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ビーム放射分光法(BES)を用いた
プラズマ密度揺動計測法の開発
16475 大石鉄太郎
指導教官
田中知 教授
門信一郎 助教授
発表内容

研究の背景

ビーム放射分光法
(BES:Beam Emission Spectroscopy)
の計測原理

実験体系

計測システムの構築と計測結果

まとめ

今後の展望
研究の背景~異常輸送と揺動計測~

磁場閉じ込め方式の制御熱核融合
…高温・高密度のプラズマをいかに安定に
長時間閉じ込めるか?

トーラスプラズマにおける磁力線を横切る方向への
輸送を評価する理論
…新古典拡散理論
(プラズマ粒子間の二体衝突過程に,
トーラス形状に起因する軌道効果を考慮)
⇔実験ではこの理論予測によるものよりも
大きな輸送が観測されている
⇒異常輸送
…プラズマ中の微視的乱流に起因する.

微視的乱流はプラズマの密度,温度,ポテンシャルなどの
揺動となって現れる.
⇒揺動を計測し,プラズマ閉じ込めとの相関関係を
実験的に明らかにする必要がある
トカマクのポロイダル断面
矢印は磁力線を横切る
方向への輸送
研究の背景~密度揺動計測法としてのBES~

密度揺動の計測法(プローブが使用不可となる炉心プラズマ)
– ブラッグ散乱法…短波長の揺動のみ計測可
– 反射法…イメージ計測ができず,波数計測に難
– BES(Beam Emission Spectroscopy)
 長波長(2πρi/a < k⊥ρi < 1,波長にして数cm)の密度揺動計測法として有効
(k⊥:揺動の磁力線と垂直な方向の波数,
ρi:イオンのラーマー半径,a:プラズマのポロイダル半径)
 多点同時計測と結像光学系によるイメージ計測が可能

プラズマ閉じ込め装置へのBESの適用例
– トカマク型…内部輸送障壁形成時,L-H遷移時の密度揺動の減少
→密度揺動と閉じ込め性能との相関を示唆
– ヘリカル型…磁場構造が複雑で観測視線の設置が困難であり,適用例がない.



トカマクとの磁場構造の違いが揺動にどのような形で現れるか?
ヘリカルにおいても揺動と閉じ込めの相関がみられるか?
トカマクとの比較によりトーラスプラズマの物理に対する理解が深まる
⇒文部科学省核融合科学研究所のヘリカル型プラズマ閉じ込め装置
Compact Helical System(CHS)にBESを適用し,
プラズマ中のバルクイオン密度揺動を計測する.



高エネルギーの
中性粒子ビームを
プラズマに入射
→ビーム粒子はプラズマ
との衝突により励起
→発光を伴って脱励起
BESではビーム粒子から
の放射光
(以下Beam Emission)の
光強度の経時変化
=光強度の揺動を観測
ビーム速度による
ドップラーシフトを利用して
バックグラウンドの発光と
区別
BESの計測原理
H0(beam)→ *H0(beam)
collision
*H
0(beam)
→H0(beam)+hν
hν
BESの概念図
S.F.Paul et al., Phys. Fluids B 4(9),
September 1992, 2922-2928
BESの計測原理


計測するプラズマ:水素プラズマ
中性粒子ビーム:水素原子ビーム
(本研究では入射エネルギー25~30keV→水素イオン‐水素原子衝突が支配的)


Beam Emission:水素原子Hαスペクトル(656.285nm)
Beam Emission強度Iは衝突輻射モデルより次式で与えられる.
A:アインシュタインの自然放射係数
S:<準位kから準位3への衝突励起・脱励起レート係数>×<準位kの水素原子密度>の総和
D:準位3から他準位への衝突励起・脱励起レート係数の総和
A31
ni S3 (nbeam,  v )
 h  V   / 4
A31  A32 1  ni D3 ( v ) / A3
~
 n~i n~beam

I
1
~ 

 F  ,
,  v  (T , T )   
I
1  ni D3 / A3 
 ni nbeam
 
I
データ解析により除去
~
~
n
I
 i
I
ni
ビームエネルギーにより決定
~
~
n
I
i
I をもって ni を評価することで定性的な議論を行い,
定量化が必要な場合には定常状態でのパラメータを用いて定係数αを計算する
実験装置:CHS(Compact Helical
System)

装置諸元
主半径:1000mm
平均小半径:200mm
ポロイダルモード数:2 トロイダルモード数:8
磁場配位:ヘリオトロン/トルサトロン
閉じ込め磁場:最大2T

プラズマの生成:電子サイクロトロン
共鳴加熱(ECH,53GHz)

加熱:中性粒子入射装置(NBI)×2,
イオンサイクロトロン加熱装置(ICRF)

プラズマの典型的なパラメータ
電子密度:1013cm-3
電子温度:1keV
放電時間:200ms

NBI#2
加速電圧25~30kV
水素原子ビーム
CHSにおけるコイルの配置
NBIと観測視線の配置
径方向の分解能が最大となるように,
ポート形状を工夫して磁力線と平行に
観測視線を設置
Port1
Port2
BES計測
分光器計測
干渉フィルタ
分光器
APD
CCD
top view
Beam Emission Beam Emission
強度の経時変化 の波長
(時間分解計測) (時間積分計測)
ファイバコア径
880μm×16本
ファイバコア径
200μm×50本
BES計測では16本の
観測視線のうち8本を使用
…空間分解能22mm, k⊥<0.14mm-1
port2(分光器計測)
port1(BES計測)
lens
mirror
port1,port2ともファイバアレイがプラズマ中の同一のポロイダル断面に結像
BES計測用Beam Emission 検出システムの構築

ドップラーシフトしたBeam Emissionを
バックグラウンドの発光と区別
…分光器→光量の減衰が大きい
(時間分解不可)
…干渉フィルタ
→透過波長中心で透過率は50%程度

ビームエネルギーの変動に伴い
Beam Emission波長が変化
…干渉フィルタのFWHMは0.5nm
…Beam Emissionの波長がフィルタの
透過波長中心からずれると
光量の減衰が大きくなる
⇒フィルタの温度を制御することで
透過波長中心を微調節
・ヒーター出力調節による温度制御
・サーミスタ抵抗値計測による温度モニタ

フィルタの透過波長中心と
サーミスタ抵抗値の較正が必要
BES用Beam Emission 検出システムの構築
フィルタの透過波長中心と温度モニタ用サーミスタ抵抗値との較正

8本の観測視線について,ビームエネルギー
25~30keV の変動に伴うBeam Emission波長
の変化を概算

フィルタ温度を30~60℃と変化させることで,
透過波長中心を概算したBeam Emission の
波長に対応させることのできるフィルタを採用
increasing temperature
連続光を8個の干渉フィルタに
入射し,温度を変化させながら
透過波長とサーミスタ抵抗値を
同時に測定
フィルタを透過した光の波長プロファイル(1ch)
分光器を用いたBeam Emission計測実験

BES計測におけるBeam Emission
波長推定のための波長モニタ実験

NBI入射時のプラズマからの
発光をport2より観測
→分光器で分光
→CCDカメラで撮影
→放射光強度の
波長プロファイルを得る

分光器入射側スリットの
ファイバ48本中
-観測視線からの光×12本
-Ne lampの光×12本

放電開始後40~110msecの
プラズマからの発光を撮影
分光器を用いたBeam Emission計測実験
Beam EmissionのCCDイメージ
R=1098
R=1013
R=936
NBIのイオン源で加速された
H+,H2+,H3+が中性化されH0に
⇒ Beam Emission はE,E/2,E/3 の
運動エネルギーに対応する
ドップラーシフトを持つ

ビームと視線の交わり角θは
コア付近>境界付近
⇒境界付近の方がコア付近よりも
大きくblue shiftして,Beam Emissionの
波長がより短波長になる
sightline
core
beam
θθ
edge
edge→

←core
分光器を用いた
Beam Emission計測実験
前半のまとめ

フィルタ分光を用いたBES計測システムを構築した.
構築したシステムにおいてビームエネルギーの変動に対応
したBeam Emissionの検出法として用いる,フィルタの温度
コントロールによる透過波長中心の制御の評価を行った.

分光器とCCDカメラを用いたBeam Emission計測システムを
構築し,Beam Emissionを検出した.Beam Emissionの波長
は観測領域の空間位置に依存することが確認された.
フィルタの透過波長中心をBeam emissionの波長に合わせることで,
Beam emissionをフィルタ分光し
光強度の経時変化=揺動を観測することが可能
BESを用いた密度揺動計測
‐実験条件-

放電条件
– ECH:20~40ms
– NBI#2:35~140ms
– 水素ガスパフ:50~140ms

パラメータスキャン
– 磁気軸位置Rax
…888, 899, 921, 949(mm)
(ne~2.0×1013cm-3でほぼ一定)
– 線平均密度ne
…0.5, 1.5, 2.0, 3.0(×1013cm-3)
(Rax=921mmで固定)

データ解析法
– 1次元FFTによる
周波数スペクトル解析,
および揺動レベルの算出
– 2次元FFTによる
波数‐周波数スペクトルS(k,f)解析
代表的な放電波形(#100635)
(a)ECHおよびガスパフ
(b)NBI#2の加速電圧
(c)ミリ波干渉計により計測された線平均密度
BESを用いた
密度揺動計測
Rax=888
Rax=921
Rax=899
Rax=949
‐磁気軸位置の変化‐
ファイバアレイが結像する
ポロイダル断面における磁気面
(小さい丸はBES観測視線)
Rax小:内寄せ
…粒子軌道が磁気面と一致
 Rax大:外寄せ
…磁気井戸の形成,
MHD的に安定
⇒グローバルな閉じ込めに
どう寄与するか?

一番外側の観測視線で計測された
Beam Emission強度の経時変化
…主にプラズマ密度の経時変化に対応
BES計測におけるデータ処理法
‐周波数スペクトル解析Rax=921
R=1018
解析区間
サンプリング間隔4μs/point
FFT一回につき1024points演算
積算10回
⇒70~110msの40ms間を解析

Itotal:プラズマにビームを入射した時のBeam Emission強度の経時変化
(主にプラズマ密度の経時変化に対応)
 Stotal:プラズマの密度揺動+ビームの揺動のパワースペクトル
Sbeam:プラズマなし,ビームの揺動のみのパワースペクトル
⇒Sfluc= Stotal- Sbeam:プラズマの密度揺動パワースペクトル
※厳密にはプラズマの有無によるBeam Emissionの素過程の差異を吟味する必要あり
BES計測におけるデータ処理法
-揺動レベルの定義-
解析区間
~
I
1

I f max  f min
f m ax

f m in
S fluc( f )
df
2
( Itotal  Ibeam)
…空間方向8chについて算出
‐Itotal:解析区間中のItotalの平均値
‐Ibeam:解析区間中のIbeamの平均値
fmax:100kHz …APDのカットオフ周波数
fmin:10kHz…DC成分をカット
揺動レベルの
径方向分布


いずれの磁気軸位置,
密度でも周辺部で揺動
レベルが増大
…トカマク型における
結果と一致
磁気軸スキャン計測の結果
パラメータの変化による
揺動レベルの差異に
ついての検討は
今後の課題
密度スキャン計測の結果
BES計測におけるデータ処理法
•2次元FFT解析,S(k,f)
‐S(k,f)スペクトル解析スペクトルの等高線表示
•波数kは揺動の
波長λを用いて
k=2π/λ(mm-1)と定義
•観測領域全体を
x→k FFT
…観測領域内での
空間分解は不可
位相速度v=2πf/k
•f/k=const.となる
尾根線が観測されれば
揺動伝播の位相速度
v=2πf/kが算出可能
Beam Emission
(正,負の周波数は
強度の経時変化
それぞれ外側,内側への
I(x,t)×8ch
伝播)
複素周波数
スペクトル
S(x,f)×8ch
波数‐周波数
スペクトル
S(k,f)
磁気軸位置を変化させた時のS(k,f)スペクトル



Rax=888
#100653
Rax=921
#100635
Rax=899
#100643
Rax=949
#100656
波数領域,周波数領域に広がりを持つ乱流スペクトル
波数の広がりはkr~0.03を中心に0<kr<0.06
周波数の広がりは磁気軸位置によって変化
(Rax=899mmでは-30kHz<f<30kHz,Rax=921mmでは-50<f<50kHz)
密度を変化させた時のS(k,f)スペクトル
ne=0.5×1013cm-3
#100608
ne=2.0×1013cm-3
#100611
ne=1.5×1013cm-3
#100609
ne=3.0×1013cm-3
#100613


周波数の広がりは-50kHz<f<50kHz
低密度ではkr~0.03のピークが見られない
測定結果についての考察
磁気軸位置,密度といったパラメータの変化によって
S(k,f)スペクトルの形状に変化が見られる場合があった.
⇒S(k,f)スペクトルの形状をより詳細に観測することで,
その変化がどのような物理現象を表しているかについての
情報が得られる可能性がある(今後の検討課題)


今後スペクトルの形状をより明確に観測するために
– 光学系の最適化
– 信号処理法の検討,特に波数方向
 相関法
 最大エントロピー法
まとめ

分光器とCCDカメラを用いたbeam emission計測システムを構築
してbeam emissionを検出し,beam emissionの波長および強度
を見積もった.

フィルタ分光を用いたBES計測システムを構築した.また,構築
したシステムを用いてフィルタの温度コントロールによる透過波
長中心の制御の評価を行ったのちBES計測を行い,プラズマの
密度揺動信号のファーストデータを取得した.

磁気軸位置および電子密度をパラメータとしてBES計測を行い,
密度揺動レベルの空間分布を得た.密度揺動レベルはプラズマ
の周辺部で増大することを確認した.

波数‐周波数空間における密度揺動のパワースペクトル解析を
行い,周波数方向,波数方向に広がりを持つ乱流スペクトルが
観測された.

計測法の確立
今後の展望
– 検出器についての検討
 高サンプリングレートの検出器を用いて高周波数の揺動を計測する
– 光学系の最適化
 計測チャンネルの増設,空間分解能の向上
 観測体積の増加,信号強度の向上
– データ解析法についての検討
 スペクトル抽出法の検討
 観測体積中に含まれる磁力線の向きを詳細に調べ,
観測視線の線積分効果の影響を明らかにする
– 長期的展望
 文部科学省核融合科学研究所の大型ヘリカル型プラズマ閉じ込め装置
Large Helical Device(LHD)へのBESの適用可能性を検討する

プラズマ物理の探求
– 揺動レベルの径方向分布やS(k,f) のパラメータ依存性についての検討
 揺動理論との比較
 他の計測法によって得られたデータとの比較
– 閉じ込め改善と揺動との相関関係についての検討
 輸送障壁形成時の揺動を計測