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第14回
不確実性の取り扱い
1
古典論理の性質



分離性:
一旦真と認められれば,理由にとらわれず推論
継続が可能 ← 信念管理
局所性:
A→Bは,「Aが成立すれば他は無視してBを結論
できる」を意味する
合成性:
複雑命題はその構成要素の真理表から真偽判
定ができる
2
不確実な事実・知識による推論


例外(非単調性)に起因する不確実性:
- サーカムスクリプション
- デフォルト推論
曖昧さに起因する不確実性:
- ベイジアンネットワーク
- 信頼性係数(CF:Certainty Factor)
- ファジィ理論
- Dempster-Shafer(DS)理論
3
非単調論理
論理体系の単調性:
A⊂B ならば Th(A) ⊂Th(B)
X: 矛盾の無い命題(公理)の集合
Th(X): Xから証明される定理の集合
非単調論理(non-monotonic logic):
単調性が成立しない論理体系
~例外を含む知識(常識・・)が存在、
信念の撤回が可能,・・
4
例外への対処


知識の適用対象を限定することによる
古典(述語)論理への帰着:
- サーカムスクリプション
様相記号の導入による古典論理の拡張:
- デフォルト推論,様相非単調論理
5
閉世界仮説(closed world assumption)
P(x)が証明できなければ~P(x)は真とする
: 与えられた情報が世界の全てで,それ以上の
情報が後から新たに得られることはない
(真であることは全て言及されている)
●実世界では不成立、人間の通常の推論過程
知識ベースに含まれていないことは偽
(書かれていない知識は否定される)
6
様相非単調論理
命題p,様相オペレータMから
信念Mpを生成:
「pであると信じることは,自分が持っている
他の信念と矛盾しない」
例)
(∀x)[鳥(x) ∧M飛ぶ(x) → 飛ぶ(x)]
: 任意の鳥xについて,xが飛ぶと仮定して
矛盾が生じない限り,xは飛ぶ
7
サーカムスクリプション(極小限定)
述語P(x)に関する命題A(P)が成立している場合,
Pを全て任意の述語φで置き換えた論理式を
A(φ)とすると,Pのサーカムスクリプション:
A(φ)∧(∀x)[φ(x) → P(x)] →
(∀x) [P(x) →φ(x)]
: 命題Aを満足するものは述語Pのみ(制限)
考慮する対象はそこに述べられているものだけに言及す
る(推論規則)
8
閉世界仮説とサーカムスクリプションの例
P≡BLOCK:
(∀x)[BLOCK(x)→(x=a∨x=b∨x=c)]:閉世界仮説
A(φ)∧(∀x)[φ(x) → BLOCK(x)] →
(∀x) [BLOCK(x) →φ(x)]
ここでφ(x) ≡ (x=a ∨x=b ∨ x=c)とすれば、
(∀x)[(x=a ∨x=b ∨ x=c) → BLOCK(x)] →
(∀x) [BLOCK(x) →(x=a ∨x=b ∨ x=c)]
φ(x)≡RED (x)とすれば、
[RED(a)∧RED(b)∧RED(c)] ∧(∀x)[RED(x) → BLOCK(x)]
→(∀x) [BLOCK(x) →RED(x)]
9
デフォルト推論
Pが成立ち、~Qが証明されていなければ、
Rが成立つ; P:MQ
R
P:前提 Q:仮定 R:帰結 M:様相記号
正規デフォルト規則(Q=R): P:MQ
Q
拡張: 公理系に推論規則を適用することにより
論理式の集合(定理群)を得ること
- 多重拡張: 拡張結果が複数通り出現
- 演繹結果が規則の適用順序に依存
10
デフォルト推論の例(1)
閉世界仮説:
:M~P
~P
~(~P)=P
11
デフォルト推論の例(2)
鯨(x) → 脊椎動物(x)
鯨(x) → ~翼がある(x)
哺乳類(x) → ゆったり(x)
鯨(x) → 水棲(x)
鯨(x) → 恒温動物(x)
~翼がある(x) → ~飛ぶ(x)
哺乳類(x) → ~魚類(x)
鯨(x) → ゆったり(x)
恒温動物(x) ∧~飛ぶ(x):M哺乳類(x)
哺乳類(x)
12
不確実な事実・知識による推論


例外(非単調性)に起因する不確実性:
- サーカムスクリプション
- デフォルト推論
曖昧さに起因する不確実性:
- ベイジアンネットワーク
- 信頼性係数(CF:Certainty Factor)
- ファジィ理論
- Dempster-Shafer(DS)理論
13
確率推論とベイズネットワーク
ベイズの定理に基づく不確実な情報の表現
と確率推論の枠組み
(信念ネットワークと同義):
確率変数間の依存関係に関する知識を
グラフとして保持・更新
・ノード: 確率変数
・アーク: ノード間の因果関係の存在
14
確率集合関数
コルモゴロフの公理系
 P(E)≧0
 P(Ω) =1
Ω:基礎空間(事象の全体集合)
 Fi が互いに独立(素)の時
P(F1∪F2 ∪・・ ∪Fk) = P(F1) + P(F2 ) +・・ +P(Fk)
15
基本的な性質
1.
2.
3.
4.
P(φ)= 0
φ:空集合
E⊇Fの時 P(E)≧P(F)
P(Ec)=1 - P(E)
Ec :Eの補集合≡Ω- E
P(E∪F)=P(E)+P(F)- P(E∩F):
確率の加法公式
16
条件付確率と乗法定理
事象E,Fに関して,
条件付確率:
P(E/F) = P(E∩F)/P(F)
確率の乗法公式:
P(E∩F)= P(F) P(E/F) = P(E) P(F/E)
●E,Fが独立の時,
P(E∩F)= P(E) P(F)
17
ベイズの定理
Fi が互いに独立(素),かつ
F1∪F2 ∪・・ ∪Fk= Ω
P(E) = P(E/F1)P(F1)+ P(E/F2)P(F2) +・・・
+ P(E/Fk)P(Fk)
ベイズの定理:
P(Fi/E) = P(E/Fi)・P(Fi) / P(E)
= P(E/Fi)・P(Fi) / {P(E/F1)P(F1)+
P(E/F2)P(F2) +・・・+ P(E/Fk)P(Fk) }
18
ベイジアンネットの性質



ネットワークにおける全ての変数に対し,その親
に条件付けされた各ノードの結合確率を規定す
るだけでOK
以上で規定された条件付き確率は大域的に無
矛盾であることが保証
各ノードにおける条件付き確率の集合は
ネットワークにおける全てのノードの唯一の結合
確率分布を規定
確率変数:{真,偽}
19
ベイズネットワークの例
「ボーナス」-「収入」:
ボーナスが真のとき,
収入が真の確率0.8
偽の確率0.2
ボーナスが偽のとき,
収入が真の確率0.3
偽の確率0.7
20
ベイズネットワークのアルゴリズム
1.
2.
3.
観測された変数の値をノードにセット
親ノードも観測値も持たないノードには
事前確率分布を付与
確率を伝播し,知りたい対象の変数Xの
事後確率を計算
21
ベイズネットワークの例:確率計算
P(収入)=P(収入/ボーナス)・P(ボーナス)+ P(収入/¬ボーナス)・P(¬ボーナス)
=0.8・0.6 + 0.3・(1.0-0.6) = 0.6
P(旅行)=P(旅行/収入)・P(収入)+ P(旅行/¬収入)・P(¬収入)
=0.2・0.6 + 0.5・(1.0-0.6) = 0.32
22
確率計算: 「飛行機=真」の場合
P(旅行/飛行機)=P(飛行機/旅行)・P(旅行)/ P(飛行機)
=0.95・0.32 / 0.712 ≒ 0.427 > P(旅行)=0.32
23
信頼性係数による推論
血液感染症診断支援・MYCINで最初に導入
 後向き推論の効率化に有効
 理論的裏付けに乏しい
 更新規則:前件(左辺)C1*C2 ・・、 後件(右辺)A
CF(右辺)= CF(左辺) CF(規則)
CF(C1∧C2 ・・ ∧Ck)=min(CF(Ci ) )
CF(C1∨C2 ・・ ∨Ck)=max(CF(Ci ) ) ~当初
その後は、 =CF(C1)+CF(C2)(1-CF(C1))・・

24
MYCINにおける知識の例


事実型:
・培養基の場所は血液である(1.0)
・培養基の菌は好気性である(0.25)
・培養基の菌は大腸菌である(0.75)
(): 確信度
プロダクションルール型:
もし
感染症の種類が一次敗血症であり、
培養基の場所が無菌の場所であり、
培養された菌の入口が胃腸管と推定される
ならば、
その菌はバクテロイドである兆候がある(0.7)
25
MYCINにおける推論の例
後向き推論:
結論を仮定して、
ルールの前件部を
チェックすることにより、
結論の確からしさを
チェック
26
ファジイ理論による推論

米・L.A.Zadehが提案 (1965)
確からしさを0~1の実数値で表現:主観

membership(所属度)関数による連続表現

μ(f(x)∧g(y))=min{μ(f(x)), μ(g(y)) }
μ(f(x)∨g(y))=max{μ(f(x)), μ(g(y)) }
27
推論の例(エアコンの制御)



温度30度? メンバーシップ関数と
(0.4,0.6)の最小値
快適 → 切る
やや暑い → 弱にする
暑い → 強にする
0.4
0.6
(1x0.4+2x0.4+
3x0.2+4x0.6+
5x0.6)/(0.4+0.4+
0.2+0.6+0.6)
=3.3
28
Dempster-Shafer理論による推論

ベイズの枠組みでは以下の事象の区別が不能
(1)X=aと予想できる強い根拠があるが,
X=bと予想できる同様の強い根拠がある
(2) X≠aと予想できる強い根拠があるが,
X ≠ bと予想できる同様の強い根拠がある
(3)X=aまたはbであるか皆目わからない
⇒ 事前確率:P(a) = P(b) = 0.5

無知量を表現できるよう,ベイズの枠組みを拡張
29
Dempster-Shafer理論の定式化
各事象Aiに,基本確率m(Ai)を割り当て:
m(φ)=0,∑m(Ai) = 1
例)
X=a,X=b,どちらも根拠があり決めがたい場
合: m( X=a ) ,m( X=b ) を大きく設定
vs.どちらも根拠が乏しい場合:
m(X=a, X=b ) を大きく設定
 確率値に幅を持たせる
下界確率P*(Ai)=∑Aj⊂Ai m(Aj)
上界確率P*(Ai)=1- P(~Ai)
=1- ∑Aj ⊂ ≠Ai m(Aj)

30
Dempster-Shafer理論適用例
31
Dempster-Shafer理論適用例
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