中山間地域における持続的な農地保全手法に関する基礎的研究

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Transcript 中山間地域における持続的な農地保全手法に関する基礎的研究

中山間地域における持続的な
農地保全手法に関する基礎的研究
―富士見町御射山神戸地区を事例として―
2012年3月20日@御射山神戸区公民館
東京農工大学 地域生態システム学科
4年 林聖麗 (指導教官 中島正裕)
1.はじめに
1-1.研究の背景
耕作放棄地(約40万ha)
の内訳
食料安定供給と多面的機能の維持のため農地保全が必要
都市域
20%
平地
26%
山間
16%
中間
38%
農水省,2008
中山間地域に着目
中山間地域の条件不利性:傾斜、小区画→圃場整備・大規模農業が困難
耕作放棄地の発生要因
中山間地域農業についての既往研究
社会的要因
自然的要因
経済的要因
社会:「多様な担い手による農地保全に関する研究」等
個別の研究
自然:「鳥獣害に関する研究」等
• 高齢化
• 鳥獣被害
• 農産物価格
低迷
• 労働力不足
• 土地条件
経済:「アグリビジネスに関する研究」等
• 生産調整
• 利用者不在
• 気象条件
3
中山間地域での一体的な農地保全のあり方の検討が必要
1-2.
視点
目的
研究の視点・目的
耕作放棄地の発生要因
社会的要因
自然的要因
経済的要因
• 高齢化
• 労働力不足
• 利用者不在
• 鳥獣被害
• 土地条件
• 気象条件
• 農産物価格
低迷
• 生産調整
中山間地域における農地保全の
実態とプロセスの解明
①営農実態
②農地利用
の変遷
③農地保全の
プロセス・担い
手・将来課題
4
2.研究方法
2-1. 調査対象地概要
長野県富士見町 神戸集落
標高約950mの中間農業地域
圃場整備が入らない条件不利農地約18ha
鳥獣害や後継者不足に悩む中,新たな試み
長野県
富士見町
・I、Uターン者によるソバ、
ブルーベリー栽培(出荷)
・住民組織によるヒツジの放牧
神戸集落
など
→この10年で
耕作放棄地解消が進む
5
参照:Yahoo地図、農林水産省「わがマチ・わがム
ラ」,農業集落カード
2-2. 調査・分析の方法
中山間地域における
大目的
持続的な農地保全手法の構築
農地保全の実態とプロセスを解明
調査方法
ヒヤリング調査
研究目的
《対象者》農地利用者20名、
住民組織(御射里の会)
《内容》世帯,営農,被害対策
についての約50項目
①営農実態
現地踏査
②農地利用の変遷
計276枚
(農地一筆ごと276枚)
資料調査
(富士見町鳥獣被害防止
計画等)
③農地保全のプロセス
池
担い手・将来課題
GISソフト
(ArsGIS)
を用いて
分析
7
3.営農実態の概要
《対象者》農地利用者20名、住民組織(御射里の会)
《内容》農家世帯(年齢、後継者、農家分類、収入源)
営農状況(作物別の栽培人数・面積、耕地面積)
3-1.農地利用者の属性
農業従事者年齢(歳)(n=20)
~55
2
農業従事者の高齢化
3
56~60
年
齢 61~65
(
歳 66~70
)
71~75
3
4
5
2
76~80
1
81~
0
1
家族の人数(人)(n=20)
2
3
人数(人)
4
高齢者のみの世帯
が多い
5
6
家
族
の
人
数
(
人
)
1人
1
2人
7
3人
5
4人
4
5人
0
6人~
9
3
0
2
4
人数(人)
6
8
3-2.営農形態と後継者
主な収入源
農家分類(n=20)
農外収入のみ
1
専業農家
1
11
農業+農外(年金無)
2
0
第1種兼業農家
農業+農外(年金有)
8
第2種兼業農家
16
農業収入のみ
1
自給的農家
(人)
出荷の有無(n=20)
無,
12人
有,
8人
0
5
10
15
人数(人)
農外収入(年金など)がないと農業できない
ソバ
水稲
パセリ
ブルーベリー
など
農業後継者の
有無(n=19)
5
14
後継者不足
将来の担い手不足が懸念される
有
無
10
3-3.農地の面積と所有・利用形態
(人)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
対象地区内の利用農地面積別人数
(n=20)
※対象農地面積:約18ha
利用農地の所有・
貸借状況
借用,
7人
9
3
~20a
~40a
4
2
~60a
1
1
~80a
~100a
小規模経営の農家が多い
所有,
13人
100a~
所有地・借用地の両方を
利用している人はいない
11
3-4.栽培品目
※対象農地面積:約18ha
作物ごとの栽培人数
(人)
12
自家用栽培
10
作物ごとの栽培面積
(a)
400
栽培に手がかからない
350
300
8
250
6
200
10
4
2
0
150
8
5
3
2
2
374
316
100
50
0
117
111
69
30
12
所有・借用者別の経営耕地面積分布(n=20人+1組織)
400
借用
350
面
積
(
a
)
所有
337.0
300
250
192.1
200
174.1
150
100
97.0
82.4
63.9
50
48.2
39.1 42.1
28.3
2.1
6.7 10.6
A
B
4.9
6.3
6.5
I
J
K
18.5 18.8
9.4 14.8 14.8
0
C
D
E
F
G
H
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
U
13
4.農地利用の変遷
4.1 耕作放棄地の変遷
4.2 栽培作物と鳥獣被害対策状況
4-1.耕作放棄地の変遷
2003年
2011年
凡例
凡例
凡例
RIYOU03
RIYOU03
RIYOU03
RIYOU11
<その他の値すべて>
<その他の値すべて>
<その他の値すべて>
<Null>
RIYOU11
不明
RIYOU03
<NULL> ハウス
2割作付け
放棄地
放棄地
作付け
作付け
作付け
放棄地
一部作付け
2割作付け
管理のみ
ハウス
ハウス
不明
池
家
不明
¯
0 25 50
100
150
¯
メートル
200
0 25 50
100
150
¯
メートル
200
農地利用の変化(単位:a)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
56
700
88
289
289
その他
管理のみ農地
放棄地
1087
1178
2003年
2011年
作付地
0 25 50
100
150
メートル
200
※管理のみ農地 : 草刈りや耕起を行い、
いつでも作付け可能な土地
二地域居住者・住民組織
:耕作放棄地→作付地
高齢農家
:作付地→管理のみ農地
15
(a)
2003年時の耕作放棄地の2011年時の状況
450
400
385.1
350
300
作付け :55%
管理のみ:16%
放棄地 :23%
250
200
158.4
150
113.1
100
30.9
50
6.2
6.4
不明
その他
0
作付け
管理のみ
放棄地
池
(a)
200
2011年までに作付地へと変化した
農地の利用内容
185.2
150
ソバが45%で
圧倒的
100
76.9
53.5
50
33.3
27.5
12.8
0
6.3
12.2
16
4-1.補足
2003年~2011年までの農地利用の変遷
100%
56a,3%
90%
80%
129a,7%
88a,5%
205a,11%
295a,16%
316a,17%
283a,15%
700a,38%
70%
その他
60%
管理のみ農地
50%
放棄地
作付地
40%
30%
1087a,59%
1194a,65%
1178a,64%
2009年
2011年
20%
10%
0%
2003年
作付地 →微減
管理のみ農地→増加
17
2011年の管理のみ農地295aの2003年時
の利用状況は作付けと放棄が約半々
4-2.栽培作物と鳥獣被害対策状況
凡例
SAKUMOTU11
<その他の値すべて>
SAKUMOTU11
ソバ
牧草
田
田・畑
畑
ブルーベリ
ルバーブ
ビオトープ
池
ハウス
耕作放棄地,
管理のみ農地など
¯
0 25 50
100
150
18
メートル
200
4-2.栽培作物と鳥獣被害対策状況
凡例
山
地区
町の対策
(電牧柵)
個人対策
(ネットなど)
SAKUMOTU11
<その他の値すべて>
SAKUMOTU11
ソバ
牧草
田
田・畑
畑
ブルーベリ
ルバーブ
ビオトープ
池
山
ハウス
田、畑:大半が対策あり
ソバ:対策なし
牧草地:
住民組織は対策あり
牧場は対策なし
19
4-2.鳥獣被害に関する認識
・被害
「牧草地では夜にシカが集団で来て、牧草を食べたりしている。足跡がいっぱいあ
被害対策人数
る。」
囲いのない、牧草地で食害 (n=20)
「食べるというより運動場みたいになっているというのが多い。ソバは囲っていない
ソバ畑で踏みつけ
ので、シカが自由に入っている。被害は踏みつけ。
夏中、畑の方行くとシカの歩いた獣道みたいになっている。」 6人
30%
「ソバがある関係でこのへんを飛び歩いている跡がある。
」
さらにシカの誘因に
同様の意見複数
有
14人
70%
無
・対策
「収益を上げてどれくらいは得ようとかはそういう考えはもっていないから、目的は
荒れ放題になるのを防ぐためにやっているから。本当に収益を上げるためにやっ
収益の出ないものにお金・手間を掛けられない
ていれば、ある程度を柵をやって入らないようにするんだけど。
」
同様の意見複数
・今後
「シカが出るようになってからもう田んぼ作るのをやめてしまった。柵を作って田ん
ぼ作らないとしょうがない。」
同様の意見複数シカが周りに出ると耕作意欲に影響
20
5.農地保全のプロセス・
担い手
5.1 農地利用者概要
5.2 農地貸借の個別の事例
5.3 農地貸借のまとめ
5-1-1.I・Uターン及び
地元農家以外の農地利用者(6名+1組織)
全作付面積
の71%が
借用地
仲介者:74歳男性
ブルーベリー栽培
住民組織の中核
仲介者:65歳男性
地元のソバ農家
利用
者
栽培
作物
面積
(a)
A
野菜
B
属性
貸借相手
2.1
I ターン者
面識なし
野菜
6.7
二地域居住者
知人?
C
水稲
野菜
10.6
I ターン者
面識なし
仲介あり
E
ブルーベ
リー
ルバーブ
82.4
Uターン者
友人
F
ブルーベ
リー
牧草
174.1
住民組織
知人
G
牧草
192.1
牧場経営者
面識なし
仲介あり
H
ソバ
345.3
二地域居住者
面識なし
22
5-1-2.地元の農地利用者(14名)
利用者
面積
(a)
Iターン・二地域
居住者との関わり
D
28.3
なし
I
4.9
会話
J
6.4
土地売却・農地貸与
K
6.5
不明
L
9.4
不明
M
14.8
不明
N
14.8
農地貸借仲介
O
18.5
不明
P
18.8
懇意
Q
39.1
なし
R
42.1
不明
S
48.2
なし
T
63.9
会話
U
97.0
農機具貸与
23
所有・借用者別の経営耕地面積分布(n=20人+1組織)
400
借用
350
面
積
(
a
)
所有
337.0
300
250
192.1
200
174.1
150
100
97.0
82.4
63.9
50
48.2
39.1 42.1
28.3
2.1
6.7 10.6
A
B
4.9
6.3
6.5
I
J
K
18.5 18.8
9.4 14.8 14.8
0
C
D
E
F
G
H
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
U
24
5-2-1.H
氏の農地貸借のプロセス
二地域居住者
C 氏(64歳)のケース
岡谷市在住
(二地域居住)
H氏
2009年~
「農業がやりたい」 知人(野球つながり)
地縁
a氏
伝言
血縁
b氏
富士見町内
赤:利用者
青:所有者
緑:仲介者
岡谷市在住(別荘あり)
後継者あり
N氏 契約:なし(口約束程度)
地縁
理由:里山を残したい
「貸してやってくれよ」
e氏
意向:あと6年めど
地縁
地縁
地縁 栽培作物:ソバ(約3ha)
「ここも作っても
らえませんか」
c氏
伝言
血縁
仲介者により
d氏
土地を借用
+ 集積
貸してほしい
使ってくれ
25
5-2-2. C 氏の農地貸借のプロセス
2005年~
後継者なし
契約:なし(手書きの紙1枚のみ)
理由:自家用作物栽培
意向:現状維持
栽培作物:水稲、野菜
備考:山好きが高じて富士見町へ
移住
仲介者により
土地を借用
26
5-2-2. C 氏の農地貸借のプロセス
近隣住民
情
報
の
仲
介
者
Iターン者
Iターン者
F氏
横浜市
C氏
相談
A氏
g氏
依頼
g氏を紹介
伝
友
達
人
E氏妻
E氏
地元住民
赤:利用者
青:所有者
緑:仲介者
農地管理
御射里の会
貸してほしい
使ってくれ
27
5-3.農地貸借のまとめ
農地保全への
貢献の仕方
貢献の内容
動 機
借り手
直接的
農地を利用
景観を守る
貸し手
間接的
農地を無償で貸出
きれいにしてくれ
ればありがたい
仲介者
間接的
借り手と貸し手の
新規就農者の手助け
結びつけ
→「農地を荒らしたくない」という気持ちは共通
それぞれ自分が出来る方法で農地保全に貢献
28
6.農地保全の将来課題
6-1.持続的な農地保全への将来課題①
現在
10年後(担い手が現れなかった場合)
¯
¯
0 25 50
100
150
メートル
200
0 25 50
100
150
凡例
凡例
RIYOU AGE
RIYOU AGE10
RIYOU AGE
RIYOU AGE
メートル
200
0.000000
0.000000
0.000001 - 59.999999
0.000001 - 50.000000
60.000000 - 64.999999
50.000001 - 55.000000
65.000000 - 70.000000
55.000001 - 60.000000
70.000001 - 74.999999
60.000001 - 65.000000
75.000000 - 90.000000
65.000001 - 90.000000
※農業者の年齢を元に将来予測
60歳未満
75歳以上
・年齢:高齢化→労働力不足がさらに深刻化
・意向:農地の拡大意向は牧草作付の2主体のみ→シカ誘因
・管理のみ農地の問題点→動機づけが必要
「-ここ(管理のみ農地)は立木は全然今ないんだけどさ、だけど別にその後の
活用方法が自分の中にあるわけじゃないから、結局そのままでまた荒れてる」
30
6-2.持続的な農地保全への将来課題②
不在地主
池
他集落在住者
水色枠:不在地主、他集落在住者などの農地
→今後農地保全を一体的に考える際の不安要素
31
6-3.持続的な農地保全への将来課題③
水はけ
作業道
労力
池
日当たり
耕作放棄される理由は複合的であり、場所によって異なるが
まとまって放棄されているのは自然条件が悪いところ
32
7.まとめ
7-1. 本研究の成果・課題
①約410aの耕作放棄地がこの8年間で解消された
②約385aの耕作放棄地が手のかからない作物(ソバなど)の作付地に変化
③地区外からの労働力が農地貸借を通じ、作付地の7割を占める農地利用
④農地貸借にはインフォーマルな人間関係が重要な役割を果たす
⑤高齢化、後継者不足から、作付地が減少し管理のみ農地へ移行する傾向
⑥耕作放棄地の利用・対処、および不在地主・他集落在住者への対応
一体的な土地利用計画の必要性
34
7-2.農地貸借の現行制度と実態の乖離
ソバ栽培は年間数十日の作業
農地法
・全部効率要件
・農作業常時従事要件(原則年間150日以上)
・下限面積要件(対象地では合計50a以上)
・地域との調和要件
農地貸借
or
自給的農家がほとんど
中山間地域の実情に即した
農業経営基盤強化法
・借地を効率的に利用し、耕作を行うと認定
インフォーマルな
法制度が必要
・原則認定農業者
人間関係
・農業による自立の意欲と能力を所有
+ 農地保有合理化事業、農地利用集積円滑化事業
貸借時の届出の
有無(n=13)
必要要件を満たしていない
3
10
有
無
対象地では使われていない
35
ご清聴ありがとうございました。
36