I-3.情報理論的コミュニケーション論の限界と新理論の必要性
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Transcript I-3.情報理論的コミュニケーション論の限界と新理論の必要性
2011-05-31
ソシオセマンティクス
第1部の構成
第1部:人間にとっての意味と社会現象
行為主体である人間および人間たちの行為の複合・集積である社会
現象にとっての「意味」の重要性、意味および意味の社会的編成を
取り扱うことにまつわる困難、そして、新しい言語コミュニケーション
論への示唆、この三つをこの第Ⅰ部では論じる
I-1.人間の問題解決能力を考える:フレーム問題
I-2.社会関係の成立を考える:ダブルコンティンジェンシー問題
I-3.情報理論的コミュニケーション論の限界と新理論の必要性
I-3.情報理論的コミュニケーション論の限界と新理論の必要性
コミュニケーションというものの理解の仕方として、コミュニケーション
を知識や情報の「輸送」や「移動」、もっと端的なもので言えば「キャッ
チボール」として捉えるものがある。いわゆる情報理論的なコミュニ
ケーションの捉え方であるが、ここでは主体としての人間を情報の送
り手、受け手として極度に単純化しており、生きたコミュニケーション
のダイナミズムを論じるには多くの点で不都合がある。情報理論的コ
ミュニケーションモデルの限界を論じることで、ヒューマンコミュニ
ケーションを適切に取り扱うための理論が備えるべき条件を明らか
にする。。
主体と行為と意味
人が生きる営みにおいて、常に「意味」が介在する
行動
(行為)
意味づけ
(情況編成)
環境
意味づけの相互作用としてのコミュニケーション
お互いに意味づけしあう者同士の相互作用
会話は「キャッチボール」か
「会話はキャッチボールのようなものである」
ボール=言葉を2者間で往復させる
「相手が受け取りやすいようなボールを投げなさい」
→相手がきちんと理解できるように話しなさい
「大暴投だ、あれじゃあ誰も取れない」
→相手がまったく理解できないような話し方をした
「内角を思いっきりエグるようなこと言うね」
→核心に迫るような厳しいことを言う(この場合相手は「バッター」としてみな
され、会話を投げ勝つか打ち勝つか(言い負かされるか、言い返すか)に
みなされているけど・・・)
ボール=言葉(記号)=意味?
言葉と意味(コトバと言葉)の区別
キャッチボールの例えは会話をボール=言葉の「輸送」「伝達」と
して見立てている
このとき、「言葉」は記号としての「コトバ」と意味内容としての「言
葉」を一体のものと見なし、言葉が(きちんと)伝わる=意味が(き
ちんと)伝わることになっている
自分の投げたボールは、自分の指を離れた後(自分の口から離
れた後)も特定の意味を担っている
相手はそのボールが適切な投げ方(話し方)をされればきちんと
キャッチできる(意味を理解することが出来る)
ボール=言葉であり、言葉=意味、言葉の交換が意味の交換と
いうことになる
情報理論的コミュニケーション論
情報理論的なコミュニケーションの理解
クロード・シャノンによる情報理論を前提とする
情報を科学的・数学的に取り扱う基礎理論
情報の意味(価値)は、定式化された情報空間構造におい
て当該情報が占める位置によって決定される
=情報の符号化(データ化)
これを人間のコミュニケーションにあてはめると
コミュニケーションにおける主な情報:言葉
言葉の符号化:言葉が担う意味(質的情報)を、特定の基準
(コード表)に沿って符号化される量的情報に変換すること
ができる
モールス信号の記号コード表①
トン・ツーの長短2音で信号を構成するモールス信号
信号が50音の何を「意味するか」は、この記号表、コード表によって
確定する
モールス信号の記号コード表②
情報理論に沿えば、トン・ツーの信号は0または1の配列(2進法)に変換する
ことができる
トン=10、ツー=11、無音(ブランク)=00
「イ」=トン・ツー・blank・blank=[10,11,00,00]
モールス信号における符号化
モールス信号は、0または1からなる数列空間構造として定式化される
信号の数値配列が確定すれば、50音体系における記号として信号の
意味が確定する
共有のコード表による会話モデル①
encoding
コード表
decoding
情報
情報
コード表モデル
話し手:情報の発信者
聞き手:情報の受信者
コード表:情報を符号化するための知識構造
decoding
コード表
encoding
共有のコード表による会話モデル②
encoding
コード表
decoding
情報
情報
decoding
コード表
encoding
コード表モデル
Encode:自分が言いたい意味をコード表に沿って符号化し、相手
に送る
Decode:相手から送られた情報をコード表に沿って復元化し、元
の意味を理解する
ハチ型コミュニケーション①
ミツバチの尻ふりダンス
ハチ型コミュニケーション②
蜜を見つけて帰ってきたミツバチは仲間の前で尻をふる
ミチバチの「8の字ダンス」
8の字の交差部分のところでお尻を震わせながら直線飛行
このとき直線飛行の長さと角度が蜜の在りかを示している
長さ:距離:8区分(3ビットの数値配列で指定可能)
角度:方角:16区分(4ビットの数値配列で指定可能)
ハチ型コミュニケーション③
意味の検出と通信
タマホコリカビの生態
コード表モデルと規範モデルの関係
規範の共有
共有の規範に基づいて
の他者の行動の推測
共有の規範に基づいて
の他者の行動の推測
先週の疑問
共有の規範はどのようにして構築されるのか
既に「共有されている」ことが前提のモデル
相手側が規範を理解していない場合はどうなる
明確な規範がないような場合はどうなる
「話し合いの結果、関係が好転する」という事態を説明できない
法律や常識として明白な規範がない事態はいくらでもありうる
そもそも「共有」することがありえるのか
「講義のあり方」「学生のあり方」「正しい生き方」・・・、まったく一
致した規範をお互いが共有しているという事態はありえるのか
情報理論的コミュニケーション論とヒューマンコミュニケーション
モールス信号の50音への変換
ハチなどプリミティブな生物の信号の意味への変換
ヒューマンコミュニケーションにおける意味の実情に対し、情報理論
的なコミュニケーションモデルは拡張可能か?
→コトバの意味はコード表で確定できるか?
もし共有のコード表で意味が確定していれば会話の成立は約束
されており、その成立を改めて問う必要はない
意味づけの豊かさ:「刑務所ってなんですか?」
会話場面で「ケイムショ」が担いうる意味はあらかじめ確定している
のだろうか?
犯罪者を隔離・拘禁して処罰するところです
犯罪者を教育し更生させるところです
大切な職場です
賃金の安い家具製作所です
三食・暖房付の冬季リゾートです
犯罪技術伝習所です
小説のネタの源泉です
地価を抑制しているシャクの種です
重要な観光資源です
・・・・
意味づけの創造性:「宇宙船地球号」
意味のコード表モデルは新しい意味の誕生・伝播・定着を説明できるのだろうか?
意味の齟齬の修復
コード表に誤りがあれば会話は不成立となる
仮に定型化された応答機構(コード表)が組み込まれていたとし
ても、コード表にエラーがあれば、質疑・応答すら成立しない
「ケイムショ」を南極大陸と思いこんでいる人との会話はどうやっ
たら成り立つ?
人間に思い違いは珍しくないし、しばしば会話は迷走し、破綻するこ
ともあれば、軌道修正されることもあるが、コード表モデルはこうした
現象を説明するものではない
日常言語における意味の生成と創造
意味はそのつど情況内に現出する
刑務所が冬季用リゾートになる
「宇宙船地球号」という概念が創造され社会にいきわたる
これらの意味は初めから言語の全体系構造(コード表)の中に存在
していたとは考えられない
コード表モデルは会話における意味の進展のダイナミズム(意味の
不確定性)や、社会的な概念形成のダイナミズムをそもそも対象とす
るものではない
ヒューマンコミュニケーションを取り扱う言語コミュニケーション論
新しい言語コミュニケーション論の要件
意味の不確定性ともいうべき意味づけのしなやかさ・豊かさ・創造性な
どを取り扱える人間コミュニケーション論が必要である
とはいえ、単に意味不確定論に与してしまえば、人間にとっての意味を
学問として取り扱うことはできなくなってしまう
意味の不確定性を前提とした(非確定論的な)取り扱いの必要性
「未来に開かれた不確定性を孕む、しかし、全くのデタラメでもない
プロセス」の説明
第2部では「意味づけ論」に基づく人間コミュニケーション論を展開する
ソシオセマンティクス
第1回課題レポート
課題内容
第2回では「フレーム問題」そして第3回では「ダブルコンティンジェンシー問題」が紹介されました。講義では、これらの話
題を通じてそれぞれ「人間の情況編成能力(意味づけの能力)の柔軟性/不確定性」や「意味づけしあう人間同士の相
互行為が孕む二重の不確定性」が論じられています。これらは人間社会における意味やコミュニケーションという問題に
対しての、科学的な、確定論的な取り扱いが許されにくいという特性を再確認するものでもあります。上記の議論の内容
についての自分なりの理解をまとめてください。そのうえで、感想やコメント、疑問などを自由に論じてください。
Word等を利用し、A4用紙の設定で1~2枚程度でレポートを作成してください。文字数やその他の様式は制限しません。
提出形式・期日
SFC-SFS上からのオンラインでの提出と、紙媒体に印刷したものの提出の両方を要求します。
提出状況の確認をSFSで行い(紛失などの人的ミスを避けるため)、内容の評価を印刷物にて行います。ゆえに、どうし
ても講義に出席できないやむをえない事情などがない限り、原則として両方の提出がなければ評価を受けることができ
ません。
オンラインでの提出
期日:6月14日火曜日の午前10時。
形式:作成した文書ファイルをSFSの課題ページから提出してください。
印刷物の提出
6月14日火曜日の講義終了後に紙媒体に印刷したものを提出してください。