障害者のとらえ方と自立支援のあり方

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第2章:障害のとらえ方と自立支援のあり方
1節:障害のとらえ方
障害を、心身機能の低下だけではなく、社
会生活上の不都合も含めて、障害のとらえ
方を理解し、自立支援の手法について学ぶ
障害の定義ととらえ方の変遷
1.「障害のある状態」とは
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「障害者の権利宣言」(国連、障害者の権利宣言第1条、1975
(昭和50)年)
「障害者基本法」(障害者基本法第2条、2004(平成16)年改
正)
→わが国の法制度の基本となる。
(参議院内閣委員会、2004(平成16)年5月27日)
→これでは除外ないし軽視されかねない障害がでてくるとの懸
念から
(国連・国際障害者年行動計画、63項、1980(昭和55)年)
→ノーマライゼーション思念を基礎とした障害者観
2.障害のとらえ方の変遷
 世界保健機関(WHO)は1980(昭和55)年に国際障害者分類
(ICIDH:International Classification of
Impairments,Disabilities,and Handicaps)を出版し、国際機関
として初めて障害を分類した。
ICFの障害のとらえ方
1.生活機能障害ととらえるICFの考え方
 ①生活のプラス面を重視
 ②人間と環境との相互作用モデル
 ③生活機能と健康状態・背景因子とが相互に関連
2.ICFの分類
 ICFの大分類(第1レベル)
 「健康状態」の具体的内容の記述には、疾病及び関連保健問題
の国際統計分類(ICD:International Statistical Classification
of Diseases and Related Health Problems)を使うことになる
が、ストレス、加齢なども含まれるため、「病気の分類」ではすべ
てカバーできない。
 「個人因子」は年齢、性別、職業、学歴、経験、性格、ライフスタ
イルなどが例示されているが、まだ概念が明確ではなく、分類リ
ストの形は整っていない。
3.ICFの事例への適用

ICIDHと比べICFはかなり複雑な特徴をもっている。
①コミュニケーションの向上のための「共通言語」がもてる。
②環境因子、個人因子と本人の生活機能が相互に関連して、正
確に理解できる。
③「心身機能・身体構造」だけでなく「活動」「参加」にも注目してい
る。
④生活機能上のマイナス要素だけでなくプラス要素にも注目でき
る。
⑤能力と実行状況(できる活動としている活動)を区別できる。
⑥包括的・網羅的な分類になっている。
4.生活機能障害とリハビリテーション

2000(平成12)年度から医療保険制度で、ICFに基づいた「リ
ハビリテーション総合実施計画書」「リハビリテーション実施計画
書」を作成することが、診療報酬の算定要件である。

2003(平成15)年度から介護保険のリハビリテーション給付に
おいても算定要件に導入された。
2節:リハビリテーションと自立支援
高齢者や障害者も地域で主体的な生活をおく
れるよう支援するために、状態に応じて適切な
リハビリテーションを提供することが重要である。
高齢者の生活機能の低下と予防・リハビリテーション
のあり方
1.健康人生をおくるために
 「健やかに生きるための健康人生」をまとめると以下のようにな
る。
①一次予防:健康増進と疾患の予防
②二次予防:早期発見・早期治療による疾患や障害への移
行の防止
③三次予防:障害残存後の活動制限や参加制限の防止
④尊厳ある終末期
2.高齢者リハビリテーションの基本的な考え方
(1)高齢者リハビリテーションと「生活機能の低下・障害」
「生活機能障害」につながる「問題」
①疾患の管理がうまくいかず悪化。
②体力や耐久力など身体機能の低下。
③身辺処理・生活関連動作、病気になる前にできた諸動作ができ
なくなり、本人・家族ともに生活不適応状態に陥っている。
④障害に対する知識と理解に乏しく、将来に対する見通しを欠く。
⑤認知機能の障害等あって、興味や関心の低下、思考力・理解力・
注意力・状況判断・自己認知などの低下。
⑥心理的に問題がある。障害の受容困難、意欲や自身の欠如、病
気への逃避、再発への不安等。
⑦家族の問題。本人の自立をあきらめている。過度の期待。介護
の方法がわからない。介護者の身体的・精神的負担が大きい等。
⑧住環境に問題がある。
⑨地域に問題がある。段差があるなど、物理的にバリアフリーに
なっていない。障害に対する偏見等。
⑩その他


「問題」が重なった結果、本人や家族に次のような「生活機能の
低下・障害」の状態をつくる。
①臥床(寝床にいる)時間が長く、無為、不規則な生活状態。
②家庭や社会での位置づけがあいまいで役割に乏しい状態。
③行動範囲や交際範囲が狭く、社会との交流や参加に乏し
い状態。
④家族が過度のストレス状態になり、地域の中で孤立してい
る状態。
⑤その他
(2)高齢者リハビリテーションの3つのモデル
①脳卒中モデル
②廃用症候群モデル
③痴呆(認知症)高齢者モデル
(3)QOLの向上の実現に向けて
 WHOは1973(昭和48)年に、高齢者リハビリテーションの目
標として、①活動性の回復、②人との交流の回復、③社会への
再統合の3つを挙げている。その究極の目標は「QOLの向上」
である。
 次のような基本的な理念で行われるべきである。
①高齢者の特性に応じた対応が必要。
②廃用症候群の予防を重視。
③「在宅・地域での生活を支える」という目標の下に実施。
④個別性や個性を大切にし、当事者の自己決定を重視。
⑤評価に基づくチームアプローチが基本。
⑥地域で提供できる体制を整備。(P82、図8)
(4)高齢者リハビリテーションの進め方
 高齢者リハビリテーションの医療・ケアの内容例(P78、図6)
①疾患の発症直後の治療と並行して実施。
②必要な時期に短期間に集中して治療:
「脳卒中モデル」の場合、急性期に医療機関で原疾患の治療
が終了した物は、回復期リハビリテーションや介護老人保健施
設において在宅復帰を目標とした短期・集中的なリハビリテー
ション治療を行なう。
③必要な時期に期間を限定して計画的に実行:
在宅生活者で骨関節疾患がある等の「廃用症候群モデル」に
ついては、生活機能の低下が軽度のうちから、期間を定めて、
リハビリテーション治療を計画的に行う。
地域ケアと地域リハビリテーションの必要性
1.地域ケア:「ケア」とは広い意味にも狭い意味にも使われる。
①ケアとは狭義では「介護」のこと
②ケアはキュアに対する言葉
③ヒューマンケアは生活支援一般の意味
2.地域ケアシステムとは
 対象:乳児期から人生の終末期までのすべて。
 内容:保健、医療、介護、リハビリテーション、保育・教育、就労、
環境整備、まちづくり、防災の支援、多岐にわたる。
 支援する側:家族、近隣、地域社会、専門職、行政等。

3.地域ケアの重要な柱~地域リハビリテーション
4.地域ケア・地域リハビリテーションの究極の目標は自立支援

「障害者の自立生活運動(IL運動:Independent Living
movement)」:障害者みずからが「本当の意味の自立」を獲得
するために実践して運動してきた。
1960年代後半に主としてアメリカに端を発し、1970年代に大
きく発展し、1981(昭和56)年の国際障害者年を契機にわが
国にも大きな影響を与えた。
3節:高齢者の心身の特性
高齢者は、身体的に機能低下しているだけでは
なく、精神的な機能も変化しているため、容易に
病気にかかりやすい傾向があることなどの心身の
特性を把握することが必要である。
高齢者の身体的特性
1.加齢に伴う身体的特性
①生理機能の低下
②運動機能の低下
2.老化が急速に進行した病的な老化
3.高齢者に現れやすい老年症候群
①.加齢による多くの身体的、精神的症状
②.高齢者に特有の徴候と生理機能低下
4.廃用症候群の特徴
 老年症候群が重度になった状態が廃用症候群である。
 廃用症候群は寝たきりで、引き起こされる心身の病的な状態
である。寝たきり症候群とも呼ばれる。
 身体的廃用症状として、①関節の拘縮、②筋力低下、③骨粗
鬆症、④起立性低血圧、⑤息切れ、⑥食欲不振、⑦排尿障害、
⑧深部静脈血栓症、⑨褥瘡や便秘などがある。
 精神的には、①意欲の減退、②うつ傾向、③認知症を引き起こ
す。
高齢者の心理と精神的特性
1.高齢者の心理
①多彩な高齢者の心理
②高齢者と中年者の心理の違い
③高齢者の危機感を和らげる解決策
(1)定年(引退)に対する危機感
(2)体力の衰えや病気に対する危機感
(3)死の予測に対する危機感
2.加齢に伴う精神機能の変化
①記憶力の変化 ②知能の変化 ③健忘と認知症の違い
「老化」と「寿命」の関係

老化現象の4つの特性
①普遍性 ②内在性
③進行性 ④退行性(有害性)
4節 障害者の心身の特性
障害にはさまざまな種類があり、障害によって
ADLの問題点が異なるほか、障害そのものに対
する認識やリハビリテーションの内容も異なってく
る。ここでは、障害者の身体的・心理的特性を知
り、その理解を深める。
障害をもった時期に起因した特性
1.先天的障害と後天的障害
先天的障害:①染色体異常によるダウン症候群
②原因がはっきりしないもの
③代謝障害や薬物など母体から生じるもの
後天的障害:①突発的な事故
②脳梗塞・心臓疾患の急性・慢性疾患の後遺症
③関節リウマチ・パーキンソン病など、疾患の進行
に伴って障害が顕在化してくる場合
2.成長発達段階における障害
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
先天的障害、後天的障害のいずれにおいても、生後より幼児期、
学童期を経て成人に至るまでの成長発達段階で障害を生じた
場合、その後の成長に影響を生じる。
知的・精神的な面と身体的な面と互いに影響しているため、そ
のいずれかに障害が生じてもお互いに影響を受ける可能性が
ある。
一過性の障害であっても、心身の発達に影響を残すことがある。
常に適切なサポートを受け、成長発達を促し、二次障害を防止
することが必要。
3.成人期以降の障害
 成人期以降の障害では、適応と適応障害が大きな問題となる。
 喪失感、閉塞感、遠慮、孤立感、差別感を感じ、残された能力
や可能性・環境資源に目を向けることが難しい。
 適応に向けたサポートが必要
①具体的に障害の見通しを提示する。
②自分の障害を理解できるよう情報提供。
③障害を補いながら生活していく方法を提示して、社会参加
を促す。
 また、再発や症状悪化にたいする恐怖感、加齢に伴う不安を生
じることも念頭におくべきである。
 障害以前の役割を果たすことが難しくなる。
①家族内での役割
②職場や地域活動
リハビリテーションの経過に伴う変化
1.リハビリテーションの段階ごとの特徴
①急性期から回復期にかけて
②回復期
③維持期以降
2.心身機能とその変化にかかわる要因
①原因疾患の進行や変化
②障害の重複化・重度化
③症状の変動
④疲れやすくなりやすさと一時的な機能低下
障害に対する態度
1.障害に対する認識
①理解できない(病識の欠如)
②否定する場合
③家族が受け入れない場合
2.障害受容
3.障害をもって地域で暮らす
5節 在宅介護での自立支援のあり方
高齢でも障害があっても、住み慣れた地域や自
宅で主体的にくらしていくためには、周囲の人々
の適切な支援や、生活環境を整えていくことが不
可欠な要素となる。ここでは、在宅介護において
理解すべき視点と福祉住環境の意義について学
ぶ。
在宅生活を支える介護の基本姿勢
1.安全で快適な暮らし
2.その人らしい暮らし
3.暮らしの拠点としての家と福祉住環境整備
4.さまざまな職種との協働
5.社会参加と社会的貢献
在宅介護の現状と問題点
1.家族介護における不安
2.介護者のストレスと負担感
3.介護の専門分化に伴う課題の複雑化
4.介護に関する情報整理の困難さ
5.介護体制の不備
福祉住環境整備における移動能力の把握の重要性
1.屋外歩行が可能な人の場合
2.屋内歩行が可能な人の場合
3.車椅子使用の人の場合
4.座位移動が可能な人の場合
5.常時臥位の人の場合