Transcript 講義資料
日本と東アジアの成長と貿易 日本経済入門(二) アジア研究所 小山直則 1 今日学ぶこと 加藤(2007)『人口経済学』、第Ⅴ章 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 Ⅴ4. 技術進歩 2 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 問題意識1. 高齢化が進 むとなぜ貯蓄率が低下 すると考えられている のか? 2. なぜ貯蓄率が低下する と問題なのか? 3 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ⇒投資資金は経済主体 の貯蓄によってまかな ●生産関数アプローチに われている。 よる経済成長の源泉 ⇒生産関数アプローチに ⇒債権国 よると労働力の成長、 貯蓄ー投資=経常収支 資本蓄積、技術進歩が 黒字=資本収支赤字 経済成長の源泉となる。 >0 ⇒このうち、資本蓄積は ⇒債務国 企業や政府の投資活 貯蓄ー投資=経常収支 動によってもたらされる。 赤字=資本収支黒字 <0 4 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ●ライフサイクル仮説と貯 蓄 ⇒人生を若年期(労働)と 老年期(退職後)の2期 間に分けて退職後は若 所得 300万 年期の貯蓄によって消 費を行うという仮説をラ イフサイクル仮説という。 消費220万 25歳 消費140万 60歳 80歳 5 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ●ライフサイクル仮説と貯 蓄 ⇒若年期の年収が毎年 300万円であり、毎年 220万円ずつ消費する所得 300万 個人を考える。 ⇒この個人は毎年80万円 の貯蓄を行う。 消費220万 25歳 消費140万 60歳 80歳 6 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ●ライフサイクル仮説と貯 蓄 ⇒25歳から勤務し始めて、 60歳で退職する場合、 この個人は2,800万円 所得 の貯蓄をしていることに 300万 なる。 ⇒年金制度がなければ退 職後死亡するまでこの 貯蓄によって消費しな ければならない。 消費220万 25歳 消費140万 60歳 80歳 7 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ●ライフサイクル仮説と貯 蓄 ⇒この個人は退職後20年 間生存するとすると、 2,800/20=140万円が退 職後の年間の消費額と 所得 なる。 300万 ⇒若年期の世代の人口と 老年期の世代の人口 の構成が変化すると、 … 消費220万 25歳 消費140万 60歳 80歳 8 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 ●ライフサイクル仮説と貯 蓄 ⇒若年期の世代の人口と 老年期の世代の人口 の構成が変化すると、 ⇒例えば、高齢化が進む所得 と貯蓄する世代よりも300万 貯蓄を取り崩して消費 する世代の人口が多く なるから、経済全体で は貯蓄率が低下するこ とになる。 消費220万 25歳 消費140万 60歳 80歳 9 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 問題意識1. 高齢化が進 むとなぜ貯蓄率が低下 すると考えられている のか? ⇒貯蓄を取り崩す高齢者 世代が増加すると一般 的に一国全体の貯蓄 率が低下すると考えら れるが、 ⇒高齢者の遺産動機が 強ければ、高齢化が進 んでも貯蓄率が低下す るとは単純に言えない。 10 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 問題意識2. なぜ貯蓄率 ⇒投資によって資本(新工 場や新機械など)が蓄 が低下すると問題なの か? 積され、経済の生産能 力の拡大につながる。 ⇒貯蓄は企業や政府が 行う投資の源泉である。 ⇒資本蓄積は経済成長 の源泉となる。 ⇒貯蓄は株式などの直接 投資、銀行預金などの ⇒したがって、貯蓄率が 間接金融などを通じて 低下すると企業は国内 投資資金として用いら で投資資金を賄えなく れる。 なる。 11 Ⅴ3. 貯蓄・投資と高齢化 問題意識2. なぜ貯蓄率 が低下すると問題なの か? ⇒高齢化によって貯蓄率 が低下しても、海外か ら資金を借り入れれば いいのではないのか? ⇒Feldstein and Horioka(1980)の研究 によると、OECD諸国 の総貯蓄と総投資の間 に正の相関があり、 ⇒国際資本移動が自由 化されても国内投資に は国内貯蓄が使われ やすいことを占めした。 ⇒この研究が正しければ、 高齢化に伴う貯蓄率の 低下は国内投資資金 の不足をもたらし、経済 成長に負の影響をもた らすことになる。 12 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩と経済成長 ⇒技術進歩率は生産関 数によって計測される。 ⇒日本の高度成長の重 要な要因の一つは技術 進歩による生産性上昇 にあると考えられてい る(香西(2001))。 ⇒1990年代以降の日本 の経済停滞は生産性 低下によるものである といわれている(林文夫 (2007))。 13 Ⅴ4. 技術進歩 ●GDPの供給面 ●技術進歩の計測 ⇒Cobb=Douglas型生産 ⇒生産関数を変化率の形 関数 に直すと、 経済成長率=技術進歩 ⇒ 率+α×資本成長率+ ⇒Y:実質GDP、A:技術 (1-α)×労働人口成長 水準、K:資本ストック、 率 L:労働力、α:資本分配 となる。 率、1-α:労働分配率 14 Ⅴ4. 技術進歩 ⇒技術進歩率=経済成長 ●技術進歩の計測 率ーα×資本成長率ー ⇒生産関数を変化率の形 (1-α)×労働人口成長率 に直すと、 ⇒技術進歩は直接的に計 経済成長率=技術進歩 測できないから、残差と 率+α×資本成長率+ して計算された技術進歩 (1-α)×労働人口成長 率(全要素生産性上昇 率 率)によって計測する。 となる。 ⇒これはSolow残差とも呼 ばれる。 15 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩の計測 ⇒技術進歩率=経済成長率ーα×資本成長率ー (1-α)×労働人口成長率 ●日本の成長会計 経済成長率 (1-α)×労働人口成長率 α×資本成長率 技術進歩率 1993-2005 1.3% -0.3% 0.9% 0.8(≒1.3-(-0.3)-0.9) 16 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩と人口 ⇒SimonやKuznetsは人 口規模が大きいほど、 その中からイノベー ター(革新的発明家)が 生まれる可能性が高い ので、技術進歩が促さ れると主張した。 ⇒CramerはKuznetsらの 仮説を理論化し、戦後 の先進国における技術 進歩の速度の低下を人 口増加速度の低下と関 連させて説明すること に成功した。 17 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩と人口 ⇒規模の経済喪失効果と は、労働人口増加率に ⇒人口変動が技術進歩に よって集団的な力が低 及ぼす効果は以下の 下し、技術開発の速度 三つに分類される。 が低下する効果である。 (1) 規模の経済喪失効果 (2) 創造性喪失効果 (3) 労働節約促進効果 18 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩と人口 ⇒創造性喪失効果とは、 労働力人口の減少とこ ⇒人口変動が技術進歩に れに伴う若年労働力の 及ぼす効果は以下の 減少により、若年層が 三つに分類される。 もつ創造性や積極性が (1) 規模の経済喪失効果 全体として乏しくなり、 (2) 創造性喪失効果 結果として技術進歩が (3) 労働節約促進効果 鈍るという効果である。 19 Ⅴ4. 技術進歩 ●技術進歩と人口 ⇒労働力節約効果とは、 ひとたび人口や労働力 ⇒人口変動が技術進歩に が減少すると、技術進 及ぼす効果は以下の 歩を含めた労働力以外 三つに分類される。 の生産要素を相対的に (1) 規模の経済喪失効果 多く用いざるを得なくな (2) 創造性喪失効果 り、そのことが技術進 (3) 労働節約促進効果 歩を促進させるという 効果である。 20