第Ⅰ部:通貨・金融システムの基礎第1章:金融とその機能

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Transcript 第Ⅰ部:通貨・金融システムの基礎第1章:金融とその機能

○ライブドア事件と
現代の金融・証券制度
• 2月13日:東京地検、堀江貴文前社長らと法人とし
てのライブドア社を証券取引法違反(偽計、風説の
流布の罪)で起訴
• 3月13日:東京証券取引所、ライブドア株の上場廃
止を決定
• 3月14日:東京地検、堀江貴文前社長らと法人とし
てのライブドア社を証券取引法違反(有価証券報告
書虚偽記載:粉飾決算)で起訴
• 3月31日:東京地検、ライブドアの会計監査を担当し
た公認会計士を証券取引法違反(有価証券報告書
虚偽記載:粉飾決算への加担)で起訴
1
• ○ライブドア事件の基本構図
• ①ライブドア:投資事業組合を設立・出資・支配
• ②投資事業組合:買収対象企業(例えば、ロイヤ
ル信販)を現金で買収
• ③ライブドア:ロイヤル信販を株式交換で買収・子
会社化と発表。ライブドアが発行した株は投資事
業組合の手に渡る。
• ④ライブドア:株式分割発表、企業買収で成長イ
メージ→ライブドア株高騰
• ⑤投資事業組合:高騰したライブドア株を売却→
売却益をライブドアに還流
• ⑥ライブドア:売却益を本体の利益に計上、その
他の方法でも不当に利益嵩上げ→株価引き上げ
2
日経06.01.20.
3
・④株式分割と株価
日経
06.3.14.
・株式分割自体は本来的に株価を引き上げる要因ではない。
4
・朝日06.
02.27.
・株式分割規制:1株当たりの純資産額が5万円以上
→ 01年10月施行の改正商法で規制撤廃(最低投資金額を小さくし、
個人投資家が株を買いやすくする)
→過度の株式分割による株価の乱高下
→05年3月東証、大幅分割(5分割超、投資単位が1万円未満)
の自粛要請
→06年1月から株式分割の効力発生日を権利確定日の翌日にする
ことが可能(株券のペーパーレス化の導入)
5
• ⑥:2004年9月期に経常赤字の実態を50億
3000万円の経常黒字と粉飾決算:
– 投資事業組合を通じた自社株売却益36億
6000万円を売上高計上
– 新規の株式発行(増資)は本来、貸借対照表の
資本勘定をその額だけ増やすだけであり、売
上高や利益といった損益計算書に影響しない。
– 子会社化予定の企業の預金をライブドアに付
け替えて15億8000万円の架空売上計上
6
○ライブドアの時価総額経営
• ライブドアの企業目標:時価総額世界一
– 時価総額=発行済株式数×株価
– 時価総額の絶対額というより、その拡大が目標
– cf. 三菱UFJフィナンシャルグループは、時価総額でグ
ローバル金融機関の中でトップ5に入ることを目標とし
ている
– 高株価・時価総額拡大→株式交換・資金調達(市場
からの資金調達)が容易→企業買収→成長イメージ
→高株価・時価総額拡大
– 株価を高め、時価総額を拡大させること自体を自己目
的として、(事業的にシナジー効果の期待できない)企
業買収や(粉飾による)利益嵩上げを行う
7
朝日06.02.28.
朝日06.02.04.
8
・ライブドアにとってのM&Aの意義:
自社事業の質的・量的成長
→投資家に対する成長イメージ作り
→企業利益嵩上げ操作
(のための道具)
日経06.01.22.
9
日経06.01.23.
・企業買収のくり返し
→ライブドアの事業内容・収益構造が不透明
→アナリストの役割重要
10
• 偽計取引・風説の流布(証券取引法158条)
– 株式などの有価証券の取引や相場の変動などを目的
にして、人をだましたり(偽計取引)、うその情報や根拠
のないうわさを流す(風説の流布)こと
– 偽計取引:ライブドアマーケティングが2004年10月に
マネーライフ社を株式交換で買収すると公表したが、実
際の買収はその前にライブドアが投資事業組合を通じ
て現金で既に行っていた。
– 風説の流布:ライブドアマーケティングの2004年度第
三四半期業績を実際は赤字なのに、黒字と虚偽の事
実を公表
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○金融・証券の規制緩和・自由化
とライブドア事件
• ベンチャー企業向け株式市場の創設1999.11.
– 2000.4.オン・ザ・エッジ(後のライブドア):マザーズ上場
• 証券の委託売買手数料の自由化1999.10.とネッ
ト・トレード
– 短期売買する個人投資家の増大
– 株主数:ライブドア22万人、 カネボウ(05.6.上場廃
止)6万4千人、西武鉄道(04.12.上場廃止)8千人
• 株式分割の規制緩和2001.10.
• M&A規制の緩和:株式交換の解禁1999.10.
• →規制緩和・自由化は、その後の経過に注意し、
手直しを続ける必要あり(最終決定版は存在せず、
試行錯誤とならざるをえない)
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○ベンチャー企業向け株式市場
• ジャスダック市場:961社登録(06.3)
• 東証マザーズ:1999年11月開設、158社上場
(06.3)
• 大証ヘラクレス:2000年5月 ナスダック・ジャパン
として開設、123社上場(06.02)
• 東証等に比べて、上場基準が緩やか
• ベンチャー企業への株式公開の機会を提供、ベン
チャー企業の設立を促進
13
ベンチャー市場:株式公開までの期間
・創業から公開までの期間が、大幅に短縮
20.0
18.0
95年
16.0
98年
14.0
2001年
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
71~
61~70
51~60
46~50
41~45
36~40
31~35
26~30
21~25
16~20
11~15
6~10
~5
0.0
(社歴:年)
(注)各年の新規公開企業総数(2001年は店頭経由上場企業除く)を100とする
(出所)野村リサーチ・アンド・アドバイザリー株式会社
・公開までの期間:
楽天:3年2ヶ月、 ライブドア:4年
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○上場制度
• 上場(株式公開):
– 取引所でその企業の株式の売買が認められること
• 上場基準:
– 上場のために満たしていなければならない基準(株式
の数・分布や企業の純資産・利益)
– 幅広い投資家に投資してもらうため、投資家保護
• 上場廃止:
– 一定の要件(上場廃止基準)に該当した場合、上場廃
止とする。幅広い投資家に投資してもらうには、不適
格となった場合。
– ライブドア(06.4.)、カネボウ(05.6.)、西武鉄道
(04.12.)の上場廃止
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東京証券取引所ホームページ
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福光・高橋『ベーシック証券市場論』第3章
17
日本証券経済研究所『現代日本の証券市場2004年版』
18
90年代以降の金融・証券制度の改革
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–
96.11. 金融ビッグ・バン構想:97年~2001年
97.6. 独禁法改正(純粋持株会社解禁)
98.3. 金融持株会社解禁
98.12. 銀行の投信販売解禁
証券会社:免許制→登録制
上場株式取引の取引所集中義務撤廃
99.10. 株式委託売買手数料の自由化
銀行・証券・信託の完全相互乗り入れ(業態別子会社の業務
規制撤廃)
改正商法施行(株式交換・株式移転制度の導入)
99.11. マザーズ開設
2000.5. ナスダック・ジャパン開設(後にヘラクレスと改称)
01.9. 東証に不動産投資信託上場
04.12. 証券仲介業解禁
05.12. 郵便局の投信販売開始
2006:金融商品取引法
新会社法
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なぜ90年代後半以降、金融制度改革が
集中して行われるようになったのか?
• 90年代の日本経済の「失われた10年」
『経済財政白書』平成15年版p.188
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• 「失われた10年」の原因?
– バブル崩壊の衝撃・不良債権問題?
– 戦後続いてきた日本の経済・金融・企業制度の
行き詰まり、IT化・グローバル化・金融革命とい
う世界の流れに対応しきれていない
• 規制に縛られない自由な金融・企業制度
– 機動的な事業展開、市場を利用した金融取引、
リスクへの挑戦(ベンチャー企業、貯蓄から投
資)
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金融制度の歴史的展開の中の現在
• 1990年代後半~:金融・証券制度の規制緩和・自
由化
• 戦後~80年代:安定化を重視した規制された金融
制度
– 金利規制・業務分野規制・内外資金交流の遮断・固定相
場制度・護送船団方式
• 1930年代の不安定化した経済・金融の状況
• 19世紀後半~第一次大戦:金本位制の下で自由な
金融制度
– 国際的資本移動の自由、株式市場も発展
• こうした歴史的展開は、日本だけのものではなく、世
界各国に共通
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ラジャン=ジンガレス『セイビング・キャピタリズム』p.267
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