Transcript 日本住血吸虫発見の歴史
日本住血吸虫
Schistosoma japonicum
盛京医院感染病教室
概
念
日本住血吸虫 Schistosoma japonicum (Katsurada,
1904) (にほんじゅうけつきゅうちゅう) は、扁形動物門
吸虫綱 二生吸虫亜綱 有壁吸虫目 住血吸虫科 住血吸
虫属に属する動物。哺乳類の門脈内に寄生する寄生虫
の一種である。中間宿主は淡水(水田や側溝、ため池)
に生息する小型の巻貝のミヤイリガイ(別名カタヤマガ
イ)。最終宿主はヒト、ネコ、イヌ、ウシなどの様々な哺乳
類である。日本住血吸虫がヒトに寄生することにより起
る疾患を、日本住血吸虫症という。
日本住血吸虫発見の歴史
1904年 岡山医学専門学校(現岡山大学)の桂田富士郎
が、有病地の一つであった甲府盆地からネコを持ち帰り、
その体内から吸虫を発見。日本住血吸虫と命名した。
1913年 九州大学の宮入慶之助が中間宿主としてミヤイ
リガイを特定。感染ルートを解明した。
日本の個体群が最初に医学的、生物学的に記載された
ため日本住血吸虫と名付けられた。虫の名称から、日
本特有の寄生虫で日本人が国外に広げたと思い込んで
いる人もいるが、それは誤解である。
特 徴
紐状の形の、細長い吸虫。雌雄異体で、雌は黒
褐色で細長く、雄は雌よりも淡い色で太くて短い。
雄の腹面には抱雌管と呼ばれる溝があり、ここ
に雌がはさみこまれるようにして、常に雌雄一体
になって生活する。 体長は雄が9-18mm、雌が
15-25mm。虫卵の大きさは70-100×50-70μm。
ヒトを含む哺乳類の血管(門脈)内に寄生し、赤
血球を栄養源にする。
雌雄異体
雌雄一体
虫 卵
ミラシジウム幼生 と スポロシスト幼生
セルカリア
腸系膜静脈
ミヤイリガイ(宮入貝 )
生活環
成虫(1)生み出された 虫卵(2)の中でミラシジ
ウムは活発に動き、卵を破って(3)水中に泳ぎ
だします。(4)ミラシジウムは中間宿主である、
長さ5ミリほどのミヤイリガイ(5)という巻き貝の
皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間
宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、こ
の体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間
宿主がないと、寄生虫は生きていくことができま
せん。
ミヤイリガイに侵入した、ミラシジウムはスポロシストと
いう姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目の
スポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セル
カリアは二つに枝分かれした尾をもつのが特徴です。セ
ルカリアは、貝から水中に出て尾を使って泳ぎ回り(6)、
蛋白質を溶かす酵素を使って人などの終宿主の皮膚を
溶かしながら体内に侵入します(経皮感染)。終宿主とは
普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫
は有性生殖を行います。
皮膚から侵入するときに尾を切り捨て、セルカリアは血
液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それ
から再び心臓にかえり大循環によって門脈に達した後、
そこで成虫になるまですごします。セルカリアが人に侵
入してから成虫になるまで、大体40日ほどかかります。
成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行いま
す。産卵された虫卵は体内の様々なところに運ばれま
す。腸管内に運ばれたものは、便と一緒に体外に排泄
されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。
伝 染 源
患者
牛
豚
猫
羊
馬
犬
猫
伝 染 経 路
糞便の汚染
宮入貝の生長
生水の接触
発病のメカニズム
侵入期
まず、セルカリアが皮膚より侵入した時に、かゆみのある皮膚炎を
起こします。
急性期
感染後5~10週間に日本住血吸虫が体内を移行することによって、
起こる症状です。 咳、発熱、喘息様発作、リンパ腺炎などがあり、
時に肝臓や脾臓が腫れることもあります。
慢性期
虫体が成熟し、感染後10~12週後に産卵が始まります。 虫卵は
腸の壁に産み付けられ、それによって発熱、腹痛、下痢などの症状
が 現れます。また、虫卵は腸から門脈を通って肝臓にも流入しま
す。 流入した虫卵は、血管を詰まらせて炎症を起こし、最終的に肝
硬変になることもあります。 そして肝硬変になると腹水がたまり、お
なかがパンパンにはれてきます。
虫卵は血管を通って、肝臓だけでなく脳に運ばれることもあります。
脳に虫卵が多く流入すると、てんかん様発作、頭痛、運動マヒ、視
力障害などの さまざまな症状を起こしてきます。
大 腸 粘 膜
肝 臓
臨 床 所 見
感染後、2~3週の潜伏期をへて倦怠感(けん
たいかん)、食欲不振、腹部違和感などの初発
症状が現れます。侵入したセルカリアの数、発
育の差、産卵の部位などにより症状は異なりま
す。
感染4週ほどで、粘血便や腹痛などの急性腸
炎を示す消化器症状のほか、高度の貧血を伴う
急性腎炎の症状や呼吸器症状などが現れること
があります。
感染を繰り返し、慢性に経過した場合には、肝表面は亀
甲状(きっこうじょう)の特有の肝硬変像を示します。腸粘
膜の萎縮(いしゅく)、腹水がみられ、食道静脈瘤(しょくど
うじょうみゃくりゅう)の破綻(はたん)による消化管出血を
来し、肝不全で死亡することもあります。しかし、大半は
無症状です。
肝細胞がんを合併した患者さんでは、発がんに肝炎ウ
イルスの感染の関与が示唆されることもあります。巨脾
(きょひ)(脾臓が増大する)を示す疾患として知られてい
ますが、その頻度は低くなっています。
検 査
糞便検査
日本住血吸虫は、宿主の体内でたくさんの虫卵
を産みますが、その一部が便に 混ざって出てき
ます。糞便検査では虫卵を検出することにより、
その人が日本住血吸虫に 寄生されていることを
知ることができます。
血液検査
好酸球増多も認められる
エコー(超音波検査)
超音波所見としては、仔虫が門脈に定住した後、
その周囲の門脈周囲に石灰化が認められるよう
になり慢性的に変化してくると、特徴的な所見が
肝全体に観察されるようになってくる。
肝の表面は凹凸が観察されるようになり、線状、
帯状の高エコー帯が観察されるようになり日本
住血吸虫症の特徴的なパターンは、網目状、
network pattern 、石垣状、蜂の巣状、などと呼
ばれる。
免疫学的抗体検査(血液検査)
日本住血吸虫に感染することによって、宿主の
体内に日本住血吸虫に対する 抗体ができてき
ます。抗体検査は、血液中にどれくらい抗体が
含まれているかを 調べる検査です。
肝生検あるいは直腸粘膜の生検によって、組織
中に虫卵を確認することによってなされます。
診 断
1 疫学
2 臨床表現
3 検査
治 療
吸虫駆除薬のプラジカンテルの内服が有効です
が、副作用があるので注意します。肝細胞がん
の合併がありうるので、とりわけ肝炎ウイルスマ
ーカー陽性の患者さんは、画像診断による経過
観察が重要です。
予 防
ワクチン等の予防手段はないので、感染地では
淡水の生水を皮膚に接触させないことが重要で
ある。
日本住血吸虫症は、ミヤイリガイのいないところ
では発生しません。 そのため、日本住血吸虫症
を根本的に撲滅するためには、中間宿主である
ミヤイリガイの数を減らす必要があります。