Transcript 第三章中世の文学
第三章 中世の文学 中世文学の概説 • 動乱の時代 • 1192年の鎌倉幕府の成立から1603年の江 戸幕府の成立までの約四百年間を中世と いう。 • 政権の呼称といえば、鎌倉時代から南北 朝時代、室町時代を経て、安土・桃山時代 に及んでいる。 • 中世は動乱の時代である。保元・平治の 乱に端を発し、平氏滅亡、承久の変、南北 朝の抗争、応仁の乱、戦国時代と、まこと に息つく暇もないくらい戦乱に明け暮れた 時代であった。 • 動乱は、それまでの権力の中心であった 貴族階級を没落させ、新しい勢力として、 武士階級を台頭させた。それは、単なる政 権の交替でなく、社会・経済・文化などあら ゆる面での変革を意味した。しかし、いった ん政権を手にしたかに見えた武士階級も、 まだ不安定であった。中世の争乱の多くは、 武士同士による政権争いである。行き着く ところ、それは下剋上をもたらす。中世は、 ついに安定した政権を持たない。中性は過 渡期の時代であった。 無常観と幽玄 • 動乱と変動は、人々に不安定を与え、そこ から逃れようとして、人々は宗教に救いを 求めた。こうして、新仏教と言われる法然・ 親鸞や日蓮や道元の仏教が、非常な勢い で武士階級や庶民の間に浸透した。仏教 はあらゆる文化の源泉ともなった。日本の 伝統的なものである幽寂枯淡の美とか、 わび・さびとかは、禅宗を抜きにしては考え られない。 • 人々は、また、心の中においてだ けでなく、行動においても現実か ら逃れようとした。彼らは山奥に庵 を結んで孤独閑寂の生活を営み、 多くは仏教的無常観から人生を見 つめて、草庵文学と呼ばれる中世 特有の文学を生んだ。「方丈記」 「徒然草」「平家物語」などは、優 れた無常観の文学である。 • 貴族階級の没落は、文学の面では和歌の 衰退として現れる。この時期の初めに、 「新古今集」が作られたが、それは古典和 歌最後の光彩であった。この集には、動乱 の現実から目をそむけた唯美的な歌が多 く、「幽玄」が理念とされた。しかし、現実か ら遊離した和歌はやがて消え去る運命に ある。勅撰集の撰進も打ち切られた。それ にとって代わるのが連歌である。 • 連歌は、和歌の余興として中古からすでに 行われていたが、盛んになったのは中世 である。それは次第に芸術化され、「幽玄」 を理念とし、「新撰莬玖波集」のような準勅 撰集も撰ばれたが、この連歌も中世だけで 滅んでゆく。貴族化したものはすべて滅ぶ というのが、この時代のさだめであるかの ようである。連歌は、滑稽卑俗を旨とする 俳諧連歌から近世の俳諧へと発展してゆく。 • 動乱は、上下の交替だけでなく、 地方都市の発展から庶民の文化 向上をもたらした。支配権は依然 として武士にあるが、優れた文化 の生産者は庶民であり、描かれる のもまた庶民の姿であった。僧侶 たちは、布教の手段として多くの 説話集を作っているが、そこにと らえられているのは、庶民の心で あり生活である。 • 狂言は、庶民の感情を移している と言われる。それに対し能楽は、 貴族的世界への憧憬が著しいと 言われる。能楽も連歌と同じく「幽 玄」を理念とした。中世は、中古の 「もののあわれ」の理念を発展さ せて「幽玄」に深めつつ、近世の 「さび」へとつないでゆく。