中質量ブラックホールの 候補天体のX線観測
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Transcript 中質量ブラックホールの 候補天体のX線観測
中質量ブラックホールの
候補天体のX線観測
牧島一夫(東京大学・理学系/理研・宇宙放射線)
1. はじめに … ULXとは
2. 「あすか」による大進展
3. 「あすか」以後の進展
4. 中質量ブラックホール説の問題点
5. 問題解決の試み
§1. はじめに ... ULXとは
Chandraで見たNGC4038
Chandraによる近傍銀河のX線光
度関数 (Bauer et al. 2001)
log N(>Lx)
1.5
1
SMC
0.5
近傍の渦巻銀河の腕には、中性
子星のエディントン限界を大きく
超える謎のX線源が、1980年代
から知られていた。
ULX=Ultra Luminous XR Source
0
36
37 38
39 40
log Lx (erg/s)
ULXの解釈 - 対立する2説
1. ULXはエディントン限界を満たす。1040 erg/s まで達するのだか
ら〜100 M◎ の「中質量ブラックホール」である。
Colbert & Mushotzky ApJ 535,632(1999)
◆Makishima et al., ApJ 535,632, (2001)
◆Mizuno, T. PhD Thesis (2000)
◆Mizuno et al. ApJ 554, 1282 (2001)
◆Kotoku et al. PASJ 52, 1081 (2000)
◆
• 2. 観測されるULXの放射はエディントン限界に制約されず、
よってULXは通常 (〜10 M◎ )のブラックホールで良い。
•
2a. 放射は超エディントンになりうる (eg. Begelman 2002)。
•
2b. 放射は我々の方向に強くビーミングしている (King et al.
2000, King 2002).。
§2.「あすか」による大進展
2a.「あすか」:優れた分光能力と〜10
keV までのX線撮像
「あすか」の撮像型ガス蛍
光比例計数管(GIS: Gas
Imaging Spectrometer)
GISバックグラウンドスペクトル
Sunlit earth
0.1 (solar X-ray+ NXB)
Mg
Si
S
1e-2
Ar
Cu
1e-3
Ohashi et al. PASJ
48, 157 (1996)
◆Makishima et al. PASJ
48, 171 (1996)
◆
1e-4
0.5
1
2
5
Energy (keV)
10
2b. ULXの精密X
線分光
「あすか」で〜12個の
ULXの0.5-10 keV スペ
クトルを精測。
◆10 個→ 標準降着円
盤からの多温度黒体
放射モデル (MCDモデ
ルで良く記述できるス
ペクトル
◆2 個→Power-Law型
スペクトル
◆
Makishima et al. ApJ
535, 632 (2000)
◆Mizuno, T. PhD
Thesis (2000)
◆
2c.スペクトルの状態遷移の発見
IC342の2つのULX
Kubota et al. ApJL
547, L119 (2001)
◆
その他の例
NGC 1313 Source A
1993-- PL, Γ〜1.8
1995-- MCD (Tin〜0.7 keV)+PL
M81 X-9 (矮小銀河Hol IX に附随)
1999以前: PL, Γ〜1.8
1999以後 : MCD, Tin 〜 1.2 keV
MCD to PL
BH説を一段と強化
MCD型ULXはBH連星のソフト(標準
円盤)状態に、 PL型ULXはBH連星
のハード状態に対応づけられた。
PL to MCD
MCD型とPL型の
らく同種の天体
ULXはおそ
2c.周期的なX線変動(?)
~100 M◎
star
~100 M◎
BH
期待される軌道周期 〜50h
20
41 h
Normalized intensity
31 h
「あすか」軌
道周期
10
0
10-5
10-4
Frequency (Hz)
Sugiho et al. ApJL 561, L73
(2001)
◆
31hで折り畳んだ光度曲線
IC342 S 2 (MCD状態)
のパワースペクトル
30
IC342 Source 2 に 31h ま
たは 41h のX線の周期変
動がありそう
10-3
1.2
Orbital period
of ASCA
1.0 2–10 keV
0.8 Power Spectra
1.2
1.0
0.8
0
0.5
1.0
Phase
1.5
2d.The M82 X-1
M82の中心核から〜9” ずれた点源
Matsumoto et al. ApJL 547, L25 (2001)
Kaaret et al. MNRAS 321, L29 (2001)
大きく変動し, 最大光度は Lx ~ 1041 erg/s, よって 1034M の中質量BHかもしれない。
²
Matsumoto & Tsuru, PASJ 51, 321 (1999)
²
Ptak & Griffiths ApJL 517, L85 (1999)
電波のバブルに取り囲まれている。
²
Matsushita et al. ApJL 545, L107 (2001)
X線スペクトル
² 「あすか」(0.5-10 keV) → Γ〜1.8のPL
² 「ぎんが」 (0.5-10 keV) → kT〜7 keVの熱的制動放
射型 (Tsuru, T. PhD Thesis, 1992).
²
²
◎
2e.BHの合体成長説
Ebisuzaki et al. ApJL 562, L19( 2001)
“Missing Link Found? The Runaway
Path to Supermassive Black Holes”
1. 若く稠密な星団の中で、大質量星どうしが急速に合
体、mass-lossする間もなく、数十M◎のBHを形成。
2. BHは星を飲み込んで中質量BHへ成長。
3. 中質量BHを抱えた星団は、動的摩擦で銀河中心へ
と沈澱。
4. そこで中質量BH同士が合体し、銀河中心の巨大BH
を形成。
代表的なBH論文のcitation
200
三好 et al. 95
水メーザー
150
宮本 et al. 91
ランダム変動
100
小田 et al. 71
50
0
田中+
柴崎 (96)
レビュー
1972
1976
1980
牧島et al.
ULX (‘00)
牧島 et al. 86
標準降着円盤
1984
1988
1992
1996
松本+鶴
2000 M82 (‘01)
§3.「あすか」以後の進展
3a.ChandraとXMM-Newtonによるサンプル拡大
Power-Lawでのフィット
◆
Sugiho, M., PhD Thesis (2003)
2.0
Reduced Chi-square
・MCD型とPL型のULXがほぼ
同数(16:18)
・光度分布は大差なし
MCDが良く合う
6
MCD型
1.5
4
PL型
2
1.0
区別不可 PLが良く合う
0.5
0.5
1.0
1.5 2.0
MCD モデルでのフィット
0
38
39
40
logLX(0.5-10 keV) erg/s
3b.母銀河の型との相関(?)
Chandraの全点源 サ
ンプルの光度関数
E/S0
Sa〜Sbc
Sc, Sd, Irr
12
9
X線スペクトルが決
まったULX
MCD型
PL型
6
3
0
S0 Sa Sab Sb Sbc Sc Scd Sd Sm Ir
38
39
40
log Lx (0.5-10 keV)
母銀河の形態
ULXの性質と母銀河の形態との
間には面白い相関がありそうだ
◆ Sugiho, M., PhD Thesis (2003)
が、選択バイアスは強い。
3c. ULXの光学同定の努力
NGC 5204 X-1の光学対応天体:mv=19.7 の若い
星もしくは若い星団と思われる (Roberts et al.
MNRAS 325, L7, 2001) 。
矮小銀河Holmberg II中のULX:He II λ4686を発
する星雲中にある。X線が励起源とすれば、視線
方向に強いビーミングしている可能性は低い
(Pakull & Mirioni, asptro-ph/0202488)。
割に低光度 (2e39 erg/s) のULXである M81 X-11
の光学対応天体は、O8Vの星 (Liu et al. asptroph/0211314) 。
3d. 放射のビーミング説
◆ 論拠
(King et al. 2000; King 2001 など)
“中質量BHなど、星の進化から作れないから”
→ これは後ろ向きの議論に過ぎない。
“μQSOではX線がビーミングしているから”
→ 電波ジェットが出ているからといって、X線もビーミ ングして
いると考えるのは、あまりにも短絡的。
◆ 仮定されるビーミング機構
“相対論的ブースト”
→ MCD型のスペクトルをまったく説明できない。
“イオン化された分厚い円盤による絞り込み”
→ 反射による強い Fe-K エッジがスペクトルに見えない 。
ビーミングを支持する妥当な観測的証拠は無い。
3e.M82 X-1 からのQPOの発見
(XMM-Newton, RXTE)
◆
Strohmayer & Mushotzky, ApJL 586, L6 (2003)
系内BH連星との類推
→X線の大部分が降
着円盤の放射である
(ビーミングではない)
ことを強く示唆。
系内BH連星のQPOよ
り〜100倍おそい。 →
質量も〜100倍か。
§4. 中質量BH説の問題点
4a.高すぎる円盤温度
Makishima et
al. (2000)
BHのH-R Diagram
非物理
的領域
ULXs
ULXs
グリッドは非
回転BH回り
の標準降着
円盤を仮定
し計算。
Galactic
microQSOs
4a’. 小さすぎる円盤内縁半径
BHの質量-半径関係
i=0 (ULXs),
質量:光学的に決定、
もしくはエディントン
限界から計算
100
ULXは光度が大きい
割に円盤の半径が
小さすぎる
xk2=1.18
LMC X-1
Rin (km)
円盤内縁半径:
MCDフィットに
Kubota et al. (‘98)
の補正を施す。
Galactic
Jet Sources
Classical
BHB
M33 X-8
ULX
N4565oc
Cyg X-1
N1313 B
M81
IC342 S1
N4565c
GS2000+25
LMC X-3 GRS1915+105
Dw1 X-1
GRO1655-40
10
1
10
Black Hole Mass ( M ◎ )
100
4b.変動する円盤内縁半径
Mizuno, Kubota & Makishima ApJ 554, 1282 (2001)
39 erg/s の天体は
L
>10
△
Chandra/Newton
Lbol□:「あすか」
=LE
Tinが高く、見かけ上、
40 □「あすか」
Lbol>LEの領域に来る。
39
Log Lbol
◆
3衛星を合わせ~10個
の天体を複数回観測
→ Rin≠一定の変動
38
標準降着円盤と解釈
できる天体も発見
(NGC253 Source 1)
0.3
0.5
1
Tin (keV)
2
標準降着円盤では内縁半径が天体ごとに一定(最終安定軌
道)だったが、その性質が成り立っていない
4c.高すぎる状態遷移光度
3衛星を通算し、5天体からMCD状態⇔PL状態の遷移を検出
MCD M81 X-9
PL
「あすか」
モデル
Lbol =LE
PL状態の光度
N1313
MCD Src B
Newton PL
データ
観測された遷移を通常のLow/High遷移と考えると、その光度
が高すぎる(通常 LE の数%)
むしろL 〜 LE 、Tin 〜 1 keV で遷移が起きるように見える。
4d. Tin の低いULXは存在するか?1
中質量BHがエディントン以下で光っていたら、このあたりに来る
はずなのに、なぜそうした天体が居ないのか?
XMM-Newtonによる
NGC1313 X-1 (Miller et al.
astro-ph/0211178 v3)
Cool Disk,
Tin〜 0.2
keV
0.5
1
2
5 keV
§5. 問題解決の試み
[P1] 円盤のTin が高すぎ Rin が小さすぎる。
[P2] Rinが一定せず、ほぼ ∝ 1/Tinで変動。
[P3] MCD⇔PLの遷移点の光度が高すぎる。
(Kubota, Done & Makishima , MNRAS 337, L11, 2002)
(1) BH が大きな角運動量をもつ (極端Kerr BH) と考える (Zhang
et al. 1997; Makishima et al. 2000). → 最終安定軌道の半径
が、 3Rs から 0.5Rs に減少するので、重力赤方変位を考えて
も、[P1] をある程度まで説明できる。しかし[P2][P3]は説明で
きない。
(2) MCD型ULXは標準降着円盤ではなく、advectionの効いたス
リム円盤の状態 (Abramowics et al. 1980)にあるので、 挙動
が標準状態と異なる (Watarai, Mizuno & Mineshige ApJL 549,
77, 2001)。問題点をすべて説明できそう。
5a. BHの回転の影
響?
GROJ1655 LMC X-3
BH質量 (M 0 ) 7 ± 1
6 ±1
Inclination(deg) 69 ± 1
66 ± 1
L x (erg/s)
1.3E38 1.9E38
T in (keV)
0.97±0.01
1.39±0.01
GROJ1655
BH連星LMC X-3とμQSO
GRO J1655-40 は、系のパ
ラメータは似る。
しかしX線の性質は異る。
前者はSchwrzschildで、後
者はKerrと思えばよい
(Zhang et al. 1997)。
Kubota et al.
ApJ 560,
L147 (2001)
Extreme Kerr
Schwarzschild
5b. 質量降着BHの4つの状態
Watarai et al. PASJ 52, 133 (2000), ← theory
Kubota et al. ApJ 560, L147 (2001) ← GRO J1655-40
Kobayashi et al. PASJ, submitted (2002)
Kubota et al. ApJ, submitted (2002) ← XTE J1550-564
光学的に厚い円盤
L/LEd
スリム円
盤状態
光学的に厚
い円盤
円盤の放射が熱
的にCompton化
されたもの
MCD-ULX?
1
PL-ULX?
コンプトン状
態
ハード
状態
0.1
ソフト(標
準)状態
0.01
Γ~2.3
1
熱的カッ
トオフ
10 Energy (keV) 100
5c. ULX スペクトルの新しい解釈
MCD型ULXは、ソフト(標準)状態ではなく、スリ
ム円盤状態にあると考えられる。
PL型ULXは、通常のハード状態ではなく、 コン
プトン状態にあると考えられる。
両者の遷移は、LE付近で起きるとしてよい。
ULXやμQSO が Kerr BH である可能性は、依
然として有力。
Kubota, Done & Makishima , MNRAS 337, L11, 2002
◆Watarai, Mizuno & Mineshige ApJL 549, 77, 2001
◆
5d. PL型 ULXスペクトルの再解析
IC342 Source 1 の「あすか」スペクトル(2000)
MCD Tin =1.1 keV の
MCD放射が, Te=20
keVでτ〜3の電子雲
に Compton化されたモ
デル
E< 4 keVでのPL
フィット、
Γ= 1.54 ±0.12
1
2
5
10
1
2
5
10
Energy (keV)
PL型 スペクトルを示すULXは、コンプトン状態にあり、
L 〜 LEd と考えて良さそう。
(Kubota, Done & Makishima , MNRAS 337, L11, 2002)
5e. The M82 X-1 の解釈
「あすか」(0.5-10 keV) (Matsumoto & Tsuru 1999)
Γ=1.7〜2.6のPL
Lx (2-10 keV) = (1.9〜5.2)×1040 erg/s.
「ぎんが」 (0.5-10 keV) (Tsuru, T. PhD Thesis, 1992)
kT〜7 keVの熱的制動放射型
Lx (2-10 keV) = 4.4 ×1040 erg/s
低エネルギー側でPL、高エネルギー側で熱的に曲
がるのは、熱的コンプトンの特徴。よってM82 X-1 も
コンプトン状態と解釈できる。
5f. ULXからNarrow Line Syfert 1へ
変動の激しい
コンプトン成分
コンプトン状 変動する本来の
態
ハードテール, Γ
〜2.3
静穏円盤
ソフト(標準)状態
Energy (keV)
1
0.1
10
1
100
10
NLSy1 with 106 Msun
NLS1を特徴づける、変動の激しい soft exccessは、円
盤放射がコンプトン化されたものだろう。Murakami, M.M.
et al., PASJ, submitted (2003)
§6. まとめと展望
系内 (LMC を含む) のBH連星と比較することで、降着
率の高いBHの統一的描像が構築されつつある。
この描像に従い、ULXを「降着率の高い中質量BH」と
して解釈することができる。
いずれ「ビーミング説」と黒白をつける必要あり。
中質量BH説が堅固になれば、銀河中心の巨大BHの
起源が始めて明らかになるかもしれない。
今後、ULXの光学同定と、硬X線領域での観測が急務
である。後者に関しては、2005年に打ち上げ予定の
ASTRO-E2 衛星に、高感度の硬X線検出器HXD-IIが
搭載され、大きな進展が期待される。