5,黒部ダム排砂の影響調査

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5 黒部ダム排砂の影響調査
Impact of sediment release from dams on downstream
vegetation
福山朝子、王聡、大山恭平、菅原久嗣、中村祐太
浅枝隆(Takashi Asaeda)
(株)建設技術研究所(CTI)
ダム等の河川構造物により土砂が下流域に供給されないと下流域の河川環境には様々な影響がでる。黒部川の2つのダムでは近年、ダムの機能維持、下流への土砂供給のため排砂が行われている。排砂前の砂州
土壌は比較的大きな礫だったが、排砂後はその上に粒径の細かい土砂が堆積しているのを確認した。本研究は排砂によってダムから供給される土砂が砂州上の植生にどのような影響を与えるかを調査した。調査は
現地の砂州で優占していたカワヤナギとアキグミに特に着目して行った。排砂土砂は元々の土壌と比べると含水率、栄養塩濃度とも高く、排砂前後では土壌の窒素とリンの含有率比が約1から約2.5に変化し、排砂前
と比較すると植生が成長しやすい土壌環境に変化した。また、樹種により生息エリアに違いが見られた。アキグミは比較的比高が高く排砂土砂の堆積が少ない場所に生息しており、カワヤナギは水際部で排砂土砂の
堆積が多い場所に多く生息していた。この違いはアキグミがグミ科の植物であり、窒素固定菌と共生できることと関係がある。
Sediment cutoff by dams significantly alters downstream environments. Thus with the anticipation of restoring the downstream environment as well as maintaining the reservoir capacity, sediment release
has been conduct in two dams of Kurobe River. In tandem to the sediment release, once completely gravel down stream sediment bars got covered with sand and witnessed colonization of trees and
herbaceous plants. This study aimed of elucidating the relationship between sediment release and subsequent colonization trends of two dominant species; Salix gilgiana and Elaeagnus umbellata.
Nutrient analyses on bar sediment suggest ratios of total nitrogen (TN) to total phosphorous (TP) increased from 1 to 2.5 as a result of sediment release. S. gilgiana preferred low lying areas with high
soil nutrients budgets and fine particles, in contrast E. umbellata colonized even in areas where soil moisture and nutrients are scarce. Mycorrhiza activities of E. umbellata seemed to be a likely reason
for thistrend apart from morphological features of both species.
1.背景・目的
3.結果、考察
1-①:ダムからの排砂による河川の下流域における問題
下流域の砂州の樹化
礫河原の消失
Fig1.
3-①:土壌サンプルの分析結果
砂州固有の生態系の消失
Fig6.2008,12
川沿いの変化
1ー②:研究対象として砂州の土壌と植生植物(アキグミ,カワ
ヤナギ,ツルヨシ,カワラハハコなど)
biomass(g)
Fig8. 2010,6 biomass(g)
Fig9. 2010,6 TN (mg)
Fig7.2008,12 TN (mg)
•Fig.6,8 に,植物の乾燥重量:biomass
, Fig.7,9 に, 土壌の表層の全窒素含有量:TN(%)
•標高の高い地点と排砂が流れ込んだと考えられる地点の窒素濃度と植生バイオマスが高いとくな
っていた。排砂による土砂堆積が繰り返されると砂州高さが高くなり、洪水による植生や砂州の破
壊が起こりにくくなる。そのため、排砂による堆積供給は植生の成長を促していると言える。
3-②:排砂前後土壌含水率や粒径の比較
•
Fig2.宇奈月ダムから約8km下流の砂州
Fig.10,11に排砂前後土壌の粒径0.063mm以下の割合、含水率とも排砂後の方か排砂前
に比べ高くなっていた。植物の発達は、水分や微細土砂の堆積に寄与する。こうしたことか
ら草本化が加速度的に進展することになる。
目的:ダムからの排砂による砂州への植生の生長や分布の影響の解明
2.調査方法
2-①:調査地
•
黒部川は,日本で有数の急流河川の一つである.
宇奈月ダム下流ではアキグミ(Elaeagnus umbellate)、カワヤナギ(Salix gilgiana)が優占する
砂州が広がっている.本研究では,黒部川の下流域を調査対象地とし,宇奈月ダムから
約8km下流の砂州において調査を行った.
Fig10
Fig11
3-③:全窒素と全燐比較の相関図
Pic1.宇奈月ダム
(多目的ダム:
2001年建設)
Pic2.出し平ダム
(発電ダム:1985
年建設)
•
•
2-②:調査内容
現地調査
Fig11
Fig12
それぞれの相関図を示した。Biomassが増加するにつれて、TNもそれに伴い数値が高くなっ
ている一方、TPの方がほとんど変わっていないことがわかる。
本研究は,現地調査を2010年6月、7月と10月の3度、サンプリングを行なった.
1.
2.
3.
Fig13に排砂前と排砂後の土壌の
NP比を示す。排砂前土壌NP比:約1、
排砂後土壌NP比:約2~2.5になった。
また、含水率の高い細粒土砂の堆積
により栄養塩も吸収しやすい環境に
もなった。これまでアキグミとカワヤ
ナギではアキグミのほうが根粒菌と
の共生により栄養塩の獲得面では優
位だったが、排砂ではカワヤナギの
方が大きく栄養供給の改善ができた
と考えられる。
アキグミ・カワヤナギとその周辺植生(ツルヨシ、1年生植生カワラハハコなど)の変
遷の調査
植物と土壌サンプルを,屋内分析用に採取
GPSによりサンプル採取地点の把握
•
屋内分析
1.
2.
•
土壌分析 : 含水率 粒度組成
植物分析 :植物のバイオマスの測定
植物および,土壌: 全窒素,全炭素の分析(CHN corder使用), 硝酸態窒素,ア
ンモニウム態窒素,リン酸態燐の分析(Auto analyzer使用) , 安定同位体比の分
析 (安定同位体比質量分析計: IsoPrime )
Fig13
4.まとめ
黒部川での排砂は粒径が小さく、栄養塩や有機物を多く含んだ土砂を砂州上に供給していた。排砂土砂が砂州に長期的に堆積すると、比較的土壌栄養塩濃度が高いため、本来アキグミなどの植物しか生育
できなかった場所に他の植物が侵入するようになる。排砂による土砂堆積が繰り返されると砂州高さが高くなり、洪水による植生や砂州の破壊が起こりにくくなる。そのため、排砂による堆積供給は植生の成長
を促していると言える。
砂州環境は自然のインパクトである冠水によって維持されるが、人為的なインパクトを河川に与えることで砂州の本来の環境のバランスが崩れてしまう。そのため特に人工的に排砂をしているダムでは土砂還
元事業を行う際には排砂を数回に分けて行ったり、排砂後の流水の量を排砂時以上のものにするなどの考慮が必要である。