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日本の安全保障政策と防衛体制:I 安全保障論 (第11回) 担当:神保 謙 授業に入る前に・・・ 北朝鮮はテポドン2 ミサイルを発射するのか? 北朝鮮のミサイル発射をめぐる動向 (2006年6月20日11:00現在) ミサイル発射準備の経緯 5月19日 北朝鮮北東部の咸鏡北道花台郡にあるミサイル実験場で、ミサイル発射準備の 兆候(車両の動きが活発化・無線交信も急増)。米国務省マコーニック報道官、 北朝鮮の発射準備に懸念を表明 5月31日 日米・警戒レベルを高度に。発射準備最終段階という認識。在日米軍はRC135Sの運用を開始。防衛庁は、海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」を派遣。 航空自衛隊の電子測定機YS11Eも日本海側に展開 6月12日 米高官「発射台で準備を進めている『十分な形跡』があると発言 6月16日 米偵察衛星、テポドン2号の組み立て完了を確認。自衛隊は警戒監視体制をさ らに強化。 6月17日 米偵察衛星、液体燃料タンク10数器を移動・発射台の稼動実験を実施を確認 6月18日 米諜報筋、ミサイルに液体燃料の注入開始・注入完了という見方 Source: 『防衛白書』(平成12年度版) Possible Vehicles As of May 24, 2006 Launcher Approx Figure Height : 32.8m Propellant : 2.2m (liquid) Payload : Unknown Source: 『朝鮮日報』http://japanese.chosun.com/ Source: 『朝鮮日報』http://japanese.chosun.com/ 北朝鮮ミサイル発射をめぐる動向 北朝鮮ミサイル発射の理由 六者協議膠着状態の打開⇒米朝二国間交渉 マカオにおける金融制裁による苦境の打開 1998年テポドン1号試射による「外交打開」の教訓 米朝閣僚級協議の実施 1999年、経済制裁の緩和へ 北朝鮮ミサイル発射の抑制要因 ミサイル発射モラトリアム 1999年 ミサイル発射モラトリアム(米朝交渉) 2002年10月 「日朝平壌宣言」 2005年9月 「六者協議共同声明」 制裁措置 二国間措置: 出入国規制措置・金融制裁・貿易制限 多国間措置: 国連安保理(非難決議・経済制裁・+α?) 同様の状態を 導けるかは疑問 ミサイルを発射した場合の影響 Military Implication ミサイル射程の拡大 ミサイル防衛 米本土到達可能な脅威 沖縄・グアムの米軍基地を射程圏内に 日米(韓)のレーダ・センサによる 補足⇒追尾⇒識別 日米(韓)間におけるセンサ情報の共有・統合化 Diplomatic Implication 米国: 金融制裁の強化 日本: 出入国規制・金融制裁・安保理への上程 中韓: 「積極対応」または「無視」? 軍事的連携強化へ ミサイル防衛導入加速 米朝・囚人のジレンマ? (注:数字については全て概念化のための仮定) 北朝鮮 ミサイル実験をしない 米国 交渉による 解決 強硬手段 の加速 危 機 回 避 の 合 理 的 判 断 ? (0, -2) (-2, -10) 中 間 的 選 択 肢 の 存 在 ? ミサイル実験をする (-10, +2) (不明, -8) 北 朝 鮮 の 期 待 と 誤 解 ? 最終レポート課題 以下5つのテーマから、1つを任意選択(または自由な政策課題を設定)し、 下記の要領にしたがって最終レポートを作成してください。またレポートの末 尾にどのような参考文献・論文・資料を使用したのかを列記してください。 【課題】 1. 米軍再編と日米同盟: 今後の同盟のあり方 2. イラン核問題の解決のための政策オプション 3. 中国の台頭は東アジアの安全保障にいかなる影響を与えるか 4. 国際テロリズムの脅威と対テロ対策のあり方 5. 日本の防衛政策の課題と今後のあり方 6. (自由な政策課題の設定)⇒「安全保障論」と関連させること 【要領】 締め切り : 2006年7月28日(金) 23:55 言 語 : 日本語または英語 文字数 : 3000字以上 無制限(日本語) 1500word以上 無制限(英語) 使用ソフト : Microsoft Word 注意事項 : 本文冒頭に必ず選択課題、所属、氏名を 明記すること 【提出方法】 Word添付ファイルにてレポート・システム (https://report.sfc.keio.ac.jp/)に提出してください。ファイル名 (の一部)には提出者氏名をフルネームで記述してください (例:Ken Jimbo-Security Final.doc)。 第11回授業の課題 戦後日本の防衛政策の経緯を振り返り、その起点と なった憲法9条の精神と、防衛力整備の論理について 学ぶ その過程で、日本の防衛政策に「絶対性」(脅威の態様 にかかわらず変化しない概念)と「相対性」(〃に合わせ て変化する概念)が共存していたという見方を学ぶ 冷戦後・9.11後の防衛政策の特徴を概観する (時間が足りない場合は、第13回講義で補足します) 学習の手引き 「安全保障論ノススメ」 – 第11回「日本の安全保障政策と防衛体制」 (その1)(その2) 参考文献 – 拙稿「新しい日本の安全保障:『専守防衛』・『基盤的防衛力』の 転換の必要性」『新しい日本の安全保障を考える』(自由国民社、 2004年) – 佐道明弘『戦後日本の防衛と政治』(吉川弘文館、2003年) – 佐道明弘『戦後政治と自衛隊』(吉川弘文館、2006年) – 大嶽秀夫『日本の防衛と国内政治』(三一書房、1983年) – 大嶽秀夫『再軍備とナショナリズム』(講談社現代新書、2005年) 日本の地政学的(Geo-Political)条件 安全保障における地政学 – 「国家の視点から空間をみる」(独・地政学) • 国家は移動できず、周辺環境を与件とする 日本の地政学的条件 – ユーラシア大陸東端に位置する島国 • 大陸との距離 • 荒海とモンスーン地帯 • 太平洋 – 欧米から遠く、中国・ロシアに近い 日本国憲法と第9条の精神 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際 平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、 武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を 解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2) 前項の目的を達するため、陸海空軍その他 の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、こ れを認めない。 備考:なぜドイツには「9条」が存在しないのか? (地政学的な考察) ドイツ基本法 – 東西分断されていたため、憲法ではない – 1949年当事制定(既に冷戦が顕在化) なぜ「9条」が存在しない? – 冷戦を前提とした防衛概念・立法体系 – 東ドイツを通じてロシアと地続きであった むしろ地政学的条件はイタリアに類似 – 緩衝地帯(buffer zone)の存在 – 戦後政党構造(キリスト教民主党vsイタリア共産党) 日米安全保障条約と自衛隊の創設 1950年 朝鮮戦争の勃発 警察予備隊の創設 1951年 サンフランシスコ平和条約 日米安全保障条約 1952年 海上警備隊の創設 保安隊(警察予備隊+海上警備隊) 1954年 自衛隊の発足 国防の基本方針(1957年5月) (1) 国際連合の活動を支持し、国際間の協調をはかり、世 界平和の実現を期する (2) 民生を安定し、愛国心を高揚し、国家の安全を保証す るに必要な基盤を確立する (3) 国力国情に応じ自衛のために必要な限度において、効 率的な防衛力を漸進的に整備する (4) 外部からの侵略に対しては、将来国際連合が有効にこ れを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国と の安全保障体制を基調として、これに対処する 憲法第9条と自衛権 I 憲法第9条と自衛権 「我が国が独立国である以上、この規定は主権国家とし ての固有の自衛権を否定するものではない」(政府統一 解釈) 憲法第9条と戦力 「憲法第9条第2項は『戦力』の保持を禁止しているが、こ のことは、自衛のための必要最小限の実力を保持するこ とまで禁止する主旨のものではなく、これを超える実力を 保持することを禁止する主旨のものである」(政府答弁 書) 憲法第9条と自衛権 II 憲法9条と交戦権 「憲法第9条第2項は、『国の交戦権は、これを認めない』と規 定しているが、ここでいう交戦権とは、戦いを交える権利とい う意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総 称であって、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の 占領などの権能を含むものである。このような意味の交戦権 が否定されていると政府は解している。 他方、我が国政府は、先述のとおり、自衛権の行使に当 たっては、我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行 使することは当然のことと認められており、その行使として相 手国兵力の殺傷及び破壊等を行うことは、交戦権の行使とは 別の概念のものである、と考えている。したがって、交戦権で 否定されるのは、例えば、相手国の領土の占領、そこにおけ る占領行政など、自衛のための必要最小限度を越えるものと されている」(1956年林内閣法制局長答弁) 防衛政策の自発的制約 I 専守防衛 「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、 もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行う」 (1972年10月の政府答弁) 「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行 使する」(1981年3月) 個別的自衛権行使の3要件 – わが国に対する急迫不正な侵害があること – これを排除するために他の適当な手段がないこと – 必要最小限度の実力行使にとどまること 防衛政策の自発的制約 II 集団的自衛権行使の否定 「国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国 と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国 が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもっ て阻止する権利を有しているものとされている。わが 国が、国際法上、このような集団的自衛権を有してい ることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法 第9条の下において許される自衛権の行使は、わが 国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべ きものと解しており、集団的自衛権を行使することは、 その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと 考えている」(1971年5月の政府答弁) 防衛政策の自発的制約 III 非核三原則 – 「持たず」・「つくらず」・「持ち込ませず」 武器輸出三原則 – 佐藤内閣答弁(1967年4月) • 以下の三つの場合に武器輸出を認めない – 共産諸国向けの場合 – 国連決議等により武器の輸出が禁止されている国向けの場合 – 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合 – 三木内閣における政府統一見解(1976年2月) – 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない – 三原則対象地域以外の地域については、憲法および外国為替および外 国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする – 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとす る 自衛力制限の「絶対性」と「相対性」の共存 I 絶対性 (⇒脅威の態様にかかわらず変動しない) – 自衛権発動の要件 • 「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使す る」(大森防衛庁長官答弁) – 自衛権の地理的範囲 • 「もっぱらわが国土およびその周辺」(1972年田中首相答弁 • 「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、 領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための 必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されない」 – 自衛隊の装備における限界 • 「他国に侵略的な脅威を与えるようなもの、例えば、B-52の ような長距離爆撃機、ICBM(大陸間弾道弾)等を保有する ことはできない – 概念としての「基盤的防衛力」構想(1970s~) 自衛力制限の「絶対性」と「相対性」の共存 II 相対性 (⇒脅威の態様によって変化する) – 自衛権発動の要件 • 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと – 自衛権の地理的範囲 • わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最 小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国 の領土、領海、領空に限られないが、それが具体的にどこま で及ぶかは、個々の状況に応じて異なるので、一概には言 えない • 「海外における武力行動で、自衛権発動の三要件に該当す るものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような 行動をとることが許されないわけではない」(1969年政府答 弁書) 自衛力制限の「絶対性」と「相対性」の共存 II 相対性の発展形 – 敵基地攻撃と自衛権 • 「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段 としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、 座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだと いうふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう 場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最 小限度の措置をとること、例えば、誘導弾等による攻撃を防 御するのに、他の手段がないと認められる限り、誘導弾等の 基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能 であるというべきものと思います」(1956年・鳩山首相答弁、船 田防衛庁長官代読) – 最近の答弁 • 「敵がミサイルの燃料を注入している段階で、敵を攻撃するこ とは可能」(福田官房長官、石破防衛庁長官) • 「我が国を目標として飛来してくる蓋然性が高い場合には、自 衛権の対象となり得る」(内閣法制局長官) 安全保障の「空間」と「時間」の 変化への対処 (1950~2000) 「空間」 – – – – 国土の防衛(1950’s~1960’s) 北東アジア・西北太平洋(1970’s~1980’s) 西太平洋 ・アジア・太平洋(1990’s~2000) 全世界(2000’s~) 「時間」 – 「損害の受忍」⇒反撃 ・・・ 抑止を前提 – 「損害の受忍を認めない」 ・・・ 抑止が効かない(?) 冷戦期の日米安保関係 (静的な防衛協力) 想定された脅威(第5条事態) – 冷戦の第二戦線としてのアジア – ソ連の限定的な侵略 日米防衛協力における日本の役割 – ソ連の太平洋艦隊の太平洋進出阻止 – ソ連のレーダー・交信・信号の傍受・解析 ⇒「専守防衛」と「日米防衛協力」が合致! ソ連太平洋艦隊(ウラジオストク) 宗谷海峡ルート 津軽海峡ルート 対馬海峡ルート 三海峡防衛の概念 冷戦後の日米安保関係 I (動的な防衛協力) 想定される脅威(第6条事態・周辺事態) – 朝鮮半島有事 – 台湾海峡有事 – その他の危険・不確実性への対処 日米防衛協力における日本の役割 – 米軍の活動に対する「後方地域支援」 (補給・輸送・整備・衛生・警備・通信・その他) ⇒日本領域外の活動が焦点 朝鮮半島有事 台湾海峡有事 周辺事態と後方地域支援 国際平和業務への関与 「国際平和協力法」成立(1992年) 1.国連平和維持活動 2.人道的な国際救援活動 3.国際的な選挙監視活動 「PKO参加5原則」 1.当事者間の停戦合意 2.紛争当事者がPKO及び日本の参加に合意 3.中立的立場の遵守 4.上記条件が満たされない状況が生じた場合の撤収 5.武器の使用は、いわば自己保存のための自然的権利 というべきもの等に限定 9.11テロ以降のグローバルな関与 「対テロ特別措置法」(2001年10月) – 協力支援活動 ⇒ インド洋における給油活動 – 捜索救助活動 – 被災民救護活動 「イラク支援特別措置法」(2003年7月) – 人道復興支援活動 ⇒ サマワにおける人道支援 – 安全確保支援活動 現在の防衛関連法制 日本有事 – 「自衛隊法」 • • • • 防衛出動(第76条) 治安出動(第78、79条、81条) 警護出動(第81条の2) 海上警備行動(第82条) – 「武力攻撃事態等対処法」(2003年) 周辺事態 – 「周辺事態安全確保法」(1999年) グローバルな協力 – 「国際平和協力法」(1993年) – 「テロ対策特別措置法」(2001年) – 「イラク人道支援特別措置法」(2003年) National Level Security 日本有事 Regional Level Security 周辺事態 イラク支援特措法 テロ特別措置法 PKO協力法 Global Level Security グローバルな協力 日本の防衛関連法制と活動「空間」 「防衛計画の大綱」と三空間の概念 グローバル リージョナル バイラテラル ナショナル 国際テロリズム ゲリラ・特殊部隊 脅 威 認 識 北朝鮮 中国 島嶼部侵略 極東ロシア 弾道ミサイル攻撃 WMD・ミサイル拡散 中東から東アジア に至る地域 日米間の緊密な協力 政 策 日米防衛協力 統合運用強化 ODAの戦略的活用 国連改革 情報機能強化 ARF(信頼醸成・予防外交) 国際平和協力活動 国際平和協力法 制 度 日米防衛協力の ガイドライン 対テロ特措法 イラク支援特措法 周辺事態法 日米安保条約 自衛隊法 有事関連法制 国民保護法制