相互運用性と標準 - 地理空間的思考の教育研究プロジェクト

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2011-03-31
第6章 GISと社会
2.空間データの流通と共用
太田守重
[email protected]
地理情報科学教育用スライド ©太田重盛
ここで学ぶこと
空間データの製作には,多くの場合多額の費用と手間を要する.しかし,空
間データは,それが反映している時空間的なエリアの説明情報として,将来に
わたり使用される可能性をもつ.空間データの再利用によって,データ整備に
かかる時間と労力が圧縮できる.従って空間データの流通と共有を促す仕組
みは,社会に役立つものとなる.ここでは,空間データの流通と共用について
学ぶとともに,法的な問題にも触れる.
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相互運用性と標準 (1/4)
相互運用性 (Interoperability):異なる情報システムであっても,ネットワークを通じ
て情報交換することが可能になること
標準 (Standard):相互運用を可能にする規則.交換する当事者が標準の合意を
すれば,相互運用性は確保できる.
公開標準(Open standard) :公開され自由に使用することができる標準.公開標準
に従えば,より広く,情報交換が可能になる.標準
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相互運用性と標準 (2/4)
情報基盤 (Information infrastructure):情報の整備,利用,流通,保存及び廃
棄を支援する人々,処理,手順,ツール,設備及び技術の全て
もし扱われる情報が,地理空間上の位置と関連する情報(地理情報)の場合
は,空間データ基盤(Spatial Data Infrastructure)といわれ,その定義は,
Spatial Data Infrastructure is the means to assemble geographic information that describes the
arrangement and attributes of features and phenomena on the Earth. The infrastructure includes the
materials, technology, and people necessary to acquire, process, store, and distribute such information
to meet a wide variety of needs (p.16, Toward a Coordinated Spatial Data Infrastructure for the Nation
(1993) , Commission on Geosciences, Environment and Resources (CGER), USA,
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=2105).
空間データ基盤とは,地球上の現象及び地物の構成や属性を記述する地理
情報をまとめるための仕組みである.この基盤は多様なニーズに応えるこのよ
うな情報を取得し,処理し,保存し,配布するために必要な資源,技術及び
人々から成る.
それが,国家主導で構築されると,出来上がるSDIは,国土空間データ基盤
(National Spatial Data Infrastructure)と言われる.
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相互運用性と標準 (3/4)
大統領令12906(1994.04)
“National Spatial Data Infrastructure” (NSDI) means the technology, policies,
standards, and human resources necessary to acquire, process, store, distribute,
and improve utilization of geospatial data.
国土空間データ基盤(NSDI)は
地理的空間データの 取得、処理、保管、配布及び
その利用の向上に必要な、 技術、政策、標準、人的資源
西暦2001年1月までに整備を目指す。
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相互運用性と標準 (4/4)
SDIは分散する情報源の相互運用性が確保されなければ,成立しない.
そのためには,ユーザと情報源の間に,情報流通のための標準が重要.
この標準を地理情報標準(Geographic Information Standard)という.
地理情報標準
n(n-1)
n
地理情報標準があれば,相互運用のための仕組みが単純化する!
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地理情報標準 (1/6)
標準は,合意がなければ効力をもたない.公的な標準はde jure標準,事実
上の標準はde facto標準と呼ばれる.
合意形成には,できるだけ多くの関係者が関わるべきである.
国際的な標準化組織には,de jureとしてISO,IEC,W3Cなど.
地理情報標準関係の組織としては,ISO/TC211 やOGCなど .
ISO/TC211:ISOが1994年4月に設けた,地理情報に関する国際標準を審議
する専門委員会.日本はその設立当初から投票権をもつ participant
member となり,積極的な貢献をしてきた.
OGC:1994年に設立された,アメリカに本部を置く,地理情報の相互運用性
を向上させる仕様の標準化を目指す非営利団体.ISO/TC211とは密接な連
携関係をもつ.
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地理情報標準 (2/6)
External liaisons
ISO/TC211の参加国等:
Participating members (32):
Observing members (31):
Australia (SA)
Austria (ASI)
Belgium (NBN)
Canada (SCC)
People's Republic of China (SAC)
Czech Republic (UNMZ)
Denmark (DS)
Ecuador (INEN)
Finland (SFS)
France (AFNOR)
Germany (DIN)
Hungary (MSZT)
Italy (UNI) - (UNINFO)
Japan (JISC)
Republic of Korea (KATS)
Malaysia (DSM)
Morocco (SNIMA)
Netherlands (NEN)
New Zealand (SNZ)
Norway (SN)
Peru (INDECOPI)
Portugal (IPQ)
Russian Federation (GOST R)
Saudi Arabia (SASO)
Republic of Serbia (ISS)
South Africa (SABS)
Spain (AENOR)
Sweden (SIS)
Switzerland (SNV)
Thailand (TISI)
United Kingdom (BSI)
USA (ANSI)
Argentina (IRAM)
Bahrain (BSMD)
Brunei Darussalam (CPRU) (corr.)
Colombia (ICONTEC)
Croatia (HZN)
Cuba (NC)
Estonia (EVS)
Greece (ELOT)
Hong Kong (ITCHKSAR) (corr.)
Iceland (IST)
India (BIS)
Indonesia (BSN)
Islamic Republic of Iran (ISIRI)
Ireland (NSAI)
Israel (SII)
Jamaica (BSJ)
Kenya (KEBS)
Mauritius (MSB)
Oman (DGSM)
Pakistan (PSQCA)
Philippines (BPS)
Poland (PKN)
Romania (ASRO)
Slovakia (SUTN)
Slovenia (SIST)
Swaziland (SWASA) (corr.)
United Republic of Tanzania (TBS)
Turkey (TSE)
Ukraine (DSSU)
Uruguay (UNIT)
Zimbabwe (SAZ)
Committee on Earth Observation Satellites/Working Group on
Information Systems and Services (CEOS/WGISS)
Defence Geospatial Information Working Group (DGIWG)
Energistics
EuroGeographics
European Commission Joint Research Centre (JRC)
European Space Agency (ESA)
European Spatial Data Research (EuroSDR)
Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO/UN)
Global Spatial Data Infrastructure (GSDI)
IEEE Geoscience and Remote Sensing Society
International Association of Geodesy (IAG)
International Association of Oil and Gas Producers (OGP)
International Cartographic Association (ICA)
International Civil Aviation Organization (ICAO)
International Federation of Surveyors (FIG)
International Hydrographic Bureau (IHB)
International Society for Photogrammetry and Remote Sensing
(ISPRS)
International Steering Committee for Global Mapping (ISCGM)
Object Management Group (OMG)
Open Geospatial Consortium, Inc. (OGC)
Organization for the Advancement of Structured Information
Standards (OASIS)
Panamerican Institute of Geography and History (PAIGH)
Permanent Committee on GIS Infrastructure for Asia and the Pacific
(PCGIAP)
Permanent Committee on Spatial Data Infrastructure for Americas
(PC IDEA)
Scientific Committee on Antarctic Research (SCAR)
United Nations Economic Commission for Africa (UN ECA)
United Nations Economic Commission for Europe (UN ECE) Statistical
Division
United Nations Geographic Information Working Group (UNGIWG)
United Nations Group of Experts on Geographical Names (UNGEGN)
Universal Postal Union (UPU)
World Meteorological Organization (WMO)
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地理情報標準 (3/6)
ISO/TC211の作業範囲:
1. デジタル/電子的地理情報の分野に関する標準
2. 地球上の位置に直接ないし間接に関係づけられるオブジェクト又は現象
に関する情報のために組織化された標準体系
3. 異なる利用者、システム、場所の間で地理情報を取得、処理、検索、表示、
交換するための方法、ツール及びサービスの仕様化
4. 既存の、情報技術やデータに関する標準とのリンク
5. 地理データを使ったさまざまな応用システムの開発のためのフレームワーク
の提供
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地理情報標準 (4/6)
ISO/TC211が審議し,制定された標準の例:
ISO 19107 Spatial schema (空間スキーマ)
ISO 19108 Temporal schema (時間スキーマ)
ISO 19109 Rules for application schema (応用スキーマのための規則)
ISO 19111 Spatial referencing by coordinates (座標による空間参照)
ISO 19112 Spatial referencing by geographic identifier (地理識別子による空間参照)
ISO 19113 Quality principles (品質原理)
ISO 19114 Quality evaluation procedure (品質評価手順)
ISO 19115 Metadata (メタデータ)
ISO 19117 Portrayal (描画法)
ISO 19118 Encoding (符号化法)
ISO 19123 Schema for coverage geometry and functions (被覆の幾何と関数のため
のスキーマ)
ISO 19128 Web map server interface (WMS)
ISO 19136 Geography markup language (GML) (地理マーク付け言語)
ISO 19142 Web feature service (WFS)
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地理情報標準 (5/6)
地理情報標準の利用場面:
問い合わせ
地図表示
GPS
伝送・配達
計測・調査・
測量
空間データの説明
品質とその評価手順
空間参照
クリアリングハウス
描画のための規則
メタデータ
広域情報提供
応用スキーマのための規則
空間・時間スキーマ
被覆のためのスキーマ
符号化
GML
A
WMS,WFS
B
インタフェース
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2011.03現在
地理情報標準 (6/6)
ISO/TC211に関する日本の取り組み:
第二代会長:岡部篤行(初代:伊理正夫)
(東京大学名誉教授,青山学院大学教授,
測技協会長)
ISO/TC211国内委員会
明野和彦
(国土地理院)
JIS原案作成委員会
幹事会
国土地理院
官民共同研究(平成8-17年度)
実用標準JPGIS, JMPの制定
経済産業省
OGC/GMLの検討と国内標準の整備
Place Identifier (ISO 19155)の国際標準化
日本代表団の派遣
岡部篤行
【作業部会】
適合性と試験(JIS X 7105) 完了
空間スキーマ(JIS X 7107)完了
時間スキーマ(JIS X 7108)完了
座標による空間参照(JIS X 7111)完了
地理識別子による空間参照(JIS X 7112)完了
品質原理(JIS X 7113)完了
メタデータ(JIS X 7115)完了
応用スキーマのための規則(JIS X 7109)完了
地物カタログ化法(JIS X 7110)完了
品質評価手順(JIS X 7114)完了
被覆の幾何及び関数のためのスキーマ(JIS X 7123)
地理マーク付け言語(JIS X 7136)
JIS X 7111改訂
データ製品仕様(JIS X 7131)
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インターネットとGIS (1/2)
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インターネットとGIS (2/2)
Webサービスに関わるインタフェース標準の例:
GML (Geography Markup Language): OGCが検討していた,XMLによる空間データ記述を
行うための規則をXMLスキーマで記述した,空間データ交換のための標準.日本はデータ
ベース振興センター(その後,日本情報処理振興協会に合併)が中心となり,これに協力.
OGCはGMLをISO/TC211に国際標準として提案し,TC211標準との整合化作業を経て,ISO
19136として国際標準化.日本はJIS X 7136 としてJIS化する予定(2011.3現在).
KML (Keyhole Markup Language) : もともとKeyholeという会社が作成したXMLによるマーク
付け言語.OGC GMLとの整合を測り,2008年にKML 2.2がOGCの標準となった.Keyholeは
Googleに買収され,Google Maps/Earthという形で地理情報サービスを提供.
WMS (Web Map Service): OGCが検討していた地図画像のAPI標準.ISO/TC211に国際標
準として提案し,ISO 19128 Web Map Server Interface として2005年に国際標準化.
WFS (Web Feature Service): GMLに準拠する地物インスタンスの転送インタフェース標準.
OGCがISO/TC211に国際標準化提案を行い,2010年にISO 19142 Web Feature Serviceとし
て国際標準化.
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法的な問題 (1/4)
空間情報の相互運用性が向上すると,
いろいろな情報が場所をキーにして集約され,その場所にいる個人と,そ
の個人に関わる情報が流通し,悪用される恐れがある.
エラー情報が,人々に被害を与える恐れがある.
一方で,共用すると総合的な行政サービスが可能になる場合でも、極端に
多目的活用が禁止されると,サービス水準があがらず,情報基盤整備の効
果が低くなる恐れがある.
地理空間情報活用に関する基本的な指針が必要
地理空間情報活用推進基本法
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法的な問題 (2/4)
地理空間情報活用推進基本法 (平成19年施行):
目的
地理空間情報の活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進すること
概要
地理空間情報活用の基本理念
国及び地方公共団体の責務及び民間事業者への要請並びに関係者の連携強化
地理空間情報活用の基本的な指針
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法的な問題 (3/4)
知的財産法と地理空間情報:
知的財産法:
著作権法,特許法など,他人の情報の不当な利用を排し,情報の財産的
価値の保護を図る法律の総称.情報の自由利用は社会の発展に必要だ
が,模倣を許すと新規技術開発への意欲がそがれたり,偽ブランド品の横
行が信用の失墜につながる可能性もあり,情報の保護が必要になる.
地図は著作権の法の保護の対象となるが,「創作的表現」が保護の対象と
なり,標準化された表現は保護の対象にならず,また,そのもとになる地理
情報(データベース)そのものが保護されるわけではない.ただし,情報収
集への資本投下意欲がそがれる恐れがあるので,コストに焦点を合わせ
たデータベース保護制度の必要性も指摘されている.
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法的な問題 (4/4)
固定資産家屋図
Aさんの家
個人情報保護と地理空間情報:
個人情報:生存する個人に関する情報であって,当該情報に
氾濫想定区域
含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人
を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ,そ
れにより特定の個人を識別することができることとなるものを
含む)(個人情報保護法第2条第1項)
地理空間情報は,地球上の位置と関連づけられ,同じまたは,
同等の位置情報をもつ情報を集めて,個人と関連づけること
が可能になる場合がある.このような状況が発生しうるときは,
取り扱いに留意しなければいけない.
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ハザードマップ
まとめ
ここではまず,相互運用性と標準についてその基本を紹介し,地理情報の基
盤である空間データ基盤を解説した.基盤はソフト,ハード,規則及び人材か
らなるが,その中で特に規則,つまり標準については,中核となる地理情報
標準について解説した.現在国際的な標準化組織として,ISO/TC211やOGC
などがあるが,そこで審議され,制定されている標準のいくつかについて紹
介した.また,空間データ基盤を実現させるネットワーク環境及びインタ
フェース標準についても触れた.最後に地理空間情報活用推進基本法につ
いて触れた.
地理情報科学教育用スライド ©太田重盛
参考文献
1. 有川正俊・太田守重監修(2007)GISのためのモデリング入門,ソフトバン
ククリエイティブ
2. Tyler Mitchell著,大塚恒平,たくぼあきお,丹羽誠,真野栄一,森亮訳
(2006)入門Webマッピング,オライリー・ジャパン
3. Messer, I. (2007). Building European Spatial Data Infrastructures, ESRI.
4. 地理情報システム学会. (2004).地理情報科学事典.朝倉書店.pp.408409(個人情報保護制度), pp.410-411(知的財産法)
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