GPS第二民間周波数信号(L2C)の受信試験

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電子情報通信学会SANE研究会
長崎美術館
Jan. 19, 2007
GPS第二民間周波数信号
(L2C)の受信試験
坂井 丈泰、福島 荘之介、武市 昇、荒蒔 昌江、伊藤 憲
電子航法研究所
Jan. 2007 - ENRI
Introduction
SLIDE 1
• GPSは、近代化計画の一環として信号を追加しつつある:
– 衛星航法システムにとって、信号(周波数)の追加は性能向上のため
の効果的な方法。
– ブロックIIR-M衛星:L2周波数にL2C信号を追加。
– 信号の追加により、電離層遅延補正の改善やアンビギュイティ決定の
高速化が期待できる。さらに、新しい航法メッセージが利用可能になる
といったメリットもある。
• L2C信号の評価:
– 昨年より打上げが開始されたブロックIIR-M衛星は、すでにL2C信号を
放送している。
– L2C信号を受信可能な受信機を入手し、L2C信号の評価を試みた。
Jan. 2007 - ENRI
測距信号の追加
SLIDE 2
• 測距信号の追加による一般的なメリット:
–
–
–
–
電離層遅延補正の改善:複数信号が利用可能となるため。
アンビギュイティ決定の高速化:ワイドレーンが利用できる。
耐干渉性能の向上:冗長な信号が利用できる。
マルチパス誤差の低減:周波数あるいはチップレートが異なれば、マ
ルチパスの様相が異なる。
• 新信号における測距性能改善の余地:
–
–
–
–
信号周波数:既存信号の周波数から離したほうがメリットを得やすい。
送信電力増:測距精度・感度の向上。
高チップレート化:マルチパス低減、ただし受信機の電力増。
航法メッセージの変更:より精度の良い軌道・クロック情報。受信機の
負担増(ソフトウェア)。
– 符号化方式の改良:符号化ゲインが得られる。受信機の負担増(処理
電力、ソフトウェア)。
Jan. 2007 - ENRI
GPSスペースセグメント
SLIDE 3
• 24衛星(6軌道面、高度約2万km)
– 実際は30衛星が稼動中
– 軌道傾斜角55度、周期11:58
• 標準測位サービス(SPS):軍民共用
– L1(1575.42MHz):C/Aコード(1.023Mcps)
• 精密測位サービス(PPS):軍用
– L2(1227.6MHz):P/Yコード(10.23Mcps)
• スペクトラム拡散:CDMA、測距
– 衛星のPRN番号(1~37):拡散コード
(FAA HP)
• 航法メッセージ(50bps):軌道情報
• 1978~ Block I
プロトタイプ
1989~ Block II/IIA 実用型(SA機能あり)
1997~ Block IIR 衛星間リンク、Autonav
2005~ Block IIR-M 第二民間信号(L2C)
2008~ Block IIF 第三民間信号(L5)
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GPS衛星の変遷
SLIDE 4
GPS Block I (1978~)
GPS Block IIR (1997~)
GPS Block II/IIA (1989~)
GPS Block IIF (2007~)
Jan. 2007 - ENRI
GPS近代化計画
SLIDE 5
• SA解除(2000年5月)
• Block IIR-M(2005~):第2民間周波数(L2=1227.6MHz)
– 航空用ARNSバンド外:民間航空用途には使えない。科学観測、測量など。
– L2C信号:IS-GPS-200D、すでに送信:ただし航法メッセージはLegacy NAV
• Block IIF(2008~):第3民間周波数(L5=1176.45MHz)
– Safety-of-LifeもOK、ただし航空用DME(960~1215MHz)との干渉あり。
– L5信号:IS-GPS-705、10.23Mcpsの高速なチップ変調
• Block III(2013~):第4民間周波数(L1=1575.42MHz)
– L1C信号:Draft IS-GPS-800(2006年4月)
• L-AII(Legacy Accuracy Improvement Initiative):実行中
– MS増設:NGA局も利用し、12局とする:監視体制の強化。
– MCS増設:来春から新MCSで稼動予定
• 政策の裏付け:PNT Policy(2004年12月)
Jan. 2007 - ENRI
GPSにおけるL2C信号の追加
SLIDE 6
• GPSでは、民間用の信号はL1周波数のC/Aコードのみ。
– L1周波数には軍民共用のC/Aコードおよび軍用のPコードが乗せられている。
– 開発開始以来、信号構成・形式に変更はない。
• 実際にはL2信号も利用されている。
– Pコードを知らなくてもコード測距を行う技術が開発された。
– 90年代後半にはPコードそのものも公表されている(現在はIS-GPSに記載)。
– ただし、実際にはAnti-Spoofing(AS)モードで運用されており、Pコードの代わ
りにYコードが使われている。
• L2C信号のメリット:
– P/Yコード信号を使わずに2周波数を利用できる。P/Yコードを受信する受信機
は、米国特許の関係で高価。また、ASモードでは受信電力が低下する。
– L2Cコードは、L2P/Yコードよりも送信電力が強化されている(-164.5dBW →
-160dBW)。受信感度の向上が期待できる。
– CNAVメッセージによる効率的かつ柔軟な航法メッセージの伝達。
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SLIDE 7
ブロックIIR/IIR-M衛星
ブロック
SVN
PRN
軌道
打上げ日
運用開始日
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
IIR
41
42
43
44
45
46
47
51
54
56
59
60
61
14
12
13
28
21
11
22
20
18
16
19
23
02
F-1
-
F-3
B-3
D-3
D-2
E-2
E-1
E-4
B-1
C-3
F-4
D-1
00/11/10
97/01/07
97/7/23
00/07/16
03/03/31
99/10/07
03/12/21
00/05/11
01/01/30
03/01/29
04/03/20
04/06/04
04/11/06
00/12/10
打上げ失敗
98/01/31
00/08/17
03/04/12
00/01/03
04/01/12
00/06/01
01/02/15
03/02/18
04/04/05
04/07/09
04/11/22
IIR-M
53
17
C-4
05/09/26
05/12/16
IIR-M
52
31
A-7
06/09/25
06/10/12
IIR-M
58
12
B-5
06/11/17
06/12/13
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SLIDE 8
GPSの民間用信号
L5
L2
L1
C/A
1st Civil
Block II/IIA/IIR
L2C
C/A
L2C
C/A
2nd Civil
Block IIR-M
I5
3rd Civil
Block IIF
Q5
I5
4th Civil
Block III
L2C
C/A
L1C (TBR)
Q5
1176.45 MHz
1227.6 MHz
1575.42 MHz
(A. Ballenger, 46th CGSIC, 2006)
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SLIDE 9
測距信号の構造(L1 C/A)
NAVメッセージ
(50bps)
×20460
20ms(5996km)
PNコード
(1.023Mcps)
×1540
978ns(293m)
搬送波
(1575.42MHz)
位相反転
0.635ns(19.03cm)
送信波 = 航法メッセージ(±1)×PNコード(±1)×搬送波
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測距信号の生成(L1 C/A)
SLIDE 10
NAVメッセージ(50bps)
50bps
C/Aコード(1.023Mcps)
1周期 = 1ms
1.023Mcps
L2搬送波(1227.6MHz)
送信アンテナ
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SLIDE 11
測距信号の生成(L2C)
NAVメッセージ(50bps)
50bps
NAVメッセージ(25bps)
½
FEC
1.023MHz Epoch
CNAVメッセージ(25bps)
CMコード(0.5115Mcps)
CLコード(0.5115Mcps)
L2搬送波(1227.6MHz)
1周期 = 20ms
1周期 = 1.5s
1.023Mcps
CMコードとCLコードを
交互に拾ってくる
送信アンテナ
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SLIDE 12
CNAVメッセージ(L2C)
タイプ
内容
最大間隔
10
エフェメリス(1/2)
48 s
11
エフェメリス(2/2)
48 s
12
簡略化アルマナック
20 min
13
ディファレンシャル補正情報(クロック)
30 min
14
ディファレンシャル補正情報(軌道)
30 min
15
テキスト情報
30
クロック補正、電離層補正、群遅延補正
288 s
31
クロック補正、簡略化アルマナック
20 min
32
クロック補正、地球回転パラメータ
30 min
33
クロック補正、UTCパラメータ
288 s
34
クロック補正、ディファレンシャル補正情報
30 min
35
クロック補正、GGTO
288 s
36
クロック補正、テキスト情報
37
クロック補正、MIDIアルマナック
-
-
120 min
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L2C信号の受信試験
SLIDE 13
• ブロックIIR-M衛星の測距信号により擬似距離を測定:
–
–
–
–
収集時期: 2006年12月3~14日(12日間)
対象衛星: PRN 17(SVN 53)、PRN 31(SVN 52)
電子航法研究所(東京都調布市) 屋上アンテナ(既設)
Septentrio PolaRx2C受信機を使用(L1C/A、L1P、L2P、L2C)
• (1)L2C擬似距離とL2P擬似距離を比較:
– 同じ周波数の擬似距離を直接比較する。
– 差の原因: 送信回路遅延、マルチパス、受信機処理
• (2)L2C擬似距離の残差を計算:
– 計算可能な距離および誤差成分を除いた残差
– 幾何学的距離(エフェメリスから得る)、衛星クロック誤差(エフェメリス
による)、受信機クロック誤差(計算により求める:L1C/A基準)、電離
層遅延量(L1C/A-L2P)、対流圏遅延量(モデルによる)
– 差の原因: 送信回路遅延、マルチパス誤差、受信機処理(周波数間
バイアス含む)、エフェメリス誤差
Jan. 2007 - ENRI
Septentrio PolaRx2C受信機
SLIDE 14
Jan. 2007 - ENRI
SLIDE 15
L2CとL2Pの差
PRN 17
PRN 31
• L2C擬似距離とL2P擬似距離の差
• 20mを超える差を生じていることがある。マルチパスの影響か、単なる測定雑音?
Jan. 2007 - ENRI
L2CとL2Pの差(高仰角のみ)
PRN 17
PRN 31
• L2C擬似距離とL2P擬似距離の大きな差は、低仰角で生じていた。
• 大きな差の原因は、送信側の問題ではない。
SLIDE 16
Jan. 2007 - ENRI
SLIDE 17
L2C擬似距離の残差
PRN 17
PRN 31
• L2C擬似距離から、計算可能な距離と誤差成分を除いた残差。
• やはり20mを超える残差を生じることがある。
Jan. 2007 - ENRI
L2C擬似距離の残差(高仰角のみ)
PRN 17
SLIDE 18
PRN 31
• 大きな残差は、低仰角で生じていた。
• 原因は、送信側ではない。擬似距離の測定誤差か、受信機内部の処理による。
Jan. 2007 - ENRI
SLIDE 19
L2P擬似距離の残差
PRN 17
PRN 31
• L2Pでは、低仰角でもそれほど大きな残差を生じていない。
• ただし、PRN 31では正負で非対称:マルチパスによる影響と思われる。
Jan. 2007 - ENRI
L2P擬似距離の残差(高仰角のみ)
PRN 17
• 高仰角では、非対称な残差はみられない。
• L1C/AやL2Pでも同様な傾向にある。
PRN 31
SLIDE 20
Jan. 2007 - ENRI
L2P擬似距離の残差(PRN 01)
PRN 01
SLIDE 21
PRN 01(高仰角のみ)
• PRN 17やPRN 31に比べ、標準偏差が大きい。
• ブロックIIR-M衛星でL2Pが3dBだけ強化されていることによる差と思われる。
Jan. 2007 - ENRI
L2C擬似距離の残差について
SLIDE 22
• L2C擬似距離には大きな残差を生じることがある:
– 高仰角では発生しない:送信側の問題ではない。
– 頻度が少ない:バイアス性ではない。マルチパス以外の要因?
– 同様の測定条件でも、他の信号では生じていない:残る要因は、マルチ
パス誤差のうちのランダム成分と、測定雑音くらい。
– 受信機の設定はほぼデフォルトで、L2C信号について特別な設定をして
いるわけではない。
• 考えられる原因:
– マルチパス誤差および測定雑音について、他の信号同士では何らかの
方法で抑えているものが、L2Cではそのまま現れているのではないか。
– すなわち、受信機の内部処理による影響と思われる。
– 高仰角では現れないことから、測距信号としての性能に問題があるわけ
ではない。
Jan. 2007 - ENRI
SLIDE 23
L2C残差の仰角依存性
PRN 17
PRN 31
Jan. 2007 - ENRI
Conclusion
SLIDE 24
• GPSでは第二民間周波数信号(L2C)を追加しつつある:
– ブロックIIR-M衛星で追加された民間用信号。
– 感度向上や、2周波受信機の低価格化が期待できる。
• L2C信号の評価:
– すでに放送を開始している2衛星について、L2C信号による擬似距離
の評価を行った;(1)L2Pとの比較、(2)残差の直接評価。
– おおむね良好な測距性能。他の信号にはみられない大きな残差が観
測されることがあるが、この原因は受信機の内部処理による可能性が
あると考えている。
• 今後の課題:
– 他の受信機による受信試験。
– L2C信号について、他の信号に対するバイアス成分を計算する。