10章 後半

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Transcript 10章 後半

C.T.ホーングレンほか、渡邊俊輔監訳
『マネジメント・アカウンティング』
~ Introduction to Management Accounting
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール
第十章担当 大村 雄太
斉藤 毅
第10章 分権的組織の
マネジメントコントロール
業績測定尺度とマネジメントコントロール


今まで見てきたように、内部振替価格の設定方法によって、セグメント
の利益額は違ってくる
 つまり、内部振替価格は、利益センターの業績測定に影響を及ぼ
すのである
ここでは、業績測定尺度によってマネジャーのインセンティブがどのよ
うに影響されるのかについて、一般的な考察を加える
 インセンティブ
 組織目的を達成するような努力を引き出すために、業績に基
づいて与えられる、公式あるいは非公式に取り決められた報
酬
3
マネジメントコントロールシステム設計の基準と選択事項
(図表10-2)
Choices of Responsibility
Centers and Incentives
Motivational Criteria
Goal
Congruence
(目表一致)
Managerial
Effort
(従業員の努力)
Performance
Measures
(業績測定尺度)
Rewards
(評価)
Feedback
Feedback
4
動機付け、業績、報酬

図表10-2は、マネジメントコントロールシステムを設計する際に、トッ
プマネジメントが考慮すべき判断基準と選択事項である
 「コスト便益規準」と「目標一致」、および「努力の動機付け規準」を
適用して、トップマネジメントは、責任センター(コストセンターか利
益センターか)、業績測定尺度、報酬体系を設定する
 業績測定尺度の設定
 報酬体系の設定
5
業績測定尺度の設定

業績測定尺度の設定する際には無数の選択肢がある
 標準は達成困難な水準に設定すべきか、達成容易な方がよいか
 事業部の業績は貢献利益(←管理可能か否か)で測定すべきか、
営業利益で測定すべきか
 財務的業績測定尺度と非財務的業績測定尺度の両方を使うべき
か
6
報酬体系の設定(1)

報酬に関する研究によると
 「マネジャーは、業績が測定される領域、業績が報酬に影響する
ような領域に努力を集中させる」
 業績尺度が客観的であるほど、マネジャーはより多くの努力をす
る
 会計的業績尺度
 個人が自分の行動と報酬との間に関係がないと考えてしまえば、
報酬を増やすために業績を向上させようとは思わなくなるであろう
7
報酬体系の設定(2)


報酬体系の設定は、マネジメントコントロールシステム設計問題の一
部分で、主としてトップマネジメントの担当分野である
 報酬には金銭的なものと、金銭に関係ないものとがある
 金銭的なものの例
 昇給、ボーナスなど
 金銭に関係ないものの例
 昇進、賞賛、自己満足、豪華なオフィス、個室など
トップマネジメントは会計担当者以外の様々な情報源からアドバイスを
うけることもある
8
報酬と業績


報酬と業績は結びつけるのが望ましく、報酬はマネジャーの業績に基
づいて支払われるべきである
 しかし、実際にはマネジャーの業績を直接に測定できないことも多
く、報酬は責任センターの財務的業績に基づいて支払われるのが
普通である
マネジャーの業績と責任センターの業績とが関連しているのは当然で
あるが、責任センターの業績には、マネジャーがコントロールできない
要因も影響している
 責任センターの業績に影響する管理不能な要因が多ければ多い
ほど、マネジャーの業績を測定するのは難しくなる
9
例示

1997年に利益が劇的に向上した、Airborne Expressの地域流通セン
ターついて考えてみる
 以下に挙げる利益向上に貢献した要因のうち、地域担当者にとっ
て管理可能であるのはどの要因だろうか?
 ライバル企業の長期のストライキによる利用していた顧客のく
がAirborneに乗り換え
 新たなコスト管理システムの導入による荷物取り扱いコストの
大幅削減
 Airborneが操業する他地域に比べて著しく高い人口増加率
 Airborneが操業する他地域に比べて燃料費がさほど増加しな
かった
 Airborneが操業する他地域に比べて従業員離職率が低く、従
業員の職務満足度が高い→同僚やマネジャーとの関係が良
好なため
10
例示(つづき)

地域担当者の業績は、この地域の利益をAirborneが創業している全
地域の平均利益と比較して測定するべきだろうか
 しかしこの地域のセンターの利益増加の主要な原因は、マネ
ジャーがコントロールできる範囲外の要因であったようである
 ライバル企業のストライキ
 地域人口増加
 燃料費

だが、このマネジャーは優れた仕事をしているとも言えそうである
 コスト管理システムの整備
 従業員にとって良好な職場環境
11
エージェンシー理論


公式的な業績測定尺度と報酬の選択問題は、経済学ではエージェン
シー理論と呼ばれている
 トップマネジメントがマネジャーを雇用する時には、両者は業績測
定尺度と報酬関係に関して合意に達していなければならない
 例えば、マネージャーは自分の責任センターが予算を達成し
たら給料の15%のボーナスを受け取るなどである
エージェンシー理論によれば、雇用規約は三要因のトレードオフに
よって決まってくる
 インセンティブ
 リスク
 業績測定コスト
12
インセンティブ

インセンティブの効果
 マネジャーの報酬のうち、業績測定尺度に連動している部分が多
いほど、マネージャーにとって業績測定尺度を向上させようとする
行動をとるインセンティブも大きくなる

トップマネジメントは、目標一致性を促進するような業績測定尺度
を定義し、マネジャーの努力を引き出すために、相当額の報酬を
その尺度に連動させる必要がある
13
リスク


リスクの考慮
 マネジャーの報酬に管理不能な要因が及ぼす影響が大きいほど
マネジャーが抱えるリスクは大きい
 人間は一般的にリスクを回避したがる傾向があるため、マネ
ジャーにより多くのリスクを取らせたいと考えるならば、それに見
合うだけの報酬を払わなければならない
報酬を責任センターの業績に連動させることによってインセンティブを
与えるやり方は、通常はうまくいくが、時には、マネジャーに必要以上
のリスクを抱えさせるという意図しない効果をもつことを忘れてはいけ
ない
14
業績測定コスト


マネジャーの業績が完全に測定できれば、インセンティブとリスクとの
トレードオフの問題は必ずしも起こらない
 なぜなら業績の測定が完全に可能な状況であれば、マネージャー
が期待通りに働くかどうかというのは、全く、マネージャーのコント
ロールできる範囲内の問題である
しかし、マネージャーの働き方を直接に観察するには、通常、かなり多
くの費用がかかり、実際には不可能なことも多い
 責任センターの業績はより容易に測定できる
 しかし、マネージャーの業績を完全に測定しようとすることは、通
常コスト便益規準から、そのコストに見合わない
15
収益性の尺度


トップマネジメントが好んで採用する目的の一つに収益性の最大化が
ある
 分権的組織のセグメントマネジャーは、担当するセグメントの収益
性によって評価されることが多い
だが収益性には様々な意味があり、ここでは、一般に用いられている
収益性測定尺度の長所と短所について考察する



投下資本利益率(ROI)
残余利益(RI)
経済的利益(EVA)
16
投下資本利益率(ROI)

投下資本利益率(Return on Investment:ROI)
 利益を、その利益の獲得のために投下した資本の金額で割って、
算出される業績測定尺度


例えば‥
 プロジェクトA
 営業利益は200,000㌦、投下資本額500,000㌦
→ROI=40%
 プロジェクトB
 営業利益は150,000㌦、投下資本額250,000㌦
→ROI=60%
ROIは、収益性を測定する尺度としては、比較的優れた尺度である
17
ROIは便利な共通尺度

ROI(=利益÷投下資本)の長所
 利益を獲得するために投下した資本額と関連付けられている
 組織の内部とも外部とも比較可能
 他のプロジェクトや他の産業での投資機会とも比較可能
18
ROIを決定する2つの要因

ROI=売上高利益率×資本回転率
 売上高利益率
 利益を収益で割ったもの
 資本回転率
 収益を投下資本で割ったもの
利益
ROI
=
投下資本
利益
=
売上高
×
売上高
= 売上高利益率
投下資本
×
資本回転率
19
従ってROI改善策は2つ


売上高利益率の改善
 売上高を減らさずに費用を削減
 費用を増やさずに売上高を伸ばす
資本回転率の改善
 現金、売掛金、棚卸資産、設備などの様々な資産に投下された金
額から、より多くの収益を上げる
 これらの資産に投下される資本の金額には最適水準が存在
 投下資本が過剰
 無駄が生じる
 投下資本が過少
 信用状態の悪化、売上高獲得能力の維持困難
 JIT購買システムやJIT生産システム(第4章参照)を導入した
企業のうち、多くはROI尺度が劇的に改善
20
例示~ROIを20%から25%へ

現状
16
ROI 20%
=
100
×
100

80
選択肢1
 コストを削減し、売上高利益率を改善する案
20
ROI 25%
=
100
×
100

80
選択肢2
 棚卸資産への投資を削減し、資本回転率を改善する案
16
ROI 25%
=
100
×
100
64
21
利益「率」と利益「額」


ほとんどのマネージャーは、収益性は、利益額と投下資本とを関連付
けた尺度によって測定すべきであると考えている
 ROIはそのような業績評価尺度の1つ
しかし、利益率よりも利益額を好むマネージャーもいる
 そのようなマネージャーは、収益性の尺度として、残余利益(RI)を
用いている
22
残余利益(RI)と資本コスト概念



残余利益(residual income:RI)
 純利益(営業利益)から「計算上の」支払利息を控除して算出した
業績測定尺度
 「計算上の」支払利息‥資本コスト
資本コスト
 企業が追加的に資本を調達する時に、支払わなければならない
金額のこと
 実際の支払われたかどうかとは無関係に測定
 プロジェクトの実行時に、実際に資金調達をしたかどうかは、
問題にされない
RIは、営業利益が資本コストをどれだけ上回っているのかを示す尺度
23
例示

ある事業部
 営業利益:900,000㌦
 各年度の投下資本:10,000,000㌦
 本社が課した資本コスト:8%
事業部営業利益(
税引後)
900,000㌦
-)平均投下資本の支払利息(
0.08×10,000,000㌦) 800,000㌦
RI
(
残余利益)
100,000㌦
24
経済的付加価値(EVA)

経済的付加価値(economic value added:EVA)
 営業利益から「税引後加重平均資本コスト×(長期借入金+株主
資本)」を控除して算出される
 「平均投下資本」を株主・債権者から調達した長期資金と定義
 RIのバリエーションの1つ(Stern Stewart & Co. により考案)
EVA=営業利益-[加重平均資本コスト×(長期借入金+株主資本)]

加重平均資本コスト
 長期借入金や株主資本の調達コストに、企業や事業部の投下
資本に占める相対的な割合を掛けて計算
25
ROIとRIの比較



ROIよりもRIを好んで採用する企業がある
 RIの一種であるEVAを採用することで、マネージャーに株主価値
を高めるような意思決定を行なわせることが出来るという
 なぜか?
収益測定尺度として「ROI」を採用した場合
 マネージャーへのメッセージ‥「ROIを最大化せよ」
 従って、現在20%のROIを上げているマネージャーは、ROIが
15%のプロジェクトには投資しないであろう
 平均ROIが低下するから
しかし、本当にこれで良いのだろうか?
26
ROIとRIの比較(つづき)



企業全体の立場からすれば、事業部長にこの15%のプロジェクトに投
資して欲しい場合がある
 どんな場合に?
 企業の平均資本コストが8%であるとしよう
 すると、ROIが15%のプロジェクトに投資をすれば、企業
の収益性は向上するのである
マネージャーの業績がRIによって測定される場合
 マネージャーは計算上の支払利息を上回るROIをあげるあらゆる
プロジェクトに投資をしようとする(→企業全体に利益をもたらす)
 RIを採用すれば、目標一致とマネージャーの努力が促進
マネージャーへのメッセージ‥「RIの絶対額を最大化せよ」
27
例示

GEの事業部~GEはいち早くRIを採用した企業
 A事業部
 営業利益:200,000㌦、平均投下資本:1,000,000㌦
 B事業部
 営業利益: 50,000㌦、平均投下資本:1,000,000㌦


A・Bいずれかの事業部によって実施されるプロジェクトが提案
 このプロジェクトの概要
 必要投下資本:500,000㌦
 年間営業利益(予想):75,000㌦(→ROI:15%)
 プロジェクトの資本コスト:8%
このプロジェクトを採用した場合、しなかった場合のROI、RIは次頁
28
プロジェクトの採用・不採用とROI、RI
プロジェクトを採用した場合
A事業部
B事業部
プロジェクトを採用しなかった場合
A事業部
B事業部
営業利益
200,000㌦ 50,000㌦
275,000㌦ 125,000㌦
投下資本
1,000,000㌦ 1,000,000㌦
1,500,000㌦ 1,500,000㌦
ROI
20%
5%
18.3%
8.3%
資本コスト
80,000㌦ 80,000㌦
120,000㌦ 120,000㌦
RI
120,000㌦
155,000㌦ 5,000㌦
-30,000㌦
29
プロジェクトの採用・不採用とROI、RI(再)
プロジェクトを採用した場合
A事業部
B事業部
プロジェクトを採用しなかった場合
A事業部
B事業部
営業利益
200,000㌦ 50,000㌦
275,000㌦ 125,000㌦
投下資本
1,000,000㌦ 1,000,000㌦
1,500,000㌦ 1,500,000㌦
ROI
20%
5%
18.3%
8.3%
資本コスト
80,000㌦ 80,000㌦
120,000㌦ 120,000㌦
RI
120,000㌦
155,000㌦ 5,000㌦
-30,000㌦
30
ROIで業績評価



A事業部長になったつもりで考える
 業績がROIで評価されるなら、このプロジェクトには投資しない
 ROIが20%から18.3%まで低下するから
B事業部長になったつもりで考える
 業績がROIで評価されるなら、このプロジェクトに投資する
 ROIが5%から8.3%まで増加するから
一般的に、業績測定尺度としてROIを採用している企業では、儲かっ
ていない事業部のマネージャーは、多くの利益をあげているマネー
ジャーに比べて、新規投資案を積極的に採用するインセンティブを
持っている
31
RIで業績評価




A事業部長になったつもりで考える
 業績がRIで評価されるなら、このプロジェクトには投資する
 RIが120,000㌦から155,000㌦まで低下するから
B事業部長になったつもりで考える
 業績がRIで評価されるなら、このプロジェクトに投資する
 ROIが-30,000㌦から5,000㌦まで増加するから
以上のように、業績測定尺度としてRIを採用している場合、このプロ
ジェクトはどちらの事業部にとっても魅力的な投資案となる
投資案を採用したがるかどうかは、プロジェクトの実施に必要な投下
資本の調達コストと、プロジェクトの収益性とのバランスで決まる
32
留意事項

一般に、ROIを用いるよりもRIを採用した方が、目標一致を促進し、よ
り適切な意思決定を導く
 しかし、ほとんどの企業ではROIが使われている
 なぜか?
 ROIの方がマネージャーにとって理解しやすい
 事業部間での比較が容易
 さらに‥
 ROIと、適切な成長性や利益額の目標値とを組み合わせ
れば、逆機能的な動機づけを防止できるから
33
問題

ある事業部
 資産:200,000㌦、流動負債:20,000㌦、営業利益:60,000㌦
1.この事業部のROIを計算しなさい
2.加重平均コストを14%とすると、EVAはどれだけになるか
3.業績測定にROIを用いると、マネージャーの行動にどのような影響
を及ぼすと予想されるか
4.業績測定にEVAを用いると、マネージャーの行動にどのような影
響を及ぼすと予想されるか
34
解答1・2
1.ROI=60,000㌦÷200,000㌦
=30%
2.EVA=60,000㌦-0.14×(200,000㌦-20,000㌦)
=60,000㌦-25,200㌦
=34,800㌦
35
解答3~業績評価にROI

業績測定にROIが用いられている場合、事業部長は30%以下のROI
しかもたらさないプロジェクトを採用しなくなる
 これは、この事業部に非常に有利な投資案件(例えばROIが
22%)がある場合、企業全体の立場からは望ましいことではない
 EVAではなく、ROIによって業績が評価されると、ROIが高い事業
部の事業部長は、事業の拡張に二の足を踏むことが多くなる
36
解答4~業績評価にEVA

EVAが業績測定に用いられる場合、事業部長は最低限必要な投下
資本利益率を上回る収益性を示すプロジェクトならば、全てのプロジェ
クトを採用しようとする
 業績評価が比率ではなく絶対額によって行なわれている場合、事
業部長は、事業の拡張に積極的になる
37
投下資本額の算定


そもそも、ROIやRIが実際に何を意味しているのかを理解するために
は、まず、利益と投下資本がどう定義され、どのように測定されている
かを明らかにしなければならない
 様々な利益尺度については、第9章で取り上げた
そこで本節では、様々な投下資本の定義と算定方法について述べる
ことにする
38
投下資本の定義

投下資本の定義および貸借対象表上での評価金額として選択しうる
方法としては、以下の4つを挙げることが出来る
 総資産
 使用資産
 使用資産-流動負債
 株主資本
39
総資産
(単位:㌦)
資産
流動資産
土地、工場・設備
建設仮勘定
資産合計

負債・資本
400,000
800,000
100,000
1,300,000
流動負債
長期借入金
株主資本
負債・資本合計
200,000
400,000
700,000
1,300,000
総資産
 投下資本に資産の全てを含める
 評価金額は、1,300,000㌦
40
使用総資産
(単位:㌦)
資産
流動資産
土地、工場・設備
建設仮勘定
資産合計

負債・資本
400,000
800,000
100,000
1,300,000
流動負債
長期借入金
株主資本
負債・資本合計
200,000
400,000
700,000
1,300,000
使用総資産
 遊休地、建設仮勘定などの合意された例外を除く、全資産を投下
資本に含める
 評価金額は、1,200,000㌦(=1,300,000㌦-100,000㌦)
41
総資産-流動負債
(単位:㌦)
資産
流動資産
土地、工場・設備
建設仮勘定
資産合計

負債・資本
400,000
800,000
100,000
1,300,000
流動負債
長期借入金
株主資本
負債・資本合計
200,000
400,000
700,000
1,300,000
総資産-流動負債
 流動負債によって調達された部分を総資産から控除した金額を、
投下資本とする
 評価金額は、1,100,000㌦(=1,300,000㌦-200,000㌦)
 このように定義された投下資本の概念を「長期投下資本」と呼ぶ
 長期投下資本=長期借入金+株主資本
 EVAで採用されている投下資本の定義
42
株主資本
(単位:㌦)
資産
流動資産
土地、工場・設備
建設仮勘定
資産合計


負債・資本
400,000
800,000
100,000
1,300,000
流動負債
長期借入金
株主資本
負債・資本合計
200,000
400,000
700,000
1,300,000
株主資本
 企業の所有者からの投資額に注目した方法
 評価額は、700,000㌦
なお、1~4に示した方法では何れも、測定対象期間の平均値で計算
 期首残高と期末残高の単純平均
 期中の投下資本増減額を加重平均
43
望ましい基準の例

事業部長の業績を測定するには、株主資本以外の3つの方法のいず
れかが良い
 事業部長の役割が、調達源泉を問題にせず、全ての資産を有効
活用することであれば、「総資産基準」が優れている
 事業部長が、トップマネジメントからの指示によって、遊休資産を
保有し続けなければならないような状況では、「使用総資産基準」
によるのが良い
 事業部長に、短期の資金調達に関する権限がある(ない?)場合
には、「総資産-流動負債基準」によるのがよい
44
留意事項


投下資本の算定基準を選択する際に考慮しなければならないのは、
事業部長への動機付けである
 事業部長は、投下資本の定義に含まれる資産を削減し、負債を増
加させるような行動をとる(?)
実務では、ROIやRIを採用する企業のほとんどが、投下資本に全て
の資産を含めている
 そのうちの約半数の企業では、流動負債の一部を投下資本から
控除している
45
事業部への資産配分


原価配分の方法が利益に影響するのと同様に、資産配分の方法に
よって、事業部投下資本の金額は変わってくる
 資産配分を行なう場合には、目標一致とマネージャーの努力を促
し、セグメントマネージャーの自由裁量権を出来るだけ尊重するよ
うな方法が望ましい
 マネージャーは公平に扱われていると感じている限り、不完全
な配分方法に対しても、寛容でいられる
では、資産配分基準としてはどのようなものがあるのだろうか?
46
回避可能性基準

よく用いられる資産配布基準は回避可能性である
 回避可能性基準によれば、事業部長の業績評価のために各セグ
メントに配分される資産評価額は、そのセグメントがないと仮定し
た場合に、企業が節約できる金額である
47
その他の基準

また、資産が各事業部に直接跡付けられない時に使われる配布基準
としては、以下のようなものがある
資産の種類
候補となる配分基準
現金
売掛金
棚卸資産
工場・設備
予算現金必要量
支払期間で重みづけされた売上高
売上高予算、予算消費量
長期需要予測に基づくサービス予定消費量、占有面積
48
留意事項

資産配分基準としては、その資産の必要性を生じさせた活動を採用
するべきである
 多くのマネージャーは、資産配分がいい加減であるならば(例えば
原因となる活動がはっきりしないならば)、資産配分をしないほう
がよいと考えている
49
特に現金の配分について

現金残高が本社の管理下にある場合、現金を事業部投下資本に含
めてよいのだろうか
 この点については、賛否両論がある
 しかし、事業部長は事業部の活動に対して責任を負っていると考
えるのが普通である
 事業部の活動量は、全社的な資金需要に直接関係する
50
売上高基準で配分

その現金の配分基準としては、売上高基準が一般的である
 しかし、売上高を基準に現金を配分する方法は、事業部の現金保
有量を合理的に反映しているとは言い難い
 第7章で述べたように、現金必要量は、顧客や債権者の支払
期間などの様々な要因に影響される

では、どうすればよいのだろうか?
51
本社で一括管理すべき

現金を本社で一括管理することの便益
 本社で現金を一括管理すれば、各事業部で独自に現金を管理す
るよりも現金必要量が少なくて済むことが多いからである
 なぜなら、各事業部における現金必要量の変化を、お互いに
相殺し合うから
52
例示


例えば、A事業部で2月に100万㌦の現金が不足していても、B事業部
では100万㌦の現金が余っているかもしれない
 1年間を通じて、A、B、C、D、Eの5事業部がそれぞれ独立した別
会社であったとしたら、合計で1600万㌦の現金が必要だとしよう
 しかしこの場合にも、本社で一括して現金を管理すれば、必要
な現金は800万㌦で足りるかもしれない
また、例えばC事業部は、独立した企業であったならば(余裕のため)
400万㌦の現金を必要とするが、本社で一括して現金を管理している
企業のセグメントとしてならば、200万㌦分だけ現金が配分されるだけ
でよい
53
資産の評価額


どのような資産を事業部投下資本に含めるにせよ、何らかの方法で
金額を測定しなければならない
 投下資本に算入される資産は、取得原価総額で評価するべきか、
正味簿価によるべきであろうか
 取得原価総額
 減価償却累計額を控除する前の資産の取得額
 正味簿価
 資産の取得原価から減価償却累計額を控除した金額
(さらに)資産評価は、歴史的原価によって行なうべきだろうか、それと
も何らかの時価評価を用いるべきであろうか
 実務で圧倒的多数の企業が採用しているのは、歴史的原価に基
づく正味簿価
 取替原価などの時価で評価している企業はほとんどない
54
歴史的原価が広く採用されている訳



これほど広く歴史的原価が採用されているのはなぜだろうか?
 実務家の勉強不足
‥(?)
 コストと便益のバランス ‥(○)
歴史的原価情報は、様々な法的必要性のために記録されている
 すなわち、すでにある情報であり、改めて準備をする必要はない
 歴史的原価に基づく業績評価を行なうための追加的な費用はなし
さらに、トップマネジメントの多くは、歴史的原価に基づくシステムに
よっても、目標一致とマネージャーの努力を促すことは十分に可能で
あり、より高度な会計システムを導入したとしても、業務的意思決定は
それほど劇的によくならないであろうと考えている
 実際、相当額の教育訓練費をかけずに時価評価に基づく情報を
導入すると、混乱が起きるのではないかと感じているトップもいる
55
歴史的原価の利点

歴史的原価は、客観性という点で時価よりも優れている
 従って、歴史的原価を用いた方がよい意思決定を導くこともある
 更に、マネージャーにとっては、自分達の意思決定によって、歴史
的原価がどう変化するかを予測する方が、時価に及ぼす影響を予
測するよりも用意である
 従って、歴史的原価に基づくコントロールシステムを採用した方が、
マネージャーの意思決定に対して、より大きな影響を与えられる
 また、時価に基づく不確実な業績測定尺度を採用すると、マネー
ジャーに不必要なリスクを抱えさせることになる
 要するに、経常的な業績評価のためには、歴史的原価のほうが優
れているのである
 しかしながら、設備の更新、生産ラインの廃止などの臨時的ないし
決定問題のためには、マネージャーは特別調査を実施し、関連が
あると思われる時価情報を収集しなければならない
56
これまでの議論の要約

「歴史的原価がよいか、時価がよいか」、「ROIとRIのどちらを採用す
べきか」といった論争に対して、コスト便益アプローチでは、絶対的な
解答は出てこない
 コスト便益アプローチによれば、どのようなコントロールシステムや
会計手法を導入すれば、集団の意思決定が改善されるかを、各
組織で独自に判断しなければならない
 これが最も重要な選択基準
57
これまでの議論の要約(つづき)

どの選択肢が他よりも完全に近いとか、より真実を反映しているとか
いった議論を筋道立てて行なっている文献が余りにも多い
 コスト便益の考え方では、「真実」とか「完全」といった概念それ自
体が重要なのではない
 そこで問われているのは、より真実を反映し、より合理的だと感じ
られるシステムは、追加的なコストに見合うだけの価値があるかど
うかということである
 あるいは、上手に使えば、今ある不完全なシステムでも、同じよう
な意思決定が出来るのではないか、ということである
58
機械設備の資産評価


資産を評価する際には、取得原価総額による評価と、正味簿価による
評価とを区別しなければならない
 投下資本を算定するのに、大半の企業では正味簿価を採用して
いる
 しかし、最近の調査によれば、依然として少数ではあるが、無視で
きない数の企業で取得原価総額が採用されている
取得原価総額を支持する論者は、取得原価総額によれば、年度間の
比較や、工場・事業部間での比較が容易になると主張している
59
例示

ある設備
 耐用年数:3年、残存価額:0㌦、取得原価総額:600,000㌦
年数 減価償却費
減価償却費
控除前営業利益
1
2
3
260,000
260,000
260,000
200,000
200,000
200,000
営業利益
60,000
60,000
60,000
(単位:㌦)
平均投下資本
正味簿価 ROI 取得原価総額 ROI
500,000
300,000
100,000
12%
20%
60%
600,000
600,000
600,000
10%
10%
10%
※正味簿価の計算について
1年目‥500,000㌦=(600,000㌦+400,000㌦)÷2
2年目‥300,000㌦=(400,000㌦+200,000㌦)÷2
3年目‥100,000㌦=(200,000㌦+0㌦)÷2
60
分析


正味簿価による業績測定
 設備が古くなるにつれて、ROIは次第に高くなる
 正味簿価によれば、営業利益が年々減少している状況であっ
ても、ROIは向上することもありうる
取得原価総額による業績測定
 営業利益が同じなら、ROIも不変
 取得原価総額によれば、営業利益が年々減少している状況で
は、ROIも徐々に低下する
61
正味簿価を支持する論者の主張

しかし、正味簿価を支持する論者は以下のように主張
 通常の貸借対照表や損益計算では、正味簿下が用いられるので、
正味簿価によった方が混乱しなくて済む
 正味簿価に対する批判の大部分は、ROIの算定に特有のもので
はない
 実際には、評価基準として、歴史的原価を用いることを批判
62
正味簿価と取得原価総額の選択

しかしながら正味簿価と取得原価総額の選択においては、動機付け
に与える影響を考慮しなければならない
 取得原価総額によって業績測定されるマネージャー
 正味簿価によって業績評価されるマネージャーに比べ、比較
的、早く資産を更新したがる傾向がある
63
例示


ある設備
 取得原価:1,000㌦
 現在の正味簿価:200㌦
 使用開始から4年経過
 この設備は、取得原価1,000㌦の新設備と取り替えることができる
正味簿価を業績評価尺度に採用
 設備を取り替えると、投下資本が200㌦から1,000㌦に増加
 ROIやRIを最大化するためには、マネージャーにとしては投下
資本の金額は小さい方が望ましい
 従って、正味簿価を採用している企業では、帳簿価額の低い旧設
備をずっと使いたがる傾向がある
64
例示(つづき)


取得原価総額を業績評価尺度に採用
 マネージャーに旧設備を維持するインセンティブはない
 従って、マネージャーに最新の生産技術を採用するように動機付
けたいのであれば、取得原価総額を採用するべきである
 正味簿価を採用すると、マネージャーが設備の取り替えに対して、
保守的な態度を取るようになる
なお、この例示において、正味簿価か取得原価総額かの選択は、営
業利益には影響しないとする
65
マネジメントコントロールシステム成功の秘訣


収益性の尺度を適切に設定することの他にも、マネジメントコントロー
ルシステムを有効に機能させるためには、いくつかの要因がある
この章の最後に、マネジメントコントロールシステム成功の秘訣につい
て見ていくことにする
 管理可能性の強調
 目標管理
 予算目標額の利用
66
管理可能性の強調

管理可能性の強調
 第9章で述べたように、事業部長の業績と、企業の投資案件として
の事業部の業績とは、明確に区別しなければならない
 マネージャーは管理可能な業績によって評価されなければな
らない
 管理可能投下資本に関連付けられた管理可能貢献利益
である場合が多い
 しかし、事業部への投資額の増減といった種類の意思決定は、
事業部長の業績ではなく、事業部の経済的価値に基づいて行
なわれなければならない

この区別を明確にすることによって、煩わしい問題を回避すること
が出来る
67
管理可能性の強調(つづき)



例えば、トップマネジメントは、小売店の経済的業績を測定するために、
投下資本の配分計算の方法を知りたがっているかもしれない
しかし、マネージャーの業績を判断する上では、営業利益に注目し、
投下資本の配分を行なわない方がうまくいくかもしれない
 マネージャーに投下資本を割り当てるのであれば、マネージャー
にとって管理可能な投下資本だけに限定しなければならない
 管理可能かどうかは、投下資本の規模を増減する権限がマ
ネージャーに与えられているかどうかによる
分権化の進んだ組織では、マネージャーは資産の規模に影響を与え
ることが出来るし、相当部分の短期資金調達知と一部の長期資金調
達に関する判断を行なうことが出来る
68
目標管理

目標管理(management by objectives:MBO)
 マネージャーとその上司とが話し合い、共同で次期の目的を設定
し、その目的を達成するための計画を作成するプロセスをいう
 ここでは、目的と目標という語は、全く同じ意味である


計画は、責任会計予算(また、予算に含まれていない教育訓練や
安全性などの目的について補足されている場合もある)として作成
されることが多い
 マネージャーの業績は、このように合意された予算目標に基
づいて評価される
ところで目標管理アプローチの利点とは一体何であろうか?
69
目標管理アプローチの利点


マネージャーの不満を和らげる
 目標管理アプローチを採用すれば、予算実績を強調するために生
じる管理可能性に対する不満を和らげることが出来る
目標管理アプローチでは、特定の期間や外部・内部の状況を前提とし
て、上司と部下の交渉によって予算が作成されるのである
 このように予算が作成されれば、マネージャーは業績のあまり良く
ないセグメントを担当することもそれほど嫌がらないであろう
70
留意事項


目標管理アプローチは、収益性自体を過度に強調するシステムよりも、
優れた方法である
 現実的に達成可能な実績に注目されていないと、マネージャーは
業績の良くないセグメントを担当したがらなくなるであろう
予算システムをたくみに運営したり、洗練された業績評価を実施する
ためには、「私は、自分がコントロールできる以上の責任をとらされて
いる」というマネージャーのよくある嘆きを封じなければならない
71
予算目標額の利用

業績評価システムがマネージャーに不適切な動機づけを与えてしまう
問題の大半は、予算目標額をうまく利用することによって、回避するこ
とが出来る
72
マネージャーごとに予算目標額を設定する


マネージャーごとに予算目標額を設定することの重要性は、どんなに
強調しても足りない
 例えば、トップマネジメントは、マネージャーの注意を、次期に達成
可能な目標に集中させることが出来たなら、ROIとRIのいずれに
よっても、目標一致とマネージャーの努力を促進させることが可能
になる
事業部長は通常、上位のマネージャーの承認なしに、巨額の投資を
行なえるような自由裁量権は持っていないのが普通である
73
Review




「分権化」についての概観
内部振替価格の問題
 組織内のあるセグメントから別のセグメントへ、部品や製品・サー
ビスを提供する際の問題点の整理
業績測定尺度の検討
 分権化されたセグメントマネージャーを動機付けるための業績測
定尺度の検討
 分権化された組織単位の収益性を測定するための業績測定尺度
の検討
マネジメントコントロールシステム成功の秘訣
74
参考・引用文献

Horngren,C.T., G.L.Sundem, and W.O.Stratton, Introduction To
Management Accounting, Eleven Edition, Prentice Hall, 1999(渡
邊俊輔監訳『マネジメント・アカウンティング』TAC出版、2000年)
75