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司法修習プログラム選択型講習 (労働審判手続の概要) 2007 年 8 月 20 日 弁護士 水口洋介

個別労使紛争の増加 と雇用社会の変化

  景気の停滞 → 失われた10年 日本的雇用環境の構造的変化 企業の高コスト体質の変革 ↓ 雇用の流動化・多様化 ↓ 雇用の劣化・不安定雇用の増大 ↓ 個別労働紛争の急増

個別労働紛争決制度施行状況

個別労働紛争解決制度の施行 状況

個別労働紛争の種類

正社員・非正社員の推移 (人数・万人)

正社員・非正社員 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 198 6 198 9 199 2 199 5 199 8 年 200 1 200 4 正社員 数・万人 正社員 数・万人 全体合計 万人

正社員と非正社員の比率推移

90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 正社員 % 正社員 %

労働訴訟事件数の推移 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 1 99 1年 1 99 3年 1 99 5年 1 99 7年 1 99 9年 2 00 1年 年度 通常訴訟事 件新受件数 仮処分事件 新受件数 合計

労働訴訟と労働審判の件数

2500 2000 労働審判, 0 仮処分, 492 1500 労働審判, 0 仮処分, 434 労働審判, 0 仮処分, 433 労働審判, 744 仮処分, 279 1000 500 訴訟, 1610 訴訟, 1658 訴訟, 1562 訴訟, 1288 0 労働審判 仮処分 訴訟 2003年4月~11月 2004年4月~11月 2005年4月~11月 2006年4月~11月 0 492 1610 0 434 1658 0 433 1562 744 279 1288 労働審判 仮処分 訴訟

東京地裁の労働訴訟、労働審 判

労働事件新受件数 900 800 700 労働審判 仮処分 600 500 400 300 200 訴訟 100 0 労働審判 仮処分 訴訟 2003年4月~12 月 0 159 653 労働審判 仮処分 訴訟 労働審判 仮処分 訴訟 2004年4月~12 月 0 170 610 2005年4月~12 月 0 168 547 労働審判 仮処分 訴訟 2006年4月~12 月 258 88 458 労働審判 仮処分 訴訟

東京地裁労働審判の事件種類

その他 5% 残業代 6% 配転命令無効確 認 1% 解雇予告手当 2% 損害賠償 10% 事件種別割合 退職金 10% 地位確認 47% 地位確認 賃金 退職金 損害賠償 解雇予告手当 配転命令無効確認 残業代 その他 賃金 19%

東京地裁労働審判の処理内訳

取下げ 6% 24条終了 3% 移送 0% 処理別件数 審判 17% 調停成立 審判 24条終了 取下げ 移送 調停成立 74%

労働法の役割

 契約自由に対する修正として20世紀に 登場 「社会的連帯を基盤とした労働者保護に よる公正な社会の確立、不幸にして失敗 をした者や老人らを保障する福祉国家の 成立」(R・ドーア氏)

規制改革の流れ -伝統的労働法への挑戦    競争市場における労働契約の自由を妨げる公 的介入は、すでに雇用されている労働者の既 得権を守ることはできても、社会全体の雇用需 要を減らされなかった人々に犠牲を強いるもの となる。 むしろ解雇自由の原則を維持したまま、解雇の 手続き面の規制の明確化を図ることが労働者 の権利を保護しつつ、企業の正社員の採用コ ストを明確化する上でも望ましい。 八代尚宏著「健全な市場社会への戦略」(経財 諮問会議委員)

個別的労使関係法 と集団的労使関係法

 個別的労働関係法 使用者と労働者の労働契約に関する法  集団的労使関係法 使用者と労働組合の団体交渉、労働協 約、争議行為等に関する法

個別労使紛争解決のメニュー

 民事裁判所 → 本訴、保全処分  地方労働局(個別労働紛争解決促進法) → 助言・指導/紛争調整委員会  労働基準監督署(労基法)  労働委員会(労組法) → 個別労働紛争/労調法の調整

各紛争解決手段の特徴

    裁判所 → 遅くて負担重いが、終局的解決。 労基署 → 労基法違反に限定。人手不足。 労働局 → 無料で早いが、実効性疑問。 労働委員会 → 無料で丁寧だが、実効性 疑問。

労働審判の対象事件 ①

 「労働契約の存否その他の労働関係に 関する事項についての個々の労働者と 事業主の間に生じた民事に関する紛争 (個別労働関係民事紛争)」(法 1 条)  労働契約に関する民事紛争が広く含まれ る

労働審判の対象 ②

 利益紛争か、権利紛争か? → 構成次第で利益紛争が権利紛争となる  集団的労使関係を背景とする事件はどう か? → 不当労働行為による地位確認(解雇 等)、賃金請求(賃金差別)等も個人が申 し立てる限り適用対象となる。

労働審判の対象外の事件

  不適法な場合、裁判所が却下(法 6 条) → 不服の場合には即時抗告(法 28 条) 労働組合が当事者となる事件は対象外  募集・応募段階の事件  派遣労働者の事件  公務員関係は対象外  非常勤地方公務員、特定独立行政法人の国家 公務員は?

手続の特徴① -徹底した迅速性

 労働審判手続は、原則として 3 回以内で 審理を終結しなければならない(法 15 条 Ⅱ )」  「早期の主張及び証拠提出」義務 ( 規則 2 条 )  主張及び証拠提出時期は第2回期日ま で ( 規則 27 条 )

手続の特徴② -労働審判委員会

   労働審判委員会は、地裁の裁判官(労働 審判官) 1 名と労働審判員 2 名で構成(法 7 条) 労働審判委員会は、速やかに当事者の 陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしな ければならない(法 15 条 Ⅰ ) 労働審判委員会が評議のうえ決議(法 12 条)

手続の特徴③ -本案訴訟との相違点

 2 回以内で、裁判官と非法律家の両者を 説得する手続  民事裁判の書面主義は通用しない  審判廷での口頭での説得(主張及び立 証)の重要性  調停が組み込まれている

申立ての準備(解雇事件の例)

 解雇理由証明書の請求(労基法 22 条 Ⅱ )  申立書に「予想される争点」と「争点に関 連する重要な事実」を記載する(規則 9 条)  解雇理由に対する反論及び証拠を申立 書第 1 回から提出する  陳述書の要否

賃金請求の場合 -予想される様々な争点 1.

2.

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6.

7.

単純な不払い 懲戒処分による減額 役職(職位)の降格 職務職能給資格制度の降格・降級 同制度の人事査定による減額 成果主義賃金制度による減額 就業規則の不利益変更による減額

予想される争点 -残業代請求の場合

    残業時間の事実認定 管理監督職性 業務指示(残業命令)の有無 裁量労働、事業場外労働のみなし労働 時間制

基礎的な証拠書類

 雇い入れ通知書  労働契約書、雇用契約書  就業規則(賃金規程、退職金規程等)  給与明細、賞与明細  解雇予告書、解雇理由証明書、解雇通知書  雇用保険被保険者証書  タイムカード等(残業代請求の場合)

答弁書の提出

 提出時期 第1回期日の7~ 10 日前  規則 16 条 4 号 予想される争点及び当該争点に関 連する重要な事実 5 号 予想される争点ごとの証拠 6 号 当事者間においてされた交渉その 他の申立に至る経緯の概要

申立後、第

1

回期日前の準備

 答弁書は 1 週間前に提出(規則 14 条)  答弁書に対する反論の準備  口頭での反論のための当事者との周到 な打ち合わせ  当事者と調停の条件などの打ち合わせ

1

回期日の対応①

 申立てから 40 日以内(規則 13 条)   労働審判委員会は、事前に三者で争点 などについて打ち合わせてくる。 手続を指揮は労働審判官(法 13 条)

1

回期日の対応②

 第 1 回期日において、当事者の陳述を聴 いて争点及び証拠の整理をし、第 1 回期 日において行うことができる可能な証拠 調べを実施する(規則 21 条)  答弁に対する反論は、労働審判手続期 日において口頭でするものとする(規則 17 条 口頭主義)

補充書面の位置づけ

 反論をする者は、口頭での主張を補充す る書面を提出することができる(規則 17 条 Ⅰ 後段)  補充書面の提出時期の指定(規則 19 条)  あくまで口頭主義が原則で、口頭で主張 しなかったことを新たに主張できない。

1

回期日での留意点

 民事裁判の第 1 回期日と異なり、実質的 かつ踏み込んだ審理が行われる。    労働審委員会からどしどし釈明と質問が 行われ、当事者審尋が実施される。 口頭主義(規則 17 条) 時間は 1 時間~2時間程度

規則

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条 主張及び証拠提出時期の制限  当事者はやむを得ない事由がある場合 を除き、労働審判手続の第2回の期日が 終了するまでに、主張及び証拠書類の提 出を終えなければならない。  人証調べはどうか?

2

回期日の指定

  労働審判官は、終結できる場合又は 24 条 Ⅰ にて終了させる場合を除き、第 2 回 期日を指定し、当該期日で行う手続と準 備すべきことを当事者との間で確認する (規則 21 条 Ⅱ ) 漫然と期日を続行させない。第 1 回期日 で審理を終結させる緊張感を求められる。

第2回期日の持ち方

 人証調べの実施 → 審尋方式か、交互尋問か → 人証調べの結果の記録  調停の実施  両者は並行的に随時行われる

第3回期日

 新たな主張や証拠調べは行わない。  調停を行うか、労働審判を行う。  必ず第 3 回が実施されるわけではない。

労働審判 ①

 労働審判委員会は、審理の結果認めら れる当事者間の権利関係及び労働審判 手続の経過を踏まえて労働審判を行う (法 20 条 Ⅰ )  当事者間の権利関係を踏まえつつ事案 の実情に即した解決をするための審判 (法 1 条)

比較 民事調停法

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条 (調停に代わる決定)

裁判所は、調停委員会の調停が成立す る見込みがない場合において相当である と認めるときは、当該調停委員会を組織 する民事調停委員の意見を聴き、当事者 双方のために衡平に考慮し、一切の事情 を見て、職権で、当事者双方の申立ての 趣旨に反しない限度で、事件の解決のた めに必要な決定をすることができる。

労働審判 ②

 当事者間の権利関係の確認、金銭の支 払い、物の引き渡しその他の財産上の給 付を命じ、その他解決をするための相当 と認める事項を定めることができる(法 20 条 Ⅱ )  主文及び理由

労働審判 ③-手続

 方式① 主文及び理由の要旨を記載した 審判書の作成(法 20 条 Ⅲ )と送達  方式② 当事者が出頭する期日に、主文 及び理由の要旨を口頭で告知する(法 20 条 Ⅵ )

労働審判 ④ -解雇事件の解決の在り方

 解雇無効の場合、労働関係の終了と金 銭の支払いを命じる審判はできるか。  解雇有効の場合、労働関係終了の確認 と金銭の支払を命じる審判はできるか。  解雇無効の場合、原職復帰を命じる審判 はできるか。

異議申し立て

 労働審判に対しては、 2 週間以内に異議 を申し立てることができる(法 21 条 Ⅰ 書 面の異議 規則 31 条 Ⅰ )  異議を申し立てがあったときは、労働審 判は効力を失う(法 21 条 Ⅲ )

訴え提起の擬制

    異議申立てがあった場合、労働審判の申 立て時に、訴え提起があったものとみな す(法 22 条 Ⅰ ) 地方裁判所に訴訟係属(法 22 条 Ⅱ ) 申立書を訴状とみなす(法 22 条 Ⅲ ) 実際には地裁の第 1 回期日で準備書面 にて整理することになろう。

異議申立による審判の失効 と訴え提起の擬制制度の評価  当事者が異議を申し立てても、訴訟の負 担を覚悟しなければならない。  そこで、安易な異議を申し立てが抑制さ れることが期待される。  労働審判を受け入れて解決が図られるこ との期待。

法24条 Ⅰ 労働審判によらない事件の終了  労働審判委員会は、事案の性質に照らし、 労働審判手続を行うことが紛争の迅速か つ適正な解決のために適当でないと認め るときは労働審判事件を終了させること ができる。  この場合でも訴え提起が擬制される(法 24 条 Ⅱ )

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条は例外規定

  異議申立てがなされることが確実であっ ても 24 条で終了できない。 事案の客観的性質から、「紛争の迅速か つ適正な解決のために適当でない」場合 に限られる。  複雑な事案で立証が極めて困難な場合 で、簡易手続で黒白を決定することが適 当でない場合

調停成立の見込みが高い

 労働審判期日にて調停を行う(規則 22 条)  労働審判までの行き着くよりも、早い段階 での調停成立の可能性が高い。  不調となっても、労働審判が実施される ことのプレッシャーがある。

労働審判に相応しい事件

 理論的問題というよりも、実務家としての 見通し、戦略(戦術)の問題  申立人の本当の要求の見極め → 早期で柔軟な解決を申立人が求めて いるかどうかの見極め  労働組合を背景とした場合でも、仲裁的 な解決を望むケースもある。

労働者側のメリット

 負担が重く本訴まで提起できない労働者 の権利行使を実現する。  重い事件でなく、軽い事件が向いている。  今後は、本人申立をサポートする体制を 準備することが課題

使用者側のメリット

 雇用関係の変化に対応  リスク、コストをかけない早期解決  労働審判委員会(裁判所)の適正な判断 に基づく解決