宇宙マイクロ波背景放射実験と低温工学

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Transcript 宇宙マイクロ波背景放射実験と低温工学

宇宙マイクロ波背景放射実験
と低温工学
2008.12.24
超流動ヘリウム冷却システム技術調査研究会
高エネ研 都丸 隆行
問題
ロケットでいくつかの物質を宇宙空間に運んだとき、次のどれが
達成できるでしょうか?
(周囲には何も無い深宇宙空間、ガスの圧力は1気圧とします。)
↑
答え: 液体Heができる。
宇宙空間の温度 = 2.725 K
= 宇宙マイクロ波背景放射の温度
WMAP衛星
2.7Kへ
Thermal Radiator
太陽からの輻射シールド
1.宇宙マイクロ波背景放射(CMB)とは
ビッグバン宇宙論 (ガモフ、1948)
宇宙に存在する物質の73 wt%は水素、24 wt%はヘリウム、
これより重い元素はわずか3 wt%である。なぜ?
→ 宇宙初期に高温の火の玉状態が存在すれば、核反応で
効率よく軽元素を合成できる。
物質と光の
高温スープ状
宇宙
宇宙の晴れ上がり
宇宙膨張
→ T = 3000K
宇宙誕生から38万年後
“透明な”宇宙
光が直進出来るよう
になる
T=3000Kで放射された電磁波は、宇宙膨張と共に波長が引き延ばされる。
ビッグバン宇宙論からの帰結
→ 現在の宇宙では、プランク分布(黒体輻射)を持つ、
温度〜5Kのマイクロ波となっているはず。
全宇宙はこのマイクロ波で充たされている!
・1947年
・1951年
・1960年
・1965年
コンビントン(カナダ)
田中春夫(名大)
ディッケとウィルキンソン(米国)
ペンジアスとウィルソン(米国)
空
宇宙の温度が < 5K であることを
示した。
名大グループ(1951)
基準光源1(常温300K)
基準光源2(600K)
Calibrationの温度が高かった。
温
度
Tめい
2
T1
T空
強度
1965年 ペンジアスとウィルソン
基準光源1 基準光源2
空
(液体ヘリウム4K)
(300K)
波長7.3cm線の通信アンテナで宇宙から一様に
降り注ぐ電波を発見。
温
度
T1
T2
T空
求められた温度 3.5K
Calibration 温度が十分
低かったのが勝因
1978年ノーベル賞
1989年 COBE衛星
キレイな黒体輻射であることを確認
温度は2.725K
ダイポール成分
(地球の固有運動)
は除去
DMRによる温度差計測 ΔT = 10μKで温度分布が存在することを確認。
宇宙の誕生からわずか38万年後には、宇宙の階層構造を作るタネが存在した!
(重力不安定説の根拠)
2006年度ノーベル物理学賞
2001 WMAP衛星
温度揺らぎの空間分布
パワースペクトラム解析
特徴的なピークの形状・大きさから
様々な宇宙論パラメータを決定できる。
音地平線:音速で到達できる限界領域
再結合期の音地平線の大きさは、
現在で0.8°(〜月の視直径)
64GHzで0.2度角の極めて高分解能のCMB
温度分布測定を達成
再結合期の
音地平線
WMAPのもたらした驚くべき事実
宇宙の組成
ダークエネルギー
74%
宇宙の年齢
137 ± 2 億年
宇宙の晴れ上
がり時刻
37.9 +0.8 -0.7
万年
ハッブル定数
0.72 ± 0.05
宇宙物理学は精密観測の時代に
入ると共に、さらなる謎も深まった。
ダークマター 22%
通常物質 4%
2. CMBによる原始重力波探査
WMAPによるCMB偏光の観測
CMB Eモード
→ CMBの偏光情報から宇宙を探ることが
次の大きな課題
B. Winstein
基本的なメカニズム:トムソン散乱
ここ10年くらいの理論的研究で分かってきたこと:
CMBの偏光には、インフレーション時に放射された重力波の
情報が刻まれている!
重力波のみで生成可能な特徴的な
偏光分布パターンを生じる
トムソン散乱(Eモード)
重力波(Bモード)
なぜそれほどCMB Bモードが重要か?
宇宙の歴史
宇宙を語る言葉
A. Einstein
一般相対性理論
(古典論)
・特殊相対性理論(1905)
〜 光速に近い等速運動を記述した
座標変換の理論
・一般相対性理論(1916)
〜 重力の理論
ニュートンの重力理論(1687)
m
万有引力(力学)
m
一般相対論
m
時空の幾何学
インフレーション時に放射された重力波 → 量子重力理論
3. Lite BIRD計画
現在米国を中心に地上のミリ波望遠鏡でCMB B modeを検出しようとする計画が乱立中。
しかし、本格的な観測のためには、人工衛星が必用。
今年、KEK素核研を中心に
宇宙物理実験グループが
誕生
世界に先駆けてCMB B
modeの検出を行うため、
10年後の人工衛星打ち上
げを目指す。
Group members
Name
Institution
Hideo Matsuhara
JAXA
Kazuhisa Mitsuda
JAXA
Tetsuya Yoshida
JAXA
Yoichi Sato
JAXA
Hiroyuki Sugita
JAXA
Hirokazu Ishino
Okayama Univ.
Atsuko Kibayashi
Okayama Univ.
Tomotake Matsumura Caltech
Adrian Lee
UC Berkeley
Izumi Ota
Mitsuhiro Yoshida
Nobuaki Sato
Kazutaka Sumisawa
Osamu Tajima
Masashi Hazumi
Toshikazu Suzuki
Takayuki Tomaru
Masaya Hasegawa
Takeo Higuchi
Eichiro Komatsu
Yoshinori Uzawa
Yutaro Sekimoto
Takashi Noguchi
Makoto Hattori
Chiko Otani
Role*
JAXA PI, orbit, scan
PSD
Tests with Baloons
Thermal engineering
Thermal engineering
DAQ, PSD
Simulation
Orbit, scan, optics
PI for foreign institutions,
PSD, modulation scheme
Kinki Univ.
Evaluation of optics
KEK
Optics
KEK
Simulation
KEK
PSD
KEK
systematic errors
KEK
PI
KEK
Thermal engineering
KEK
Thermal engineering,
modulation scheme
KEK
Tests with baloons
KEK
DAQ
UT Austin
Science
NAOJ
PSD
NAOJ
PSD
NAOJ
PSD
Tohoku Univ.
Foregrounds,
systematic errors
RIKEN
PSD
*Roles should not be restricted
to those listed here.
Consultants
(no duty on real work)
Name
Institution Role
Cf.
-------------------------------------------------------------------Takao Nakagawa JAXA Satellite
SPICA PI
Shuji Matsuura JAXA Satellite
Hideo Kodama KEK Science
theorist
Ryohei Kawabe NAOJ optics, PSD ASTE
member
---------------------------------------------------------------------
今年10月にJAXAへWorking Group申請
↓
承認
LiteBIRDの感度曲線
Figure by
Yuji Chinone
LiteBIRDの特徴
赤外線天文衛星SPICAと同様の無冷媒クライオスタット
方式を採用予定。
・ 小型衛星
ミッション部 < 200kg
トータル < 400kg
消費電力 < 500W
・ 周波数帯域
90GHz, 150GHz, etc
・ 軌道
L2 or 太陽同期軌道
・ Sensitivity
Total NET < 1μK/rHz
→ 超伝導ディテクター
1000ch detector Array
LiteBIRDの冷凍システムの素案
SPICAの冷凍システムに準拠したもの
を想定している。
2段 Sterling
90K
こんな感じか?
20K
2段 ADR
〜2K
・ TESだと漏れ磁場に弱い。
3He JT
→ 十分な磁気シールドが必用。
・ 振動対策
・ 小電力
・ Radiative Coolingの十分な活用。
・ 十分な輻射シールド
などなど。
〜0.5 K
〜0.1 K
4. LiteBIRDへ向けた低温・超伝導のR&D
(1)超伝導ディテクター
クーパーペアの壊れやすい性質を利用した、非常に高感度のディテクタ。
フォトンカウンティングを可能にする。
材質(エネルギーギャップ)の選択により
マイクロ波領域からガンマ線領域まで、
様々な帯域のセンサーを作ることが可能。
・熱型(転移端センサー, TES)
・電子対解離型(STJ)
・超伝導ミキサー
・マイクロ波インダクタンスセンサー
① Transition Edge Sensor(TES, 転移端センサー)
1940年代に開発。
1990年代にようやく実用化。
A. Lee
TESボロメータの長所
・すでに実用化フェーズにある。
・大きなアレイ数のディテクタが可能。
TESボロメータの短所
・SQUIDが必用。
・応答があまり早くない。
A. Lee
カリフォルニア大学
バークレー校
(PolarBEAR project)の
Antenna Coupled TES
Al/Ti bilayer, Tc=0.4〜0.6K
LiteBIRDはU.C. Berkley
と提携し、TESボロメータ
を導入する予定。
レンズレット
Antenna Coupled
TES
• 40 single-color dual-pol pixels (4 wedges = 320 bolos)
• 90 (15 pixels), 150 (15), 220 (10) GHz
• Optical testing started
② Superconducting Tunneling Junction(STJ)
STJの長所
・応答が速い
・カバーできる周波数帯域が広い(Al STJでは40GHz以上)
・漏れ磁場に強い
KEK・岡大・理研のグループでは、CMB用のAl STJ素子開発を進めている。
アンテナ接続Al/Nb-STJ試作
作成条件が既知のNb/Al-STJで試作
Nb
50 nm
Al
25 nm
S
6~9nm(20Torr X
0.5Hour)
I AlOx
Al
25 nm
アンテナ(Nb)
150 nm
Al2O3
100 nm
S
シリコン基板
アンテナ結合STJ
X線用STJ
Nb/Al-STJ
GNDへ
100μm
ミリ波
クーパー対を
壊して検出
パッドへ
以下の赤で囲んだ部分が
STJ(SIS構造)
Nb配線
Nb(S)
Al(S)/AlOx(I)/Al(S)
Nb(アンテナ)
AlO3(バッファ)
Si基盤
注:Nb配線の下のSiO2は見にくいので省略してある。
段差などは割と適当。
Al-STJ
ミリ波
GNDへ
100μm
クーパー対を
壊して検出
Nb配線
パッドへ
Al(S)/AlOx(I)/Al(S)
Al(アンテナ)
AlO3(バッファ)
Si基盤
STJの振る舞い: I-V図
正しく動作して
いない場合
正しく動作して
いる場合
じゅ
クーパー対も
動けない
準粒子は動けない
Nb/Al-STJの試験
He4デュアーを使ったI-V測定
・ ダイヤ型STJ(100μm)
1.6K
縦軸:10mA/div
1.6K
0.63K
縦軸:50μA/div
縦軸:5nA/div
磁場有り
磁場有り
横軸:1mV/div
横軸:0.2mV/div
横軸:0.5mV/div
リークカレント
5nA@200μV
*40μA (1.6K)
・ アンテナ接続STJ(φ7μm x 2)
1.6K
0.63K
1.6K
縦軸:50μA/div
横軸:2mV/div
縦軸:500nA/div
縦軸:1nA/div
磁場有り
磁場有り
横軸:1mV/div
両方ともうまく作成出来た。
今後:東北理研でミリ波照射のテストを行う。
1MΩ
リークカレント
0.3nA @ 400μV
*180nA (1.6K)
横軸:0.5mV/div
最終的に > 40GHz以上の
広帯域特性を持つAl STJへ
発展させる予定
新しいクリーンルーム
A picture of the experimental
hall in which the clean rooms
were built.
Room A: 15m x 10m (Class 10000)
Room B: 15m x 10m (Class 100000)
Yellow room: 5m x 6m (Class 1000, in Room A)
B
A
Y
Mask aligner (Mar.08)
Sputtering/Etching machines (~Aug.08 from RIKEN)
雑談:「猫用トイレ問題」
米国とメキシコ・カナダ国境では、テロリストによる高濃縮ウランの密輸阻止のため、
厳しいチェックが行われている。
ウラン235から放射される185.7keVのガンマ線を半導体センサーで探査。
しかし、猫用トイレの材料の粘土に含まれるラジウム226が放射する186.1keVの
ガンマ線との識別ができず、国境警備に頭を悩ませている。
超伝導センサーの普及により、国境警備隊は猫が好きになれるかもしれない。
Al STJの性能試験に向け、極低温冷凍機等を整備中
0.3K 3He sorption冷凍機
希釈冷凍機
200mW@100mK
(2) 低温キャリブレーションソースの開発
5. まとめ
・宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は初期宇宙を解明する重要なプローブである。
WMAPにより、宇宙観測は黄金時代を迎えた。
・CMBの偏光計測は、インフレーション時に放射された初期重力波の情報を持っており、
宇宙誕生の謎や量子重力の世界を解明できる可能性がある。
・KEK宇宙実験グループでは、LiteBIRD衛星計画で、この問題に挑む。
・CMBの温度は2.7Kと極低温で、必然的に低温技術が大きな役割を果たす。
・非常に高感度の超伝導センサーが必須で、KEKでは特にSTJの開発を進めている。
U.C. BerkleyではTESの開発で先行している。
・低温キャリブレーターも開発中。
10年後の観測に向け、スタートを切った。ご支援よろしくお願いします。