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計算量の理論
講義資料 ver.1
(2006.1.12)
教科書
オートマトン 言語理論 計算論 Ⅱ (第2版)
J.ホップクロフト・R.モトワニ・J.ウルマン
講義資料
http://thales.philos.k.hosei.ac.jp/tm
機械モデルと言語の階層
• 有限オートマトン ⇔ 正則言語(正規表現)
(1年:形式言語とオートマトン)
• プッシュダウンオートマトン⇔文脈自由言語
(文脈自由文法)
(3年:コンパイラ)
• テューリングマシン⇔ 帰納的可算言語
Turing機械の能力と使いみち
• 能力
– コンピュータで認識できる言語を認識
– 計算可能なものはすべて計算できる
• 使いみち
– 計算の限界
– 真偽を判定できるアルゴリズムの限界
– 計算量
Turing機械(TM)の概念図
B
B X1 X2
Xi
Xn B
テープ
空白
セル
有限制御部
有限オートマトンとの違い
• テープは左右無限に延びている。
• 入力記号以外にも記号がある。(全体でテープ
記号)
• 空白を意味する記号B(テープ記号のひとつ)が
ある。
• テープヘッドは左右どちらにも動ける。
数学的な定義
Turing機械Mは次の7つ組で定義される:
M = (Q, Σ, Γ, δ, q0 , B, F)
Q : 状態の有限集合
Σ : 入力記号
Γ : テープ記号の有限集合Γ ⊆Σ
δ : δ (q, X)=(p,Y,D)
(p:次状態, Y:書込む記号,D:ヘッドの動く向き)
q0 : 初期状態(∈ Q )
B : 空白記号(∈Γ- Σ )
F : 終状態(または受理状態)の集合( ⊆ Q )
Turing機械の時点表示
(Instantaneous Description, ID)
B
B X1 X2
Xi
Xn B
テープ
q
X1X2 … Xi-1qXi … Xn
テープヘッドが空白以外の記号の左端または右端を
超える場合はそこの空白文字をX1またはXnとする。
Turing機械の動作
B
B X1 X2
Xi
δ(q,Xi ) = (p, Y, L)のとき
B
B X1 X2
Xn B
q
Xi-1 Y
Xn B
p
X1X2 … Xi-1qXi … Xn |- X1X2 … pXi-1Y … Xn
遷移の例外
B
B X1 X2
q
Xi
Xn B
δ(q,X1) = (p, Y, L)のとき
δ(q,Xn) = (p, B, L)のとき
遷移グラフ
X/Y→
q
p
δ(q,X1) = (p, Y, R) をあらわす有向辺
Turing機械が受理する言語
ID1 |- ID2
Turing機械がID1からID2まで1回の動作で到達する
ID1 |-* ID2
Turing機械がID1からID2まで有限回(含0回)で到達
Turing機械M =(Q, Σ, Γ, δ, q0 , B, F)が
受理する言語L(M)は
L(M)={w∈S* | ∃a,b ∈ G*, ∃p∈ F, q0w|-*apb}
言語を受理するTMの設計
L={0n1n| n≧1}
B
0
0
0
1
1
q0
• 方針:
0と1を1個ずつ交互に消していく。
最後にどちらもなくなれば受理。
B
工程の概略
0: 0をXに変えて右に動いて goto 1
– Yだったら goto 3
/* 0はもう無かった*/
1: 右にスキャンして1を探す
– 1をみつけたらYに変えて左に goto 2 /*消した数同じ*/
– Bをみつけたら停止(拒否) /* 1はもう無かった */
– それ以外は読み飛ばす goto 1
2: 左にスキャンしてXを探す
– Xをみつけたら 右に動いて goto 0
3: 右にスキャンして1が残ってないか探す
– 1をみつけたら停止(拒否)
/* 1の方が多かった */
– Bをみつけたら goto 4 (受理) /*どちらも残っていない*/
– それ以外は読み飛ばす
q0
B
0
0/X →
q1
0
0
1
1
B
0
0
1
1
B
q0
B X
q1
左端の0を「消す」
0/0→
Y/Y→
開始
q0
0/X →
1/Y←
X/X→
Y/Y→
X/X→
Y/Y→
q1
0/0←
Y/Y←
q3
B/B→
q4
q2
計算可能な言語
• TMで受理される言語は帰納的可算
(recursively enumerable)である、という。
• 帰納的可算な言語Lはw∈ L でない語にたい
するTMの停止性は保障しない。実際L を受
理するどんなTMに対しても、TMが停止しな
い語が存在する。
• 帰納的可算言語はある語がその言語の語か
否か(帰属判定)をTMができないような言語
も含む。
帰納的集合
• すべての入力に対して停止するTMで受理さ
れる言語を帰納的である、という。またそのよ
うな言語を帰納的集合(recursive set)という。
• 帰納的集合は帰属判定が可能
TMプログラミング技法:多重トラック
B
0
0
0
1
B
X
各セルには記号[X,Y]∈G
が入る
X ∈G1,Y∈G2ならば
G=G1 ×G2のようにとる。
TMの拡張: 多テープTM
B
0
0
B
1
0
B X
0
q1
0
1
0
1
B
1
B
1
B
多テープTMの能力
定理 多テープTMが受理する言語は帰納的可算
B
0
0
0
1
B
1
B
1
B
X
B
1
0
1
X
B X
0
0
X
右に何個Xがあるかも覚える
q1
制限されたTM
X-1 X1 X2 X3
X1 X2 X3
Xn
Xn
* X-1
半無限テープTMによるTMの模倣
TMと同等のモデル
B X1 X2 X3 X4 X5 X6 B
TM
q
X3
X2
X1
B X1 X2 Y X4 X5 X6 B
X4
X5
X6
p
X4
Y
X2
X1
q
X5
X6
p
2スタック機械による模倣
コンピュータとTM
コンピュータのモデル
1. 語(word)は任意長で番地(address)をもつ
2. プログラムはメモリー上に格納される
3. 命令は有限個の語から成り、語を書き換える
4. 命令は語を直接書き換える(レジスタなし)
TMによるコンピュータの模倣
記憶テープ
命令カウンタ
$0*w0#1*w1#10*w2#11*w3#100*w … #10011*10100
x
番地*中身#
データとプログラム
10011
w
次に実行される命令が格納された番地
記憶番地
10100 $w
番地または中身の一時置き場
I/O
命令
ジャンプ
データ
決定不能性
~計算の限界~
「問題」とは何か?
問題は、「未知の入力がある性質を持つか否か」を
問うもの。
与えられた特定のものに関する真偽判断を求める
ものではない。
問題の例: 「与えられた言語が正則か否か?」
「与えられたCプログラムがHello Worldを出力する
か?」(HelloWorld問題)
問題ではない例:
「{w|w中の0と1の個数が同じ}は正則か?」
問題の実例(instance)
Hello World検査機は存在するか?
Hello World検査機は
問題:「CプログラムPにデータIを入力したとき
にPがHello Worldを印字するかどうか?」
に答える機械である。
I
Yes
Hello World
検査機
H
P
No
Hello World検査機の改造
もしHelloWorld検査機が存在すれば…
[改造1] H1はNoの代わりにHello Worldを出力
I
Yes
H1
P
Hello World
H1の改造
[改造2] H2はIの代わりにPを入力とし入力を1つに統合
P
Yes
H1
H2
P
Hello World
Yesは「PにPを入力するとHello Worldを出力する」ことを意味し
Hello Worldは「PにPを入力するとHello Worldを出力しない」を意味する
H2に自分を入力したらどうなるか?
Yes
H2
H2
Hello World
Yesだとすると、「H2にH2を入力するとHello Worldを出力する」ことを意味する
Hello Worldだとすると「H2にH2を入力するとHello Worldを出力しない」ことを意味する
決定可能性
問題が決定可能(decidable)であるとは、入力
が所望の性質を持つか否かを計算で判定
(検査)することができること。
決定可能でないとき決定不能(undecidable)と
いう。
例 HelloWorld問題は決定不能
(HelloWorld問題を解く計算法は存在しない)
厳密な議論のために
• H2はCで書けるのか?
2進列の番号付け
w∈{0,1}* (2進列)をi=1w(2) (2進数)に対応させ,
wはi番目の列である、などという。
i番目の列をwiとかく。
例 eは 1e=1 1(2) =1(10) 番
01は 101(2) =5(10)番
w5 =01
TMの符号化
Turing機械 M = (Q, Σ, Γ, δ, q0 , B, F)
Q = {q1 , q2 , …, qr}
Σ = {0,1}, Γ, δ, q0 , B, F
Γ = {X1, X2, X3, X4, …, Xs} (X1 =0, X2=1, X3=B)
L=D1, R=D2
を符号(2進列)に変換する方法:
遷移規則δ(qi , Xj) = (qk, Xl , Dm)
0i10j10k10l10m
TM全体: C111 C2… Cn (Ciは遷移規則の符号)
(M, w)の符号化
TM Mとそれへの入力語wの組はMの符号化を
uとしてu111wと定義
(uの中に111は存在しないことに注意)
後に、 w∈L(M)⊆{0,1}*となる(M, w)の符号化
全体が決定不能であることを示す。
TMの数え上げ
符号化がi番目の語wiとなるようなTM をMiと書き、
i番目のTMと呼ぶ。
符号化とは逆にwiからMiを得ることを復号という。
wiがTMの符号化になっていないときは
Miは右のようなTMであるものとする。
開始
(右のTMはいかなる記号を入力しても
直ちに拒否して停止するので
受理言語は空集合φである。)
q
0
対角線言語Ld
言語Ldを次のように定義する。
Ld={wi|wi∈L(Mi)}
1
すなわち、Ldは自分自身を 2
復号して得られるTMに受 3
4
理されない語からなる集合。
i 5
L(Mi)の特徴ベクトル ↓ 6
LdとL(Mi)の特徴ベクトルは
i番目要素が異なる
Ldの特徴ベクトル
1
2
j→
3 4
0
0
0
0
0
1
0
0
0
1
0
0
1
0
1
0
1
1
0
1
0
1
0
0
w
5
6
0
0
1
1
0
1
1
0
0
0
0
1
M
wj∈L(Mi)のとき1
Ldが帰納的可算でないことの証明
Ldが帰納的可算であるとすると、
あるiが存在してLd=L(Mi) …(1)
wi∈Ldか否か調べよう。
• wi∈Ldならば(1)によりwiはMiに受理される。
ところがこれはLdの要素の定義を満たさない。
• wi∈Ldならば(1)によりwiはMiに受理されない。
ところがこれはLdの要素の定義を満たす。
いずれにせよ矛盾。(終わり)
言語Ldの位置づけ
帰納的可算(RE)言語
REだが帰納的でない
Ld
REでない
帰納的言語
帰納的言語の性質(1)
[定理] Lが帰納的言語ならばその補集合 Lも
帰納的
(証明) L を受理する必ず停止するTM M
受理
w
M
M
受理
非受理
非受理
帰納的言語の性質(2)
[定理] Lとその補集合 LがともにREならば
Lは帰納的
(証明) L を受理するTM M1,
L を受理するTM M2
M
M1
受理
受理
受理
非受理
w
M2
万能言語Lu
• 万能言語と呼ぶ言語LuはTM Mとそれで受理
される語wとの組(M, w)を符号化したもの全
体からなる言語である。
すなわち、組(M, w)の符号化をψ(M, w)と書くこ
とにすると、
Lu ={ψ(M, w)∈{0,1}* | w ∈L(M )}
Luは帰納的加算
(証明)Luを受理するTM Uの存在を示す。
(Universal Turing Machine)
入力
M
Mのテープ
001001001010…
Xiを0iで
Mの状態
000 … 0BB …
qiを0iで
メモテープ
w
Luは帰納的でない
(帰属問題が決定不能)
(証明)Luが帰納的であるとする。 するとLuも
帰納的。 Luを受理するTMをMとしてLdを受理
するTMを構成する。
受理
w
コピー
w111w
Luを受理するM
拒否
受理
拒否
言語LuはREであるが帰納的でない
帰納的可算(RE)
REだが帰納的でない
Lu
帰納的言語
Ld
REでない
還元論法
受理
P1
変換機
ψ
P2
M2
拒否
受理
拒否
M1
M2を仮定して、(存在しないことがわかっている) M1が構成で
きれば、背理法によりM2は存在しないと結論できる。
M2があればM1もある⇔ P2が解ければP1も解ける
⇔ P1はP2より易しい
変換機ψは問題P1を問題P2に還元する、という。
還元論法の主張
P1がP2に還元できるとき、次が成り立つ。
• P1が決定不能ならP2も決定不能
• P1が非REならP2も非RE
理由: P1がP2に還元できるということは
P1はP2より易しいということだから明らか
還元の条件
任意の入力に対してM1が正しく受理/拒否しなけ
ればならない。
ψは、M1に受理されるはずの語w∈L1に対して
M2に受理される語ψ(w)= u∈L2を出力する
拒否のときも同様
受理
P1
変換機
ψ
P2
M2
拒否
M1
受理
拒否
ψの条件の図
w∈L1 ⇒ ψ(w) ∈L2
w∈L1 ⇒ ψ(w) ∈L2
ψ
yes
yes
No
No
P1
P2
還元の例(LeとLne )
wiはTM Miの符号化である。
以下でMiとwiを同一視し、語の文脈でMiと書けば
wiを意味するものとする。
(Lが言語のときM∈LはM=Miの符号wi∈Lの意)
LeとLneを以下で定義する。
• Le={M|L(M)= φ}
• Lne={M|L(M)≠φ}
Leは受理言語が空であるTMの符号の集合
Lneは受理言語が空でないTMの符号の集合
(証明で使うので追加)
非決定性TM
決定性TM (deterministic TM, DTM)
δ(q, X)=(p,Y,D)
非決定性TM (nondeterministic TM, NTM)
δ(q, X)={(p1, Y1, D1), (p2, Y2, D2), …, (pn, Yn, Dn)}
X/Y1D1
q
p1
X/YnDn
pn
NTMはDTMで模倣できる
NTM MN を模倣するDTM MD
IDの
キュー
x
ID1*ID2*ID3*ID4* …IDj *IDj+1
*ID3 … * *IDj+k
ID3
テープ
1. 現在の状態と読み込み記号に対して遷移がk個あ
るとき、xとマークされた現在のIDを読み取り、受
理状態なら終わり。そうでなければキューの後ろ
にk個コピーする。
2. コピーしたk個のIDをそれぞれk個の遷移にした
がって更新
3. xマークを次のIDに移す
NTMは推測をする
NTMによる受理はDTMによる幅優先探索
ID1
ID2
ID3
ID4
IDj+1 IDj+2 …
IDj+k
…
逆に、幅優先探索で見つかる解はNTMで受理さ
れる。このことをNTMが解を推測する、という
推測の例1
入力語wに対してw= wiとなるiは存在するか?
推測
w
exist i
s.t.
w=wi ?
DTMによる探索
yes
i
w
yes
w=wi ?
NTMによる推測
推測の例2
TM Mに対してw∈ L(M)となるwは存在するか?
M
exist w
s.t.
w∈ L(M)?
DTMによる探索
yes
推測
w
M
yes
w∈ L(M)?
NTMによる推測
LneはRE
非決定版のU(Universal TM)を使って
Lneを受理するTMを構成
bool U(M, w){return (w∈L(M)) }
推測
w
Mi
受理
U
M
受理
Lneは帰納的でない
[証明] LuをLneに還元する。 M’ =ψ(M, w)とすると、
還元の条件: (M, w)∈Lu ⇒ M’ ∈Lne
(M, w)∈Lu ⇒ M’ ∈Lne
この条件を満たすアルゴリズムψが存在すれば
OK
U
w
M
ψ
M’
受理
受理
拒否
拒否
Mne
[証明(つづき)] ψの仕様:
(M, w) から M’(下)を構成するアルゴリズムをψとする。
受理
w
受理
M
x
M’
ψが還元の条件を満たすこと:
(M, w)∈Lu ⇒ w∈ L(M) ⇒ x∈L(M’) ⇒ M’∈Lne
(M, w)∈Lu ⇒ w∈ L(M) ⇒ ∀x.x∈L(M’) ⇒ M’∈Lne
[証明(つづき)] ψの存在:
ψはM’ を次の手順で構成する。
xiは(M,w)の符号i番目の記号, n=|(M,w)の符号|
*/x0→ */x1→
q0
q1
q2
… */x →
n-1
…
qn
B以外/B→
B/B←
p0はUの開始状態
qn+1
B以外/
そのまま←
B/B→
U
p0
[証明おわり]
LeはREでない
[証明] LeがREであると仮定する。
Lne = LeはREであったから、
Lneは自身とその補集合がREであることになり
帰納的言語の性質(2)によりLne(およびLe )は
帰納的となる。これはLneが帰納的でないことに反
する。
RE言語の性質
RE言語の集合を(RE言語の)性質(property)
という。(通常の意味での「性質」もつRE言語の集
合をその性質そのものと同一視。)
例:正則言語であるという性質は
RE言語全体
正則言語全体の集合。空集合である
という性質は{φ} (空集合1つだけ
からなる集合)。
(RE言語の)
RE言語の性質は空{} であるか
性質P
RE全体であるとき自明(trivial)、
そうでないとき自明でない(non-trivial)
性質を特徴付ける言語
RE言語の性質を問題(TMへの入力)にするため、
P がRE言語の性質のとき、言語
LP ={M|L(M)∈P }
を性質P を特徴付ける言語という。 以下では、
「RE言語Lが性質P を持つか否か」
という問題(の決定可能性)を、
Lを受理するTM M(の符号)を用いて、
「 MがLP に属するか否か」
という問題に置き換える。 (LはREだから常にM が存在
することに注意)
性質に関する決定問題
Riceの定理
RE言語の自明でない性質は決定不能である。
[証明]P を自明でない性質とする。まず、φ∈P と
仮定する。(そうでない場合は後で。)
Pは自明でないのでφでない言語Lを要素として持
つ。 Lを受理するTMをMLとする。
以下でLU がLP に還元できることを示す。
還元をψ(M, w) = M’ として、
還元の条件: (M, w)∈Lu ⇒ M’∈LP
(M, w)∈Lu ⇒ M’∈LP
(証明つづき)
w
受理
M
開始
x
受理
受理
ML
M’
ψが還元の条件を満たすこと:
(M, w)∈Luのとき M’はMLを模倣し、 Lを受理する。
L∈P であったからM’∈LP
(M, w)∈Luのとき M’はどんなxも受理せず、したがって言
語φを受理する。 φ∈P であったからM’∈LP
還元ψのTMによる構成はLneのときと同様。
(証明つづき)φ∈P の場合
性質P の補集合P について先ほどと同じ議論をす
ればP が決定不能であることがわかる。
ところで
LP : P に属す言語を受理するTM(の符号)の集合
LP : P に属す言語を受理しないTMの集合
すべてのTMは何かを受理するのでこれらは等しい。
するともしLP が決定可能であるとするとLP = LP
も決定可能となり上( P が決定不能)と矛盾
(証明おわり)
Postの対応問題
いままでTMの受理言語に関する決定不能性をみ
てきた。
TMとは関係ない普通の問題にも決定不能な問題
が存在する。
次に示すPostの対応問題
(Post’s Correspondence Problem, PCP)はこ
のような決定不能問題の例。
Postの対応問題の実例
S上の記号列の同じ長さの二つのリストを
A, Bとする。
A=w1, w2, …, wk
B=x1, x2, …, xk
とする。
このとき1個以上の数の並びi1, …, imが存在して
wi1wi2…wim = xi1xi2…xim
となるか? (Yes/No)
←というのが実例
注: 入力(A, B)に対して上を問うのがPCP
例
i
1
2
3
A
wi
1
10111
10
B
xi
111
10
0
w2w1w1w3 = x2x1x1x3 = 101111110
(2,1,1,3)をこの実例の解という。
解を持たない実例
i
1
2
3
A
wi
10
011
101
B
xi
101
11
011
i1
1
2
3
wi1 xi1
10
101
011 11
101 011
i2
1
2
3
wi2
10
011
101
1xi2
1101
111
1011
i3
1
2
3
wi3
1xi3
i1, …, ikは部分解
…
PCPの決定不能性
Luを変形PCP(MPCP)に還元し, MPCPをPCP
に還元する。
Luは決定不能であったから、MPCPもPCPも決
定不能である。
Mu
MPCP
yes
(M,w)
還元ψ
還元φ
PCP
no
変形PCP
Luを直接PCPに還元するよりも次の変形PCP
(MPCP)を経由したほうが容易である。
変形PCP(の実例):
二つの語のリストA=w1, w2, …, wk B=x1, x2, …, xk
に対して0個以上の数の並びi1, …, imが存在して
w1wi1wi2…wim = x1xi1xi2…xim
となるか否か?
注: PCPと異なる点
1. 先頭は1
2. 解は(先頭以外の)0個以上の並びi1, …, im
MPCPをPCPに還元する
MPCPの実例
A=w1, w2, …, wk B=x1, x2, …, xk
をPCPの実例
C=y0, y1, y2, …, yk+1 D=z0, z1, z2, …, zk+1
に還元する。ここで
1≦i≦kで wi=a1a2…anならばyi= a1*a2*…*an*
xi= b1b2…bmならばzi= *b1*b2*…*bm
y0= *y1 , z0= z1
yk+1= $, zk+1 =*$
である。
MPCPの実例を還元
MPCPの実例(左)をPCPの実例(右)に還元
i
1
2
3
A
wi
B
xi
1
111
10111 10
10
0
*, $ ∈ S
i
0
1
2
3
4
C
yi
D
zi
*1*
*1*1*1
1*
*1*1*1
1*0*1*1*1* *1*0
1*0*
*0
$
*$
還元の条件を満たすこと
[証明] i1, …, im をMPCPの解とする。
すなわち、w1wi1wi2…wim = x1xi1xi2…xim
このとき *y1yi1yi2…yim = z1zi1zi2…zim*
y0= *y1 , z0= z1であったから
y0yi1yi2…yim = z0zi1zi2…zim*
末尾に$をつけると yk+1= $, zk+1 =*$であったから
y0yi1yi2…yimyk+1 = z0zi1zi2…zizk+1
ゆえにi0,i1, …, im,ik+1 はPCPの解
(逆) 示せ
LuをMPCPに還元する
TM M = (Q, Σ, Γ, δ, q0 , B, F)と入力語wに対して次
のMPCPを構成する。
(以下でM は空白を書かず、初期ヘッド位置より左には移動しないと
仮定する。一般のMからこのようなMへの還元は容易)
1. 最初の対
A
B
i
1
2. (コピー用)
A
X
#
wi
xi
#q0w#
#
B
X
#
X∈G
3. (遷移用)q∈Q-F
A
qX
ZqX
q#
Zq#
B
Yp
pZY
Yp#
pZY#
d(q,X)=(p,Y,R)
d(q,X)=(p,Y,L)
d(q,B)=(p,Y,R)
d(q,B)=(p,Y,L)
4. (記号消去用)q∈F
A
XqY
Xq
qY
B
q
q
q
Z∈G
Z∈G
5. (一致用)q∈F
A
q##
B
#
還元への入力例
w=10
開始
M
0/1R
1/0L
B/1L
q1
B/0R
q2
0/0L
1/0R
q3
規則
1
2
3
A
#
0
1
B
#q101#
0
1
還元された結果
規則
4
#
q10
#
1q2
d(q1,0)=(q2,1,R)
0q11
q200
d(q1,1)=(q2,0,L)
1q11
0q1#
1q1#
0q20
q210
q201#
q211#
q300
同上
d(q1,B)=(q2,1,L)
1q20
q21
q2#
q310
0q1
0q2#
同上
d(q2,1)=(q1,0,R)
同上
d(q2,0)=(q3,0,L)
d(q2,B)=(q2,0,R)
5
A
0q30
B
q3
0q31
1q30
1q31
0q3
q3
q3
q3
q3
1q3
q30
q31
q3
q3
q3
q3##
#
TMの模倣
A
B
#
#q101#
1. A, Bの欄にそれぞれw1,x1を書く。これは部
分解。
2. 次を繰り返す。
A, B欄が一致するwi,xiをそれぞれA, B欄の末尾に
追加して終わる。
なければ部分解を延長するwi,xiをそれぞれA, B欄
の末尾に追加する。
受理する場合
A
B
…# 0…01q300…0 #
…#0…01q300…0# 0…0 q3 0…0#
…#q3##
…#q3##
還元条件を満たすこと
受理されるとき、またそのときに限りMPCPは
解を持つことがわかる。
(受理状態でない限り、AはBに追いつかない。
受理状態なら前ページのように解を持つ。)
文法に関する決定問題
文脈自由文法(CFG)があいまいか否かは決
定不能
「文法があいまい」:
直観的な説明
その文法が定義する言語が、2種類(以上)の構成
方法をもつ文を含む。
文脈自由文法(教科書上巻5章参照)
文脈自由文法(context free grammar, CFG)Gは 4つ組
< V,T,P,S>で規定されるここで、
1. Vは変数(あるいは非終端記号)の集合:
変数は記号列の集合に対応する。(後述)
2. Tは終端記号の集合
定義される言語に現れる記号の集合
3. S∈Vは開始記号
4. Pは生成規則の集合
生成規則は変数A∈Vと記号(∈V∪T)の列X1X1…Xnの組で
A→X1X1…Xn
のように書く。
通例文法といえば文脈自由文法を指す。
文法の例
G=<{P}, {0,1}, A, P>
Aの要素は次の5つ
P → e
P
P
P
P
→
→
→
→
0
1
0P0
1P1
文法が生成する言語
文法G=< V,T,P,S>において
記号列aに現れる非終端記号A(∈V)1つをある規則
A→X1X1…Xnを用いてX1X1…Xnに置き換えてbを得
る操作を導出とよびa ⇒bと書く。
aから始めて、導出を繰り返してbが得られるとき
a ⇒*bと書く。(0回含む)
Sから始めて導出を繰り返して得られる終端記号の列
w全体の集合を文法Gが生成する言語といい、L(G)
で表す。すなわち
L(G)={w∈T*|S ⇒*w}
必ずしも終端記号だけではない記号の列aについて
S⇒*a
のとき、aを文形式という。
文法が生成する言語の例
前述の文法G=<{P}, {0,1}, A, P>で
P⇒0P0⇒01P10⇒010P010⇒0100010
により
0100010∈L(G)
L(G)は{0,1}上の回文全体
文法の略記法
規則の左辺(→記号の左側)が同じ規則が複数
ある場合、たとえば、giを記号列として
A → g1
A → g2
…
A → gn
がある場合これらをまとめて
A → g1 | g 2 | … | gn
のように書く。
問 回文の文法を上の略記法で書け。
最左(右)導出
• 導出の各書き換えステップで一番左(右)
の非終端記号の書き換えのみをおこなう
導出を最左(右)導出という。
• 最左導出でa1からのa2の導出ができると
き
a1 ⇒*lm a2
などとかく。
• S ⇒* lm aなるaを左文形式という。aは非終
端記号を含んでもよい。
最左導出の例
1桁の数 0, 1と2種類の変数x, yのみの和および
積でつくる式全体は次の文法で生成される。
E → I | E+E| E*E | (E)
I→x|y|0|1
E ⇒lm E+E⇒lm E*E+E ⇒lm I*E+E ⇒lm x*E+E ⇒lm x*I+E
⇒lm x*y+E ⇒lm x*y+I ⇒lm x*y+1
構文木
• 導出を、どの非終端記号を書き換えるかの順序
を捨象して木であらわしたものを構文木という。
• 構文木の各節点は非終端記号、葉は終端記号
または非終端記号、根は開始記号。
• 各節点の子の並びはその節の非終端記号の書
き換えにもちいた生成規則の右辺。 E
E
E
I
x
E
E
*
I +
y
I
1
曖昧さ
2つ以上の構文木をもつ文を生成する文法は
曖昧であるという。
注 文が構文木を2つ持つことは最左(右)導
出が2つあることと同じ。
問 前述の式の文法でx*y+1の構文木をもう1
つ作れ。
CFGの曖昧さに関する決定不能性(1)
PCPをCFGの曖昧性問題に還元する。
PCPの実例で与えられるリストを
A=w1, w2, …, wk B=x1, x2, …, xk
とする。これらの語に使われるアルファベットをSとする。
アルファベットSとは別に添え字記号の集合
L={a1, a2, …, ak}を用意する。
文法GA=<{A}, S L, P, A>
P:
A→w1Aa1 | w2Aa2 | … | wkAak
| w1a1 | w2a2 | … | wkak
GAが生成する言語をLA書き、リストAの言語と呼ぶ。
LAの要素の一般形はwi1wi2…winain…ai2ai1
添え字記号列に対して導出の列がただ1つ決まるの
で、GAは曖昧でない。
CFGの曖昧さに関する決定不能性(2)
GAと同様に GB=<{B}, S L, Q, B>
Q: B→x1Ba1 | x2Ba2 | … | xkBak
| x1a1 | x2a2 | … | xkak
GBが生成する言語をLB
次にこれらの文法を組み合わせた文法GAB
を次のように定義する。
GAB=<{A, B,S}, SL, P∪Q∪{S→A | B}, S>
このとき次が成り立つ。
PCPの実例(A, B)が解をもつ⇔GABが曖昧
すなわちPCPが文法の曖昧性問題に還元される。
CFGの曖昧さに関する決定不能性(3)
(十分性)i1, …, imがPCPの解であるとする。このとき
S⇒A⇒wi1Aai1⇒wi1wi2Aai2ai1⇒…⇒wi1…wimai1…aim
S⇒B⇒xi1Bai1⇒xi1xi2Bai2ai1⇒…⇒xi1…ximai1…aim
wi1…wim=xi1…ximにより、上は同じ語の導出。
これらは最左導出であるからGABは曖昧。
(必要性)GAおよびGBは曖昧ではないので、
GABがある語の2つの導出を持つならば、それらは
S⇒A⇒wiAai⇒…⇒ga (gS, aL)
S⇒B⇒xjBaj⇒…⇒cb (cS, bL)
S L=Φだからa=b, g=c そこでa=aim…ai1(=b)とすると
g=wi1…wim, c=xi1…xim
すなわち i1, …, imはPCPの解。
(証明終わり)
PDA
Pushdown Automaton(PDA)
P=<Q,S,G,d,q0,Z0,F>:
Q: 状態の集合
S: 入力記号の集合
G: スタック記号の集合
d : Q×S {e}×GQ×G* 遷移関数
(p, g∈d(q, a, Xの意味
状態はpに遷移し、スタックの上端の記号Xをgに置
き換えてよい。g=YZならZがYの下。
q0: 開始状態∈Q
Z0: 開始記号(底記号)
F: 受理状態の集合⊆Q
PDAとCFGは等価
定理
任意のPDAはCFGを受理する。
逆に任意のCFGはPDAに受理される。
証明
(教科書上巻 p.265~参照)
リスト言語の補集合
定理 リストAの言語LAの補集合はCFL
(証明)LAの補集合を受理するPDA Pの動作を次のように
定義する。
1. Sを読んでいる間はそれをpush
. Lを読んだらaiとwiの照合を開始。(テープからaiを読
んだらpopしてwiRか否かをチェック)
a. 否なら受理状態に入り以後そのまま進む
b. 是で次が底記号でなければ受理状態に入り2を繰り返す。
c. 是で次が底記号ならいったん非受理状態に入り、さらに入
力があれば受理状態に遷移する。
3. 2の後にSを読んだら受理状態のまま進む。
CFLに関する決定不能性(1)
定理 G1, G2をCFG, Rを正則表現とするとき、
a. L(G1)∩L(G2)=φか。
b. L(G1)=L(G2)か。
c. L(G1)=L(R)か。
d. あるアルファベットTに対してL(G1)=T*か。
e. L(G1)⊆L(G2)か。
f. L(R)=L(G2)か。
CFLに関する決定不能性(2)
(証明)
a. 還元: L(G1)=LA, L(G2)=LBとする。
還元の条件: PCP(A, B)が解を持つ
⇔LA∩LB≠φ⇔L(G1)∩L(G2)≠φ
b. 還元: L(G1)=LAC∪LBC, L(G2)=(S∪L)*とする。
還元の条件:PCP(A, B)が解を持つ
⇔LA∩LB≠φ⇔(S∪L)*ー(LA∩LB)C ≠φ
⇔(S∪L)*ー(LAC∪LBC) ≠φ
⇔L(G1)≠L(G2)
残り (示せ)
実行可能性
入力のサイズに関する多項式で表される程度
の時間で停止するTMで解けるか?
決定可能性における諸概念を下記のように置
き換えることで実行可能性の議論を進める。
決定可能性
「実行可能性」
TM
停止
多項式時間で停止
論法
還元
多項式時間還元
出発点
Lu
SAT
伝わる性質
決定不能性
NP完全性
時間計算量
入力wに対するTM Mの計算時間とは停止するま
でのステップ数。(停止しないとき無限大)
TM Mは長さnの任意の語に対する計算時間が
高々T(n)であるとき、Mの時間計算量(time
complexity)はT(n)であるという。
多項式時間で解ける問題
重みつきグラフに対して、重みの和が最小とな
る極大木(minimum-weight spanning tree,
MWST)を求めよ。
12
1
15
10
3
2
20
18
4
Kruskalのアルゴリズム
1. はじめは各頂点にべつべつの連結成分が
割り当てられる。
2. まだ取り上げていない辺に対して、
1. 両端が異なる連結成分に属すとき、ふたつの連
結成分を合併する。(片方に属する頂点に割り
当てた連結成分をもう片方のものに書き換え
る。)
2. 両端が同じ連結成分に属すとき、なにもしない。
3. 処理済の辺が頂点の数より1つ少ないか、
すべての辺を処理すれば終わり。
アルゴリズムの適用例
12
1
15
10
3
2
20
18
4
MWSTの時間計算量
1. 各端点にははじめ別々の連結成分が割り当
てられているものとする。
2. 各辺eについて次を繰り返す(O(e))
1. 未処理のeのうち重み最小のものを選ぶ(O(e))
2. 選んだ辺の両端点が属する連結成分を見つける。
(O(m))
3. 両端点の連結成分が異なるとき、一方の連結成
分に属すノードについて所属する連結成分をもう
一方の連結成分に書き換える。(O(m))
以上を合わせるとO(e(e+m))
MWSTと決定問題
• MWSTは木を答えとして要求するが決定問
題に対するTMはyes/noしか返さない。
• MWSTを改変して決定問題にする。
– 限界量Wを定め、答えの木の重みがW以下であ
るときyes、W以上であるときnoとする。
上の決定問題は元のMWSTよりもやさしい。
実行可能性の理論の主張の多くは、ある問題
が「難しいこと」を示すものなので、上のような
改変の結果やさしくなったものがなおも難しい
ことを示せば十分。
MWSTの符号化の例
記号: 0,1,(,),コンマ
1. 各頂点に整数1~mを割り当てる。
2. コードの先頭にmと重み制限Wの2進数表示
をコンマで分けて書く。
3. 頂点i,jを結ぶ重みwの辺(いずれも2進数表
示)を(i,j,w)と書く。
1
2
問題 前述のグラフ(再掲→)
15
12
のコードを求めよ。
10
20
3
18
4
クラスP
決定性TMで多項式時間で解ける問題のクラスを
P(polinomial)と書く。
(より形式的には、)
言語LがPに属すとは、
Lを受理する決定性TM Mと多項式T(n)が存在し
て、Mは長さnの任意の入力に対して高々T(n)
ステップで停止することをいう。
問題PはPに属すとき、実行可能であるといい、そ
うでないとき実行不能であるという。
NP
非決定性TMで多項式時間で解ける問題のクラス
をNP (nondeterministic polynomial)と書く。
(より形式的には、)
言語LがNPに属すとは、
Lを受理する非決定性TM Mと多項式T(n)が存在
して、Mは長さnの任意の入力に対して動作系列
の長さがT(n)を越えないことをいう。
クラスNPは明らかにクラスPを含むが、Pに含ま
れないNPの要素が存在するか否か、すなわち、
P≠NPか否か、は未解決。
非決定性多項式時間で解ける問題
巡回セールスマン問題(traveling salesman
problem, TSP)
重みつきのグラフについて、
重みの和がW以下のハミルトン閉路が存在す
るか?
12
1
15
10
3
2
20
18
4
TSPの計算量
頂点がm個とするとき、
• 決定性
– すべての順列(m!)にわたって検査する以外にな
さそう。(任意の定数cについて、m!>2cm)
• 非決定性
– 非決定性多テープTMを用いると、順列をO(m2)で
推測することができる。限界値の検査も同程度。
1テープで模倣するとO(m4)
多項式還元
P2がPに属さないこと(実行不能性)をいうには、
P2を受理するTM M2を仮定すれば、多項式時
間では解けないはずの問題P1(の実例)をP2
に多項式時間で変換(多項式時間還元)する
ことでP1を多項式時間で解くTM M1が構成で
きること(矛盾)を示せばよい。
P1
多項式時間
変換機
ψ
P2
M1
受理
M2
拒否
受理
拒否
NP完全問題
言語(問題)Lは次を満たすときNP完全(NPcomplete)であるという。
1. LはNPに属す。
2. NPに属す任意のL’に対しL’からLへの多項
式時間還元が存在する。
2を満たす場合NP困難(NP-hard)という。
注意:P≠NPは未解決なのでNP完全であるこ
とが必ずしも実行不能である(多項式時間で
解けない)ことを意味しないが、仮説として実
行不能であるとする文脈も。
NP完全問題の性質
定理
もしNP完全問題がどれか1つでもPに属すこと
がわかったら、P=NP
….
すべての問題
….
NPに属す
NP完全問題
多項式時間還元
多項式時間還元は推移的
定理 P1はNPに属すとする。P1がNP完全でP1か
らP2への多項式時間還元が存在するとき、P2も
NP完全である。
(証明)任意の言語Lについて多項式時間還元
ψ:L→P1が存在して長さnの語wをψ(w)に変換する。
ψの時間計算量をp(n)とすると|ψ(w)|<p(n)。
P1からP2への多項式時間還元φの時間計算量を
q(m)とすると、ψ(w)を変換するのに要する時間は
q(|ψ(w)|)<q(p(n))。したがってψとφの合成の計算量は
p(n)+q(p(n))
ψ
φ
L
P1
p(n)
P2
q(m)
NP完全問題の役割
• NP完全問題が1つみつかれば、それからほかの問
題への多項式時間還元をみつけることでそれらの
問題のNP完全性がいえる。
(決定不能性におけるLuの役割と同じ)
TSP
….
多項式時間還元
….
SAT
いろいろな問題
ブール式と充足可能性
ブール式(boolean expression)は次のものからなる
1.
2.
3.
4.
変数。変数の値は0(false)と1(true)
2項演算∧と∨。それぞれ論理積と論理和。
1項演算¬。否定。
括弧(、)。
例 x∧¬(y∨z)はブール式
ブール式に対する真理値割り当て(truth assignment)と
はEの各変数に値を割り当てること。割り当てTのもと
での式Eの値をE(T)と書く。
真理値割り当てTが充足ブール式Eを充足するとは、
E(T)=1となること。
ブール式Eを充足する真理値割り当てが存在するとき、E
は充足可能であるという。
充足可能性問題(SAT)
充足可能性問題(satisfiability problem, SAT)とは、
与えられたブール式に関して充足可能か否かを判
定する問題
SATの入力例の表現:
充足可能性は変数の名前にはよらないので、ま
ずx1, x2, …, xnに置き換える。
xiを(有限個の記号で表現するため)xj(i)とする。
ここでj(i)はiの2進数表示。変数以外はそのまま。
例 x∧¬(y∨z)の入力符号はx1∧¬(x10∨x11)
SATのNP完全性(1)
(Cookの定理)SATはNP完全
[証明]NPに属すこと
(1)NTMで真理値割り当てTを推測。Eの長さをn
としてO(n)で可能。
(2)Tに対してブール式Eを評価し、E(T)=1なら受
理。多テープNTMでO(n2)(式用テープ、真理
値割り当て用テープ)
SATのNP完全性(2)
任意のL∈NPに対してLからSATへの多項式時間還
元が存在すること。
1テープNTM MでL(M)=Lであって多項式p(n)の時間
で必ず停止するが存在する。
すると、Mが長さnの入力wを受理するとき次の条件を
満たす動作列a0⇒…⇒akが存在。
1. a0はwに対する初期ID
2. k≦p(n)
3. akは受理状態を持つID
4. 各aiは末尾を除き空白以外の列。
SATのNP完全性(3)
wに対するMの受理動作列が存在することを
ブール式EM,wの充足可能性で表現する。
(還元の条件:wが受理される⇔Eが充足可能)
各IDaiを記号の列Xi0Xi1…Xi,p(n)であらわす。ど
れかは状態。
テープ記号または状態Aに対して、Xij=Aをあら
わす変数をyijAとする。Xij=A⇔yijA=1
動作列がwの受理を表すことをyijAのブール式
で表現すればよい。
SATのNP完全性(4)
wの受理であるためには、
0. 記号は場所あたり1つ。
1. はじめがq0w
2. 遷移がd に従う
3. 受理状態に到達する
以下これらをブール式で表現する。
SATのNP完全性(5)
ブール式で表しやすいようにaiに便宜上の調整
(変更)を施す。
1. 末尾の空白部分をIDの長さp(n)+1まで含め
る。(すべてのIDの長さを同じに。)
2. p(n)回目以前の動作で受理状態に到達した
らそのままp(n)回目までその受理状態のま
ま動作を続ける。(常にp(n)回動作。)
SATのNP完全性(6)
…
…
ID
0
1
a0
a1
X00
X01
X0,p(n)
X10
X11
X1,p(n)
ai
ai+1
ap(n) Xp(n),0 Xp(n),1
Xi,j-1
Xi,j
p(n)
Xi,j+1
Xi+1,j-1 Xi+1,j Xi+1,j+1
Xp(n),p(n)
SATのNP完全性(7)
0. 記号は場所あたり1つ
U=∧ij[∨A yijA ∧¬(∨A≠C(yijA∧yijC))]
1. はじめがq0w
S=y00q0∧y01a1∧y02a2∧…∧y0nan
∧y0,n+1,B∧y0,n+2,B∧…∧y0,p(n),B
SATのNP完全性(8)
2. 遷移がd に従う。
• Ni :ID ai の次にID ai+1がこれる。
• fij(W,X,Y,Z)=1
⇔Xi,j-1=W, Xi,j=X, Xi,j+1=Y, Xi+1,j=Z となりうる。
Ni=∧j(∨f(W,X,Y,Z)=1 yi,j-1W∧yijX∧yi,j+1Y∧yi+1,j,Z)
N=∧iNi
SATのNP完全性(9)
3. 受理状態に到達する。
Xp(n), j (j=1,…,p(n)) のいずれかが受理状態であ
ればよい。
Fj: Xp(n), j が受理状態∈{a0,…,ak}=受理状態集合
Fj=yp(n), j, a0∨…∨yp(n), j, ak
F=F1∨…∨Fp(n)
SATのNP完全性(10)
以上をまとめて、
EM,w=U∧S∧N∧F
多テープ決定性TMでO(n2)
(証明終わり)
制限された形の充足可能性問題
• CSAT : 乗法標準形、CNF
• 3SAT : 3-乗法標準形(項の長さ3)
• kSAT : k-乗法標準形
いずれもNP完全
乗法標準形
• 変数または否定を施した変数をリテラル(literal)とい
う。
• 1つのリテラルまたは2つ以上のリテラルをORで結ん
だものを項(clause)という。
• 乗法標準形(CNF, conjunctive normal form, 和積標
準形とも)であるとは、項をANDで結んだ形をしている
ことをいう。(項が1つだけの場合も。)
• k-乗法標準形(k-CNF)は項がちょうどk個のリテラル。
以下∨を和(+)、∧を積として書く場合もある。(短縮形)
結合は(論理)積のほうが強い。
乗法標準形の例
• (x∨¬y)∧(¬x∨z)∧(¬z∨y)を短縮形で書くと、
(x+¬y)(¬x+z)(¬z+y)
2-CNF
• xyzは1-CNF
ブール式のCNFへの変換
• 論理式としての同値性を保存したままの変換
では多項式時間を越える場合も。
• 充足可能性は同値性よりも弱い!(充足可能
性を保存するだけなら多項式時間で可能)
SATからCNFへの還元
次の2ステップからなる。
1. ¬を変数につくものだけにする。
1. ¬(E∧F) ⇒ ¬(E)∨¬(F)
2. ¬(E∨F) ⇒ ¬(E)∧¬(F)
3. ¬(¬(E)) ⇒ E
2. リテラルの積の和をCNFに変換(あとで)
第1ステップの計算量
与えられるブール式Eに含まれる演算子の個数
nに関する帰納法で次を示す。
1. 得られるブール式Fに含まれる演算子の
個数は2n-1を超えない
基礎:演算子が1つのとき。
¬x, x∧y, x∨yはいずれもそのままでOK。2n-1=1
帰納:演算子の個数n-1以下のブール式につい
ては成り立つと仮定する。E=E1∨E2または
E=E1∧E2の場合(一番外側の演算子が¬で
ないとき)、E1,E2の演算子数がa,bとし、E1が
F1, E2がF2に変換されるとすると、それぞれ
F1∨F2または(F1)∧(F2)とする。
これらの演算子数は2a+2b-1<2(a+b+1)-1
E=¬E1
1. E1=¬E2のときE=¬(¬E2)=E2
2. E1=E2∨E3のときE=¬(E2∨E3)=¬(E2)∧¬(E3)。
ここで¬(E2)、¬(E3)に含まれる演算子数はE
の演算子数よりも少ないので、それぞれリテ
ラルだけに¬がつくブール式F2、F3に変換で
きる。このとき、F2∧F3とすればよい。E2, E3に
含まれる変数の数をそれぞれa,bとすると、F
に含まれる変数の数は2(a+1)-1+2(b+1)1+1=2(a+b+2)-1
3. E1=E2∧E3のとき、2と同様。
第2ステップ
Eは(1ステップで得られた)変数以外には¬がつかな
いブール式であるとする。Eの長さに関する帰納法
で次を示す。
ある定数cが存在して、長さnの任意のEに対して、次
のFが存在する。
1. FはCNF
2. FはEから高々c|E|2で構成できる。
3. Eに対する真理値割り当てTがEを真にするための
必要十分条件はTの拡張SでFを真にするものが
存在することである。
3により還元で充足可能性が保存されることを確かめ
よ。
真理値割り当ての拡張
Eの変数の集合をV,TをEの真理値割り当てとする。
S:W→{0,1}がTの拡張(extension)であるとは、V⊆Wで
あって、
S(v)=T(v) (v∈V)
を満たすことをいう。
(同じことをTはSの制限であるといい、S|V=Tと書く。)
Eの変数の集合をVar(E)と書くと、Var(E)⊆Var(F)のと
きFの真理値割り当てSのVar(E)への制限S|Var(E)のこ
とを我々は簡単にS|Eと書く。
CNFの構成
基礎: Eがリテラル → F=E
帰納: E1, E2はそれぞれ
F1=g1∧g2∧…∧gp
F2=h1∧h2∧…∧hq
に変換されるとする(帰納法の仮定)。ただし、F1,F2
に現れる変数はEに表れるものを除いて異なる
ものとする。このとき
E=E1∧E2 ⇒ F=F1∧F2
E=E1∨E2 ⇒ F=(y+g1)(y+g2)…(y+gp)
∧(¬y+h1)(¬y+h2)…(¬y+hq)
第2ステップの3の証明(1/3)
TがEを充足⇔Fを充足するS(Tの拡張)が存在
を|E|に関する帰納法で示す。
基礎:|E|,=1または2のとき。F=Eであるから明らか。
帰納:
場合1: E=E1∧E2
(⇒)TがEを充足すると仮定する。T1=T|E1,T2=T|E2とする。T1はE1、
T2はE2を充足する。帰納法の仮定から、T1の拡張S1でF1を充足
するもの、T2の拡張S2でF2を充足するものが存在する。S1∪S2(S1
とS2それぞれの定義域の和集合上で定義され、S1の定義域上で
S1と、S2の定義域上でS2と一致する関数。定義からF1とF2が共通
に持つ変数はEのものに限るので定義域が重なる部分ではTに
一致する。)をFの真理値割り当てSとする。SはF1とF2を充足す
るのでF=F1∧F2を充足する。
(<=)Tの拡張SがFを充足すると仮定する。S1=S|F1,S2=S|F2とする。
F=F1∧F2であるからS1はF1を、S2はF2を充足する。S1はT1の拡張で
ありS2はT2の拡張ゆえ、帰納法の仮定により、T1はE1、T2はE2を
充足する。よってTはEを充足する。
第2ステップの3の証明(2/3)
場合2: E=E1∨E2
(⇒)TがEを充足すると仮定する。TはE1を充足するか、ま
たはE2を充足する。E1を充足する場合、帰納法の仮
定からT1の拡張S1でF1を充足するものが存在する。T
の拡張Sを次のように構成する。
1. x∈Var(F1)に対してS(x)=S1(x) (これによりF1=1)
2. S(y)=0
3. x∈Var(F1)-Var(F2)に対しては1でも0でもよい。
F=(0+g1)(0+g2)…(0+gp)(1+h1)(1+h2)…(1+hq)
=g1∧g2∧…∧gp=F1=1
ゆえにSはFを充足する。E2を充足する場合も同様。
(S(y)=1)
第2ステップの3の証明(3/3)
(<=)Tの拡張SがFを充足すると仮定する。
S(y)=0または1である。
S(y)=0の場合はF=g1∧g2∧…∧gp=F1ゆえSはF1を
充足する。S1=S|F1と書くと、S1はF1を充足す
る。したがって帰納法の仮定によりT1=T|E1
はE1を充足する。
E=E1∨E2であるからTはEを充足する。
S(y)=1の場合も同様。
(3の証明おわり)
第2ステップの2の証明
場合1および2のいずれにおいても、EからE1, E2をつくる手間とF1,
F2からFをつくる手間は線型の時間。長さnのEからFを構成す
るのに要する時間T(n)は次の漸化式に従う。
T(1)=T(2)≦e
e:定数
T(n)≦dn + max(T(i) + T(n-i-1))
T(i)はE1からF1, T(n-i-1)はE2からF2
帰納法で∃c∀n.T(n)≦cn2を示す。
基礎:n=1,2のときc≧eのようにcを選ぶ。
帰納:n≧3のとき,帰納法の仮定から
T(i)≦ci2,T(n-i-1)≦c(n-i-1)2ゆえ、
T(i)+T(n-i-1)≦c(n2-2i(n-i)-2(n-i)+1)
n≧3, 0<i<nから、2i(n-i)>n, 2(n-i)>2となる。 このとき、
T(i)+T(n-i-1)≦c(n2-n-2+1)<c(n2-n)
T(n)≦dn + c(n2-n)=cn2+(d-c)n
d≦cのようにcをえらべばT(n)≦cn2となる。(証明おわり)
3SATはNP完全
[証明]SATがNPに属すゆえ3SATもNPに属す。
CSATから3SATへの還元を次で定義する。
CSATの式E=e1∧e2∧…∧ekが与えられたとき、
各eiに対して下で定義する置き換えを行うことでF
を構成する。各々の場合について、Eに対する
真理値割り当てがEを充足するための必要十分
条件がその割り当ての拡張でFを充足するもの
が存在することであることを示す。
1. eiが一つのリテラルのとき。たとえば(x)の場合。二
つの変数u,vを導入して、
(x+u+v)(x+u+¬v)(x+¬u+v)(x+¬u+¬v)に置き換える。
これを充足するにはxが真であることが必要十分。
したがって、Eを充足する真理値割り当てはFを充
足する拡張を持つ。また逆も成り立つ。
3SATのNP完全性の証明(つづき)
2. eiが二つのリテラルのとき。たとえば(x+y)の場合。一
つの変数zを導入して、(x+y+z)(x+y+¬z)で置き換え
る。これを充足するにはx+yが真であることが必要十
分。
3. eiが三つのリテラルのとき。すでに3-CNFなのでその
まま。
4. m≧4に対して、ei=(x1+x2+…+xm)のとき、y1,y2,…, ym-3
を導入して、(x1+x2+y1)(x3+¬y1+y2)(x4+¬y2+y3)…
…(xm-2+¬ym-4+ym-3)(xm-1+xm+¬ym-3)
で置き換える。Eを充足する真理値割り当てTがxjを充足
するとする。このとき、y1,y2,…, yj-1をすべて真、
yj,yj+1,…, ym-3をすべて偽にすれば、置き換えた項は
充足される。Tがすべてのxiを偽にするとき、置き換え
た項は充足できない。
変換に要する時間は明らかに線型。(証明おわり)
3SATから判るNP完全問題
•
•
•
•
•
独立集合問題(IS)
頂点被覆問題(NC)
有向ハミルトン閉路問題(DHC)
(無向)ハミルトン閉路問題(HC)
巡回セールスマン問題(TSP)
独立集合問題(IS)
定義:
無向グラフGの頂点集合の部分集合IはIに属すど
の2点もGの辺で結ばれないとき独立集合という
問題:与えられた無向グラフGがサイズkの独立集
合を持つか?
還元のもとになる問題:3SAT
3SATをISに還元
E = e1∧e2∧…∧em を3-CNFとし、ei=(ai1+ai2+ai3)とする。
これを下図のような無向グラフGに還元する。
図で列は項に、列中の頂点はリテラルに対応する。
列中の頂点はすべて互いにつなぎ、同じ変数からなる
リテラルで正と負のものはつなぐ。(m2程度で可)
[1,1]
[j,1]
[i,1]
[m,1]
aj1=¬xp
[1,2]
[i,2]
[1,3]
[i,3]
[m,2]
ai2=xp
[m,3]
Gが頂点数mの独立集合をもつ
⇒Eが充足可能
IをGの独立集合としその頂点数がmであるとする。
Eに対する真理値割り当てTを次のように定める。
T(x)=1
([i,j]∈I, aij=x)
T(x)=0
([i,j]∈I, aij=¬x)
T(x)=なんでも
([i,j]∈I)
このとき、Iの要素は各列に高々1個(同じ列の頂点は
つながっているから。)したがってm個を選ぶにはす
べての列に少なくとも1個なければならない。
Tは矛盾することはない。(aij=x かつakl=¬x ならば辺
([i,j],[k,l])により、[i,j]と[k,l]の両方がIに属すことは
ない。)
Eが充足可能
⇒Gが頂点数mの独立集合をもつ
Eを充足する真理値割り当てをTとする。Eの各
項からTで真になるリテラルを1つずつ選び、
それらに対応するm頂点を集めたものをIとす
る。
Iは独立集合。辺([i,j],[k,l])が存在すると仮定す
る。[i,j],[k,l]に対応するリテラルはx,¬x(順不
同)。真になるリテラルだけを集めたことに反
する。
頂点被覆問題(NC)
定義:
無向グラフGの頂点の集合で任意の辺の端点の少な
くとも1つを含むものを頂点被覆という
問題:与えられた無向グラフGがサイズkの頂点被覆を
持つか?
還元のもとになる問題:IS
独立集合と頂点被覆
グラフG=(N,E)の頂点集合の部分集合をIとす
る。Iの補集合N-IをCとする。このとき、
Iが独立集合⇔C頂点被覆
示せ
有向ハミルトン閉路問題(DHC)
問題:
有向グラフGのすべての頂点をただ一回だけ
通る閉路が存在するか?
還元のもとになる問題: 3SAT
3SATをDHCに還元
F = e1∧e2∧…∧ek を3-CNFとする。
ej = (aj1+aj2+aj3) (j=1,…,k) ajlはリテラル
xi (i=1,…,n)
Fに出現する変数
xi (i=1,…,n) に対して、
H1
ai
Hi
bi0
ci0
bi1
ci1
Hi
cimi
di
miはxiの個数(出現回数)
と¬xiの個数の多い方
…
…
bimi
H2
Hn
ej (j=1,…,k) に対して、グラフIjを構成
rj
sj
tj
uj
vj
wj
Ij
Ij
ej = (aj1+aj2+aj3)
aj1が負
aj1が正
bik
cik+1
…
bip+1
cip
…
bip
cik
rj
sj
tj
rj
sj
tj
uj
vj
wj
uj
vj
wj
Hg
変数の添字がiならHiに接続
…
ej = (aj1+aj2+aj3)
aj1= ¬xi
aj2= ¬xg
aj3= xh
Hh
rj
sj
tj
…
uj
vj
wj
Hi
Hg
Hh
すべてのIjを接続
…
…
I1
Ij
…
Hi
Ik
G
F 充足可能⇒閉路存在
ai
ai
H1
bi0
ci0
bi1
ci1
bi1
ci1
cimi
bimi
di
H2
…
bimi
…
ci0
…
bi0
cimi
di
Hn
Ijの性質
• rjに入る道は6つの頂点を1回ずつ通ってujか
ら出る。sj,tjも同様。
rj
sj
tj
Ij
uj
vj
wj
F 充足可能⇒閉路存在
bip
…
bip+1
cip
rj
uj
sj
vj
tj
wj
すべてのjについて
aj1,aj2,aj3のいずれかは真。変数
への真理値割り当てが1でリテ
ラルが正であるか真理値割り
当てが0で負のリテラルである。
これは真になるリテラルの変数
をxiとすると、Hiが赤でIjとの結
合も赤であるか、Hiが青でIjと
の結合も青であることを意味す
る。
このとき、辺cip→bip+1のかわり
にcipからrjに行き、ujから
bip+1にもどる道を通ってよい。
H1
I1
…
H2
Ij
…
…
Ik
Hn
接続先は同じ色
閉路存在⇒F 充足可能
ハミルトン閉路が存在すると仮定する。 Ij のすべての頂点
を訪れることから
ci → rj → bi+1 または bi → rj → ci+1
が存在。
ci → rj → bi+1 の場合
ciから出るためには bi → ci (そうでないとbiが到達不
能)ゆえに Hpは赤すなわち、
∀i. bi → ci
いま T(xp)=1とする。まず、ci → rj
としたのはaj1=xpが正のリテラルであったからであった.
よってaj1=1 すなわちei=1
すべてのIj について同じことが言える。よって
F=e1∧...∧ep=1
無向ハミルトン閉路問題(HC)
問題:
無向グラフGのすべての頂点をただ一回だけ
通る閉路が存在するか?
還元のもとになる問題: DHC
DHCをHCに還元
有向グラフGdを無向グラフGuに変換する。
v
v(0)
w(0)
v(1)
w(1)
v(2)
w(2)
w
Gdに閉路があればGuに閉路があることは自明。
逆にGuの閉路の添字は012012…の順かその逆。
一方を選んで20の辺を有向辺とすればよい。
巡回セールスマン問題(TSP)
問題:
辺に整数の重みをもつ無向グラフGが重みの
和がk以下であるようなハミルトン閉路を持つ
か?
還元の元になる問題: HC
証明: (容易)
取り上げなかった話題
• 領域計算量 (11章)
• 帰納関数論
– 渡辺治,米崎直樹 「計算論入門―計算の基本原
理理解のために」(日本評論社)
• λ計算
– 高橋正子 「計算論―計算可能性とラムダ計算」
(近代科学社)
これから勉強すべきこと
• 数理論理学
– 述語論理 (標準化定理, Gödelの完全性定理,
Gödelの不完全性定理)
• 人工知能(特に推論システム)
– 融合法(resolution)
• プログラミング言語
– Lisp, Prolog, ML
理論計算機科学の分野
•
•
•
•
•
•
型理論 (type theory)
プログラム意味論 (model theory)
プログラム検証 (program verification)
プログラム自動生成 (program synthesis)
計算機代数 (computer algebra)
定理自動証明 (automated reasoning)
理論計算機科学の応用
•
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•
コンパイラ設計(型理論の応用)
言語設計(計算モデル、意味論)
認証技術、電子商取引(推論システム)
セキュアコンピューティング(推論、計算論)
プログラム/システム検証
ハードウエア検証(モデル検査)
CADシステム(計算機代数、定理自動証明)
自動化技術(推論システム)
ゲームプログラム(人工知能)
(おまけ)推進中の研究
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幾何定理自動証明
幾何学的プログラミング言語設計
記号的代数計算の高速化
プログラム仕様抽出の自動化
プログラム検索
計算幾何アルゴリズム検証
将棋の新手発見