債権譲渡

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債権譲渡
名古屋大学大学院法学研究科教授
加賀山 茂
1
債権の譲渡性

第466条【債権の譲渡性】



債権ハ之ヲ譲渡スコトヲ得但其性質カ之ヲ許ササル
トキハ此限ニ在ラス
② 前項ノ規定ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタル場
合ニハ之ヲ適用セス但其意思表示ハ之ヲ以テ善意ノ
第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
法律による譲渡禁止

民法第881条〔扶養請求権の処分禁止〕


扶養を受ける権利は、これを処分することができない。
国民年金法第24条(受給権の保護)など。
2
債権の譲渡制限のあり方

旧民法


現行法


旧民法においては,債権譲渡は自由であるとされており(財産編333条
5項,347条1項),譲渡禁止特約については規定を持たなかった。
このことが,法典論争において,旧民法の自由主義的傾向を示すもの
として,攻撃の対象となった。そこで,現行民法では,譲渡禁止特約を
認める規定が置かれることになった。
規制のあり方


しかし,銀行や国という強い債務者が,譲渡禁止特約を広く利用するに
なるという現状は,立法者にとっても予想しないことであったであろう。
銀行預金債権に関する譲渡禁止特約は,事務の煩雑化の防止,相殺
利益の確保という理由からは正当化できず,また現代的要請である債
権譲渡自由の観点からも合理性を欠いており,無効と解すべきである。
3
債権の譲渡制限に関する
判例の立場(1/4)

譲渡禁止特約があっても,転付命令による
債権移転は有効

譲渡禁止の特約のある債権であっても,差
押債権者の善意・悪意を問わず,転付命令に
よって移転することができるものであつて,こ
れにつき,民法466条2項の適用はないとした
事例(最二判昭45・4・10民集24巻4号240頁:
転付預金債権支払請求事件)。
4
債権の譲渡制限に関する
判例の立場(2/4)

譲渡禁止特約は善意の譲受人に対しては
対抗できない(悪意または重過失のある譲
受人には対抗できる)

最一判昭和48・7・19民集27巻7号823頁:預金
支払請求事件〔判例百選Ⅱ(第4版)30事件〕)

譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は,その特約
の存在を知らないことにつき重大な過失があるとき
は,その債権を取得しえない。
5
債権の譲渡制限に関する判例
の立場(3/4)

最二判昭50・10・24裁集民116号389頁,ジュリ
616号6頁〔判例百選Ⅱ(第4版)30事件〕の差戻
後の上告審判決

倒産した会社の譲渡禁止の特約のある銀行定期預
金債権,定期積金債権,当座預金債権等を譲り受け
るに際し,譲受人が右倒産会社又は預金先銀行のい
ずれに対しても,譲渡禁止の特約の有無につき照会
するなどの調査をしなかった等判示のような事情のも
とにおいては,譲受人は右譲渡禁止の特約の存在を
知らなかつたことに重大な過失があるというべきであ
る。
6
債権の譲渡制限に関する判例
の立場(4/4)

最一判昭52・3・17民集31巻2号308頁:転付債
権請求事件

譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の
存在を知って譲り受けた場合でも,債務者がその譲
渡につき承諾を与えたときは,債権譲渡は譲渡の時
にさかのぼって有効となり,譲渡に際し債権者から債
務者に対して確定日付のある譲渡通知がされている
限り,債務者は,右承諾後に債権の差押・転付命令を
得た第三者に対しても債権譲渡の効力を対抗するこ
とができる
7
設例1




11月15日,債権者Aは,債務者Bに対する
債権を確定日付でCに譲渡した。
11月16日,債権者Aは,債務者Bに対する
同一債権をDに二重に譲渡した。
11月16日,AのDに対する11月16日付の
譲渡通知が先に到達した。
11月17日,AのCに対する11月15日付の
譲渡通知が遅れて到達した。
8
債権の二重譲渡
-譲渡通知到達の対抗力
第1譲受人
C
債権者
A
確定日付
11月15日 第1譲渡
通知到達
11月17日
第2譲渡
第2譲受人
D
確定日付
11月16日
通知到達
11月16日
債務者
B
9
債権譲渡の対抗要件

第467条〔指名債権譲渡の対抗要件〕


指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知
シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ
以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得
ス
②前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書
ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務者以外ノ
第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
10
確定日付(1/2)

民法施行法 第五条






①証書ハ左ノ場合ニ限リ確定日附アルモノトス
一 公正証書ナルトキハ其日附ヲ以テ確定日附トス
二 登記所又ハ公証人役場ニ於テ私署証書ニ日附アル
印章ヲ押捺シタルトキハ其印章ノ日附ヲ以テ確定日附トス
三 私署証書ノ署名者中ニ死亡シタル者アルトキハ其死
亡ノ日ヨリ確定日附アルモノトス
四 確定日附アル証書中ニ私署証書ヲ引用シタルトキハ
其証書ノ日附ヲ以テ引用シタル私署証書ノ確定日附トス
五 官庁又ハ公署ニ於テ私署証書ニ或事項ヲ記入シ之
ニ日附ヲ記載シタルトキハ其日附ヲ以テ其証書ノ確定日附
トス
11
確定日付(2/2)

民法施行法 第五条


②指定公証人(公証人法第7条ノ2第1項ニ規定スル指
定公証人ヲ謂フ以下之ニ同ジ)ガ其設ケタル公証人役
場ニ於テ請求ニ基キ法務省令ノ定ムル方法ニ依リ電磁
的記録(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ
認識スルコト能ハザル方式(以下電磁的方式ト称ス)ニ
依リ作ラルル記録ニシテ電子計算機ニ依ル情報処理ノ
用ニ供セラルルモノヲ謂フ以下之ニ同ジ)ニ記録セラレタ
ル情報ニ日付ヲ内容トスル情報(以下日付情報ト称ス)ヲ
電磁的方式ニ依リ付シタルトキハ当該電磁的記録ニ記
録セラレタル情報ハ確定日付アル証書ト看做ス但公務
員ガ職務上作成シタル電磁的記録以外ノモノニ付シタ
ルトキニ限ル
③前項ノ場合ニ於テハ日付情報ノ日付ヲ以テ確定日付
トス
12
最一判昭49・3・7民集28巻
2号174頁(1/2)

第三者異議事件

民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば,債権
が二重に譲渡された場合,譲受人相互の間の優劣は,
通知又は承諾に付された確定日附の先後によって定
めるべきではなく,確定日附のある通知が債務者に到
達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時
の先後によって決すべきであり,また,確定日附は通
知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきであ
る。そして,右の理は,債権の譲受人と同一債権に対し
仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場
合においてもなんら異なるものではない。
13
最一判昭49・3・7民集28巻2号
174頁(2/2)

右事実関係のもとにおいては,訴外Aが,本件
債権譲渡証書に確定日附を受け,これを東京
都下水道局に持参してその職員に交付したこ
とをもつて確定日附のある通知をしたと解する
ことができ,しかも,この通知が東京都下水道
局長に到達した時刻は,本件仮差押命令が同
局長に送達された時刻より先であるから,上告
人は本件債権の譲受をもつて被上告人に対抗
しうるものというべきであり,本件仮差押命令の
執行不許の宣言を求める上告人の本訴請求
は正当として認容すべきである。
14
債権譲渡の対抗要件の
問題点(1/2)

債権の譲受人と債務者とが通謀して債権譲渡の
日付を操作することも考えられるため,第三者に
対する対抗要件としての債権譲渡の通知または
債務者による承諾は,確かに,確定日付(民法
施行法5条:公正証書,内容証明郵便等)によら
なければならないことになっている(民法467条2
項)。しかし,通説・判例によれば,確定日付が要
求されるのはあくまで,譲渡通知の発信の日で
あって,譲渡通知の到達の日ではない。
15
債権譲渡の対抗要件の問題点
(2/2)


したがって,発信が確定日付でなされたとしても,
通知の効力が発生する日,すなわち,対抗要件
が備わる日である到達の日については,譲受人
と債務者とが通謀してその到達日を操作すること
を避けることができない。
さらに,債権が二重に譲渡され,かつ,譲渡通知
が債務者に同時に到達した場合には,通知の到
達をもって債権譲渡の対抗要件とする意味がな
くなってしまう。
16
不動産,動産,債権の譲渡
とその対抗要件の比較
譲渡
の目
的物
債権
不動産
動産
占有の移転
対抗 登記
(引渡)
要件 (177条)
(178条)
一般債権
法人の有する
金銭債権
債権譲渡登記
債務者への ファイルへの
通知・債務 登記(債権譲
者の承諾
渡の対抗要件
に関する民法
(民法467
の特例等に関
条以下)
する法律)
17
設例2



11月15日,債権者Aは,債務者Bに対する
債権を確定日付でCに譲渡した。
11月16日,債権者Aは,債務者Bに対する
同一債権をDに二重に譲渡した。
11月17日,AのCに対する11月15日付の
譲渡通知とAのDに対する11月16日付の
譲渡通知が全く同時に到達した。
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債権譲渡通知の同時到達
-対抗力の不完全性
譲受人
C
債権
債権者
A
譲渡
確定日付
通知(3/4)
到達(3/6) 債権
債権
(債務名義)
債権者
D
債権差押え
通知(3/6)
到達(3/6)
債務者
B
19
最三判昭55・1・11民集34巻
1号42頁

譲受債権請求事件〔判例百選Ⅱ(第4版)33事
件〕

指名債権が二重に譲渡され,確定日付のある各譲渡
通知が同時に債務者に到達したときは,各譲受人は,
債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求
することができ,譲受人の一人から弁済の請求を受け
た債務者は,他の譲受人に対する弁済その他の債務
消滅事由が存在しない限り,弁済の責を免れることが
できない。
20
最三判昭58・10・4裁集民140
号1頁,判時1095号95頁

損害賠償請求事件

債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行を
した者との間の優劣は,確定日付のある譲渡通知が
債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の
承諾の日時と仮差押命令が第三債務者に送達された
日時の先後によって決すべきものであることは当裁判
所の判例とするところ(最高裁昭和47年(オ)第596号
同49年3月7日第一小法廷判決・民集28巻2号174
頁),この理は,本件におけるように債権の譲受人と
同一債権に対し債権差押・転付命令の執行をした者
との間の優劣を決する場合においても,なんら異なる
ものではないと解するのが相当である
21
最三判平5・3・30民集47巻4
号3334頁

供託金還付請求権確認請求本訴,同反訴事件
〔判例百選Ⅱ(第4版)34事件〕

同一の債権について,差押通知と確定日付のある譲
渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明
であるため,第三債務者が債権額に相当する金員を
供託した場合において,被差押債権額と譲受債権額
との合計額が右供託金額を超過するときは,差押債
権者と債権譲受人は,被差押債権額と譲受債権額に
応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権を
それぞれ分割取得する。
22
結論(1/3)


確定日付のある譲渡通知が同時に到達した場
合,債務者の恣意によって債権者に優劣をつけ
ることを許すべきではない。そうでないと,力の強
い者,声の大きい者が勝つことになり,法の目的
とする衡平の原則にも反することになる。
債権譲渡の第三者に対する対抗要件は確定日
付のある通知・承諾であるから,それを基準にす
べきであり,原則は,確定日付のある通知の到
達の日を基準にすべきことは,通説・判例の見解
のとおりである。
23
結論(2/3)


しかし,確定日付のある譲渡通知が同時に到達
した場合には,確定日付の早い債権譲渡に対抗
力を付与すべきである。
確定日付も同日の場合には,債権譲渡の日にま
で判断を遡らせるのではなく,債権譲渡をした者
の意思を考慮して,すべての債権者に同一の権
利を与える,すなわち,それぞれの債権者に債
権を平等に配分すべきであり,債権者が納得し
ない場合には,一部の債権者に弁済するのでは
なく,民法494条に従い,弁済供託をなすべきで
ある。
24
結論(3/3)

債権譲渡の対抗要件は,以下のように考
えるべきである(私見)。

確定日付の到達の前後を基準とする。


確定日付の前後を基準とする。


それでも決着がつかない場合には,
それでも決着がつかない場合には,
債権者の意思を考慮し,債権を等分して譲渡
したとみて,債権者に等分に配分する。債権
者が弁済を拒絶した場合には,弁済供託する。
25