プレゼンテーションファイル()はこちら

Download Report

Transcript プレゼンテーションファイル()はこちら

セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
クルージングヨットの風の中での転覆と
沈没に関する実験的研究
by
梅田直哉、堀正寿、青木一紀
(大阪大学)
片山徹、池田良穂
(大阪府立大学)
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
緒言
•
•
•
2003年9月15日、21フィートのクルーザーが琵琶湖
で転覆、沈没し、12名の乗員中7名が死亡した。
このヨットの復原性範囲は110度あるといわれ、また
湖面に特段の波がなかったことからこの転覆の原因は
明確ではなかった。
さらに、転覆しても船内に空気が閉じ込められることか
らこのヨットが沈没したことも謎であった。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
緒言
•
•
•
このため、神戸地方海難審判理事所は、第1著者にこ
の事故原因の鑑定を依頼した。
これを受けて、著者らは、このヨットの復原てこ曲線を
計算し、送風機をもつ試験水槽で1/5.785の縮尺模型
を用いた実験を実施した。
これらの結果と生存者の証言をもとに、このヨットが転
覆、沈没した事故シナリオを推定した。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
事故を起こしたヨット
mast
rudder
tiller
fin keel
ventilator
cockpit
•
•
•
•
•
•
•
•
スループリグ、フィンキール
FRP
クルージングとレース兼用.
長さ : 6.45 m
幅: 2.48 m
軽荷排水量: 1.045 tons
GM: 0.935 m
開口部: コンパニオンウエイ、
ベンチレーター用の穴
companionway
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
琵琶湖
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
•
•
2003年9月15日の事故
16:30
ヨットは船外機を使用してマリーナを出港し
た。大人7名と5名の子供が乗船していた。2名の子供
以外はライフジャケットを着用していなかった。
16:33
ヨットはポートタックのクローズホールドで1
5度風下側にヒールしながら帆走を始めた。8名が
ポート側、1名が中央、3名がスターボ側に位置し、そ
の全員がデッキ上にいた。メンシートはカムクリートに
固定されていた。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
•
•
2003年9月15日の事故
16:49
スキッパーは、タック用意を号令し、ラフし
た。そしてヨットはスターボタックとなったが、新しいタッ
クでの予定のクローズホールドのコースを越えてその
回頭運動は続いた。同時に新しい風下側にヨットは激
しく傾いた。おそらく、何らかの原因でスキッパーがティ
ラーを戻すことができず、またクリートからメンシートを
放すことができなかったためと思われる。
ポート側への大きな横傾斜により、スターボ側デッキ
の大人1名と子供1名はメンセール上に落ち、その後
その他の全乗員が落水し、ヨットは完全に転覆した。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
•
•
•
Accident on 15 September 2003
まもなくヨットは直立状態に復原し始めるが、浸水によ
り船尾は水面下にあった。16:50、ヨットは船尾から沈
んだ。
その日は晴天で、平均風速は7.4 m/sから 8.5 m/s 、最
大風速は11.5 m/s から 11.8 m/sと付近のブイでは観測
されていた。湖面には特段の波はなかった。
大人3名と子供2名は救助されたが、スキッパーを含
め他の乗員は水死または行方不明となった。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
非浸水の復原てこ曲線
GZ (light ship)
GZ (C-cond.)
GZ (A-cond.)
GZ (D-cond.)
GZ (B-cond.)
GZ (E-cond.)
0.6
バラスト重量は軽荷排水量の
31.6 %.
GZ (m)
0.4
0.2
0
-0.2 0
-0.4
45
90
135
180
乗員重量は軽荷排水量の60 %.
-0.6
Heel angle (degrees)
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
船内浸水時の復原てこ曲線
with flooded water
2 m3以上の浸水があると
倒立状態は不安定になる.
0.5
0.0m3
1.0m3
2.0m3
3.0m3
4.0m3
0.4
GZ (m)
0.3
0.2
0.1
0
-0.1 0
45
90
135
180
-0.2
-0.3
Heel angle(degrees)
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験
•
•
•
•
•
転覆から沈没への動的過程を検討するため。
大阪府立大学の送風機つき曳航水槽において。
縮尺1/5.7857 のメンセールつきヨットの相似模型。排
水量、トリム、GMおよび船内配置、板厚を幾何学的相
似に再現。
最初、ヨット模型は横風中で直立状態を保持するよう
に拘束。
次に、一定風速の横風中で拘束を突然取り除くことで、
制御されないタッキングを模擬し、その結果としての運
動を調べた。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験
Moment (N-m)
WGZ (exp)
wind heel moment (V=9m/s)
wind heel moment (V=11m/s)
8000
6000
4000
2000
0
-2000 0
-4000
-6000
45
wind heel moment (V=8m/s)
wind heel moment (V=10m/s)
90
135
180
Heel angle (degrees)
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
事故シナリオ
制御されないタッキングが起こると、転覆が避けられな
い風速は8 m/sとなり、これは事故時の風速の推定値
にあたる。
Restoring Moment (accident)
wind heel moment (V=8m/s)
wind heel moment (V=11m/s)
wind heel moment (V=10m/s)
wind heel moment (V=9m/s)
8000
6000
Moment (N-m)
•
4000
2000
0
-2000 0
45
90
135
180
-4000
-6000
Heel angle (degrees)
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験
一旦転覆すると、キャビン内の空気は閉じ込められる。し
かしながら、フィンキールなど水面上の船体に働く風圧モー
メントにより、ヨットは倒立状態からさらに横傾斜し、バウの
穴ややコンパニオンウエイの一部が水面上に出てくる。す
ると、空気が船内に出始め、水がキャビン内に徐々に入っ
てくる。
2 m3以上キャビン内に浸水すると、
ヨットは不安定となり、復原を始め
る。この過渡状態の間に進むさら
なる浸水により大きな船尾トリム
が発生する。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験
ヨットがほとんど復原すると、コンパニオンウエイは船尾
トリムのため完全に水没する。もしここで船首の穴が閉
じているとき、キャビン内の空気は閉じ込められ、ヨット
は安全であった。不幸にして、船首の穴は開いていた
ため、キャビン内の空気は船首穴から抜けて、このた
めヨットは沈没した。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
模型実験から求めた沈没時間
沈没限界風速 10 m/s
300
bow hole small size
time (s)
250
200
bow hole full size
150
100
50
0
0
5
10
15
wind velocity (m/s)
20
Ship Safety Research Initiative, Osaka University
セーリングヨット研究会
海王丸船上
2007年3月
結論
1) デッキ上に多数の乗員がいたため、ヨットの復原てこは著しく
2)
3)
4)
5)
減少していた。
スキッパーがティラーを戻せずメンシートを緩めることができ
なかったならば、風速 8 m/s 以上でヨットは転覆しうる。
もし風速が 10 m/s以上ならば、倒立からさらなる横傾斜のた
め、空気の排出と水の浸入が起こる。そのキャビン内浸水量
が, 2 m3を越えると、ヨットは復原を始める。
復原したとき、多量のキャビン内の浸水のため、船尾トリムが
起こり、コンパニオンウエイは水没する。もし、船首の穴が開
いていると、その船首の穴から空気が排出され、コンパニオ
ンウエイから水が船内に浸入する。その結果、ヨットは沈没に
至る。
事故時に推定される風速は、上記の転覆および復原に要す
る限界値を越えていた。
Ship Safety Research Initiative, Osaka University