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X線で暴く暗黒宇宙 --X線天文衛星「すざく」の成果を中心に-- 松本浩典 名古屋大学 理学部Ux研究室 & 現象解析センター (KMI) 1/51 通常の天文学 (乙女座銀河団) ~100万光年 2 /51 X線でみると… 3 /51 目で見る宇宙と、X線の宇宙 宇宙観が変わる! 可視光 銀河団 = 銀河の集団 X線 銀河団 = 数千万度の火の玉 ~100万光年 ©SDSS ©RASS4 /51 天文学の「暗黒」 「暗黒」=人の目に見えない 物質3.6% ニュートリノなど0.4% 暗黒物質23% 暗黒エネルギー73% 宇宙の組成 暗黒物質の分布 暗黒星雲 5/51 X線だって人の目に見えませ ん。 X線で見た宇宙は「暗黒」!? 可視光で見る宇宙と、全く異なる世界をお楽しみ下さい。 6 /51 内容 • • • • • X線とは? X線天文衛星 銀河団 超新星残骸 巨大ブラックホール 7/51 X線の発見: レントゲン(1895年) Roentgen(1845-1923) 1901年ノーベル物理学賞 奥さんの手の写真 8 /51 X線とは? • 発見当初: 正体不明の「X」 • 現代的な見方: 光の一種。ただし「色」が違う。 プリズム実験 虹: 天然のプリズム実験 9 /51 X線=青すぎる光 光の色 = 光の波長 (波長短いと青い) X線の波長: 0.01~1 nm (原子1個程度; 1nm = 1/1000μm) (可視光の波長: 0.4~0.8μm) 携帯電話、テレビ リモコン、こたつ お肌の敵 癌治療 10 /51 光の色と温度(エネルギー) 物体の温度=エネルギーが高いほど、出る光は青い 赤い光 温度低い (~600℃) 青い光 温度高い(~数万度)11 /51 X線の発生:高エネルギー現象 X線 = 青すぎる光 比較: 青白い恒星の表面温度 ~ 数万度 X線を出す物体の温度 1000万度以上=高エネルギー現象。 X線で宇宙を見ると、 極端にエネルギーの高い (変わった、そして面白い)世界ばかりが見える。 12 /51 世界のX線衛星の例 X線は地球大気を貫通できない。人工衛星による観測。 欧米の巨大X線天文衛星 アメリカ: Chandra衛星 ヨーロッパ: XMM-Newton衛星 鮮明なX線画像 微弱なX線天体でも見える 13 /51 日本のX線天文衛星 小型・中型ながら、特色のある衛星を継続的に打ち上 げ、世界をリード。 はくちょう 1979-1985 ぎんが 1987-1991 てんま 1983-1989 あすか 1993-2001 14/51 X線天文衛星すざく(2005年以降) 微弱なX線天体でも良く見える。X線のエネルギー測定も得意。 キトラ古墳 「朱雀」 15 /51 名古屋大学Ux研の貢献:X線望遠鏡 集光能力が高く、しかも軽いX線望遠鏡を開発 明日(8/20) Ux研究室 見学で模擬実験 1616 /51 銀河団からのX線 可視光 銀河団 = 銀河の集団 X線 銀河団 = 高温ガスの塊 ~100万光年 ©SDSS ©RASS 17 /51 X線スペクトル=成分グラフ どんなエネルギーのX線がどれだけやってきたか X線の到来数 乙女座銀河団 (すざく衛星) 銀河団を満たす高温ガスが X線を発生 X線のエネルギー(keV) 18/51 銀河団ガスの温度測定 X線到来数 なめらかにつながる成分(連続成分)に着目。 X線のエネルギー(keV) 19/51 原子のおさらい ヘリウム原子の模式図 • 原子核+電子 – 原子核=陽子+中性子 • 陽子の数で原子の種類が 決まる (周期表) + + - - – 水素: 陽子1個 – ヘリウム:陽子2個 – 鉄:陽子26個etc… • 原子が壊れる(電子が離 れる) + - 陽子 原子核 中性子 電子 – プラズマ状態 • 原子核が壊れる – 核融合、核分裂 20/51 なめらか(連続)成分の起源=電子の熱運動 X線 - - 電子 + + 原子核 - + + • 高温のため、銀河団ガスは、電子と原子核がばらばら – プラズマ状態 • 電子が、原子核によって曲げられて連続成分放出 – 連続成分で、電子の運動=温度がわかる。 2121 /51 乙女座銀河団ガスの温度 X線到来数 連続成分の曲がり方から、約2千万度 銀河団ガスの温度は、 一般に2千万度~1億度 X線のエネルギー 22/51 銀河団高温ガスの質量 Abell85 X線画像+可視光画像 サイズ~1000万光年(~1023m) 連続成分の明るさ(光度) 銀河団ガスの総量 例えば、Abell85の場合、 銀河団ガス~1044kg ~太陽1014個分 ~銀河千個分 Abell85中の銀河数: 数百個 ©CXC 銀河団ガス>銀河 銀河団の実態: 銀河の塊というより、高温ガスの塊(火の玉) 23 23 /51 なぜ銀河団ガスは飛び散らない? ペルセウス銀河団 X線+可視光画像 銀河団の重力で引き止めている。 7万光年=7×1020m ©CXC 銀河団ガスの 熱エネルギー 銀河団の = 重力エネルギー X線観測 でわかる 銀河団の総質量 ペルセウス銀河団の場合、 •銀河団ガス=1044kg •銀河=1044kg •銀河団総質量=1045kg 暗黒物質:見えないが、重力だけ作り出す物質が10倍も存在 24/51 銀河の分布(大規模構造) 銀河の分布はむらむら。濃いところが銀河団。 300万光年 我々の場所 25/51 大規模構造とX線 カラー図: 銀河の分布 大規模構造に沿ってガスが 落下し、銀河団が成長。 緑の部分:銀河が多い 6200万度 2000万度 1500万度 • すざく衛星で銀河団 Abell1689を観測 • 大規模構造につながる 部分の温度が高い 2600万度 1500万光年 川原田など (2010) 26/51 でこぼこ(輝線)成分 X線の到来数 乙女座銀河団 (すざく衛星) X線のエネルギー(keV) 27/51 輝線(でこぼこ)成分=特性X線 電 子 線 や X 線 どんな原子が存在するかがわかる。 28/51 銀河団ガス中の原子 X線の到来数 シリコン 乙女座銀河団 (すざく衛星) アルゴン 鉄 鉄 酸素 硫黄 マグネシウム カルシウム X線のエネルギー(keV) 29/51 重元素の起源は? • 主成分:水素+ヘリウム 酸素 マグネシウム 硫黄 鉄 シリコン カルシウム 鉄 – 98%以上を占める • それ以外の原子が数% – 鉄、酸素、カルシウムetc. – 重元素と呼ぶ。 • ビッグバン直後の宇宙 は、水素とヘリウムばか り。 • 重元素の起源は? 30/51 答え:恒星の燃えカス(核融合) 太陽 核融合でエネルギー発生 燃料: 水素・ヘリウム 燃えカス: 新しい原子(酸素、炭素、鉄など) 31/51 星の最期: 超新星爆発 燃料(水素・ヘリウム)が無くなると、星は大爆発 (アニメーション)32/51 超新星1987A 小柴昌俊 2002年ノーベル物理学賞 1987年2月24日 1987年2月23日 大マゼラン星雲 大マゼラン星雲 33 /51 2002年ノーベル物理学賞 新しい天文学の開拓 ©Nobel Web Ricaldo Giacconi X線天文学 小柴昌俊 Raymond Davis ニュートリノ天文学 34 /51 SN1006 (1006年の超新星爆発) 藤原定家 明月記 すざく衛星X線画像 35/51 SN1006のX線スペクトル 確かに重元素が飛び散っている。 X線の到来数 ネオン 酸素 シリコン すざく衛星 (山口ら 2005) 硫黄 マグネ シウム アルゴン 鉄 カルシウム エネルギー(KeV) 36/51 人間も星の中にいた ある星の中で、人間の体の元(炭素や鉄など)が合成。 超新星爆発で宇宙に飛び散る。 たまたま地球上で固まって我々の身体になった。 37/51 爆発の影響: 宇宙線 • 北側のスペクトルには、連続成分のみ。 – 高エネルギー電子の存在=宇宙線 (宇宙を飛び交う 放射線) 北側 東側 38/51 身の回りへの影響: 宇宙線 超新星残骸から飛 び散った宇宙線 空気シャワー反応 で粒子数増加 39/51 ガイガーカウンターなどで計測 巨大ブラックホールとX線 銀河の中心には、巨大BHが存在する。 乙女座にあるM87銀河 X線写真(チャンドラ衛星) 可視光 ジェット 太陽の1億倍の重さの ブラックホール 40/51 どうしてX線が出る? X線 ブラックホールその ものではなく、飲み 込まれる物質がX線 を出す。 ブラックホール すごい速さで物質が落ち込む。やがて、物質同士の摩擦で 41 熱が発生し、数千万度以上になってX線を出す。 /51 我々の住む銀河:天の川銀河 想像図 中心部の星の運動(実際の観測) 中心部分に、太陽質量の400万倍のブラックホール。 42/51 天の川銀河中心のX線写真 チャンドラ衛星 180光年 巨大BHの場所 巨大BH自身は、X線では明るくない。 (周辺は明るい。超高温ガスのため。) 43/51 天の川銀河中心のX線スペクトル 普通の鉄(冷たい)が出す特性X線 外部から強烈なX線で あぶられた証拠。 =蛍光X線 エネルギー(keV) すざく衛星 (小山ら2007) 44/51 鉄の蛍光X線の分布 X線画像(すざく衛星) 300光年 いて座B2領域 天の川銀河中心核 (巨大ブラックホール) 45/51 いて座 B2 領域の過去10年 鉄の蛍光X線分布 (すざく衛星) 1994年 2000年 2004年 2005年 乾ら 2009 いて座 B2 領域の鉄の蛍光X線は、徐々に暗くなる。 46/51 照らしていたのは天の川銀河中心BH 300光年 いて座B2 領域 BHからのX線 鉄の蛍光X線 天の川銀河中心 ブラックホール 1. 300年前に、天の川銀河中心BHをX線が出発。 2. いて座B2に現在到着して、鉄をあぶる。 3. いて座B2が、鉄の蛍光X線を出す。 300年前、天の川銀河中心BHは明るかった。 そして徐々に暗くなっていった。 47/51 X線で明るい巨大BH:MCG6-30-15 想像図 X線スペクトル(すざく衛星) 鉄の 特性X線 エネルギー • 鉄の特性X線の幅が広い (Miniutti et al. 2006) – 強重力 (ドップラー効果+重力赤方偏移)のため? X線観測で、極限重力での相対性理論を実験検証 48/51 日常生活と相対性理論 GPS衛星 カーナビ GPS衛星と電波で通信し、 自分の位置を算出。 地球の重力の電波に対する 影響を考慮=相対性理論。 カーナビは、弱い重力での相対性理論の実験検証といえる。 49/51 日本の将来計画:ASTRO-H衛星 • 超精密X線スペクトル • 高エネルギーX線の画像 – Ux研は高エネルギーX線望遠鏡を作っています。 2013年度打ち上げ予定 50/51 まとめ • X線で見る宇宙は、高エネルギー現象の世界。 – 高温度、高エネルギー粒子etc. • 銀河団は、巨大な火の玉。 • 超新星爆発で、宇宙に原子がばらまかれる。 • 天の川銀河中心のブラックホールは、300年前は 明るかった。 • X線観測で、極限重力での相対性理論の検証の 可能性。 51/51