介護保険制度の概要と課題、規制改革のあり方について

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Transcript 介護保険制度の概要と課題、規制改革のあり方について

介護保険制度の概要と課題、規
制改革のあり方について
学習院大学経済学部教授
鈴木 亘
介護保険制度設立の背景と特徴
• 我が国の介護保険制度は2000年に開始。
• わが国の介護保険制度は大まかにいうと、
40歳以上の全住民から介護保険料を徴収し、
原則65歳以上で要介護状態になった場合に、
介護保険サービスを1割の自己負担で、誰も
がサービス受給できるという制度。
• 設立の背景は、急速な高齢化に伴って要介
護者が急増し、介護期間も伸張したことから、
家族介護が限界(「介護地獄」)に達したこと。
• それまで「措置」による公的配給制度として、
ホームヘルプサービスや特養があったが、予
算不足や供給主体規制(自治体や社会福祉
法人、社協のみ)があるため圧倒的に量が足
りず、事実上、低所得者の単身者に利用が限
定されていた。
• それに対して、財源不足に対処するために、
「保険料」を導入。
• 供給量を一気に拡大させるために、参入規制
を撤廃し、民間活力を利用するために、福祉
の世界にビジネス、市場原理を取り入れた。
• 具体的に、在宅介護分野(⇔施設介護)は、営
利法人を含めた全ての法人が参入可能。
• どの業者と契約するかという選択は、利用者
が自由に行なえるようになる(⇔措置制度)。
• サービスの対価が価格というビジネスの原則
に基づき、福祉分野で一般的な応能負担価格
は極力避け、応益負担原則に。
• ただし、設立当初の高齢者に適切な負担を求
めず、事実上、賦課方式に近い仕組みになっ
ているため、財政的に惰弱。
• 保険料方式といっても、半分以上は公費、つま
り税源を投入しており、純粋な「保険」ではない。
これが、財政的問題を引き起こす要因に。
保険料と公費負担
• 保険者(保険の運営者)は、基本的に各市町
村別。「広域連合」としていくつかの市町村が
まとまって運営しているところもある。
• 保険料の徴収ベースは、65歳以上を「1号被
保険者」、40歳から64歳を「2号被保険者」とし
て分け、前者は年金給付額からの天引き、後
者は医療保険と合算しての徴収を実施。
• それぞれの負担する額は、まず国全体のレベ
ルでは、5割の公費負担を除いた後、1号被保
険者と2号被保険者の人口割合に応じて分配。
• 現在、給付費のそれぞれ19%と31%(合わせ
て50%)を負担割合として、各保険者で負担。
• 1号被保険者の保険料負担は、現在、平均的
には月当たり4090円。住んでいる自治体の
サービス水準や高齢化、所得によって大きく異
なる(調整交付金があるが、リスク構造調整機
能は医療に比べてきわめて低い)。
• 所得再分配要素として、自治体ごとに決めら
れている保険料基準額を元に、収入によって5
段階の保険料(最大基準額の1.5倍、最小基
準額の0.5)区分がある。減免制度は、災害な
どの特殊な事態がない限り、基本的に認めら
れず。
• 2号被保険者の保険料率(保険料額/ボーナ
スを含む賃金)は、2008年現在、政府管掌健
康保険(現在、きょうかい健保)で、1.13%。
きょうかいの1号被保険者の保険料は、3年に
一度、財政状況を鑑みて、改定が行なわれる 。
組合もほぼ同率で、きょうかいに追随。
• 公費部分については、国が20%、都道府県と
市町村が12.5%ずつ負担し、残りの5%は地
域による高齢者の保険料の差を是正するため
の「財政調整」である「調整交付金」。
• 国保や共済に加入している2号被保険者保険
料の半分も公費が負担。そのため、事実上、
半分以上の給付費が公費で賄われている。
給付の仕組み
• 介護保険で介護サービスを受けられるのは、
基本的には65歳以上の1号被保険者で、介
護が必要と認定された要介護者・要支援者。
• 介護サービスを受けたい希望者は、まず、市
町村等の保険者に要介護認定の申請。
• 市町村の職員、保健師などが派遣され、詳細
な項目について日常生活動作にかかる時間
や状況の調査を行い、機械的にコンピュー
ターによる要介護度の判定を実施(1次判定)
• コンピューターによる判定では、認知症など
についての負担状況が勘案しにくいため、
医師による意見書も判断材料。
• 保険者に設置された介護認定審査会におい
て最終判断(2次判定)が行われて、申請者
に通知される仕組み。
名前
準備
実施
具体的な内容
STEP 1 申請
本人や家族のほか、在宅支援事業者などが申請書類を市町村の窓口へ提出
STEP 2 訪問調査
市町村職員や介護支援専門員(ケアマネジャー)が訪問し、82項目の調査票について聞き取り
STEP 3 コンピューター判定
訪問調査の結果をコンピュータを使って判定(第1次判定)
STEP 4 介護認定審査会
介護の必要度合いについてのかかりつけ医師の意見書と1次判定の結果に基づいて第2次判定を行う
STEP 5 認定通知
介護認定審査会で決定された要介護度が本人に通知される(申請から 30日以内)
STEP 6 介護サービス計画作成
ケアマネジャーが本人や家族の希望を聞きながら、サービス計画を作成する
STEP 7 サービスの利用
サービス計画に基づいて、在宅サービスを利用したり、施設へ入所したりする。
• 通知される要介護認定の区分は非該当(自
立)・要支援(1・2)・要介護(1~5)。
• 要介護度によって、利用可能なサービスの上
限額(利用限度額)が設定。
• その後、ケアプランという介護サービス利用
のスケジュール表をケアマネージャーが作成。
• ケアマネージャーは、要介護者・要支援者の
状況に合わせてケアプランを作成し、利用業
者の選定から発注までを行います(施設介護
の場合は、施設がケアプラン作成を行なう)。
要介護度
要支援1
要支援2
身体の状態(目安)
日常生活の能力は基本的にあるが、要
介護状態とならないように一部支援が必
要。
立ち上がりや歩行が不安定。排泄、入浴
などで一部介助が必要であるが、身体の
状態の維持または改善の可能性がある。
利用できるサービス
1ヶ月の利用限度額
自己負担(1割)
の目安
介護予防サービス
49,700円分
4,970円
介護予防サービス
104,000円分
10,400円
要介護1
立ち上がりや歩行が不安定。排泄、入浴
などで一部介助が必要。
介護サービス(介護給付)
165,800円分
16,580円
要介護2
起き上がりが自力では困難。排泄、入浴
などで一部または全介助が必要。
介護サービス(介護給付)
194,800円分
19,480円
267,500円分
26,750円
306,000円分
30,600円
358,300円分
35,830円
要介護3
要介護4
要介護5
起き上がり、寝返りが自力ではできない。
排泄、入浴、衣服の着脱などで全介助が 介護サービス(介護給付)
必要。
日常生活能力の低下がみられ、排泄、入
浴、衣服の着脱など多くの行為で全介助 介護サービス(介護給付)
が必要。
日常生活全般について全介助が必要。
意思伝達も困難。
介護サービス(介護給付)
• 利用できるサービスの種類は、大まかに、①居宅(在
宅)サービス、②地域密着型サービス、③施設サービ
スの3つ。
• 居宅サービスは、訪問介護(ホームヘルプサービス)、
訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、
通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デ
イケア)、短期入所生活介護・短期入所療養介護
(ショートステイ)、特定施設入所者生活介護(有料老
人ホーム、ケアハウス等)などが存在。
• また、地域密着型サービスとしては、認知症対応型通
所介護(デイサービス)や、認知症対応型共同生活介
護(グループホーム)、小規模多機能型居宅介護など
がある。
• 施設サービスは3種類で、介護老人福祉施設
(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設
(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養
型病床)。
• この施設介護の分野は、居宅サービスとは異
なり、参入が規制されており、社会福祉法人や
医療法人、自治体などに設立主体が限られて
いる。
• 介護型療養病床は2011年に廃止。その代りに
介護療養型老健施設(新型老健)が2008年5
月から設立開始。療養病床を廃止した医療法
人にのみ開設許可だが、うまみがないために、
思うように進まず→詳細は別紙。
居宅(介護予防)サービス
訪問サービス
訪問介護(ホームヘルプサービス)
訪問入浴介護
訪問看護
訪問リハビリテーション
居宅療養管理指導
通所サービス
通所介護(デイサービス)
通所リハビリテーション(デイケア)
短期入所サービス
短期入所生活介護(ショートステイ)
短期入所療養介護[老健](ショートステイ)
短期入所療養介護[病院等](ショートステイ)
福祉用具・住宅改修サービス
福祉用具貸与
福祉用具購入費
住宅改修費
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど)
介護予防支援・居宅介護支援(ケアマネージメント)
地域密着型(介護予防)サービス
夜間対応型訪問介護
認知症対応型通所介護(デイサービス)
小規模多機能型居宅介護
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
地域密着型特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど)
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
施設サービス
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人保健施設(老人保健施設)
介護療養型医療施設(療養型病床群)
• 医療計画と同様、自治体は「介護保険事業計
画」として、施設の「必要入所定員数」を定め、
それを超える施設の設置が申請された場合
に、拒否できる仕組み。
• このため3施設では、入居費を含めた利用費
が特定施設よりもかなり低いことと相まって、
待機者問題が深刻。現在、全国で40万人程
度の特養待機者が存在するとみられており、
2~5年程度待つことは当たり前。
• サービスの時間当たりの利用料金は、「介護
報酬単価」として、医療保険同様に統制価格
で固定されており、その1割を利用者が自己
負担をし、残りの9割を保険者が支払う仕組
み。この介護報酬単価は、社会保障審議会
の介護給付費部会で検討され、3年に一度改
定される(中医協とやや似た仕組み)。
2005年改革
• 主な内容
①介護予防サービスや地域支援事業の創設
②施設介護入居者に対する食費と居住費の一
部の自己負担化(特定入所者サービス費に
よる軽減)
③立ち入り調査権や適正化指導などの自治体
権限の強化(保険者機能強化)
④特定施設に対する総量規制導入
• ①の介護予防サービスとは、要介護度状態
になることや要介護度の進行に対する予防を
中心としたサービスで、要支援者や要介護者
の一部が利用可能。
• これに対して、要支援と判定されない人々に
も利用できるサービスとして、地域支援事業
が創設され、総合相談や虐待防止などの支
援を介護保険料からの費用負担で実施。
• ②の施設介護の入居者については、1割の自
己負担のほかに、これまで介護保険から支払
われていた食費や部屋の居住費(ホテルコス
ト)が自己負担に。
• ただし、経過的軽減措置が行なわれているほ
か、所得状況によって食費や滞在費が補助さ
れる「補足給付(特定入所者サービス費によ
る4段階の軽減措置)」が導入。
• そのため、それほど大きく費用負担が上昇し
たわけではなく、依然、居宅介護に分類され
ている特定施設との費用負担の差は大きい。
• 2006年から自治体が精力的に行なっている
のが、④の特定施設に対する総量規制。保
険料を高めないために、グループホームはほ
ぼ建設がストップ。有料老人ホームもほぼス
トップ。無届施設増加の背景に。
• 同様に、③の保険者機能の強化も、自治体が
保険料を上げたくないために、過剰に運用。
• 例えば、「同居家族がいる場合に生活援助
(家事援助)の利用を一律に認めない」と判断
する自治体が続出。自治体の中には、半径
500メートル圏内に親族がいる場合はそれを
同居家族とみなすという判断。
• また、厚労省の通達の曖昧さもあり、自治体
判断で、不適正、不正支給を判断し、保険料
抑制。事業者にとって、大きな行政リスクに。
介護財政の問題
図表 1-6 社会保障給付費の将来予測
単位:兆円
社会保障給付費
対国民所得比(%)
うち年金給付費
対国民所得比(%)
うち医療保険給付費
対国民所得比(%)
うち介護保険給付費
対国民所得比(%)
国民所得
2006
2011
2015
2025
2035
2050
2075
2100
81.5
95.0
106.0
134.6
167.7
225.6
293.2
339.7
21.7%
21.9%
23.1%
25.3%
28.9%
36.2%
40.8%
39.2%
47.4
54.0
59.0
68.5
84.5
114.6
147.4
169.3
12.6%
12.5%
12.8%
12.9%
14.6%
18.4%
20.5%
19.5%
27.5
32.0
37.0
49.2
60.1
78.8
100.2
115.5
7.3%
7.4%
8.0%
9.3%
10.4%
12.6%
13.9%
13.3%
6.6
9.0
10.0
16.9
23.1
32.3
45.6
54.9
1.8%
2.0%
2.3%
3.2%
4.0%
5.2%
6.3%
6.3%
375.6
433
461
531.2
580.4
624.0
718.5
866.3
注)2006、2011、2015 年の数値は、厚生労働省「社会保障の給付と負担の見通し-2006 年(平成 18 年)5 月-」よ
り。それ以降は、筆者による推計。金額は全て名目値。
図表 1-5 介護保険の受益と負担の年齢別分布
(組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮)
単位:千円(年額)
300
275
250
220
200
156
150
130
100
68
63
59
70
66
50
25
4
4
4
4
3334
27
24
4
19
12
4
注)鈴木亘(2006)より。
上
以
90
歳
89
歳
85
~
84
歳
80
~
79
歳
75
~
74
歳
70
~
69
歳
65
~
64
歳
60
~
59
歳
55
~
54
歳
50
~
49
歳
45
~
40
~
44
歳
0
受益
負担
• 医療、年金と同様に、賦課方式に近い仕組
み。このため、少子高齢化の進展と供に、保
険料負担が非常に高まる。しかも、介護の特
性から言って、高齢化率の進展よりも高い
ペースで給付費、保険料+税負担が上昇する。
このことが、規制強化、「措置への先祖がえ
り」が起きる背景。
図表 4-2 介護保険料の将来予測
2008年 2015年 2025年 2035年 2050年 2075年 2100年
1号保険料額(月額、円)
国民年金満額に対する比率
2号保険料率(健保組合)
注)筆者による試算
4,090
5,710
9,024
12,210
18,519
39,096
66,079
6.2%
8.2%
11.7%
14.5%
18.6%
29.9%
38.4%
1.1%
1.4%
1.9%
2.3%
2.6%
3.1%
3.1%
介護人材不足問題
• 2005-6年ごろから盛んにマスコミで取り上げら
れるように。介護現場の労働力が急に少なくなり
始め、残った介護ヘルパー達が過重な労働を強
いられる状況。離職者が増えると、労働時間や
労働密度が増して労働環境がさらに悪化し、ま
すます離職者が増え、人材が集まらなくなるとい
う悪循環。
• この問題の直接の原因と考えられるのは、①景
気回復、②介護報酬引下げ、③介護資格高度
化。
• 固定価格制度と財政問題が基本的な背景。
図表 4-7 介護サー ビス市場の需給分析
S2
S1
介
護
サ
ー
ビ
ス
価
格
供給曲線
(S0)
E1
P1
A
P0
P2
②
①
E0
C
B
需要曲線
(D0)
QB
QA
Q0
利用者数の超過需要=介護労働者
不足
QC
利用者数
• 介護労働力不足の原因として、社会保障国民
会議や厚生労働省の審議会、検討会の場で
議論に上ったのは、むしろ、①介護現場の労
働環境が悪い、②介護サービス業者の雇用
管理能力が低い、③介護労働者が高齢化社
会を支えるという生きがい・働きがいを感じら
れなくなった、④介護労働者のキャリアアップ
の仕組みが出来ていないために定着が促進
されない、⑤介護福祉士や社会福祉士等の
有資格者が介護現場に居なくなったといった
各要因。
• 経済学的観点からみると、これらは介護労働
力不足の「原因」というよりは、むしろ「結果」。
• 厚生労働省は、この①から⑤の診立てを受け
て、人材不足対策を策定(2007年に「新人材
確保指針)。この指針では、(ア)労働環境の
整備の推進、(イ)キャリアアップの仕組みの
構築、(ウ)福祉・介護サービスの周知・理解、
(エ)潜在的有資格者等(介護福祉士などの
資格所有者で介護現場にいない人)の参入
の促進、(オ)「多様な人材の参入・参画の促
進」という5つの方針。
• 例えば、2008年には、(ウ)として、福祉・介護の
仕事の魅力を伝えるシンポジウム等を行う「福
祉人材フォーラム」(7月27日)が開催され、国民
の「介護」に対する理解を深める「介護の日」(11
月11日)も創設。
• また、(エ)(オ)として、都道府県福祉人材セン
ターにおいて無料職業紹介や潜在的有資格者
の再就業研修がスタート。さらに、(ア)、(エ)とし
て、(財)介護労働安定センターにおいて、潜在
的有資格者を新規雇用することに対する助成金
事業(介護基盤人材確保助成金)や、職場の雇
用環境改善に対する助成金事業(介護雇用管
理助成金)が開始。しかし、これらは「焼け石に
水」。
• 一番心配されるのは、(イ)キャリアアップの仕
組みの構築。労働力豊富な時代の介護資格高
度化がこじつけで挿入。全て逆効果。
• 2006年から、介護労働者は、500時間の講習
と実習からなる「介護職員基礎研修」を受ける
ことが必要。この研修費及び研修中の逸失所
得(研修中に労働をしていたら得られたであろう
所得)は全て労働者が負担。
• また、厚生労働省は、将来的には介護職員を
「介護福祉士」の資格取得者に基本的に限ると
いう方針。資格取得の基準も2012年より、引き
上げ。参入しやすいヘルパー3級も廃止。
無届老人施設問題
• 群馬県渋川市の老人施設「静養ホームたまゆ
ら」 事件の背景は、①介護難民問題と、②無
届施設・有料老人ホームに対する規制がない
こと、③低所得者の介護の受皿不足問題。
• 高齢者アパート、老人下宿、高齢者下宿、宅
老所、保老所、宿泊所、自立援助ホームなど
呼び名は様々であるが、老人が集団的に入所
している事実上の無届施設は、厚労省調査
(579)をはるかに超える数。近年急増している。
• 直接的な問題は、介護保険分野においては、
療養型病床群の廃止、総量規制 。医療保険
分野の療養病床廃止、一般病床の低額制強
化が拍車をかける。
• こうした中、いわば必要悪として急増してきた
のが、この無届施設という形態、介護難民の
最後のよりどころ、受け皿となっている。
• 無届施設のすべてが劣悪であることはない
が、無届といういわば無法地帯の中には、
「貧困ビジネス」を展開する施設も少なくない。
• しかし、無届を規制強化で廃止するのではな
く、規制とインセンティブによって、質を担保し
た施設へ誘導すべき。
2008年介護報酬改定
• 介護報酬改定率+3%
• リハビリの加算
• 介護福祉士比率、研修受講者比率、勤続年
数に応じた加算
• 特定事業所加算、ケアマネ40件以上の逓減
制の部分的緩和
• その他、夜間職員配置や各種ケア・サービス、
医療内容に応じて、非常に細かい加算・減算
が規定→「診療報酬化」が進む。
介護保険改革の方向性
• 問題の出発点は、財政問題。財政問題を解
決するために、規制強化に走っていることが
問題をより複雑化・深刻化させている。
• 介護保険財政の問題と、産業としての介護
サービス市場を切り離して考え、一定の利用
者負担を前提に、自由化を進めて、供給増、
サービスの質の向上を進めるべき。
• その際、低所得・低資産者に対する配慮、自
己判断が出来ない高齢者の権利擁護・判断
の強化を行なう。
①積立方式の導入
• 介護保険運営に対する将来の備えとして、ア
メリカのメディケアのように、積立勘定を設け
る。すなわち、保険料を前もって高く設定して、
剰余金を持ち、将来に備える。
• 現実的には、自己負担率2割引き上げや混合
介護化を早めに行い、保険料をそのままにし
て、積立勘定を作る方法もある。
• 自己負担については、MSAを導入する。その
際に、高齢者からは現在の貯蓄を拠出させる
(低所得者にはメディファンドによる手当て)。
②価格の自由化
• 価格の自由化を進める(一定の上限を設ける
制度でも良い)。現状の介護報酬単価制度で
は、フレキシブルな需給調整が進まず、真の
質を高めるインセンティブがない(⇔インプット
規制+加算による現状の対処)。人材不足問
題にも有効である。
• ただし、価格が高まると自動的に財政支出(9
割)が高まるようでは、財政的に困難を抱える
③混合介護の導入
• そこで、混合介護として、財政上の給付に上限を設
ける。薬価制度(薬価基準、実勢価格)がモデル。
• 例)身体介護の場合、1時間当たりの介護報酬単価
は約4000円。サービスの高い事業所が介護報酬単
価よりも500円多い、4500円という価格をつける。こ
の場合、介護保険から給付される費用は、介護報
酬単価の9割である3600円(4000円×0.9)。残りの
900円(4500円-3600円)は、要介護者の自己負
担として徴収。
• 自己負担と保険を組み合わせるので、医療におけ
る「混合診療」と同様、「混合介護」と呼ぶ。横だし縦
だしのことではない。
④弱者への配慮としての直接補助
• ただし、こうした自由化は「不平等を有無」「弱
者に酷な制度」という批判が高まることは必至。
• そこで、弱者への配慮として、事後的な応能
負担となるように、直接補助方式を導入。
• 特定入所者サービス費を、他の施設にも広げ
る。
• ただし、所得に注目するのではなく、資産にも
配慮した制度として、偽弱者を排除する必要
あり。
⑤市場原理やビジネスの原理が機能
するための環境整備
• 事業所の質の評価、情報公開を進める(査察
指導、第三者評価、介護サービス評価制度
があるが任意。しかも、その公表が義務化さ
れず杜撰)。
• 過剰なインプット規制(事業所単位、サービス
提供責任者、スケールメリット働かない)、「お
札張り研修」、加算による規制強化を排除。
ビジネスの創意工夫の余地を高める。
• 認知症などへの権利擁護・後見人制度整備。
• 事業所間のイコールフッティングを進める。
⑥待機問題が深刻な施設分野の参
入制限撤廃と、無届施設の規制改革
• 深刻な特養待機者問題の解決のために、古
い問題であるが、施設介護の参入制限は撤
廃すべき。ただし、老施協を初めとする業界
団体の抵抗はすさまじい。
• 総量規制を撤廃して、特定施設、地域密着施
設による供給増+混合介護化を進めることに
よって、特養の待機者を少なくするのが現実
的。特養は、公費負担が高いのであるから、
重度要介護者や低所得者化を進める。
• 無届施設については、過剰なインプット規制
を弱め、施設整備への補助というインセンティ
ブをつけることにより、登録化(有料老人ホー
ムが適切かどうかには疑問の余地ある)を進
め、質を向上させる必要あり。
• その上で、それでも登録化が進まない施設は
閉鎖もやむなし。
• 生活保護者が多い中間的な施設(宿泊所等)
については、自治体の判断で要介護者がい
るにもかかわらず、介護サービスが使えない
という問題がある。
⑦自治体の権限の問題
• 自治体の権限強化が行過ぎているために、
ローカルルールが蔓延。広域的サービスを行
なう業者の足かせに。ガイドラインを全国的
に定める必要。
• スピルオーバーのために、負の競争を行なう。
• 広域化を進めると供に、リスク構造調整(財
政調整)を強化し、保険者が努力できない要
因(高齢化、低所得)が保険料にはねないよ
うにする必要あり。
• 総量規制などの権限は制限すべきか。
⑧人材不足問題への対処
• 介護福祉士、介護福祉士の高度化・規制強
化の問題。
• 3級ヘルパー廃止。研修必須化の問題。
• 准介護福祉士のような中間資格を設けて、人
材不足問題に配慮しつつ、キャリアラダーを
進めるのも一案。
• 研修については見直しの必要あり。
• 人材確保指針の見直し。