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心理学

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思考と言語

福田玄明

思考と言語

 言語は思考の道具にもなる  言語を用いることで,より論理的で複雑な 思考が可能となる  思考は言語を構造化する  複雑な情報の伝達  得られた情報を知識として蓄える

問題解決

問題解決とは  現状と目標との間に隔 たりがあるとき、目標に 到達する方法を見出す こと 試行錯誤  問題解決の有力な手段が 見出されない時にとる解決 戦略のひとつ。でたらめな 反応を繰り返しているうちに、 偶然に解決に至ることを繰 り返し、目標に到達する。  効果の法則  満足すべき結果をもたらす行 動はその場面との結合が強 められるために起こりやすくな り、他の無駄な行動は起こり にくくなるという法則

   再構造化と洞察 問題解決の研究の視点   ①問題はどのように表現でき るか ②内的表象をどのように再構 造化するか 再構造化  問題の表象を変化させる過程 洞察  課題状況についての認知を体 制化させることで一気に解決 の見通しを立てること。 赤線で記した長方形の対角線の 長さを求めよ

動物の洞察

 洞察課題の典型的な問 題状況  問題状況を構成する 個々の要素をバラバラ に把握するだけでは、 解決不能。  アハ体験  要素間の関係が結び つくことで洞察が成立し た時に経験する感覚

洞察を妨げる要因①  機能的固着  ある対象の機能について、限定された考えを持ち、 別の機能を思いつかないこと 机の上にあるものを使って、床にロウを垂らさないように、火をともしたロウソ クを廊下の壁に固定するにはどうしたらよいか

問題

1 洞察を妨げる要因②  心的構え  人が過去の経験に基 づいた特定のやり方で 反応する傾向 3 つの容器を使って、必要な量 の水を計量せよ 問題 練習 1 2 3 4 5 6 容器

A

29 21 14 18 20 23 15 容器

B

3 127 163 43 59 49 39 容器

C

3 25 10 4 3 3 必要 な量 20 100 99 5 31 20 18

問題

2  暗黙の前提  問題に取り組む際に、知ら ず知らずのうちに用いてい る前提条件。思考を制約す る。 9つの点を4本の直線で一筆書き で結んでください マッチ棒 6 本で、正三角形を4個 作ってください

問題3

洞察を妨げる要因③  迂回路への抵抗  目標に最短ルートでた どり着ける解決法を模 索し、一見目標から遠ざ かる解決法は避けられ る。 川渡り課題   ボートに一度に乗れるのは、大 人 1 人もしくは子供 2 人まで。 どうすれば、全員、向こう岸ま で渡ることができるか。

洞察を妨げる要因④  表面的な情報  表面的な情報に注目し、問 題解決にとって本質的な構 造的な理解が妨げられる。 腫瘍問題: あなたは、胃に悪性腫 瘍をもつ患者の担当医だとしよう。 腫瘍を破壊しないと患者は死亡する。 十分に強力な放射線を当てれば腫 瘍を破壊できる。しかし、その強度の 放射線では、腫瘍に届くまでに、ほか の健康な組織も破壊してしまう。 放 射線により腫瘍を破壊し、かつ健康 な組織を傷つけず治療するにはどう したらよいか? 要塞物語: ある国の中央に独裁 者がいる要塞があり、そこには多く の道が通じている。反乱軍のリー ダーがその要塞を攻略しようとして いた。 全軍で攻めれば要塞を攻 略できる。 しかし、それぞれの道 には地雷が仕掛けてあり、少人数 であれば無事に通れるが、大軍が 通れば地雷が爆発し、近隣の村も 被害を受ける。要塞を攻略するこ とは極めて困難なことのように思 えた。 しかし、リーダーはよい戦 略を思いついた。軍隊を小グルー プに分けて、複数の道に配置し、 合図とともに、要塞に一斉攻撃を 仕掛けたのだ。こうして、無事に独 裁者を倒すことができた。

洞察を妨げる要因⑤  視覚的な制約 T パズル(簡単バージョ ン)

T パズル(困難バージョ ン)

 洞察を妨げる要因⑥ 心理的距離  課題に関与しすぎていると、 柔軟な思考が妨げられる。  “心的構え”や“ T パズル”の実験で は、課題に取り組んでいる参加者 よりも先に観察者のほうが解決に 至りやすい。

まとめ

 固定化した解決策に固執することなく、課 題場面を新しい観点から眺めることので きる柔軟な構えが必要である。  そのような構えをもてば、再体制化が起こ り、見通しが生じやすい。  また、休息のときなどは、課題に対する柔 軟性が増すので、不意によい解決法が浮 かんだりする。

推論

推論とは  与えられた情報に基づいて、 結論や規則を導き出す認知 過程  演繹推論  複数の前提から結論を導き 出すこと  帰納推論  観察されたいくつかのことが らから、規則を導き出すこと

演繹推論(条件推論)  条件文 p →q ( p ならば q ) p: 前件 q: 後件 肯定式 否定式 後件肯定 後件否定 前提1 お使い →200 円 お使い →200 円 お使い →200 円 お使い →200 円 前提 2 お使い 200 円 なし 200 円 お使い 行かず 結論 200 円 お使い 行かず お使い 200 円 なし 妥当性 ○ ○ × ×  大前提として条件文が 与えられたとき、その前 件・後件・前件否定・後 件否定から導かれる結 論は右の通り 肯定式 否定式 後件肯定 後件否定 前提1

p

q p

q p

q p

q

前提 2

p not q q not p

結論

q not p p not q

妥当性 ○ ○ × ×

ウェイソン型選択課題①  「あるカードの表面に母 音が書かれているなら ば、裏面には偶数が書 かれている」という規則 が成り立っているか確 かめるには、どのカード をめくる必要がある か?  確証バイアス  仮説を検証するとき、仮 説に反する証拠を探そう とせず、仮説を支持する 証拠を探す傾向がある。

ウェイソン型選択課題②  カードには 4 人の人物について の情報が書かれている。表面 には人物の年齢、裏面には何 を飲んでいるかが書かれてい る。 「ある人がビールを飲ん でいるならば、その人は

20

歳 以上でなければならない」とい う規則を確かめるにはどの カードをめくる必要があるか。  主題内容効果と記憶手 掛かり説  具体的で、経験による 裏付けがある情報だと、 推論が容易になる。

ウェイソン型選択課題③  「もし表面が「入国」であ れば、裏面の予防接種リ ストにコレラが含まれてい る」ことを確かめるにはど のカードをめくる必要があ るか。  実用論的推論スキーマ  日常生活の経験から帰 納的に学習された、原 因と結果に関する思考 様式を使った推論。  「行為

A

が許されるため には、前提条件

B

が満 たされていなければな らない」といった形をと る。  「理由づけ」あり条件で、 正答率が上昇した。

言語と思考

1  言語発達遅滞児  色紙を貼った箱に当たりを入れる.それ を10秒隠した後に,当たりの箱を当てさ せる.  色名を憶える前には混乱する.  色名を憶えてからは上手くできる.  最初のうちは,隠されている間,色名をつ ぶやいている.

言語と思考

2 Luria, A.R & Yudovich, F.I. 1971  Speech and the development of mental process in the child  3,4 歳の子供  一回ごとに声をかけると上手くボタン押しができる  声をかけないと混乱する   5 , 6 歳の子供  自分で言うと上手くいく 自分自身で調整できる  言語が行動の調節の道具

言語と思考

3  サピアとウォーフ  イヌイットの雪  色名 ” 言語相対仮説 ”  はっきりとした証拠はない.  思考を部分的には言語が規定する部 分もある可能性

言語の獲得

 プラトンの問題  「幼児が耳にする言語は,間違いや不完 全な文を含んでおり,しかも限定的である. しかし,無限の文を話すようになる.」  太郎は学校へ行った  太郎が学校へ行った

言語獲得の不思議

 決定不能  言語は多様であるため,言語のルールを聞いたものだ けから決定できない  不完全  耳にする言語は文法的に不完全な場合が多い.しかも, どれが不完全なのかということは教えられない  否定証拠の欠如  例から学習するには間違いを指摘されることが必要で ある.間違いの指摘なしに間違いが指摘できるようにな る. ⇒ 言語の生得性?

言語獲得装置と普遍文法

 チョムスキー  人間は生まれながらにして,言語能力を 持っている(言語獲得装置)  この言語獲得装置のもつ文法規則が普 遍文法  普遍文法にはいくつかのパラメーターが あり,母語に合わせて文法を調節して行く ことで個別の文法を身につける.

言語の生得性1

 ピジンのクレオール化  移民たちは,単語をつなげただけの言葉 でやりとりをする(ピジン)  ピジンには文法がない.  しかし,ピジンを聞いて育った移民の子供 たちの言葉は文法的に整って行く(クレ オール化)

言語の生得性2

 ウイリアムズ症候群  一般的な学習能力に異常があり,特に空間 把握能力に障害.しかし言語能力は正常  言語的天才  サヴァン症候群のクリストファは様々な言語 を驚異的な速さで習得できた.全く英語とは 異なる言語の文法でも数例から推定し正しく 使えた.しかし,人工言語は獲得できなかっ た.

言語の特徴1

 意味と単語の組み合わせは任意であ る  イヌという単語は,全くイヌのようではない.  イヌの意味とネコの意味を取り替えて,イ ヌを「ネコ」、ネコを「イヌ」と読んでも全く 差し支えがない.  言語は了解されたルールの上に成り立っ ている.

 言語のルールは国語文法だけではな い  棒を数えるときの数詞は? ー 本  1 本,2本, 3 本,4本, 5 本, 6 本, 7 本, 8 本, 9 本, 10 本 ー読んでみてください.

 いっぽん、にほん、さんぼん、よんほ ん、ごほん、ろっぽん、ななほん、はち ほん、きゅうほん、じゅっぽん。  カエルを数えるときの数詞は? ー 匹  1匹から10匹まで数えてみましょう.

 いっぴき、にひき、さんびき、よんひき、 ごひき、ろっぴき、ななひき、はっぴき、 きゅうひき、じゅっぴき  本と比べると  いっぽん、にほん、さんぼん、よんほ ん、ごほん、ろっぽん、ななほん、はち ほん、きゅうほん、じゅっぽん。

 い っぴき 、に ひき 、さん びき 、よん ひき 、 ご ひき 、ろ っぴき 、なな ひき 、は っぴき 、 きゅう ひき 、じゅ っぴき  本と比べると  い っぽん 、に ほん 、さん ぼん 、よん ほ ん 、ご ほん 、ろっ ぽん 、なな ほん 、はち ほん 、きゅう ほん 、じゅ っぽん 。 ルールがある.

 い っぴき 、に ひき 、さん びき 、よん ひき 、 ご ひき 、ろ っぴき 、なな ひき 、は っぴき 、 きゅう ひき 、じゅ っぴき  他のハ行で始まる数詞でも試してみま しょう.  杯,班,品,歩,分など  誰に教えられた者でもないルールでも 守られている.

言語の特徴2

 言語は生成的  今までに存在しない新しい文章を作ることが できる.  色のない緑の概念が猛烈に眠る  ギネスにかつて載っていた最も長い文  ウィリアム・フォークナーの『アブサロム,アブサ ロム』より   「二人は苦行者が苦痛に耐えるときのような歓喜 の中で・・・」 1300 語からなる

 簡単にもっと長い文を作れる  福田は最も長い文は「二人の苦行者 は・・・」だと紹介した.  さらに長い文も簡単  私は,福田が最も長い文は「二人の・・・」だと 紹介するのを聞いた.  文は無限に作られる.

言語の特徴3

 言語の意味は不確定  時計持ってますか  はい/いいえ  14時です.  今日はあついですね.  26度です.  そうですね.  ヴィトゲンシュタイン  ゲームに共通するものはない.

そらそうよ

        (シーツに強打させて失敗)「バントも(選択肢に あったけど)、ヒットが(出てないから)な」 「(JFKが)二死から四球とかもうちょっと(がんばれ ば)、(3人とも)イニングの頭からいけてた」 「(橋本健は)抹消する。(2軍から)4人呼ぶよ」 (岩瀬を打ち崩して)「(苦手意識は)イメージ的には (ない)」 (守備固めに出した藤原が2失策で)「(失策を)す ると思って(出してないけど)なあ … 。次(の攻撃を) いかなあかんから」 「何か(考えが)浅いな」 「そう(トレードに)なれば、そう(出血覚悟に)なるや ろ」 「そら(代打、檜山ということは )そう(勝負に行っ たということ )よ」

脳損傷と失語症

 言語野  ブローカ野  文法の処理  ウェルニッケ野  意味の処理

脳損傷と失語症

 ブローカ失語  流暢に話せなくなる  復唱はできない  理解は正常(文法理解の困難あり)  ウェルニッケ失語  聞いて理解することができない  復唱はできない  発話は滑らかだが,言い間違いが多い

 伝導失語  ブローカ野とウェルニッケ野をつなぐ弓状束が損傷して いる.  意味理解や発話に問題はない  復唱ができない  超皮質性失語  ブローカ野、ウェルニッケ野,弓状束は正常であるが, これら言語野が他の部位から切り離された状態  意味理解,発話に障害が見られる  復唱はできる

ブローカ失語 ウェルニッケ 失語 伝導失語 超皮質性失語 全失語 自発発話 言語理解 × ○ ○ ○ × × × ○ × × 復唱 × × × ○ ×

2重乖離

1.

2.

機能 A は損傷しているが機能 B は正 常である 機能 B は損傷しているが機能 A は正 常である   これを満たす機能 A, B を2重乖離し ていると言う. 機能が独立に局在している証拠.

言語の生得性

 ブローカ失語とウェルニッケ失語は2 重乖離の典型  ⇒ 我々の脳は言語モジュールを持つ  言語遺伝子?  ある家計では3代の家計の30人中16人 に言語障害.  Fox-P2

まとめ

 我々は,生まれつき言語を持っている 可能性がある.  コミュニケーションは人間の本能の一 つかもしれない.  また,コミュニケーションの道具である 言語により,我々の複雑な思考,論理 的な思考は支えられている.  我々は,社会的な動物?

参考文献

 スティーブン・ピンカー  言語を獲得する本能  酒井邦嘉  言語の脳科学  市川伸一  考えることの科学