法令によって、
強制ができる範囲
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最初はとりあえず、穏便に協力
を求めるという形でお願いをする。
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措置命令に従わない場合―行政代執行のプロセス
他人が代わって行うことができる「代替的作為義務」に対してのみ可能
代執行のプロセス
非常・危険切迫の場合は、省略可〔緊急執行〕(第3条第3項)
消防法の特別規定あり(消防法第3条第4項等)
代執行令書
による通知
戒告
行政代執行法
第3条第1項
行政代執行法
第3条第2項
代執行の
実施
費用の徴
収
行政代執行法
第5条
理論的には、消防用設備等の設置義務も代執行の対象になり得るが、
現実的には困難である(設置方法について選択の余地が大きいので)
基本的には、除去命令については現実的に代執行の対象になり得る。
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措置命令に従わない場合―罰則の適用
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行政刑罰 (告発)
行政上の秩序罰(過料事件)
性格
刑罰(行政犯)
刑罰ではない
内容
懲役、禁固、罰金、拘留、科料
(とがりょう)
過料(あやまちりょう)
対象
行政上の義務違反
(軽微なものを除く)
行政上の軽微な義務違反
条文
消防法第38条以下
建築基準法98条以下
消防法第46の2~5
建築基準法105条
刑法総則
適用あり
適用なし
科罰手続
刑事訴訟法による
告発・通知先
捜査機関(検察・警察)
科罰主体
裁判所
※例外 即決裁判・通告処分
非訟事件手続法による
地方裁判所
裁判所
※条例・規則違反=地方公共団体の長
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Ⅰ.消防法・消防行政の特徴
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消防法の特徴(建築基準法も同様)

法律―政令―規則 が緻密に連携しあっている法体系
消防法(建築基準法)の体系がわかれば、どんな法令でも読める!!
法律・建築・設備・医療など幅広い知識が必要!!
消防官には「文武両道」が求められている!!
消防法
消防法施行令
(危険物の規制に関す
る政令)
消防法施行規則
(危険物の規制に関する規則)
火災予防条例
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密接に関連しており、
頻繁に改正されている
政令で定める…
(第8条)
総務省令で定める…
(第5条第3項)
市町村条例でこれを定める…
(第9条)
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消防行政の特徴

基本的には規制行政
生命・身体ならびに財産の安全は、「消極目的」に基づく規制で
あるので、必要最小限の規制しかできない。
漠然とした危険性だけでは規制ができない。そういった危険が
現実化し、ショッキングな事故になってはじめて規制の強化が行
われる。
「事故の発生」→「類似の施設の総点検」→「規制強化」
防火対象物の令別表6項(ロ)の建物は、275㎡以上の場
合スプリンクラー設置が義務づけられているが、2006
年1月に火災があったグループホームの延べ面積が279
㎡であったことによる
真の意味での「予防」という発想はない
常に後手回り→「人柱行政」
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最近の消防法による規制の一例―福祉施設
認知症高齢者グ
ループホーム火災
(2006年1月8日)
•施行令別表第一(六)の細分化
•防火管理者の選任基準 30人以上→10人以上
•スプリンクラー設備 1000㎡以上→275㎡以上(費用助成)
•自動火災報知設備 300㎡以上→全ての施設
•火災報知設備 500㎡以上→全ての施設
群馬県渋川市
老人ホーム火災
(2009年3月19日)
防火安全教育・指導のための住宅用火災警報器の配備
自力避難困難な者が寝泊まりするなど火災危険性の高い社会
福祉施設、簡易宿泊所等の全てにおいて、住警器を全額国費に
より各地方公共団体に配備し、全施設に設置する
「先手必勝」的な
発想への転換が
求められている
小規模施設でのさ
らなる火災
or
個人住宅・共同住
宅での火災
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•これらの施設をきちんと把握できるか
•100㎡で火災なのに十分なのか
•避難困難なのに住警機でよいのか
•設備設置規制=費用助成を原則セッ
トにすべきではないのか
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消防法の規制対象―防火対象物
対象にならないのは
一戸建て住宅ぐらい
17条1項
• 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲
食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象
物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防
の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施
設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難そ
の他の消防の活動のために必要とされる性能を有する
ように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、
及び維持しなければならない。
建築基準法の規制対象とほとんど同じ
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規制の分類がかなり
きめ細かいモノに
なっている
定義付けの問題:
グループホームはここにいう
防火対象物に該当するか?
「自宅と同じような居心地」が
基本コンセプトなのに…
JPセキュリティネットのHPより
http://www.jp-security.net/syoukaki2/index.html
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消防法上の命令
消防法第17条の4(消防用設備等の設置維持命令)
• 消防長又は消防署長は、第17条第1項の防火対象物における消防用設備等
が設備等技術基準に従つて設置され、又は維持されていないと認めるときは、
当該防火対象物の関係者で権原を有するものに対し、当該設備等技術基準
に従つてこれを設置すべきこと、又はその維持のため必要な措置をなすべき
ことを命ずることができる。
消防法第8条
• 防火管理者の選任命令(8条2項)
• 防火管理者に対する措置命令(8条3項)
消防法第5条
強力
• 防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置
(5条)
• 防火対象物の使用の禁止、停止又は制限(5条の2)
• 消防吏員等による措置命令(=実力行使)(5条の3)
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警察比例の原則
小
危険性
第17条の4に基づく措
置命令
(消防用設備の設置)
あくまでも、消防用設備が一定の基準に
従って設置されていないことによる危険
性から判断をすることになる!!
大
第5条に基づく
措置命令
(使用禁止)
むしろ、違法建築物とい
うことで使用禁止処分を
することこそ警察比例の
原則に反している!!
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5条命令の出しにくさ
第6条2項~4項
• 5条による措置命令が取消判決を受けた場合、違法で
なかった場合は、市町村が損失を補償しなければなら
ない。
空振りのリスクがあるので
5条命令は出しにくいのではないか?
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Ⅱ.建築基準法・建築行政の特徴
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建築基準法の規制対象―特殊建築物
1
2
• 劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場
対象にならないのは
一戸建て住宅ぐらい
• 病院・診療所・ホテル・旅館・下宿・寄宿舎・共同住宅・児童福祉施設等
3
• 学校・体育館・美術館・博物館・図書館・ボーリング場・スキー場・スケート場・
水泳場・スポーツ練習場
4
• 百貨店・マーケット・展示場・物品販売店舗・飲食店・キャバレー・カフェー・ナイ
トクラブ・バー・ダンスホール・遊技場・待合・料理店・公衆浴場
5
6
40
• 倉庫
• 自動車倉庫・自動車修理工場・映画スタジオ・テレビスタジオ
〔建築基準法別表第1ならびに令115条の3〕
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建築基準法上の命令
9条1項(一般の場合)
• 当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制
限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措
置をとることを命ずることができる。
9条7項(緊急の場合)
強力
• 仮に、使用禁止又は使用制限の命令をすることができる。
10条(保安上危険な建築物等に対する措置)
強力
• これについては、既存不適格建築物でも適用が可能
• そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となる
おそれがあると認める場合
• 当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制
限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。
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警察比例の原則
小
危険性
第9条に基づく措置命令
(一般的な違反建築物)
建築物の危険性によって、
とりうる措置命令が異なる!!
大
第9条7項or10条に基づ
く措置命令
(使用禁止等)
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建築基準法の適用除外
3条2項
•
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行
又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に
建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷
地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しな
い部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地
又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、
適用しない。
いわゆる、「既存不適格建築物」
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既存不適格建築物とは……
規制前
法改正による
新たな規制
建築当時の
基準には適合
規制後
新たな基準
に適合しないが
違法ではない
ただし、新たな規定の施行又は適用後、
増改築、大規模修繕・大規模模様替を実施した場合は、
原則、建築物全体を現行規定に適合させることが必要
(建築基準法3条3項)
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ホテルプリンス火災の顛末
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ホテルプリンス火災をめぐる経緯
1960年
木造2階建ての旅館が完成
67年
鉄筋4階建てホテル建築確認申請
68年
ホテル完成
74年
市がホテルの面積が建築確認申請時より拡大しているのを把握
79年
消防への消防設備の点検・報告をしなくなる
87年
市が防災査察。ホテルと旅館が一体となっているのを把握。8項目で不備発覚
2001年12月 ホテル1階の調理場でぼや
03年 9月 消防が立ち入り査察。避難・消火訓練をしていないことが発覚
06年
消防が消防設備の点検・報告を求めなくなる
11年 9月 市が5度目の防災査察。ホテル側は「是正難しい」
12年 5月 火災でホテルが全焼し、7人死亡
46
朝日新聞 2012年05月15日 より
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ホテルプリンスの防火上の不備と市や消防の対応
事項
• 防火上の不備
• 市や消防の対応
朝日新聞 2012年05月20日 朝刊 広島1面 より
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建築基準法上の問題点
定期報告(3年に1回)
• 38年間未提出
• 年2回、文書を送付。防災査察時に口頭で催促(市)→行政指導
改築(1974~87年の間)の建築確認申請
• 未提出
• 違法建築であることを見落とす
防災査察時の指摘項目の改善
• 25年間改善せず
• 防災査察時に口頭で改善を要求(市)→行政指導
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具体的な指摘項目
階段の幅が狭いうえ、長年改善されていない
廊下に非常用照明が設置されていない
窓に障子を設置するなど排煙設備が不十分
壁や天井に不燃材料が十分使われていない
朝日新聞 2012年05月15日 より
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消防法上の問題点
消防用設備の点検報告(年1回)
• 33年間未提出
• 査察時などに指導。査察は2003年を最後に実施せず(消防)
屋内消火栓の非常用電源整備
• 少なくとも31年間不備
• 査察時などに指導。査察は2003年を最後に実施せず(消防)
消火・避難訓練の実施報告(年2回)
• 開業以来実施せず
• 査察時などに指導。査察は2003年を最後に実施せず(消防)
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何が問題だったのか?
規制に対する抵抗が強い―規制=コストの発生 業界の抵抗
事業者と対決までして規制を勝ち取るメリットがない
柔軟な解釈によって規制が甘くなる傾向があった―見落としの原因
軽微な違反であるので、強権を発動するまでには至らない
軽微な違反の積み重ねが、深刻なリスクを生み出してしまった
火災に対するリスク意識の薄さ 報告してこなくても実害がない?
違反行為に対する寛容性?―違反状態の恒常化 放置
日本の法文化―命令=抜けない伝家の宝刀
日本の法文化―行政指導という中途半端な行政手法
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今後の対応策
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法規制の運用の厳格化
• 点検・規制に必要な人員(量・質含め)の確保はどうするのか?
建物の安全性の公表―基準遵守への心理的圧迫
• 現在どの基準を満たしているのか、いないのかを表示・説明する義務を
課す
• 適マーク制度のような制度を設ける
補修に関する技術開発・助言
• 低コストで安全性を確保できるようにする
建築基準法にも遡及適用
• 一定の期間が経過し、安全性が危惧されるようになれば遡及適用
財政的な支援措置
• 少なくとも、国民の健康・生存に不可欠な建築物には財政支援を
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山崎栄一研究室 EIICHI YAMASAKI LABORATORY
参考文献

法学・行政法一般のテキスト
1.
2.
3.
4.

消防法・建築基準法に関するテキスト
1.
2.
3.
4.
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長野秀幸他『行政法がわかった 改訂 第7版』法学書院
櫻井敬子他『行政法〔第3版〕』弘文堂
田島信威『法令入門』法学書院
伊藤真『伊藤真の民法入門』日本評論社
関東一『消防官のためのやさしい行政法入門』近代消防社
関東一『実例に学ぶ消防法令解釈の基礎』東京法令出版
『まんが事例で学ぶ消防法〔予防編Ⅱ〕』東京法令出版
図解雑学『消防法』 『建築基準法』ナツメ社